fripSide八木沼悟志インタビュー 過去最大級のコンサートツアー『crossroads』に向けて-15周年の集大成を表現する“研ぎ澄まされたfripSide”
-
ポスト -
シェア - 送る
撮影:加東岳史
八木沼悟志(sat)と南條愛乃のユニット・fripSideが、15周年の締めくくりとなる“過去最大級”のツアー『fripSide 15th Anniversary Tour 2017-2018 "crossroads"』を開催する。コンポーザーの八木沼が「過去の自分を振り返る良い機会」と語る15周年アルバム『crossroads』の制作裏話と合わせて、ライブへの意気込みを語ってもらった。
15周年アルバム『crossroads』発表、すぐさまツアー準備へ
――fripSideの15周年というアニバーサリーイヤーも残りわずかとなりました。ざっと振り返っていただいて、どんな印象がありますか?
大きいものでは、さいたまスーパーアリーナで15周年の幕が開けて(3月18日に行われた『fripSide LIVE TOUR 2016-2017 FINAL in Saitama Super Arena -Run for the 15th Anniversary-』)、そのあと15周年アルバム『crossroads』の制作に入りました。制作曲数がだいぶ多かったので、四苦八苦しながら作り(笑)。今は秋から始まるツアーの準備段階ということで、1年ずっとfripSideの活動をやっている感じがしますね。通常だと、何週間かお休みをいただけて旅行に行ったりするんですけど。
――3月中旬から『crossroads』漬けのような生活だったんですね。
そうですね。アルバムを作りながら次のタイアップソングも入ってくるので、それと並行しながら。8月末くらいまで過酷な日々でしたが、今は秋のツアーが楽しみです。
――ツアーについて、YouTubeで公開されている告知動画で「過去最大級のツアー」と紹介されていました。
会場数・公演数は前の『fripSide concert tour 2016-2017 -infinite synthesis 3』よりも少ないんですよ。去年が14カ所14公演で、今年は5カ所7公演になります。では何が最大かというと、キャパシティの合計が最大になっています。
――2000~3000人規模のホールで3カ所4公演、さらにアリーナ規模の幕張メッセと神戸ワールド記念ホールが計3公演となっています。ステージの見せ方はどのように考えていますか?
やはりホールとアリーナで演出やステージセットを含めて変えるところはあるので、そのへんは臨機応変に対応しようと思っています。あとは、2日間連日と1日だけの会場があるので、そこはセットリストがガラッと変わりますね。
――告知の動画でも、内容が全然違うから両方とも来てほしいとアピールしていましたね。
そうなんですよ。そうしないとお客さんが集まらないかなって(笑)。
2DAYSやるときは、両日とも来られるお客さんばかりではないと思うんですよね。しかも、今回はじめてfripSide のライブを観る方もいらっしゃるとして、たとえば「only my railgun」がなかったら残念がって帰るんじゃないかなと。だから、片方しか観られないお客さんも、初めてのお客さんも、もちろん何度も観てくださっているお客さんも満足できるように考慮しながら、最大限変えていこうとしています。
――今回のツアーのタイトルは、アルバムと同じ『crossroads』という名前を冠しています。こちらに収録されている18曲が中心になるということでしょうか。
1DAYのところは、アルバムに入っていてもやらない曲は出てくると思います。ただ、2DAYSのところは、2日目を『crossroads』Dayとしてアルバムの曲を中心に、fripSideの歴史を彩るいろいろな曲を加えて、トータル僕たちの15年を観ていただこうと考えています。逆に1日目は『Very Best of fripSide』というテーマで、これまでのタイアップソングやライブで盛り上がる曲を網羅した1日になる予定です。
――15年前から聴いているようなコアなファンはもちろん、アニメのタイアップやアニソンフェスで好きになったという方がはじめて観るライブとしても作られているんですね。アルバム『crossroads』では、ボーカルがnaoさんだった最初の7年間の曲をセルフカバーされています。楽曲はファン投票で選んだ13曲に、八木沼さんと南條さんが1曲ずつ選ばれたそうですが、これも15周年だからこその試みですね。
今回は本当に15年前の曲も入っていますし(笑)、「セルフカバー」と言っても、naoさんに作った曲をいかに南條さんにマッチするように作り直すかという難しさは感じながらの作業になりました。曲を作るときは音域などをボーカリストに合わせますが、今回「セルフカバー」と言っても歌い手が違うので。
撮影:加東岳史
――バックトラックもリアレンジされていますよね。
15年間で技術的に上達した部分もあるし、機材もできることが増えた。だから、どこかの部分で昔の自分を超えていかないといけないという気持ちでやりました。ただ、ファンが「もう1回聞きたい」と投票してくれた曲って、その時の自分が作ったホームランなんですよね。まだ未熟な僕が一生懸命バットを振ったらホームランになりました、みたいな(笑)。それを超えるのがけっこう難しくて、過去の自分と戦う部分もありました。
――苦戦したのはどういったところでしたか?
