“自分と同じような心境の人が、少しでも救われたら” 新進気鋭のガールズバンドFERN PLANETの新たなスタート
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FERN PLANET 撮影=日吉"JP"純平
若手バンドの登竜門といえるコンテスト『閃光ライオット』『十代白書』で好成績を残し、全国区になったバンドRick Rackが17年1月に解散。その後すぐに、SERINA(Vo&Gt)と山口メイ子(Ba)が新バンドELFiN PLANETを結成し、5月にはミズグチハルキ(Dr)が加入して、新たなスタートを切った。そんなELFiN PLANETが、この3人でバンドを続けていく強い決意から名を「FERN PLANET」と改め、12月13日(水)に1stミニアルバム『stardustbox』をリリース。日々の葛藤や苦悩、悶々とした感情と向き合い、もがきながらも掴んだ光を、聴き手の心境とリンクするほどにリアルな音に昇華させた渾身の一枚となっている。アルバムを引っ提げたツアーへの意気込みに至るまで、バンド結成からアルバムに込めた想いを、ありのままに話してもらった。
――先ずは、Rick Rack時代にさかのぼってお話を伺いたいと思います。結成からわずか1年で若手バンドの登竜門ともいえるコンテスト『十代白書』で準グランプリを獲得、『閃光ライオット2014』ではファイナル出場と、すぐに賞レース活躍されていましたが当時の心境としてはいかがでしたか?
SERINA:バンドを始めてすぐに応募したコンテストでいきなり準優勝を獲れて、自分たちとしても驚いましたが、それがきっかけで色々な人に観てもらえる機会も増えたので嬉しかったです。だけど、実力が追い付かないなという気持ちの焦りはありましたね。それは今も常にですけど……。
――順風満帆にスタートをきって活動されてきた印象でしたが、今年の1月にRick Rackを解散。それからわずか1か月後には、メイ子さんと一緒にELFiN PLANETを結成することに。
SERINA:解散は、すごく悩みました。だけど、それからすぐにでもバンドをやりたい気持ちがあったので、心機一転ということでバンド名をELFiN PLANETに変えて新たに進みだそうと決意しました。
山口メイ子:解散からELFiN PLANETの結成までは、二人でどうやって新しくバンドを進めていくかの方向を考えながら、先ずはドラムを探すというところを話し合っていました。最初は、二人だけでバンドをやるのも候補にあがっていたり。
SERINA:再スタートしたばかりのころは、サポートでドラムを迎えて何度かライブをしていたんですけど、すぐにでも正規メンバーと活動したいという想いがあったので、探してハルキに出会って加入してもらうことになりました。
ミズグチハルキ(Dr)撮影=日吉”JP”純平
――ハルキさんとの出会ったきっかけというのは?
メイ子:私がRick Rackに加わった時と同じような感じなんですけど、ドラムができる子を探している時に偶然、紹介で知り合って、それから何度か話をしていくうちにドラムの感じと人の感じで一緒にやることが決まりました。それまでに色々と候補になる人とは会っていたんですけど、この子やと思ったのはハルキだけで。
――声がかかった時はいかがでしたか?
ハルキ:正直、最初はこのバンドでやっていこうとかそこまで思っていませんでした。お互いをまだ知らなかったですし、先ずは様子を見る程度で話していたんですけど、それがだんだんと根拠はないけどフィーリングが合って通じるものがあるなと感じるようになり、やってみようかなと。カチッとハマりそうやなって、その時はあくまでも期待を込めて入りました。
――実際にバンドを組んでみて、スタジオに入ったりしながら合わせていく中で、その期待は間違っていなかったと?
ハルキ:ハマっていってる感じはしますね。お互い、削るところと尖るところが上手くハマっていってる感じ。
SERINA:一回のスタジオでも色々なことが分かったりしますね。
――ディスカッションする機会はかなり多い?
ハルキ:常に闘わせていますね。意見だけでなく人間的な部分も(笑)。
SERINA:みんな個性がバラバラなんです。だけど、バラバラやからこそいい具合にブレンドしたら新しいものが生まれていくと思っています。
――どんな風にバラバラなんでしょう? せっかくなので、改めてお互いを紹介していただけますか?
