純愛劇『シラノ・ド・ベルジュラック』に挑む吉田鋼太郎を直撃インタビュー
-
ポスト -
シェア - 送る
吉田鋼太郎 (撮影:荒川潤)
17世紀のフランスに実在した剣豪にして詩人のシラノ・ド・ベルジュラックを主人公にした、エドモン・ロスタンによる戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』。映画版、ミュージカル版などさまざまな形で、世界各国で今も語り継がれているこの名作を、2018年5月、吉田鋼太郎主演のストレート・プレイとして上演することになった。これまで数々のシェイクスピア作品のタイトルロールを演じてきた吉田だが、フランス発の純愛モノである今作には満を持しての初挑戦となる。チラシやポスターなどに使用するためのヴィジュアル撮影を終えたばかりの吉田を直撃し、作品への想いや意気込みを訊いた。
――今回、こうして初めて『シラノ・ド・ベルジュラック』に取り組むにあたり、作品への思い入れとしてはどのようなものがありますか。
『シラノ~』は古典の名作なので一度はやってみたいなという気持ちがあったんです。でもこんなに早くやることになるとは思っていなかったですね。だからそういう意味では、意外と思いがけない感じがあります。まだあまり、心の準備ができていない状態です。
――では、今日、この衣裳をつけたことで。
ほんのちょっとだけですけどね、近づいたかなって気がします。
――一度はやってみたいと思われたのは、『シラノ~』にどんな魅力を感じたからですか。
そうですね、やはり哀しい話だというところ。だって好きな人に自分で好きと言わずに、人の言葉として伝えるなんてなかなかない設定ですし、すごく哀れな話です。だけど<シラノ>というのは、本当に哀しくて素敵な人ですよね。俳優だったら、みんな一度は演じてみたいと思うキャラクターなのではないかな。僕はシェイクスピア劇の時には、すごく強い人を演じることが多いのですが、今回はそれとはまったく違う面を出さなければいけないわけなので、その点は挑戦だなと思っています。
――<シラノ>役を演じるとなると、詩を朗読したり、手紙を読んだりすることで、舞台上から“言葉”を繊細に確実に伝えることが必要になってきますが。
そこは、わりと専門分野なので(笑)、ぜひ自分の特技を活かしていきたいと思っています。なにしろ僕は18歳からシェイクスピアをやってきましたから。シェイクスピアに出てくる言葉は基本的に、現代人には難しくて伝わりにくくて、それを一生懸命伝えよう伝えようとしてきた40年でしたからね。
――<シラノ>というキャラクターは、立場とかは全然違うんですけれども、吉田さんが演じていた『花子とアン』の伝助さんの面影が少しだけよぎるような気もしました。
ああ~、そうですねえ。今、言われて、初めてなるほどと思いました。ちょっと、ですけどね(笑)。確かに、そういう役まわりの人かもしれませんね。
―― 一途なところとか、男の人ならではの優しさとか弱さとか。伝助ファンが、<シラノ>の姿にキュンとするかもしれません(笑)。
ハハハ、キュンとしていただければ、それにこしたことはないです(笑)。
――そういう純愛の物語を、この今の時代に上演することに関しては。
今、純愛という言葉を聞いて、逆にそういう言葉もあったなーって思うくらいですからね。最近では、純愛なんて昔の物語の中の世界にしか起きないことのような気さえします。
――特に、現代ものではめったにないかもしれないですね。
今や、お芝居を観ることでやっと出会える感情なのかもしれない。この間、ある学者さんが「お芝居を観ると脳が活性化する」とおっしゃっていたんですよ。観ながら、いろいろなことを考えますからね。もう、最近は普段の生活では、ものを考えること自体が少なくなっていますね。なんでもインターネットで調べればすぐわかっちゃうし、人としゃべることも少なくなって、みんないつもスマホとばかり向き合っていますからね。だけどお芝居を観る時には、その2時間なら2時間、3時間なら3時間、ずっと舞台で起きていることを見つめながら自分の頭でこれはどういうことになっているんだろうかとか、今、この人はどういう気持ちでその言葉を発しているのかということも考えて、最終的に感動したり、ああ、つまらなかったねと思ったりするわけです。だから、お芝居を観ることはとても脳にいいんだそうです。ましてやこういう純愛モノとなれば、みなさんさらにいろいろなことを考えるでしょうから、とてもいいんじゃないでしょうか(笑)。
