【“SAI”クイックレポ】the HIATUS　「今日、ここにいる全ての同世代のバンドに捧げます」 奇跡的な1日を体現するステージ

ACIDMAN presents 「SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”」 the HIATUS

ACIDMANが主催フェスをやると言うならば、このバンドの出演なくしてはきっと成立しないだろう。本番直前のサウンドチェックで「Clone」を披露したthe HIATUSだ。本番、赤いスポットライトがサーチライトのようにステージを照らすなか、細美武士（Vo/Gt）、masasucks（Gt）、ウエノコウジ（Ba）、柏倉隆史（Dr）、伊澤一葉（Key）の5人がステージに現れた。1曲目は「The Flare」。その第一音から空気をビリビリと震わせるような轟音が、言い様のない多幸感でさいたまスーパーアリーナを包み込んでいく。

MCでは広い会場の隅々に目を配りながら、「ACIDMANと最初にやったのは名古屋の小さいライブハウスだったのに、まさかこんな日が来るとは思いませんでした」と語りかけた細美。かつて（浦山）一悟に右ストレートを食らわせたというエピソードを明かして、「そんな一悟と大木とサトマにこの曲をどうしても捧げたいと思って持ってきたんですが……楽屋を見ていると、あいつらだけに贈るのはもったいないので、今日、ここにいる全ての同世代のバンドに捧げます」と届けた「Little Odyssey」が圧巻だった。ピアノの伴奏と細美の曇りのないボーカルが築き上げた幻想的な光景を、そこにいる全員が固唾を呑んで見守る厳粛な時間。この曲を“ACIDMANだけに”と言わなかった意味は、このフェスも中盤に差しかかったいま言わずもがなだろう。同じ時代、同じ景色を見ながら、それぞれの道を走り続けたバンドマンたちが次々にステージに立つここまでの時間は、すでに奇跡のようだった。

そして、「Little Odyssey」の余韻と静寂を打ち破るような柏倉のドラムから「Insomnia」へと突入すると、細美が「いこーぜ！」と叫んだ瞬間、ウォーウォーという怒号のようなシンガロングが会場を埋め尽くした。
最後のMCで「こんなメンツを集められるのは、わりとあいつらだけだと思います。またやってください」と、細美がこの場所にいる私たちの気持ちを代弁するような嬉しい言葉を残したあと、「Lone train running」と「紺碧の夜に」の2曲でライブを締めくくったthe HIATUS。共に歩いてきた盟友が、20年に一度の想いを込めた特別な場所の意味を噛みしめるように、最後まで幸せそうな表情が印象的だった。

取材・文＝秦理絵　撮影＝石井麻木、ヤオタケシ