メイ子:ハル(ハルキ)は、ほんまに明るくてふわふわした感じの子やと思いきや意外とすごい先のことまで見据えていて、男よりも芯があるドラマーですね。
ハルキ:めっちゃ嬉しい(笑)。セリ(SERINA)ちゃんは、最近まであんまりどういう人間なのか正直分からなかったんです。すっごい抜けてる人なんで(笑)。だけど、CD制作とかライブを重ねていくにあたり、人間として理解したくて中の中まで向き合いたくて、ずっと考えていく中で、分かったのは言葉にするのが苦手な人なんだなって。
SERINA:めちゃくちゃ下手で、極力喋りたくない……(笑)。
ハルキ:普通に喋っていると深い部分が見えないんですけど、何に対してもセリちゃんなりに向き合ってはいるんですよね。セリちゃんにとっては、伝えベタな分を曲で表現しているんだなと分かりました。ミュージシャンとしてではなく、普通に友達として関わってると分からない部分が多いんです。だけど、話をしているだけでは分からない人間性やセリちゃんの想いっていうのは、全部曲に出ているんですよね。私が生活している中で色々なことを考えている時に、ELFiN PLANETの曲を聴いたら自分の考えていることと重なる部分があって、いちリスナーとしてセリちゃんを急に理解できる瞬間があるんです。セリちゃんはこんな風に考えていたんやとか、こんな感情も持ってるんやとか。
メイ子:確かに、セリは全部が下手ですね。だからこそ改めて、レコーディングで歌を録ってる時に凄いなと思わせられるんです。見えてる景色が広くて、自分の世界があるのも分かる。だから、歌詞を見るのが凄く好きなんです。言葉の使い方とか、自分にはない世界を見せてくれるから。
SERINA:なんか恥ずかしい……(笑)。メイ子は人が凄い好きよね。人間関係をすごい深いところまで見てるから、すぐ仲良くなれるタイプ。
ハルキ:メイ子さんは私にとって居場所をくれた人なんですよね。そういうと、深すぎて気持ち悪い気がしますけど(笑)。
メイ子:あはは(笑)。ハルは、その場で自分がどう振舞うべきかは周りをみて自分を変える人なんですよね。お互いのことを知らない時、この人はこういう人だって最初に判断するじゃないですか? それで、ハルはふわふわってキャラでテンションを上げる役だったんですけど、多分そうじゃないって最初に気づいたのが私やったのかな。
ハルキ:中身を見てくれた人なんです。私が無理して爆発する前に、気づいてくれて私も限界が来る前に話ができる。超繊細で弱いからこそ、頼れるところはありますね。
FERN PLANET 撮影=日吉"JP"純平
――バンド名が新たにFERN PLANETとなり、12月13日(水)にリリースされるファースト・ミニアルバム『stardustbox』は、今のメンバー3人でバンドを続けていく強い意志や使命感を凄く感じました。そのメンバー同士を繋げている強い想いって一体なんなのかなと。
ハルキ:上辺だけでの関係では無いところが大きいですね。形とか上辺じゃないところで話し合い向き合っているからこそ、嘘じゃないと信じられるし、それぞれバラバラな性格で道を曲がってしまうことがあっても行き着く先が同じだと思えるというのが、バンドを繋げている大きな部分だと思います。
――行き着く先が同じということは、共通の目印となる目標があるのでしょうか?