――そうですね、脳活にもいいかもしれません(笑)。そして、鈴木裕美さんの演出を受けるのは、久しぶりですよね。『奇跡の人』(2000年、2003年)以来ですか。
そう、だから15年ぶりになるのかな。僕は裕美の演出が大好きで、『奇跡の人』の時から信頼を置いていますので、ずっと一緒にやりたかったんですね。でもなかなか機会がなくて。今回やっと一緒にやれるので、非常にワクワクしております。
――鈴木さんの演出の、どういうところがお好きなんですか。
俳優にとっては良し悪しかもしれないんですけど、細かいんですよ。ほんっとに細かい(笑)。そこまでダメ出しするか?みたいな。だって、2時間くらいかけてダメ出しをするんですよ。ただ、それは全部必要なことなんですけどね。つまり、それだけダメ出しをするということは、それだけ芝居を大事にしているということだし、いいものを作りたいという熱意の表れでもある。発想もとても豊かですし、俳優としては非常に信頼できる演出家です。今回、この『シラノ~』という古典作品を現代に蘇らせることができる演出家は誰かなって考えた時に、裕美が思い当たったんです。古典のテイストもきっちり大事にしながら、新しい風を吹かせてくれそうな気がしています。
――吉田さんのご指名だったんですか。
そうなんです。この間も、ちょっと飲みながら「どういう感じになるの?」って聞いたんですが、なんだかものすごいことを考えているみたいでした。今はまだ言えないですけれども(笑)。どうやら、僕がものすごく大変になるような演出を考えていらっしゃるようで。
――そうなんですか! それは楽しみです。
「えっ、やめてくれよ、そんなこと!」って言ったくらいなんですけどね(笑)。
――そして<ロクサーヌ>役は黒木瞳さんです。
はい。僕が、黒木さんとご一緒できたらいいなと思っていたので。
――では、こちらもご指名なんですね。
そうなんですよ。年齢的には<ロクサーヌ>ってもう少し若い設定なんですが、黒木さんならきっと全然そんなことは関係なくおやりになれる力を持っている女優さんではないかと。実際、本当にお綺麗ですし<ロクサーヌ>にはピッタリだと思います。一度テレビで共演させていただいたことがあったのですが、黒木さんてご自分の意見をはっきりおっしゃる方なので一歩間違うとちょっと険悪なムードになるのではないかと思っていたら、全然そんなことはありませんでした。ものすごく意気投合して、大の仲良しになっちゃった。だから僕にとっては、願ったり叶ったりの<ロクサーヌ>なんです。
――また<クリスチャン>役には、大野拓朗さん、白洲迅さんという若い二人がダブルキャストで挑みます。
どちらとも、これが初共演です。飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らのパワー、エネルギーをぜひ吸収させていただきたいなと思っています。
――演劇をご覧になるお客様は圧倒的に女性が多いように思いますが、この作品は男性のお客様にもすごく響くと思うんですよね。以前、泣きに泣かれている男の方を客席で見かけたことがあって。
ええ、そう思いますね。僕もわかる、わかる。たぶん、<シラノ>と同じような境遇の方がたくさんいるんでしょう。ぜひ、男の人にも観ていただきたいです。大いに、泣きに来てほしいな(笑)。意外と僕、男の人のファンが多いんですよ。なんとなく吉田が気になるなって人は、男性も女性も揃ってみなさん、劇場に足を運んでほしいですね!
取材・文=田中里津子 写真撮影=荒川潤
■会場:日生劇場
■上演台本:マキノノゾミ 鈴木哲也
■演出:鈴木裕美
■音楽:清塚信也
■主催:東宝 ホリプロ
シラノ・ド・ベルジュラック:吉田鋼太郎
ロクサーヌ:黒木 瞳
クリスチャン(Wキャスト):大野拓朗/白洲 迅
ラグノー:石川 禅
ド・ギッシュ伯爵:六角精児
他