Eテレで、上方舞の人気演目『古道成寺』『三ツ面椀久』を放送、吉村流家元と山村流宗家による話題の舞台
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『古道成寺』娘=清姫役の吉村輝章(左)と、山伏=安珍役の山村友五郎
2017年11月10日(金曜、23時~)のEテレ『にっぽんの芸能』では「上方の舞を楽しむ」と題して、上方舞の『古道成寺』と『三ツ面椀久』の二題を放送する。ゲスト解説は、上方落語作家くまざわあかね。
上方舞は、江戸時代に京阪地域で能や御所の御殿舞を源に発展した舞の総称。歌舞伎舞踊を振り付け指南したり、花街の座敷で舞われたりするなかで広まり、独自の発展を遂げた。三味線伴奏などで唄われる流行歌「地唄」とともに踊られることが多いので地唄舞とも呼ばれるが、常磐津、長唄なども使われる。複数の流派が生まれ、なかでも吉村流、楳茂都(うめもと)流、山村流、井上流は「上方四流」と呼ばれている。
二題のうち『古道成寺』は、安珍清姫伝説を題材にした道成寺もの。イケメン修行僧の安珍に恋した清姫が、逃げる安珍を追いかけ、ついには大蛇となって、安珍が身を隠した道成寺の鐘に巻き付いて焼き殺してしまう。恋の情念が怨念と化したこの話をもとにした舞踊は、元禄(1688~1704)頃から上演されていたときく。本作もそんな最古の部類のようだ。
奥州から熊野へ修行にいく山伏(=安珍)が、逗留先の真砂(まなご)の庄司という人の娘(=清姫)に言い寄られるという設定。なんと、娘が夜中にこっそり部屋に忍び込んで迫ってきたので、山伏は困惑する。なんとかはぐらかし、闇にまぎれて密かに宿を逃げ出した。謀られたと気付いた娘は、悔しさから山伏を追いかける。水かさの増した日高川を前に、娘は毒蛇と化し、ざんぶと飛び込んで……。
これを、上方舞を代表する家元ふたりが共演する。吉村流六世家元・吉村輝章(きしょう)が娘(=清姫)を、山村流六世宗家・山村友五郎(ともごろう)が山伏(=安珍)を務める。今年60回を迎えた『日本舞踊協会公演』での舞台を放送。1957年に始まったこの公演は、古典舞踊の名作はもとより、近現代の名人や若手舞踊家の振り付けによる作品などさまざまな日本舞踊を、若手から重鎮まで日本を代表する日本舞踊家が披露。2月18日に国立劇場(東京・千代田区)で開催された。
歌舞伎などでは娘の衣装を引き抜き、蛇に変身させて場を盛り上げるが、この舞では帯に工夫がされている。また、地唄の三味線や筝、お囃子による音楽も効果的で、山伏が夜半に逃げていくシーンや、娘が毒蛇となって日高川に飛び込み、炎を吹きながら大河を渡るシーンなどの演奏は特に迫力満点。
一方、『三ツ面椀久』は椀久ものとして知られ、歌舞伎や浄瑠璃などの題材となっている。大坂新町の傾城(けいせい)・松山に恋した椀久が、田舎大尽・傾城・太鼓持ちの三種の面でお大尽遊びを踊ってみせる、とっつきやすく味わい深い作品。
『三ツ面椀久』三種の面や扇を手に踊る山村友五郎。これは傾城の面。
大坂堺筋(さかいすじ)に実在した豪商、椀屋久右衛門(きゅうえもん)が、新町(しんまち)の傾城・松山に惚れ込んで、節分に豆のかわりに金銀を撒き散らすほど入れ揚げるが、思いは実ることなく、精神を病んで亡くなってしまった実話をもとにしている。
友五郎が舞い、人間国宝で女義太夫の竹本駒之助が浄瑠璃を語る。ダイジェストで放送されるが、友五郎のはんなりした振りや駒之助の名調子から、椀久の愛や人生に思いを馳せれば、感じることも多いはずだ。
今年の4月28日にフェスティバルホール(大阪・中之島)で開催された『花舞台浪花賑(はなぶたいなにわのにぎわい)』での上演を放送。1958年のフェスティバルホール開館以来恒例の「大阪国際フェスティバル」の一環で、ホール建て替え中は休止していたが、2013年より再開継続されている。
文=原納 暢子
■日時:Eテレ 11月10日(金) 23:00~23:55 (再放送:13日正午0時)
■出演:【司会】石田ひかり、秋鹿真人【ゲスト】くまざわあかね
作詞:不詳、作曲:岸野次郎三(原曲)、振付:吉村雄輝
【舞】吉村輝章(清姫)、山村友五郎(安珍)
【地唄】(唄と三絃)富山清琴、(筝)富山清仁
【囃子】藤舎呂秀、堅田新十郎、住田福十郎、(笛)中川善雄
(「日本舞踊協会公演」より、2017年2月18日 東京・国立劇場)
原曲『千種の乱れ咲き』作詞:金沢龍玉・金沢芝助、作曲:不詳
振付:初代山村友五郎
【舞】山村友五郎
【浄瑠璃】(義太夫)竹本駒之助、竹本綾之助、竹本綾一
(三味線)鶴澤津賀寿、鶴澤寛也、豊澤雛文
【長唄】(唄)杵屋東成、今藤政貴、今藤長一郎
(三味線)杵屋勝禄、杵屋勝七郎、杵屋禄宣
【笛】藤舎名生
【囃子】藤舎悦芳、藤舎成光、望月太八一郎、望月清三郎
【後見】(出)山村若、(蔭)山村侃・山村若隼紀
(「花舞台浪花賑」公演より、2017年4月28日 大阪・フェスティバルホール)