人間国宝をはじめ芝翫ら古典芸能のスターが勢揃い、豪華祭典『NHK古典芸能鑑賞会』をEテレで

2017.12.15
コラム
舞台

歌舞伎『平家女護島 俊寛』で、俊寛を演じる中村芝翫。ホールに回り舞台がないので、岩場は人力で動かしたようだ


1975年から毎年1回開催されている『NHK古典芸能鑑賞会』は、人間国宝をはじめ、古典芸能の各分野を代表する出演者がNHKホールに集い圧巻の舞台を披露。今年は、第一部で「月」にまつわる能・琉球舞踊・文楽・長唄を、第二部は近松門左衛門の名作から歌舞伎『平家女護島 俊寛』を上演した。

他では見られないこの豪華祭典の模様が、12月16日のEテレで3時間にわたって一挙放送! 石田ひかりと秋鹿真人アナウンサーの案内で届けられる。

まず、能の『融(とおる)』を舞囃子で。人間国宝の大槻文藏が源融(みなもとのとおる)の霊に扮し、荒れ果てた元屋敷で月の光に照らされながら懐旧の舞を披露する。生前風雅な貴公子だった融は、『源氏物語』の主人公・光源氏のモデルといわれる。舞囃子は、シテが面や装束をつけず、紋付き袴でお囃子や地謡を伴ってハイライトシーンを舞うダイジェスト形式の演能。人間国宝の大倉源次郎の小鼓や、亀井忠雄の大鼓にも耳を傾けて。

舞囃子『融』を舞う、大槻文藏(中央)

琉球舞踊でも人間国宝の至芸を堪能できる。宮城能鳳(みやぎ・のうほう)が、歌三線の城間徳太郎(しろま・とくたろう)らの音楽とともに演じる『諸屯(しゅどぅん)』は、古典舞踊を代表する女踊りの最高峰とされる。琉球王朝時代に中国からの使者を歓待する宴席で踊られていた。冬の月夜にもの思う女を、わずかな振りやしぐさなどで表現する。恋する女のやるせなさやわびしさが、じんと伝わる奥深さ。視線を上から下、左上、右上へと動かす「三角目付(さんかくみじち)」と呼ばれる表現にもご注目。

文楽の『関寺小町(せきでらこまち)』は、美しい歌人だった小野小町の老後もの。御年百歳の小町が、寂しい寺で若かりし日をしのぶ。同類の話は、能や歌舞伎などでもおなじみだが、豊竹呂勢太夫(とよたけ・ろせたゆう)の浄瑠璃、人間国宝の鶴澤清治の三味線などに合わせて踊る人形のしぐさを見るにつけ、この世の移ろいを思いやる・・・。

長唄の『二人椀久(ににんわんきゅう)』は、大阪の堺筋に実在した豪商、椀屋久右衛門の実話をもとに生まれた「椀久もの」のひとつ。傾城・松山に惚れてさんざん入れ揚げるが思いは実らず、心を病んで亡くなった椀久の悲恋を幻想的にうたい描く。「長唄東音会」会長の東音味見亨(とうおん・あじみとおる)、人間国宝の唄方・東音宮田哲男、長唄囃子の堅田喜三久(かただ・きさく)らが、東音会を中心とする面々と演奏。創立60年を迎えた東音会は家元にかわる組織で、東京藝術大学の教師や卒業生からなり、人名の頭に「東音」がつく。

長唄『二人椀久』

そして、この日のクライマックス、歌舞伎『平家女護島 俊寛』は、壮絶なストーリー。

平家討伐の陰謀が露見して、鬼界ケ島に流された俊寛(中村芝翫)と流人仲間の成経(中村橋之助)、康頼(市村橘太郎)に赦免が下る。しかし、成経の新妻である海女の千鳥(中村児太郎)は赦免船に乗せられないと役人に言われる。俊寛は、役人の瀬尾(板東彌十郎)をわざと殺め、自分の代わりに千鳥を乗船させ、遠ざかる船を見送るのだ。