たとえば「この音はどうやって出しているんだろう」みたいな、まぐれで出ている音があったり(笑)。そういうときに、原曲をそのまま今の機材で再現するのではなく、今の自分のアプローチで超えていく。それが100点満点にできたかと言われると自信はないですけど、今の自分にできる精いっぱいのことはしたので、納得はしています。聴いていただいている皆さんがどう感じるかは、各々違うと思いますが。楽しんで作れたとは言えますね。
撮影:加東岳史
――曲に合わせてシンセサイザーの音を作りこむというようなことでしょうか。
そういう部分はありますね。機材的な制約で昔はできなかったけど今はできるからやってみようという曲もなかにはあります。
――今から15年前、ちょうど2000年前後は、「Pro-Tools」のようなデジタル・オーディオ・ワークステーションが広まって音楽の制作環境が大きく変わる時期でした。
世の中がハードからソフトに変化する過渡期でしたね。パソコンで音楽を作り始めたときは「アンドゥ」(やり直し/操作の前に戻る)が使えない「破壊編集」というやり方しかできなくて。いまは非破壊編集だからずっと戻れますけど、以前は波形を1度いじると元に戻らないから、失敗したと思ったら録り直しという。パソコンで作り始める前は、MTR(マルチ・トラック・レコーダー)でこの手のジャンルの曲をいかに作れるかということに挑戦していたんです。何十台もあるハードを、Midiで同期してあってスタートボタンを押したら全部が一斉に動き出すんですよ。その瞬間、家のブレーカーがバチン! って(笑)。
――何台もあるシンセサイザーを一斉に動かして、さあ録音できるぞとなったら部屋が真っ暗になると……。
いくつかの機材をまとめて録音しないと、ミキサーのチャンネルが足りないので、工夫してやっていたんですよね。
――そういう機材的な制約のなかで、試行錯誤しながら打った“ホームラン”だったんですね。
メジャーのアーティストであれば、たくさんの制作予算とプロ用の何千万円もするような機材があって、高いクオリティの曲を世に出せるわけじゃないですか。プロがスタジオで作ったクオリティに肉薄するものが宅録(自宅録音)で作れないかというチャレンジからfripSideは始まっているんです。だから、当時の宅録された曲にしては卓越したクオリティが僕の昔の曲にもあったと思うんですね。今の僕ならスタジオも使えるし、いろいろな機材も使えるようになった。だから最初は、昔の苦労を思い出しながらまぐれ当たりのホームランをいかに軽々しく超えるかというチャレンジのつもりだったんですよ。結果、すっごく難しかったんですけど(笑)、なんとか形にはなったかなと。
15年前からの過去曲と向き合った『crossroads』
――過去の曲と向き合ったことで、15周年の実感みたいなものも深まりましたか。
そうですね。気づかないうちに自分が変わっているんだなとすごく感じました。15年前の曲をいま聴くと、若いし経験もなくて、今ほど自分のセオリーがしっかりできていないなという感じがして。でも逆に、今の自分が絶対にやらないだろう曲調や音の展開、良く言えばチャレンジングな部分が含まれているんですよ。
――過去の曲から刺激を受けた部分も大きかった。
はい。デビューしてから皆さんの要望に応えようとやっていくなかで「八木沼悟志の音楽はこういうものだ」という自分のセオリーというか、世の中の皆さんと一緒に世界観を作り上げてきたと思っているんですよ。それを持つ前は、いろいろなことにチャレンジしていたんだなとすごく感じましたし、それを取り入れて世界観やセオリーの幅を少し広げていっても良いんじゃないかなと思いました。「八木沼さん、これチャレンジしてるな」と思ってもらえるようなものもお見せしていきたいと考えていますね。
――まさに温故知新というか。
そうですね。カバーしてすごく良かったというか、過去の自分を振り返る良い機会でした。こうして改めて考えると15年ってけっこう長いんですよね(笑)。そのなかで、“ずっとブレずにできた”ということはひとつ誇りに思っていいのかなと感じました。
――今回のツアーでは、そういった曲を歌う今のfripSideが観られると。今回はゲストなども呼ばずに最初から最後までfripSideのライブになるとうかがいました。
はい。これまで大きな会場でやるときは必ずゲストを呼んでやってきて、それはそれでもちろん良いと思います。ただ、純然たるfripSideとしてのライブをお客さんに楽しんでいただくことが核だろうと。なので、そこを1度研ぎ澄ましてみても良いんじゃないかと思ってそうなりました。
撮影:加東岳史
――最初に過去最大級のツアーということもお話しいただきましたが、活動15年でライブ会場がアリーナクラスまで大きくなりました。そのあたりで意識の変化などはありますか?
うーん、たぶん南條(愛乃)さんもそうなんですけど、あまりそういう自覚はないですね。楽しんで活動しながら、僕らの音楽を好きで応援してくれる人がいれば頑張りがいがあるなあと思ってやっているだけなので。気負うことなく、会場が2000人でも20000人でも僕らの気持ちはあまり変わっていないかなという感じがします。
――それは、fripSideとしてライブをやり始めた頃から変わらないスタンスなんですか?
