『DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』来るべきノスタルジーと電子音楽の夢 田中宏和・古代祐三・川島基宏インタビュー

2017.12.27
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子供の頃に最初に触れる音楽はどんなものだろうか?

それが親のよく聞くポップスだという人もいるだろうし、クラシックが流れている環境で育った人もいるだろう。生きてきた環境でその人の音楽との出会いは変わるものだと思うし、その最初の出会いがその後の音楽との付き合い方をも変えていく。

そして、80年台以降、確実にその出会いの選択肢の一つとして存在しているのが、ビデオゲームだと思う。

80~90年台にかけて飛躍的に進化したゲームミュージックは、ビデオゲームの効果音という立場から作品を彩る音楽としての素養を急速に獲得し、ゲームプレイの枠を超えてリスニングに耐えうるジャンルとしての地位を獲得した。

写真左より川島基宏氏・古代祐三氏・田中宏和氏(Chip Tanaka)

RED BULL MUSIC ACADEMYによる映像作品『DIGGIN’ IN THE CARTS』は、そんな日本のゲーム音楽の歴史とその魅力を探ねる、全6話のドキュメンタリーシリーズである。今回2017年11月17日に恵比寿LIQUIDROOMで開催されたレッドブル・ミュージック・フェスティバル東京2017『DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』は、「バルーンファイト」「ドクターマリオ」「スーパーマリオランド」などの名曲や、TVアニメ『ポケットモンスター』の主題歌「めざせポケモンマスター」の作曲者であるChip Tanakaこと田中宏和氏、『イース』『ベア・ナックル』『世界樹の迷宮』シリーズなどを手がける古代祐三氏と川島基宏氏も出演。レジェンドたちとその音楽に影響を受けたクリエイターたちの共演となった。開演前に3人に開催についてコメントをもらった時は


古代:実はすでに一回川島さんとロスアンゼルスに行ってきまして、そこで第一回目のライブをやっているんです、それが非常に上手くいったなという感じで、すごい私たちも嬉しかったんですけど、その流れのまんま母国である日本の東京で同じようにお客さんを盛り上がらせることが出来れば、それは非常に楽しみだなと。

川島:ゲームミュージックとして作ったものが、こうしてクラブでプレイ出来るっていうのは、クラブミュージックに憧れて作ってたんで本当に嬉しいです。どこまでクラブミュージックになるのかは分かりませんが、かなりアグレッシブにアレンジしていますんで、聞いていただきたいなと。

Tanaka:僕としては爆音で自分の音楽が流せる事が嬉しいのが一つと、約10年間にわたり都内のクラブでやって来た音源をまとめたソロアルバム「Django」を2日前に出したんですが、そういう曲をやったり、あとは密かに昔のゲームの音をちょっと混ぜてやったり(笑)。


と語ってくれた。筆者が思うクラブの面白さというのは、やはり大音量で音楽を楽しむということ、友達と一緒でも一人でもそれぞれの楽しみ方が出来る自由な空間であるということ、音と光に包まれるという多幸感などがある。これはまさにゲームに通じる物があると思っていて、初めて爆音で周りの声が聞こえないという体験をしたのは、小さい頃父親に連れられたゲームセンターだった。


田中宏和氏

Tanaka:これどこでも言ってるんですけど、僕が任天堂に入った当時は、「ゲーム音楽」って言う言葉そのものがなかったんですよ。僕は音楽じゃなくピコピコとかバーン!とか、コンデンサーとか抵抗を組み合わせてハードウェアで効果音を作るのが仕事でした。で、その後はCPUのポートを直接上げ下げして矩形波を出すようになりました、それも1音とか2音しか同時に出せなかった時代です。


と田中氏が語ってくれたように、今でもゲームの音と言うと「ピコピコ」という表現が用いられる、そこから音楽に昇華して行き、今はクラブミュージックとしても、クラシックの演奏会としてもゲームミュージックが流れている。それについては


古代:それは幸運にもやはりファミコンとかのコンシューマーゲーム。それが世界に対して当時すごく発信力を持っていたと思うんですよ。ハードが一千万台、二千万台普及して、それだけ普及すれば聞く人もたくさんいらっしゃるわけで、そこのプラットフォームの上で自分の好きな曲を流せられたっていうのが、分かって貰えたんだなっていうのがありますね。特にベアナックルは、まさにその海外のシーンを意識して作った曲の一つなんです。それが近年になって評価を得られているわけで、当時ちゃんと聞けるものを作りたいって気持ちをこめた事がちゃんと伝わったんだっていうのがすごく嬉しいですね。

