今年でデビュー30周年の香西かおり、来年1月には大阪・新歌舞伎座で公演も開催
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香西かおり 撮影=森好弘
今年デビュー30周年を迎えた香西かおり。9月には玉置浩二が作曲で参加したシングル「標ない道」をリリース。11月29日には玉置浩二への最大のリスペクトを込めて、「香西かおり玉置浩二を唄う」をテーマに、玉置浩二作曲の香西かおり作品、そして彼自身が歌っている作品の中から香西かおりが選曲し、シンプルなアコースティックアレンジで包んで歌い上げたカバーアルバム『香西かおり 玉置浩二を唄う』がリリースされる。また、来年1月には大阪・新歌舞伎座での『30周年コンサート』の開催も決定している。今回のインタビューではシングル「標ない道」の話を中心に、彼女にとっていつもターニングポイントの存在だと語る玉置浩二への想いなども語ってもらった。
――今回のシングル「標ない道」では、玉置浩二さんとの97年以来のコンビが実現されています。個人的な話になりますが、幼少から安全地帯の曲を聴いて育ってきた身としてはとても感慨深いです(笑)。
え! そうなんですね! じゃあ、同世代だわあなた(笑)。
――ですね!(笑)。今回は約20年振りのタッグですが、これだけの時を経て、いま再びというのはどういったきっかけだったのですか?
玉置さんとは「無言坂」で再会することになったのですが、今のタイミングになったのは、ちょうど玉置さんがソロ始動してから30年、そして私もデビューして30周年を迎えるという、お互いにとってもうまく時期が合ったなという感覚がありまして。玉置さんは自分にとっていつもターニングポイントに存在してくださっていた方なので、ここはひとつ玉置さんに1曲お願いしてみてはどうだろうかという気持ちからオファーしました。
――とても情感深い楽曲ですよね。玉置さんが作曲をされているわけですが、彼が作り上げたメロディーに沿って、詩の世界が生まれてきたのでしょうか。
そうですね。曲が出来上がった時に、自分の中に芽生えた感覚や印象を軸に書きました。
香西かおり 撮影=森好弘
――それは……具体的に説明するのは難しいことかも知れないのですが、どういった感覚だったのですか?
何て言うんだろう……、例えば人生において「終末を迎える」ということを真剣に考えるようになったりとか。当然、自分の身の上にもそういうことが起こるということだとか、自分の人生がいつかは終わるということに対して現実的に向き合う姿勢になってきたことを実感したりしてね。玉置さんからいただいたメロディーは、まるで大草原に風が吹いているような感覚になれるものでした。それを受けて「哀しみとか切なさを歌うことになるのだろうな」という気持ちと同時に、どこかにそれを受け止めた力強さや踏み出す勇気だったり、人に優しくなれる思いだったりとか、そういうことを感じられる音楽になれば良いなと思いました。
――確かに仰るとおり、根底にあるシリアスなことを包むような強さを感じました。壮大というのとはまた違う、もっと達観したような。
うん。死生観っていうか、そういうものを近く感じることで生まれたものっていうか。
――そういったものを書きたいという気持ちになられたんですね。
そう。もうね、これは愛だの恋だのっていう枠ではないなって。もっとこう……ドーンとしたもの(笑)。生きるとか死ぬとか……人生を生きるって何でこんなに痛いんだろうって。そんなメッセージ性をすごく感じて。何かね、自分のなかで「ひとつ越えた」のかなって。
香西かおり 撮影=森好弘
――ひとつを越えたとは?
うん。例えばね、目の前にある重くて大きな壁を、知らないうちにポーンって越えてしまって、「やれやれ」と思うと同時に感情がウワーって溢れてきて。それでこの詩が出来上がったんですよね。
――また新しい場所に立って書かれたということでしょうか。今回、玉置さんとのやりとりで印象深い出来事はありましたか?
それがね、まったく無いの(笑)! こちら側からの細かい注文が通用する方ではないし、そもそも彼が自由に作るものこそが良いんだと思うから。だから、いつも「こうしたい、こうして欲しい」というこちら側が用意する思いや意図をお伝えするということもないんですよね。
香西かおり 撮影=森好弘
――なるほど。今回は20年という時を経てのコラボレーションですが、何かお互いに感じる変化などもありませんでしたか?
一番最初の時は、曲をいただいてから「さあ、これをどうしようか?」というところからのスタートだったんです。本当にすごく素敵な歌だったし、それを持ってレコード大賞という目標に向かって、それを勝ち取った作品でもあって。それがあるからこそ、自分の中では時を経たというよりも、どこかでずっと繋がり続けていたという感覚があるんです。玉置さんってね、本当にギリギリに生きて、すごく純粋な方なんですよ。きっと、生き方としては決して器用なタイプではないんでしょうけれど、アーティストとして凄い方だと思います。だから、彼のその感性や存在感があるからこそ、敢えてこちらから何かを提示する必要性を感じないし、今も以前も変わらずその存在感を保たれていて。「打ち上げに出てくれるんだったら、曲作るよ!」って、そんな感じなんですよ(笑)。
――そうなんですね!(笑)。
だからこちらも「え! それでいいんですか?!」って(笑)。
――今回は、初回盤には同じく玉置さんとの共作である「すき」も同時収録されていますが、曲に対する視点や感情も、当時と今では何か変化があったりするのでしょうか。
歌い手として、曲に対するスタンスとしては変わらないつもりなんですけど、言葉のもつ意味合いなんかは人生においての経験値があがれば奥行きが多少は出てくるのかも知れないですね。そしてそういう変化は、これからも起こるのかも知れませんね。
――これからも楽しみにしています。今日はありがとうございました。
香西かおり 撮影=森好弘
取材・文=三好千夏 撮影=森好弘