flumpool 活動休止発表直前の横浜ワンマンをレポート――逆境のライブで4人の背中を押した絆
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flumpool 撮影=タマイシンゴ
flumpool 8th tour 2017「Re:image」2017.12.3 パシフィコ横浜・国立大ホール
「ごめんね。こんな声になっちゃったけど、みんなで唄いたい歌があります!」
山村隆太(Vo)がそう打ち明けたのは、14曲目「reboot ~あきらめない詩~」を演奏し終えた時のこと。その後のMCで改めて、ここのところ喉の調子が良くないのだということを話し始めたのだ。デビューから9年間、彼がステージ上で不調を訴えたのはこれが初めてだったのではないだろうか。
flumpool 撮影=後藤壮太郎
10周年を目前に控えたflumpoolによる全国ツアーの終盤戦、パシフィコ横浜2日目。既に発表されている通り、この公演の終了後、医師の診察により山村隆太(Vo)の歌唱時機能性発声障害が判明。それを受け彼らは、当面の間活動を休止すること、ツアーの残り4会場(福井、三重、広島、鳥取)での公演、および大阪城ホールでのカウントダウンライブを中止することを発表した。メンバーはきっと悔しさを感じているかと思うが、こういう時だからこそ、“ファンを笑顔にさせたい”という気持ちの表れであるフロントマン然とした山村の佇まい、ここ数年で確かなものになりつつあるバンドの絆、ここまでの月日で築いてきたオーディエンスとの関係性などが浮き彫りになったのもまた事実ではある。だからこそ、いつか必ずやってくる復活の時のために、この日のことをしっかり記しておきたい。
flumpool 撮影=タマイシンゴ
ステージを覆う紗幕の上にオープニングムービーが映し出されたのは、開演予定時刻を少し過ぎた頃だった。山村、阪井一生 (Gt)、尼川元気 (Ba)、小倉誠司 (Dr)のシルエットが浮かび上がり、ツアータイトルがドンと表示されたあと、まず最初に演奏されたのは「World beats」だ。今年6月に開催された本ツアーの前哨戦・武道館2デイズと同じく、磯貝サイモン(Key)、吉田翔平(Vn)をサポートに迎えた6人編成で臨んだこの日。幕落ちととも躍動的なバンドサウンドと眩いばかりの光が溢れ出す。
flumpool 撮影=後藤壮太郎
flumpool 撮影=タマイシンゴ
山村の調子はというと、声にエフェクトをかけている「World beats」のような曲ではそれほど気にならなかったが、全体的に高音を上手く出しきれていない様子だった。しかしそこで折れるような人だったら、そもそも“ステージに立つ”という選択すらしていなかったはずだ。曲の後半でハンドマイクに持ち替えた「星に願いを」では身振り手振りを激しくしていたり、「Hello」では遠くの方のオーディエンスへ何度も手を振り笑顔を見せていたりと、身体的なアクションを大きく見せながら、フロントマンとして明るく華やかに振る舞うことによって、声の不調を感じさせまいとしていた印象。そしてその姿勢は、武道館2デイズで改めて示された“自分を信じて戦う”というflumpoolのファイティングスピリッツに通ずるものであり、このタイミングで披露された新曲「WINNER」でもそのようなことが唄われていた。
flumpool 撮影=タマイシンゴ
flumpool 撮影=後藤壮太郎
<僕は僕の背中を/何度でも押し続けるよ 強く>。自らを奮い立たせながら進んでいく彼のやり方がそのまま形になったようなフレーズは頼もしくもあり、一方で少し孤独にも聞こえるが、ボーカリストがこれだけ振り絞っているにもかかわらず、その様子が独りよがりに見えることはこの日一度もなかった。理由は主に二つある。一つ目は、不調云々に関わらず、バンドがその手を緩めることなく“いつも通り”の演奏に徹していたから。特にそれが顕著に表れていたのは、「絶体絶命!!!」~「ラストコール」と比較的最近にリリースされた、アグレッシブな4曲を連続で演奏した場面だ。サイレンが如くギターが鳴き、ベースラインが上下にうねり、キレッキレのビートが全体の空気を締め――と誰一人、一歩も引くことはない。バンドとして一枚岩になった『EGG』以降のモードが反映された、重心の低く、ガッチリとしたバンドサウンド。後ろで鳴るサウンドが屈強だからこそ、その先頭に立つ山村も前傾姿勢でマイクに向かうことができたのだろう。また、4人によるMCでの空気感も普段と全く変わらず。「芸能人っぽく見られたい」「文春砲を食らいたい」という憧れを語った阪井に対して、尼川が手厳しく「(MCのネタを)用意してないな、今日」と指摘。最終的には阪井がオーディエンスに向かって「ずっと思ってたけど、笑わせてもらおうとしてるやろ!」と逆ギレする――という無茶苦茶な流れが健在だったことも一応触れておこう。