川島基宏氏

川島:ちょうど90年代の音楽って、例えば海外の物であればすごく低音が重視されてたんですよ。あの低音に僕ら日本人がものすごく憧れてた部分があって。僕が最初古代さんと出会ったときに、古代さんの音楽ってゲームミュージックなのにものすごく低音が出てたんです。存在感がものすごくあって、すごいなと思って。その頃僕ゲームはほとんどやってなかったんですけど。で、僕が考えてた音楽の一つの形っていうのと古代さんの持ってるものがすごく一致したんですね。それがベアナックルに繋がっていったと思うんですけど、最近のゲームミュージックって、リスナーがヘッドホンで聞くようになってるんで、低音を強く聞かせたところで飽きてしまうっていうところで、もっとこう上のほうの音を聞かせたいとか、そういう風に変化してるような気がするんですね。でも今またベアナックル聞きたい人がいるというのは、低音を聞きたい人が出てきたってことなんじゃないかなと。音楽ってそうやって繰り返してると思うんですよ。

Tanaka:例えば昔は音楽ってスピーカーで聞くのが普通だったんです。でも最近はね、ほとんどパソコンで聞くとかイヤホンで聞くことが多いでしょ。その中で矩形波の音色って本当にカレーの中の福神漬けみたいな役割っていうか(笑)、聞こえやすかったり目立ちやすい気がするんですよ。どんどん音源が多彩になって幅広い表現が可能になってきた中で、意外に矩形波の元々歪んだ音、あれが重宝されるようになったのはそういう時代の音響環境の変化にもマッチしてたんじゃないかなって思ったり、10年前くらい前のエレクトロの流れとかみるとそれはすごい感じるよね。昔はサンプラーが少しでも本物の音に近づけようと頑張ってきたわけじゃないですか、8ビットが16ビットになって、そこから32とかね。でもそのリアル志向が行き着いたとき、ファイファイ、ローファイ関係なく面白がられるのも、なんかそういう時代の流れを感じるよね。物事ってこう、一直線上には変化せえへんわけで、絶対行ったり来たりするわけです。それを感じながら演れるが面白いですね。昔からクラブ、ライブハウスはあったけど、だいぶ変わってきてるし、昔よりもお客さんを楽しませようっていう気持ちが強い出演者が多いと感じる。なるべくノリの流れを途絶えないようにとかさ、昔はもっと独りよがりと言うか、自分勝手な演者が多かったと思うんですよ、それはそれでよかったわけですけど、なんかそうじゃないクラブ的な流れに自分を持っていくことを今は楽しんでます。


レジェンドと言われる三人の話を聞いているとなんとなく音楽というものの歴史の変遷も辿れるようで興味深い。さてイベントは盛況、会場は外人の数も多く、いわゆるビデオゲーム・ギークのようなユーザーも、クラバーと思われる人も、異文化交流の用にフロアに渦巻いていた。

Chip Tanakaは、ムーンライダースの鈴木慶一と音楽を手がけた『MOTHER』をフロアにドロップ。瞬間で心は初めてあの赤いカセットを手にした当時に舞い戻る。自身の曲を展開しつつ「昔に作った曲です」と言いなが『ドクターマリオ』の曲なども展開。まさにゲームミュージックとクラブミュージックを橋渡ししつつ空間を支配していった。サブカルチャーに重きをおいているわけでもなく、ディープなクラブ空間というわけでもない不思議な世界。どこか異世界のような、悪いことをしているような後ろめたさ、そしてそれ以上のワクワク感。そうだ、これは僕たちが初めてビデオゲームに触れたゲームセンターと同じじゃないか。

古代祐三川島基宏がライブとしてメガドライブの名作、様々なアーティストが影響を受けたという『ベア・ナックル』の曲をドロップする。VJもゲームの映像を巧みに使いながら光でフロアを埋め尽くしていく。誰もが喜び、体を揺らしている。

二階では『あそぶ!ゲーム展 presentsゲーム音楽のパイオニアたち』の展示も行われ、ゲーム音楽の成り立ちや、各ゲーム会社の音作りの基礎、同じゲームの曲(アウトラン)での音源の違いによる聴こえ方の違いなど、興味深い内容でユーザーを飽きさせない。

KEN ISHIIは90'sオンリーのDJセットで当時のファンを唸らせるなど、それとなく20数年前を思わせるカルチャーがそこかしこに散りばめられていた。

何故こんなにゲームミュージックに惹かれるのか、それは何よりも長時間プレイし続ける傍らに常にその音楽があり続けてくれたということ。1音聞いただけで当時のプレイの思い出や時代が自分にプレイバックされていく感覚、鼓膜から脳に伝わるタイムマシンのようなものなんじゃないかと、筆者は思う。

