SHISHAMO 秋ツアー・セミファイナルにみた、着実に歩みを進める3人の現在地
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SHISHAMO 撮影=岡田貴之
SHISHAMO ワンマンツアー2017秋
「奇跡なんて起きないと言ったあの娘も、いつか誰かととびきりロマンチックな恋をする」
2017.12.8 Zepp Tokyo
鳴らされる一音一音に、歌われる言葉の一つひとつに、心躍らせたり、歓喜したり、ときに切なくなったり。会場内には濃密な感情が渦巻き、バンドと観客とは歌の世界を深く共有していた。秋ツアー、セミ・ファイナルのZepp Tokyo。SEに乗って、宮崎朝子(Gt&Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)が登場して定位置についてライブは始まった。オープニング・ナンバーはまだ音源化されていない新曲。みずみずしい歌声と麗しいハーモニーと躍動感あふれるリズムが魅力的なナンバーだ。恋の予感がモチーフとなっていて、歌詞のフレーズとツアー・タイトルの一部が共通している。おそらくこの新曲と「ほら、笑ってる」の2曲がツアーのテーマ曲的な位置付けということになるのだろう。恋の予感が漂うこの曲は期待感が一気に高まっていくライブの始まりにぴったりだ。
宮崎朝子
「僕に彼女ができたんだ」のイントロのソリッドなギターのリフが始まると、大きな歓声が起こり、観客がハンドクラップで参加していく。恋の予感からいきなり恋の成就へ。そんな急転直下の展開とダイナミックなバンド・サウンドがシンクロしていくかのようだ。会場内の熱気と一体感がすさまじい。「量産型彼氏」で宮崎が歌っている途中でマイクスタンドから数歩離れると、観客が歌の続きを引き継いでいく。コール&レスポンスではなくて、コールしなくてもレスポンス。観客との阿吽の呼吸の連携が生まれている。
松岡彩
吉川美冴貴
1曲1曲の演奏に観客が熱烈に反応している。それも年齢問わず、男女問わず、マニア度やライブ経験も問わず。こうした間口の広さはSHISHAMOならではだ。宮崎がMCで「高校生!」「専門学生!」「大学生!」「大人!」「小学生から下!」と客層を調査する場面で、「中学生男子!」と聞くと、「イエ~イ!」ではなくて、「ハイ! ハイ!」とまるで授業中に手を上げるかのように男子が反応していたのが微笑ましかった。初めてライブに来た観客もたくさんいそうだが、どんな層でもすぐ歌の中に入り込んでいけるライブを展開しているところが素晴らしい。と同時に、音楽ファンを魅了するバンドサウンドにもさらに磨きがかかっていた。切れ味が良くて、メリハリが効いている。安定感もあるのだが、ライブならではの臨場感やスリルや情熱も兼ね備えていて、エモーションがほとばしる瞬間もある。きっちりまとめるところとはみ出していくところのバランスが絶妙だ。骨太なベースで始まり、バンド・サウンドが全開となったのは「BYE BYE」。クールなのに憂いも帯びていて、後半に行くほどにせつなさが増していく。どんな曲でも歌心という軸はブレない。
宮崎朝子
「今日はいろんな曲をやれたらいいなと思っています」という宮崎のMCどおり、新旧、様々なタイプのナンバーが演奏された。赤いライトが照らされる中で演奏されたのはラテン・テイスト漂う「熱帯夜」。幻想的でムーディーなナンバーなのだが、感情の入り方がさらにディープになっていた。中盤は「旅がえり」、「さよならの季節」など、喪失感や孤独感を抱えながら、ひたむきに生きている主人公の歌が並ぶ展開。SHISHAMOの演奏が特別な光を放っているのは、歌の主人公としっかり寄り添って歌い、奏でているからだろう。技術面でも心情面でも3人は息の合ったプレイを展開していたし、シンガーとしての宮崎の非凡さも際立っていた。映画の世界に例えるならば、優れた脚本家であると同時に優れた俳優でもあるのに近いかもしれない。歌の主人公たちに血肉をかよわせて、その思いを解き放っていくようなステージだ。
宮崎朝子
最新シングル曲も披露された。まずは映画『ミックス』の挿入歌になっている「サボテン」から。疾走感あふれる演奏なのだが、聴き手にエールを贈るような温かなパワーに満ちあふれている。フィニッシュの瞬間に大歓声とヒュー!という口笛。そのまま宮崎の弾き語りでの始まりで「ほら、笑ってる」へ。3人の繊細なハーモニーが染みてくる。グッと来る歌と演奏。歌が感情を乗せて運んでいく乗り物のようなものであるとするならば、感情の搭載量はさらに増大している。同一の主人公が2曲続けて演奏される構成は組曲的でもあった。この2曲だけでなく、この日のライブから恋にまつわる群像劇的なストーリーを読み取ることもできそうだ。
宮崎朝子