flumpool 撮影=後藤壮太郎
flumpool 撮影=後藤壮太郎
そしてもう一つの大きな理由は、オーディエンスの存在だ。この日のセットリストは、デビュー曲「花になれ」(2008年)から今年12月26日リリースのシングルに収録される「とうとい」「WINNER」までを網羅した、新旧入り組んだ構成だったが、序盤から「みんな唄えるんだね。感動したわ!」と山村も喜んでいたように、とにかく客席からシンガロングが絶えず聞こえてきたのが印象的だった。flumpoolはいつも、ライブでのメンバー紹介の際にオーディエンスこそが“一番重要なメンバー”なのだと会場に集まった人々に伝えている。その言葉の意味をこれほどまでに強く実感させられたのは、初めてのことだった。
flumpool 撮影=後藤壮太郎
flumpool 撮影=後藤壮太郎
後ろを振り向けば、頼もしいプレイで自分の背を支える仲間がいる。そして客席には、例えボーカリストの声が出なくなったとしても、そのメロディを歌い繋ぐことのできるオーディエンスがいる。独りではないという事実を身を以て実感したことにより、彼自身の中に新たな気持ちが芽生えたのかもしれない。短いインターリュードを挟んだ後に演奏された「reboot ~あきらめない詩~」ではなんと、先ほどまではファルセットでも出すことのできていなかった高音域で、思いきり地声を張り上げてみせたのだ。言葉を選ばずに言ってしまうと後先を考えていないような声の出し方ではあったが、だからこそ<悲しみが終わらないなら 産声の様に歌うから>というその歌詞通り、臆病・失望・後悔のようなネガティブな感情ではなく、“伝えたい”という気持ちが彼を駆り立てていたのだということはひしひしと伝わってきた。そうして全てを出しきったからなのか、ここで、冒頭に引用したように山村が不調を告白。すると、客席からはこれまでよりもさらに大きなシンガロングが起こり、“会場全体で各曲を唄う”という形でクライマックスへと突入していった。
flumpool 撮影=後藤壮太郎
flumpool 撮影=タマイシンゴ
アンコールを終えると、他公演と同じように、この後に続く予定だった公演の来場予定者や、ツアーに参加すること自体が叶わなかったファンに向けて、Instagramのストーリー機能を使用した動画配信が行われた。実際は数分前に不調を告白したばかりではあったが、まるでこの日のライブの冒頭のように、そのことをカメラの向こうの相手に察せられまいと明るく話すメンバー4人。その姿を見て、山村がオーディエンスに伝えた「みんな、優しすぎるよ。きっと今日だけじゃなくて、いつもいろんな人に優しくしてるんでしょ?」という言葉はそのままバンド自身に跳ね返ってくるものなのでは、と思った。そうでなければ、自分が苦しんでいる時に歌声で力を添えるファンが集まってくるようなことも、9年かけて紡ぎ上げた新曲が「とうとい」のような柔らかなラブソングになるようなことも、きっとなかったはずだ。
flumpool 撮影=後藤壮太郎
flumpool 撮影=タマイシンゴ
ツアータイトル「Re:image」には“イメージし直す”“未来をやり直す”という意味が込められているのだという。今回のような結果を本人たちはもちろん望んでいなかっただろう。しかし途中のMCで「来年で10周年だが当初夢に見ていた地点には全然届いていない」「だけど何一つ諦めていない」という話もしていたように、紆余曲折の中“Re:”を重ねてきたのがflumpoolの歴史なのだということは、本人たちが一番よく分かっているはずだ。だから今はただ待っていたいと思う、もう一度共に“未来をやり直す”日のことを。一刻も早い快復を願うばかりだ。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=タマイシンゴ、後藤壮太郎
flumpool 撮影=後藤壮太郎
1. World beats
2. 星に願いを
3. Hello
4. WINNER
5. DILEMMA
6. two of us
7. 絶体絶命!!!
8. 夜は眠れるかい?
9. FREE YOUR MIND
10. ラストコール
11. 花になれ
12. 僕はここにいる
13. ナミダリセット
14. reboot ~あきらめない詩~
15. イイじゃない?
16. 君に届け
17. Touch
18. とうとい
[ENCORE]
19. 大切なものは君以外に見当たらなくて
「とうとい」初回限定盤
「とうとい」通常盤