人間国宝の中村東蔵が演じる白塗りの役人・丹左衛門は善人、顔を赤く塗った「赤ッ面」の瀬尾は悪役人など、伝統の化粧の他に、出で立ちにも特徴がみられる。瀬尾や丹左衛門の右袖は折りたたんで背中に差し込まれ、左袖は凧のようにピンと張られている。現代人には奇異で滑稽に見えるが、正式な使者を示す姿である。

エンディングで、孤島の砂浜が大海原に転換する大がかりな仕掛けも見応えたっぷり。ホール下手に作られた花道に浪布(なみぬの)がするすると延び、赦免船を見送る岩場が舞台中央に移動し、砂浜にもあっという間に浪布が敷き詰められて、一面大海原に。

昨年八代目を襲名した芝翫が、長男の橋之助と共演。絶海の孤島でたった一人、遠ざかる船を見送る俊寛をどう演じたかは、放送を見てのお楽しみ。

文=原納暢子

番組情報
第44回NHK古典芸能鑑賞会 「能・琉球舞踊・文楽・長唄・ 歌舞伎」
 
■日時:12月16日土曜 NHKEテレ 午後2時00分~ 午後5時00分
■出演:大槻文藏、大倉源次郎、亀井忠雄、宮城能鳳、城間徳太郎、鶴澤清治、吉田和生、東音宮田哲男、東音皆川健、東音味見亨、堅田喜三久、中村芝翫、中村東蔵ほか【ご案内】石田ひかり、秋鹿真人アナウンサー
■演目:
「舞囃子“融”」(17分15秒)
(シテ)大槻文藏、(地謡)観世銕之丞、(地謡)柴田稔、(地謡)武富康之、(地謡)大槻裕一、(笛)藤田六郎兵衛、(小鼓)大倉源次郎、(大鼓)亀井忠雄、(太鼓)林雄一郎
 
「琉球舞踊“諸屯”」(15分00秒)
(立方)宮城能鳳、(歌・三線)城間徳太郎、(歌・三線)喜瀬学、(歌・三線)宇栄原宗勝、(箏)城間安子、(笛)知念久光、(胡弓)新城清弘
 
「文楽“関寺小町”」(14分53秒)
(浄瑠璃)豊竹呂勢太夫、(三味線)鶴澤清治、(ツレ(三味線))鶴澤藤蔵、(人形)吉田和生、(人形)吉田文昇、(人形)吉田和馬、(人形)吉田和登、(笛)藤舎名生、(小鼓)藤舎呂船
 
「長唄“二人椀久”」(22分24秒)
(唄)東音 宮田哲男、(唄)東音 皆川健、(唄)東音 村治利光、(唄)東音 味見純、(唄)東音 鈴木崇晃、(三味線)東音 味見亨、(三味線)東音 高橋武久、(三味線)東音 赤星喜康、(三味線)東音 高橋智久、(三味線)東音 宮田由多加、(笛)中川 善雄、(小鼓)堅田 喜三久、(小鼓)堅田 新十郎、(小鼓)梅屋 喜三郎、(大鼓)望月 太津之
 
「歌舞伎“平家女護島 俊寛”」(1時間22分14秒)
近松門左衛門:作
俊寛僧都…中村 芝翫、丹左衛門尉基康…中村 東蔵、瀬尾太郎兼康…坂東 彌十郎、平判官康頼…市村 橘太郎、海女千鳥…中村 児太郎、丹波少将成経…中村 橋之助、瀬尾の供侍…中村 吉三郎、瀬尾の供侍…中村 吉五郎、瀬尾の供侍…片岡 仁三郎、瀬尾の供侍…澤村 國矢、丹左衛門の供侍…中村 橋吾、丹左衛門の供侍…中村 吉兵衛、丹左衛門の供侍…片岡 孝志、丹左衛門の供侍…中村 東三郎、(浄瑠璃(義太夫))竹本 東太夫、(三味線(義太夫))豊澤 長一郎、(三味線)杵屋 栄十郎、(囃子)田中 長十郎

 
~すべて、東京のNHKホールで収録~
 
■公式サイト:http://www4.nhk.or.jp/P4246/
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