メイ子:はっきりとあるわけではないけれど、セリの思い描いていることやこういうことがしたいという想いをどんどん広げたいなという気持ちは共通してあると思いますね。
SERINA:あんまり一番になりたいとか、そういう感じではないよね。自分たちのことを表現して、それが伝わったらいいなと思ってやっています。なので、そのまま歌詞にしても楽曲にしてもストレートに表現するようにしています。
メイ子:「テッペンを獲ろう!」とかはないですね。どうやったら表現できるかとか、どうやったらこの感じが伝わるかとか、そっちの気持ちの方が強いです。
――ストレートに表現するという点でいうと、SERINAさんが全て作詞作曲されていますが、どの楽曲も憂いや悲哀、焦燥感が身につまされるほどリアルに感じられてグッときました。
SERINA:ありがとうございます。あんまり背伸びをしないようにはしていて、自分が感じているありのままの素直な気持ちを等身大で書くようにしています。
――特に「フォレストネスト」は、《本物はどこ?あなたは誰?/抜け出したくて走り出した》の歌詞が印象的で、自問自答を繰り返し葛藤するSERINAさんの気持ちがヒシヒシと伝わってきて、聴いてる自分にも重なるほどリアルでした。
SERINA:「フォレストネスト」は、2・3年ぐらい前からある曲なんですけど、あんま進まず、というよりも進めたくなかった心境もあって。今ならできると思えて出来た曲です。他にも何年か越しに出来た曲や、RickRack時代からスタジオでやっていたりはしていた曲も今ならできると思い、収録しています。
SERINA(Vo/G) 撮影=日吉"JP"純平
――「ナイトエスケープ」から前半は疾走感ある展開で、それが徐々に深い部分へと潜っていく流れが、最後の「ballOOn」で《失って傷付いてそれでも明日を 生きていくんだ》と歌うアップテンポで開けた終わりになっていますよね。ネガティブなこともありのままに書いてあるんですけど、決してただ暗い内容ではなく、葛藤して悶々して、もがきながらも何かを掴んで、最後は先に向かう光のある終わりになっているのが、とても良いなと。まさに、解散を経て新たに3人で動き出したバンドを象徴しているような作品になっているようにも感じられて。
SERINA:今回のアルバムにしてもライブにしても、それぞれ楽曲の歌詞にしても、すごくネガティブでダークな部分がたくさんあるんですけど、最後にはポジティブな方向に、光の見える方向に向かっているというのは、そこまで意識してはいなかったのですが、自然とそうなっていますね。だけど、確かにそれこそが私たちの曲らしさではある。今そういう風に言ってもらえて初めて気づいたぐらいです(笑)。
メイ子:特に、RickRackを解散してELFiN PLANETになってからの曲は、綺麗でさらっとした曲というよりも深い曲が増えてきていますね。最後には光が見えるという点は、SERINAの中でそういう風に完結したいんやろなと思ってはいました。
――RickRackのむき出しの衝動やゴリッとした音から、音楽性が変わったというよりも研ぎ澄まされた感じがしますね。
メイ子:その時に思っていたことを伝えたいとか、感情を曲に乗せられるようになってきたことが影響しているかもしれないですね。ちゃんとライブで表現するにはどうしたらいいかとか、今は3人でよく話し合えていることが大きくて、これまでとは違うところですね。
――三位一体となって向き合えているからこそ、楽曲もライブも研ぎ澄まされてきているのですね。個人的には「劣等星」が凄く好きでした。「フォレストネスト」までグーッと深くまで潜った結果、どん底にある暗い部分が出てくるのかと思いきや、温かみのあるよりピュアな部分が露わになった「劣等星」に繋がって、最後は「ballOOn」でより開けた方向に。アルバムの流れを変える曲なので、とても大事な曲なのかなとも感じました。
SERINA:嬉しいです。この曲は、今までで一番自分らしくて人間味の溢れた曲なんですよね。とても素直に書いた曲ではあるんですけど、だからこそどうすればそのまま偽らずに自分の気持ちを伝えられるかなと、すごく考えて苦労した曲です。
――よりピュアな部分を書くからこそ、難しかったと。では、逆にアグレッシブでむき出しの怒りが出ている「ソノサキニアルモノ」の歌詞は捗ったのでは?
SERINA:そうなんです。感情に任せて書けたので、「劣等星」に比べると、思っていることをそのまま書きなぐったような感じですね。それが曲調にも出ていると思います。ライブでは音源よりももっと感情的に歌っているので、後で録音を聴いてびっくりするぐらいがなっていることも。一方で、「劣等星」の歌録りは大変でした。歌詞の中で動いている感情を上手く表現できるのかすごく悩んで、本当に歌い終わりの一瞬の部分を何度も録り直したりしました。他のスピード感のある曲とは違って、勢いで歌える曲ではないので難しかったです。どうしても自分の中で思い描いているイメージが明確にあったので、何度も録り直して録り直して……。一番、しんどかったですね。
山口メイ子(Ba/Cho) 撮影=日吉”JP”純平
――メイ子さんとハルキさんは、個人的に難しかった楽曲をあえて挙げるとするならどの楽曲ですか?
