震災支援で生まれた可動式ホール「アーク・ノヴァ」から、テレビ朝日系『題名のない音楽会』
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和やかに歓談。左から、司会の松尾由美子アナと石丸幹二、ヘフリガー監督、フリードリッヒ(tp)、ライエン(tb)
テレビ朝日で2017年11月11日放送の『題名のない音楽会』は「動くホール アーク・ノヴァの音楽会」。今年9月19日~10月4日に東京ミッドタウンに出現した可動式ホール「アーク・ノヴァ(新しい方舟)」で収録された。
「アーク・ノヴァ」は、音楽や芸術を通じて東日本大震災の復興支援をしようと、スイスのルツェルン祝祭管弦楽団の働きかけで誕生した。この楽団は、スイスで恒例開催されている「ルツェルン音楽祭」の際に結成されるオーケストラだ。10年余り前から、スイス国内だけでなく世界各地の名手も参加するようになり、今秋は11年ぶりの来日演奏会も開かれた。
「アーク・ノヴァ」は、高さ18m、幅30m、奥行36mの巨大テント風の建物。くぼんだヘソのある紅色まんじゅうのような、不思議な形をした外観で、空気を中に送り込んで膨らませて設置される。これまでに宮城県や福島県で立ち上げられ、さまざまなアーチストたちの演奏やワークショップによる支援を続けてきたが、今年初めて都内・六本木にある東京ミッドタウン芝生広場に登場し、さまざまなイベントも行われた。
入り口の回転扉から中に入る。想像していたより天井が高く感じられた。約490人収容ときいていたが、テレビ収録とあってゆとりある客入れ。階段状の客席半ば以降は制作ブースに充て、カメラや音響、照明などが設置されていた。仮設ホールながら意外に落ち着ける空間で、静かな公園に置かれたせいか戸外の音も聞こえなかった。
収録では、「アーク・ノヴァ」プロジェクトの発案者である楽団のミヒャエル・ヘフリガー芸術総監督をはじめ、関わっている中心的奏者が、演奏はもとより芸術や復興への思いを和やかに語ったりも。ヘフリガー監督は「通常、コンサートホールは都市計画の一環として作られるものですが、このホールは、何か震災支援できないものかと建築家の磯崎新さんに相談したら浮上した、驚きのアイデアによる移動式……」などと、当時を振り返ったりしていた。
さて、プログラムは4曲。最初の『リギの贈り物』は、ルツェルンの東方にあるリギ山を望む、アルプスの風景を描写したフルート・アンサンブル曲。日本では『リギの思い出』の邦題で長年親しまれてきている。まるでアルプスの森の小鳥のようにアンドレア・レッチェルのフルートが歌うと、首席トランペット奏者のラインホルト・フリードリッヒがゆったり高らかにフリューゲルホルンで応える。牧歌的な心地よい呼応で、心がほぐれる。注目は舞台下手のマイクスタンドにつるされたカウベル。スイス音楽には、カウベルや木製のスプーンなど、生活に即した楽器を生かした音楽がたくさんあるが、この日はヘフリガー監督がこれを鳴らして、スイスらしさをより醸していた。
『リギの贈り物』では、カウベルを鳴らすヘフリガー監督(左端)にもご注目
2曲目の『スリップストリーム』は一転して、最新の機器を使ったトロンボーン演奏。現在「地球一番のトロンボーン奏者」との誉れ高いヨルゲン・ファン・ライエンが、発したフレーズを延々と重ねて再生するルーパー・エフェクターを駆使して、聴衆を目と耳で楽しませてくれた。ボイスパーカッションや手拍子から始まり、トロンボーンを重ねていく。ミュートをつけたりハズしたり、楽器を軽く叩いてみたり、いやはや遊び心満載のパフォーマンスで、聴き手はどんどん引き込まれる。 ドイツの作曲家、フローリアン・マグヌス・マイヤーがライエンに作った曲だという。「マイヤーはポップな作曲家で、ヘヴィー・メタルなども作っていますよ」と話していたが、いかにも納得の斬新な曲だ。
足元の機材も駆使して『スリップストリーム』を披露するライエン
後半では、ライエンとフリードリッヒが、バレエでおなじみの『ロミオとジュリエット』を、トロンボーンとトランペッ トでデュオ演奏する珍しい趣向も。フリードリッヒは、ピッコロトランペットなど4種のトランペットを持ち替え、聞きなれたオーケストラ演奏とは趣きの違う悲恋物語を、じっくり紡いでいた。最後に、チェロ奏者の横坂源が、J.S.バッハの『無伴奏チェロ組曲 第1番』のプレリュードを祈りのような響きで演奏。「アーク・ノヴァ」の夜は、温かなムードに包まれ、静かに更けていくのだった。
珍しい、金管デュオによる『ロメオとジュリエット』
福島公演にも参加した横坂は『無伴奏チェロ組曲 第1番』のプレリュードを演奏
※系列局の放送日時は、番組ホームページで。http://www.tv-asahi.co.jp/daimei/
取材・文=原納暢子
※地域によって、放送日時が異なります http://www.tv-asahi.co.jp/daimei_2017/schedule/
作曲:A.F.ドップラー
フリューゲルホルン:ラインホルト・フリードリッヒ
フルート:アンドレア・レッチェル
ピアノ:竹沢絵里子
カウベル:ミヒャエル・ヘフリガー
作曲:F.M.マイヤー
トロンボーン:ヨルゲン・ファン・ライエン
作曲:S.プロコフィエフ 編曲: S.ヴェルハート
トランペット:ラインホルト・フリードリッヒ
トロンボーン:ヨルゲン・ファン・ライエン
ピアノ:竹沢絵里子
作曲:J.S.バッハ
チェロ:横坂源
■アーク・ノヴァ公式サイト:http://www.tokyo-midtown.com/jp/event/ark-nova/