終盤は一気の展開だった。「生きるガール」「好き好き!」「タオル」「魔法のように」「君と夏フェス」など。「タオル」で赤と白のタオルが回る光景はもはやSHISHAMOのライブの定番の風景なのだが、様々な世代がいっせいにタオルを回す景色は壮観だった。本編ラストの「明日も」もライブを重ねる中で育ってきた曲だ。この曲の<月火水木金働いた/月火水木金学校へ>といった歌詞は、セミファイナルの行われた金曜の夜にもふさわしかった。この日、歌われたすべての歌の主人公たちと観客にエールを贈る歌のように、温かく力強く響いてきた。最後は3人が向き合って渾身のプレイ。この曲では感情ととも意志の搭載量がマックスになっていく。終わった瞬間に感極まった歓声と拍手が起こった。
松岡彩
アンコールで「君とゲレンデ」が演奏された直後、宮崎から来春、全国ホールツアーが行われること、NHK紅白歌合戦出場が決まったこと、等々力陸上競技場での夏祭りライブが決まったこととともに、「何も貢献してないんですが」と言いながら、川崎フロンターレがリーグ優勝したことも報告されて盛大な拍手が起こった。現在のSHISHAMOは追い風の中にいるように見える。だが、追い風にせよ、向かい風にせよ、風が吹く中で自分たちの歩幅とペースで進んでいくのは簡単なことではない。印象的だったのは吉川のこんなMCだ。
吉川美冴貴
「日々、悩んだり落ち込んだりすることもあるんですが、こうしてステージに立てていることが日々の救いになっているし、今後頑張っていく原動力にもなっています。同じように、今日来てくださったみなさんの原動力になれらなと思います」(吉川)
アンコール・ラストは「恋する」。片思いをしている主人公のもどかしい恋心を描いたラブソングなのだが、SHISHAMOからリスナーへの親愛の情を込めた歌としても届いてきた。歌の歌詞との違いは、バンドとリスナーとは片思いではなくて、両思いであること。演奏が終わった瞬間、熱烈な歓声と拍手が起こった。感激と感動の波が会場内に満ちていった。今回のツアーの充実ぶりは宮崎のこんな言葉にも表れていた。
宮崎朝子
「セミファイナルという実感があまりなかったんですが、みんなも楽しそうに曲を聴いてくれたし、私たちも楽しく演奏できたので、今日演奏してみて初めて、あっ、終わっちゃうんだな、さびしいなと感じられたライブでした」(宮崎)
3人から観客へのみならず、観客から3人へ、それぞれ双方向のエネルギーを交換しあうことによって、バンドはさらに大きくなっている。SHISHAMOはさびしさすらも糧として、まだ見ぬ明日へと向かっている。
取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之
「奇跡なんて起きないと言ったあの娘も、いつか誰かととびきりロマンチックな恋をする」
2017.12.8 Zepp Tokyo
1. 新曲
2. 僕に彼女ができたんだ
3. 量産型彼氏
4. きっとあの漫画のせい
5. バンドマン
6. BYE BYE
7. 中庭の少女たち
8. すれちがいのデート
9. 熱帯夜
10. 旅がえり
11. さよならの季節
12. サボテン
13. ほら、笑ってる
14. 生きるガール
15. 好き好き!
16. タオル
17. 魔法のように
18. 君と夏フェス
19. 明日も
[ENCORE]
20. 君とゲレンデ
21. 笑顔のおまじない
22. 恋する
3月24日(土) 大阪 オリックス劇場
3月25日(日) 大阪 オリックス劇場
3月30日(金) 東京 NHKホール
4月08日(日) 愛知 名古屋センチュリーホール
4月14日(土) 石川 金沢 本多の森ホール
4月15日(日) 新潟 新潟テルサ
4月21日(土) 北海道 釧路市民文化会館・大ホール
4月22日(日) 北海道 わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
5月12日(土) 高知 高知市文化プラザかるぽーと
5月13日(日) 香川 サンポートホール高松・大ホール
5月19日(土) 京都 ロームシアター京都・メインホール
5月20日(日) 兵庫 神戸国際会館こくさいホール
5月26日(土) 熊本 シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
5月27日(日) 福岡 福岡サンパレス
6月02日(土) 三重 シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢 (伊勢市観光文化会館)
6月03日(日) 奈良 なら100年会館・大ホール
6月09日(土) 宮城 仙台サンプラザホール
6月10日(日) 山形 やまぎんホール(山形県県民会館)
6月16日(土) 島根 島根県⺠会館・大ホール
6月17日(日) 広島 上野学園ホール
※3歳以上