メイ子:私は「サテライト・サーチライト」ですね。ベースのフレーズから入る曲というのは今までで初めてで、しかもフレーズがそもそも難しい楽曲だったので苦労しました。MVも最初に撮ったので、特に思い入れがある曲になりました。
ハルキ:私は、全部と言えば全部なんですけど……。私はプラスしていくよりマイナスしていく方が難しくて、手数にしろ、どれだけシンプルにセリちゃんが出したいものを出せるかをずっと考えているんです。なので、「Lの質疑」とか「ballOOn」は、私が入る前からあった曲なので、そこからどうやって自分の気持ちだったり、やりたいことをブレンドできるかのプラスの作業だったのですんなりとできました。だけど、「ナイトエスケープ」とか「劣等星」、「フォレストネスト」は、私が入ってからできた楽曲なので、技術的に難しいというよりも、どうやって3人で混ざり合いながら音楽がグッと混ざり合うかをまとめたりぶつけあったり、イチから作っていくのが難しかったですね。
――ゼロからイチにする作業が、難しかったと。
ハルキ:二人は前から一緒にやっていたけど、私は途中から急にバッて入ってますからね。そこで息を合わせたりだとか、気持ちを共有させるまでにどうしても時間がかかってしまって難しかったです。でも、3人でとことん話し合いながらできたからこそ、乗り越えられました。突き詰めたい気持ちは今もあるので、レコーディングした後もずっと突き詰めていてライブで観たら音源とは全く違うところもあると思います。作った時の心境にプラスされている感情も沢山あるし、あとは理解が深まった部分も沢山あるし、メンバー同士が、RickRack時代よりも曲に対しての理解が深まっているというのもある。そういう意味では、肉付けされたり減ったりを繰り返しながら、曲がどんどん成長して生きているなと思います。そういう曲が、聴く人に対して伝わって欲しいし、寄り添えたらいいなと。ちょっとでも救われる人がいたらいいなという想いでやっています
SERINA:正に、私は歌詞を書くことで、曲を聴いてもらった時に自分と同じような心境の人が少しでも救われたらいいなと思っていて。というのも、私自身があんまり私のことを好きじゃないというか、むしろ嫌いだからそんな風に思っているところがあります。実は、「Lの質疑」という曲は、私が高校生の頃に学校内で自殺した子がいて、その子を想って書いた曲なんですけど、そういった人たちが「Lの質疑」を聴いて、少しでも救われてくれたらなと思って作りました。
――どの曲よりも投げかけている感というか、訴えかけている強い想いが「Lの質疑」に感じたのは、そういった経緯があったのですね。
SERINA:だからこそ、それぞれ聴く人が、それぞれの環境とか状況、心境に当てはめて聴いてもらえるように、どの曲もあまり自分が今まで経験したこととかを全部具体的な言葉を書かないように、抽象的な言葉を使って書いています。
FERN PLANET 撮影=日吉"JP"純平
――そうしてできた楽曲がリリースを迎え、より多くの人に聴いてもらえるということは感慨深いですね。なにより、2月からスタートするツアーでは、直に楽曲が届けられることに。
SERINA:やっと聴いてもらえるなって、嬉しい気持ちでいっぱいです。
メイ子:今まではELFiNになってからの音源が無くて、毎回来ていただいたお客さんが、だいたい初めて聴くということが多かったんです。なので、どうすれば伝わるかがとても難しかったんですけど、やっと歌詞を見て音源を聴いた上でライブを観てもらえるのが楽しみです。
ハルキ:やっと等身大のこの3人で作った音源を、聴いてライブに来てもらえると思うと本当に嬉しいですね。リリースツアーが中国四国で決まっていて、ほとんど初めて行く地域なので、その地域の人たちと面と向かって歌えるし伝え合えるのが凄く楽しみです。CDも聴いてほしいとは思いますけど、そこが入口になって、面と向かい合えるライブに行きたいと思ってもらえたらと思います。
――ファイナルシリーズでは、東名阪でライブが。その頃にはよりパワーアップして、音源より楽曲も成長しているのかと思うと楽しみですね。
ハルキ:すごく成長してると思います!
SERINA:いい意味で、CDとは全然違うライブができると思うので楽しみに来てもらえたらと思います!
取材・文=大西健斗 撮影=日吉“JP”純平
撮影協力=CAFE 太陽ノ塔NAMBACITY店