スタンスというよりは、僕と南條さんの個性だと思います。僕は自分のことをすごくマイペースだと思っているのですが、それ以上に相方さんもマイペースで(笑)。もしかするといろんな葛藤とか悩みなんかもご本人は持ち合わせているのかも分からないですけど、この人はアイアンハートだなといつも思っていますね。僕らは幸い二人組なので、困ったときはどちらかに寄りかかることができるので、すごくお世話になっています。
南條さんはこの8年ですっかり頼もしいヴォーカリストでありセンターになった
――南條さんが2代目ボーカルに決まったころからの変化などは感じますか?
たとえば、3月のさいたまスーパーアリーナでは、ゲストを入れて30曲以上歌っているんですが、はじめのころの彼女はぜんぜん曲数を歌えなかったんですよ。フルライブもできるかどうかっていうくらいだったのが、経験と実績をつけて今のような大ボーカリストに成長してきたのを感じますね。つい一昨日、私の誕生日でソロライブがあったんですけど、6曲くらいで「ゼーハー」言ってしまって(笑)。
――先ほどの言葉にあった「寄りかかれる」ところだと。
ほかにも、ビジュアル面とか(笑)。ボーカリストっていうのは音楽業界の華ですから、彼女がアイコンになって、そこにみんなが集まってくれる。頼もしいセンターだと思いますね。たぶん、人の見えないところでめちゃくちゃ努力しているんじゃないですかね。普段は飄々としているから勘違いしちゃいますけど、よくよく考えてみたら、昔はできてなかったよなあと思って。
fripSideオフィシャルのアーティスト写真 南條と八木沼のバランスが絶妙だ
――8年間でいろいろな変化や成長を遂げてきたと。
そうですね。僕らって面白いことに、fripSide以外にもいろいろやっていて、彼女の場合は声優の仕事やソロの歌手活動で、僕だったら楽曲提供や別ユニットでの活動。そういうところで得た経験や知識をfripSideに持ち寄って、さらに磨いてきたと思っています。ツアーを重ねるごとに、僕らも成長させていただいているし、それをお客さんに披露することで新しい驚きとか、もしかしたら感動して帰っていただいたり。そういうことにつながって行くんじゃないかなと考えています。
――なるほど。今回のツアーは、そうやって積み重ねてきたものを踏まえて、fripSide15周年というアニバーサリーイヤーの集大成になりそうですね。
ただ、毎回ツアーを終えたときに「これで終わりじゃない」と思うんですよ。こうしたらもっと良くなるのに、もっとお客さんが喜んでくれるのにっていう新たな課題が毎回見えてくるので。なので、集大成というよりは今回のツアーが終わったときにも、いろいろな課題が見えているんだと思いますね。
――常により良いものを目指し続けると。
その終わりがないのが音楽活動だと思っているんですよね。終わりになったら、たぶん引退するんだろうなと。ただ、今の時点での最高の僕たちを観て帰っていただこうと思っていますし、何かしらの楽しみや喜びというものをどの会場でもプレゼントすることはできる自信はあります。時間に余裕があれば、足を運んでいただきたいですね。
――CDで聴くのとライブで観るのでは違いますしね。
失敗やハプニングも含めて、何が起こるか分からないのがライブですし、後から「行けばよかったな」じゃ遅いのでね。今のfripSideを観ていただいて「良かったね」「あそこ失敗だったね」とか、共有して帰ってもらうのが、僕も皆さんもみんなハッピーになれるんじゃないかなと思いますね。
――今はSNSですぐに見ることができますからね。
そうなんですよね。ただ、その感想を見るだけだと悔しくないですか?
撮影:加東岳史
――興味がある人のライブだとそうなりますね。なんで休めなかったんだ! とか、なんで
何しろ、どの会場も大きいので、これを読んでいる皆さんにがんばって来ていただかないと客席が埋まらないので……!是非来ていただきたいなと思っています。友だち同士とか、親子連れとか兄弟とか、そういうみんなで来てもらっても楽しいと思います。
――親子連れですか。
ちょうど僕らのファンクラブでもそうなんですけど、親子連れの方がすごく多くて、とても喜ばしく思っているんですよ。子供が小中高校生で、お父さん・お母さんが僕と同世代で。僕の音楽って、30代~40代の皆さんには「懐かしい」とか「若者向けすぎなくて聴きやすい」と思ってもらえる部分があって。逆に10代の子は「これ新しい!」と感じてくれる、面白いところにチャンネルが噛み合っていて(笑)。だから、ご家族みんなで見に来てもらえると嬉しいなと思っております。
取材・文=藤村修二 撮影:加東岳史
■11月18日(土)開場17:00 /開演18: 00
北海道/ニトリ文化ホール
■12月02日(土)開館16:30 /開演18:00
千葉/幕張メッセ展示ホール7,8
■12月03日(日)開場15:30 /開演17:00
千葉/幕張メッセ展示ホール7,8
■12月08日(金)開場17:00 /開演18:00
福岡/サンパスホテル&ホール
■12月16日(土)開館15:30 /開演17:00
兵庫/神戸ワールド記念ホール
【2018年】
■01月07日(日)17:00開演18:00
愛知/名古屋国際会議場センチュリーホール
■01月08日(月/祝)開場16:00 /開演17:00
愛知/名古屋国際会議場センチュリーホール