MO'SOME TONEBENDER 1年ぶりの帰還で打ち鳴らされた、“100% Junk”な音

2017.12.7
レポート
音楽

MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之

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MO'SOME TONEBENDER ONE MAN GIG "100% JUNK"   2017.11.25  渋谷CLUB QUATTRO

「100% Junk」とはよく名付けたものだ。モーサム・トーンベンダー、1年ぶりのライブは、モーサムしかありえない、モーサム以外の何ものでもない、最高のライブだった。

前回、つまり1年前の2016年11月6日新宿ロフトでのライブについてはSPICEに書いた。モーサムの上京前、つまり福岡時代に書いた曲だけで構成された内容だった。久々に藤田勇がドラムを叩く3人編成でのライブであり、つまりはモーサムの原点を確認するような内容だったのである。その時のイベント・タイトル『scrap & destroy '97~'17』には“vol.0”とあった。つまりその後“vol.1”“vol.2”……と続き、モーサムの全キャリアを順に追っていくような内容になる予定だったのだろう。「~'17」とあるのは、バンド結成20周年となる2017年を記念して、そうしたシリーズ・イベントを展開するつもりだったと考えられる。

だが知っての通り、その後モーサムの活動はばったりと止まってしまった。そのへんの裏事情は公には語られていない。モーサムのメンバーは決して仲良しこよしの間柄ではなく、かなりの緊張と葛藤を孕んだ微妙な関係であるのは、彼ら自身がインタビュー等で語っていることもあり、ファンなら知っているだろう。解散の危機も何度もあった。だがその都度なんとか回避しバンドが続いてきたのは、ビジネス上のしがらみなんかでは決してなく、ともに志を抱き福岡から上京してきた、恩讐を超えた宿命的な「運命共同体」だったからにほかならない。その後メンバーやスタッフに会う機会もあったが、誰もバンドの未来についてはっきりとは言えない、メンバーに言わせれば「氷結状態」がしばらく続いた。

それが忘れもしない今年の8月4日付けで百々和宏から直にメールがあり、11月25日に1年ぶりのライブをやること、現在バンドは契約していたUKプロジェクトを離れ、バンド自身がセルフ・マネージメントする態勢になっていることを知った。新しいメンバー写真が発表され、サポート・ドラマーの水野雅昭と共に4人が並んだ構図に、今回のライブに向けてのメンバーの意気込みを感じたりもした。ライブ直前の11月21日には、なんと新曲「Rotten(Demo)」のミュージックビデオも公開された。どういう経緯で今回のライブが決まり実現に至ったか、詳しくは知らない。僕はただ、直前にキャンセルとか、そんな事態にならないよう祈るだけだった。

MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之

前置きが長くなった。ライヴ当日。会場となったクラブ・クアトロは、ほぼ満杯の盛況。フロアのざわざわした期待感は普段のライブとは明らかに違う張り詰めたものだった。会場にいきなりサイレンが鳴り響き、メンバーが登場、フロントに左から順に藤田、武井靖典、百々の3人が立ち、水野がドラムの前に座って、「Tiger」(『Super Nice』2007年)が始まる。のっけからパワーMAXの歪音が躊躇なく鳴らされる。この曲で始めるかという驚きを感じる以前に、一瞬で血が沸騰する。イントロのほんの数秒で、会場にいた人は全員、今日のライブが最高にものになることを確信したはずだ。

僕はといえば、なるほどこの1年は「モーサム不在の1年」だったと即座に理解した。結成20周年の節目なのに、肝心の主役がいなかった2017年。その「モーサム・ロス」を埋めるように「Tiger」「Young Lust」「Shinning」と立て続けにテンションの高いアップテンポのラウド・ナンバーが演奏される。研ぎ澄まされたビートが矢のように解き放たれ聴き手を深々と刺し貫く。メタリックでクールなサウンド・テクスチュアは、鉄とコンクリートとアスファルトの手触りだ。胸の奥深くがざわざわと波立ち、硝煙がくすぶり、全身が総毛立つようなスリルが駆け抜ける。このざらりとした現実感覚、ゴツゴツとした手触り、待ちかねていた爆音に会場の雰囲気もアガリまくりだ。「Side B」「空っぽメモリーズ」のメドレー、「DeeDee-Gator」とレア曲がずらりと並び、ここまでがすべて藤田勇の作曲曲ばかりであることに気づく。

<ツバキまき散らしてまくしたてる僕/熱情にかられて踊り続ける僕>と百々が吐き捨てるように歌う、やさぐれた「Dawn Rock」は、初期モーサムの荒々しく生々しい姿を伝える。そこから「ロッキンルーラ」に続くあたりの殺気に満ちた鉄火場的な雰囲気は、モーサムにしかありえない。強烈にして最高だ。

極めつけは『Super Nice』(2007年)収録の「ロジョー」。珍しい藤田勇のヴォーカル曲である。ライブで演奏されたのはこの日が初めてじゃないか。まさかこんな地味な曲をやるとはと驚いたが、希望と絶望が背中合わせになった繊細なリリックを歌う、木訥でやや心許ない藤田の声を、会場は息を詰めて見守る。歌い終わると会場の誰かが叫ぶ。「イサム、いい歌だなあ」。

MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之

藤田がドラムの前に座り、水野と並んで「Green & Gold」を叩き始める。リズムの音量が上がり、凄まじい音圧に息が詰まりそうになる。心身共に解放されるような圧倒的な自由を感じる。このエクスタシーがモーサムの本領だ。「奇跡の歌」「18」「ロジョー」そして「Green & Gold」という流れは、このバンドのエッセンスが凝縮されていたと思う。細く美しい糸でかろうじて世界が維持されているような緊張感。

この日の選曲が誰主導で行われたのか知らないが、定番曲とレア曲のバランス、緩急、強弱、緊張と解放の流れがいい。そして特徴的だったのが、打ち込みを使ったエレクトロニックな曲が演奏されなかったこと。ラウドでノイジーなギター・リフとバンド・サウンドがぐいぐいと曲を先導していくような楽曲、あるいは荒れ果てた都市の光景を彷彿とさせるようなダウナーなサイケ・チューンという、まさしく「100% Junk」な、ファンの誰もが望んでいたはずのモーサムがそこで鳴っていたのだ。1年ぶりのライブで彼らが表現したかったモーサムは、こういうものだった。おふざけは一切なし。正解だと思う。

MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之

新曲「Rotten」をはさみ、「Have you ever seen the Stars?」(2005年)からショウはクライマックスに突入する。<騒がしい毎日を、空前絶後の世界を、まだ見たことのないような世界を>待ち望むロマンティシズム全開のリリックは、百々が「完成した時すごい達成感があって、オレもこういう曲が書けるようになったかと思った」という思い入れの強い楽曲。そこから何度もリメイクされている代表曲「未来は今」、そして「冷たいコード」「High」と、初期キラーチューンの連続投下で、フロアが再び沸騰する。「echo」の白く光るギター・ノイズのカタルシスに溶解するように本編は終了。アンコールはフリクションのカヴァー「Big-S」だった。いつ聞いてもこの曲は僕の理性を吹っ飛ばしてくれる。演奏中、藤田と百々が笑顔でなにやら囁きあっていたのが印象的。再度のアンコールを求める観客の拍手はいつまでも終わらなかった。

終演後、12月にパニック・スマイルのイベントにゲスト出演することが発表されたものの、その後の予定は明らかになっていない。誰もがバンド活動の継続と本格再開を望んでいるはずだが、メンバーに訊いてもスタッフに訊いても、はっきりとした答えは返ってこない。この日のライブを観客の誰もが喜び楽しんだことはメンバーも十分わかっているはずだが、バンドを継続して続けるためには、まだクリアしなければいけない問題があるようだ。でも新曲を作ったぐらいだから、可能性は十分ある。ファンの後押しこそが力になるはず。声をかけ続けましょう。


文=小野島大   撮影=岡田貴之

セットリスト
MO'SOME TONEBENDER ONE MAN GIG "100% JUNK"   2017.11.25  渋谷CLUB QUATTRO
se. FLOWER
1. TIGER
2. YOUNG LUST 
3. Shining
4. SIDE B~片っぽメモリーズ 
5. DeeDee-Gater 
6. DAWN ROCK 
7. ロッキンルーラ 
8. 凡人のロックンロール
9. 奇跡の歌
10. 18
11. ロジョー 
12. GREEN&GOLD
13. 行かない
14. -5°C
15. Rotten(新曲)
16. Have you ever seen the stars? 
17. 未来は今
18. 冷たいコード
19. HigH
20.echo
[ENCORE]
21. BIG-S (FRICTION カバー)

 

セットリスト
MO'SOME TONEBENDER出演イベント
PANICSMILE 25th Anniversary 25G-SPOT TORNADO_01
12月7日(木)
新代田FEVER
出演:PANICSMILE、MO'SOME TONEBENDER、GEZAN、入江陽
OPEN 18:30 / START 19:00
当日¥3300 (+1drink)
百々和宏 出演イベント
高橋浩司 50th BIRTHDAY NITE『50祭!』
12月8日(金) ◆ THE TURN-TABLES(TARSHI, 近藤智洋, RYOTA, 高橋浩司)
◆ 東京パンクス(仲野茂, ヤマジカズヒデ, 百々和宏, 市川勝也, 高橋浩司)
◆ 武藤昭平+清野セイジ+ウエノユウジ+高橋浩司
◆ Radio Caroline (MY FAVORITE GUEST)
◆ DJ>SATO(URASUJI.)
open 18:00 start 18:30
当日 \ 3,700 (+1D)
百々和宏(MO'SOME TONEBENDER) & ヤマジカズヒデ(dip)
2018年2月3日(土):名古屋sunset BLUE
2018年2月4日(日):大阪HOWLIN’ BAR
2018年2月10日(土):代々木Zher the ZOO
名古屋&大阪:OPEN 18:00 / START 19:00
東京:OPEN 17:30 / START 18:00
前売3,500円 当日4,000円