映画『新世紀、パリ・オペラ座』公開間近! 芸術の殿堂に入り込んだカメラが捉えた人間ドラマとは?

2017.11.22
レポート
クラシック

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS


何とも面白いドキュメンタリー映画が生まれたものである。映画『新世紀、パリ・オペラ座』はパリ・オペラ座の総裁室から始まる。劇場をアピールするための記者会見に向けての重要会議がおこなわれているのだ。リラックスした姿勢でソファーに座る総裁とスタッフ達。だが、彼らの会話は真剣そのものだ。新しい時代を迎えたパリ・オペラ座をどうやって観客に、そして世界に向けて発信していけばいいのか?

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

映画は一年半にわたる撮影と、オペラにならった撮影手法で作られている。監督のジャン=ステファヌ・ブロンは「今回は映画自体が“オペラ”そのものになることを目指した」と語っており、劇場の人々の仕事ぶりや、壁がたちはだかるとき、そして葛藤が表に現れる瞬間を撮りたかったのだそうだ。

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

監督の試みは成功したようだ。オペラの舞台裏はオペラ以上にオペラチック、そして時には喜劇的なのである。シーズン開幕公演に選ばれたのは十二音技法を使った難解を極めるオペラ、シェーンベルクの《モーゼとアロン》だ。一年も前から上演のリハーサルに励む合唱団員たち。でも彼らより大変なのは、このプロダクションに登場することになった白い雄牛である。イージー・ライダーという名前の牛は、公演のずっと前からシェーンベルクの音楽を聴かされて、舞台に立つ訓練をさせられる。オペラとは、何とはた迷惑な情熱なのだろう!

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

一年半に渡った映画の撮影期間には様々な事件が劇場を彩っていく。その一つはバレエ団芸術監督ミルピエの辞任だ。パリ、オペラ座は世界最高峰のバレエ団でも知られる。映画《ブラック・スワン》のナタリー・ポートマンと結婚したフランス人振付家バンジャマン・ミルピエはパリ・オペラ座のバレエ団芸術監督を務めていたが、この映画の撮影期間中に電撃的な退任劇が起こる。あでやかな新監督オレリー・デュポンと並ぶミルピエは苦渋に満ちた表情を浮かべている。

またパリを襲った卑劣なテロ、バタクラン劇場の襲撃事件の後に、初めてオペラ座で公演(ゲネ・プロの公開)をする時の様子も描かれる。舞台の上に立つリスナー総裁とバレエ・ダンサーたちと一緒に、一分間の黙祷を捧げる観客。そして帽子をとって黙祷を捧げる舞台裏スタッフの姿もカメラは見逃さない。

楽しいシーンは若いアーティストや、観客の養成に関するものだ。オペラ座のアカデミーに合格した21歳のロシア人バス・バリトン歌手ミーシャ。無邪気な笑顔やストレートな感情表現に好感が持てる。英国の名歌手ブリン・ターフェルとの交流、講師陣から受ける厳しくも優しい指導が描かれる。また普段、芸術や文化に触れる機会のない子供たちをサポートするためのプロジェクトとして、子供たちが弦楽クラスに参加してコンサートまで練習する場面も興味深い内容だった。

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

オペラやバレエのファンにとっては、当然のことながら魅力的な映像や音楽が目白押しだ。音楽監督で指揮者のフィリップ・ジョルダンに加え、オルガ・ペレチャッコ、ヨナス・カウフマン(リハーサル場面でほんの一瞬登場する)、ジェラルド・フィンリー、ミヒャエル・クプファー=ラデツキー、ブランドン・ヨヴァノヴィッチなどのオペラ歌手も登場する。バレエではアマンディーヌ・アルビッソン、エルヴェ・モロー、ファニー・ゴルスのリハーサルや舞台シーンも堪能できる。

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

映画の最後にロシア人歌手ミーシャがリサイタルで、ジャック・イベールの歌曲「ドン・キホーテの四つの歌」を披露する。ドン・キホーテは歌う「人生はうたかたの夢」…と。儚さと魅力に満ちた人間のドラマが繰り広げられる場所。それこそが劇場だ。映画「新世紀、パリ・オペラ座」は鮮やかな人間ドラマを描きだすのである。

「新世紀、パリ・オペラ座」12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ (c) 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

文=井内美香
(c) 2017 LFP-Les Films Pelleas  - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio  - RTS

上映情報
「新世紀、パリ・オペラ座」
12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ
公式HP:http://gaga.ne.jp/parisopera/
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