それは同時多感な時期を生きてきたキッズにとって、ノスタルジーであるのと同時に青春の残光なのかもしれない。筆者のような30~40歳くらいの人間からしたら、80年台はバブル期の大人に対するあこがれであって、90年台はただ眩しい時代なのだ。そのタイミングでカルチャーとして羽ばたいていったゲームミュージックは、光も陰も内包している。

インタビューの最後に、これからゲームミュージックを作りたいという若い人にアドバイスを、と聞いてみた。


古代:もし自分の子供にそういう風に言われたらなんて言うかなっていう感じで考えてみると、今は子供たちってyoutubeをすごく見るんですよ。で、youtubeって自分の好きなものを検索して見るっていうのが基本のスタイルなので、すごく情報が偏ると私は思ってるんです。でも自分が刺激を受けてきた音楽っていうのは自分が選んだものではなくて、例えばラジオで流れていたりとか街中で聞いたりとか、それでいいなって思ったのをこれは誰だろうと思って調べるところから広がってるんですよね。ゲームっていってもいろんなシーンやタイプがあるんで、ゲームミュージックを作るのって結構要求される頃が多いんですよ。普通の音楽のアーティストとしてやっていくんでしたら、自分のアーティスト性を磨いていけばいいんですけど、ゲームミュージックって職業作曲的なところの能力ってすごい問われるんで、もしやっていきたいって思うんなら、自分で検索して選ぶもの意外の色んな物が存在しているって事をまずよく認識してもらって、積極的にそういうのを探していく、逆に自分に興味なかったものにきっといい物があるだろうみたいな、そういう感覚が合った方がゲームミュージックの職業としてはやっていきやすいんじゃないかなと。

古代祐三氏

川島:僕らがベアアックルを作った時っていうのは、やっぱり今鳴ってるゲームミュージックの中に無いような音を作りたかったっていうのがあって、そこのこだわりっていうのはかなりあったように思いますね。今これだけ情報があると、何かに似たようなものになってしまうんだけども、でもそのどれでも無いものをやっぱり自分なりに見つけ出して、より自由にやってほしいですね。僕もどうしても改めて音楽を聴くと、なんかやっぱりつまんないなっていう感じがしてしまうんです。より自由な音楽の在り方って、ゲームの中なら表現しやすいと思うし、VRなんかも出てきて、視点の持ち方がもっと多様化していくと思うんですけど、そういう中でやっぱり今の既成の音楽に無いようなもの、それを探して欲しいなっていう風に思います。

Tanaka:俺は厳しい事言うんですけど、特に僕がやってきた時代と今とはあまりにも環境が違うと思うんですよ。当時はなかった携帯やスマホが出来たりとかさ。だから簡単にアドバイスできないので、それは「あなた自身」が自分の頭で考える以外にないと思う。なんですが、それでもあえて言うとすると、それは「ゲーム以外の経験をたくさんしなさい」って事ですかね。本来的に仕事は長期にわたる他人との共同作業がメインになるから。


と語ってくれた、未知のものに対する好奇心と探究心。それを持ち続けたクリエイターたちが新しいゲームとゲームミュージックを作った時、新しい音楽が生まれるのかもしれない。そのときにもしまた『DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』が開催されたら、2000年台のキッズが世紀末を懐かしく思うことがあるのだろうか?そうあってほしいと熱気高まるフロアの端っこで、思いを馳せた。

インタビュー・文:加東岳史 
撮影:山本れお/(c)Keisuke Kato / Red Bull Content Pool/(c)Suguru Saito / Red Bull Content Pool

イベント情報
DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭

日 時:2017年11月17日(金)開場19:00/開演19:30〜【終了】
場 所:LIQUIDROOM(恵比寿)
出 演:Kode9 x Koji Morimoto AV, Chip Tanaka, Ken Ishii Presents Neo-Tokyo Techno (’90's Techno Set) Visuals by MMM, OSAMU SATO Presents LSD REVAMPED(LIVE) & SPECIAL VJ: TEAM LSD, Quarta 330, Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima Visuals by Konx-Om-Pax, Carpainter (Live Set / TREKKIE TRAX), hally Presents HALLY COLLECTIVES (hally, Saitone, ヨナオケイシ, 細井聡司, 三宅優, 杉山圭一,Rolling Uchizawa), GONNO presents beyond the chip sounds (Special DJ SET)
展 示:あそぶ!ゲーム展 presents ゲーム音楽のパイオニアた

 

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