岩松了の演出方法に大森南朋、麻生久美子が思わず戦慄!?『市ヶ尾の坂―伝説の虹の三兄弟』インタビュー
岩松了、大森南朋、麻生久美子
2018年5月から6月にかけて、M&Oplaysプロデュース『市ヶ尾の坂-伝説の虹の三兄弟』が上演される。本作は岩松了が手掛け、1992年に「竹中直人の会」で上演されて以来、26年ぶりに新演出で再演される。1992年。神奈川県横浜市にある市ヶ尾の坂で暮らす母なき3人兄弟と、3人と触れ合うことになった美貌の人妻の家族劇。3兄弟の長男・司役を演じるのは大森南朋、そして人妻・朝倉役を演じるのは麻生久美子。岩松と共に3人に話を聞いた。
――まずは、26年ぶりの再演となる本作について。なぜこのタイミングで再び上演しようと思ったのですか?
岩松:作品に登場する市ヶ尾の坂は、今は青葉インターチェンジに続く高速道路の入口になりました。僕は26年前、市ヶ尾の隣町・藤が丘に住んでいたので、当時の田園都市計画は結構リアルな問題だったんです。古いものがどんどん消えていき、入れ替わりに新しいものがどんどん作られていく感じがおもしろいと感じ、それを芝居にしたいと思ったんです。あれから時間が流れ、市ヶ尾の風景も大きく変わっているので、今改めてやったらおもしろいんじゃないかな、って。
岩松了
――時代背景などは初演時のままとなるんですね。
岩松:もちろん。携帯電話もない頃ですよ(笑)。携帯電話がない時代の話を今上演すると、どのくらい文化の隔たりがあるのだろうか、って思います。古い作品を掘り起こすことに抵抗感はなく、逆に楽しみですよ。今と何が違うんだろうって。
大森:初演の頃に3兄弟を演じたのは、竹中直人さんと(田口)トモロヲさん……。
岩松:そして温水(洋一)さん。麻生さんが今回演じる朝倉役は荻野目慶子さんが演じていました。……稽古中は荻野目さんを相当追い込みましたね(笑)。
麻生:えーーー!?
岩松:当時、僕は40歳くらい。芝居に没頭しすぎて周りが見えていない時期だったから、ものすごい過酷な稽古をしていました。最初の5ページを10日間くらい繰り返し稽古するとか。その結果、後ろの場面に登場する他のキャストが、毎日稽古場に来ては帰り、来ては帰り……ということになっていました(笑)。今はそんなことできないけどね。とにかく稽古場の雰囲気がいちばん厳しかったという思い出があります。
大森:その空気を今、思い出してほしくないです(笑)。
麻生:そうですよー! ああ勘弁してください~(笑)。
岩松:今は稽古場に来た役者が一度は芝居をする時間が取れるくらい、僕も大人になりましたよ(笑)。
岩松了、大森南朋、麻生久美子
――大森さんと麻生さんは過去に岩松作品に出演されていますが、今回また出演できる、とわかったとき、どんなお気持ちになりましたか?
大森:僕は『不道徳教室』(2013)以来、久々です。今回はよく知っている三浦貴大くんもいるので楽しみです。岩松さんの「もう一回!もう一回!」という稽古に今回もお世話になると思います。でもそういう稽古をやっていただいた方がいいと思うこともたくさんあるんですよ。
麻生:私も出演することが出来て嬉しいです。また岩松作品に出たいと思っていてずっと楽しみにしていたんです。
岩松:麻生さんには以前、(岩松が監督を務めた)映画『たみおのしあわせ』に出演いただいたんだよね。『たみおのしあわせ』に使われているとある場面はこの『市ヶ尾の坂』から始まっているんですよ。服が汚れて着替えるって場面ですが。その映画に出演していただいた麻生さんが『市ヶ尾の坂』に出るって何だか感慨深いです。繋がったなって。
麻生:そうだったんですね!
――本作の脚本を読んだとき、どんな感想を抱かれましたか?
麻生:「26年前」という感じがまったくしなかったんです。純粋におもしろかったし、私の好きな岩松さんの台詞の美しさが沢山散りばめられていて、ああ、岩松さんは昔からこういう作品を作る方だったんだなって感じました。
麻生久美子
大森:僕は初演を観ていないのに、頭の中では竹中さんが演じているイメージで脚本を読んでしまい、そのイメージを払拭するのにまだ時間がかかっています。以前『隣りの男』に出演させていただいた時にもそんな気持ちになりました。
岩松:でも稽古を実際にやりだしたらそんなイメージはなくなるでしょ?
大森:そうですね。ただ本を読んでいるだけだと以前に演じた人の顔が浮かんできてしまいます。竹中さんはどうやって演じたのかな、など。
――大森さんと麻生さんが思う、岩松さんの作品の魅力って何だと思いますか?
大森:それを語るのは10年、いや20年くらい早いかも!(笑)
麻生:そうですね(笑)。
大森:でも、岩松さんの稽古場や舞台に立ったとき、とても居心地が良いんです。長いことお世話になっているからかもしれませんが、心地よくいさせてもらえるんです。もちろん大変な時は大変ですけど、何度も何度も同じところを繰り返し稽古しているうちに、自分の中できゅっと焦点が定まっていく感じがします。これは岩松さんの現場でないと感じられない感覚です。
大森南朋
麻生:なんと言ったらいいのか、適切な言葉が浮かばないんですが、岩松さんのお芝居でしか味わえない独特の空気があって。岩松さんの台詞を口に出すのが本当に幸せなんです。日常生活も含め、絶対自分の口からは出てこない言葉を発することができるんです。
過去の作品では、ヒステリックとか風変りな女性をやらせていただいていたんですが、それはそれで自分の中で新たな発見がありました。でも、私はそんな女性に見えているのかな?と思ってみたり(笑)。
――逆に岩松さんから見た、お二人のイメージは?
岩松:麻生さんについて、僕がよく言っているのは「何故かお金持ちのお家で育った女優さんに見える」です(笑)。あと、女優にあるまじき性格の良さがある人。いや本当の麻生さんはわからないけどね。本気で麻生さんと付き合ってみたらどんな痛い目に遭わされるかわからないけど!
大森くんも男として幅の広い印象があるので、今回のようなキャスティングだと「帰るべき場所に帰ってきた」という思いを感じます。僕は大森くんがこの作品の軸になって欲しいなと思っているんです。
――その言葉の意味が本番の舞台を観るとわかるんでしょうね。そして大森さんと麻生さん、岩松作品ではこれが初共演となるんですね。すでに共演していそうな気がしていたので意外でした。
大森:実は僕も麻生さんとはそういう感覚がありました。あれ?何か共演していたような……岩松さんじゃなく赤堀(雅秋)さんの『同じ夢』だ!って(笑)。お互い岩松さんの作品に出ていたという過去があるので、今回なるべくして共演となった感覚があります。
麻生:私はこの現場に南朋さんがいるだけで心強いです。稽古場に入るだけで緊張しますから。先ほどの「5ページを10日間かけて……」の話を聞くと、もう怖くて。
岩松:今、その話をしゃべっていたらあの頃の記憶が蘇っちゃったよ!(笑)
麻生:お願い、蘇らないで! どうしよう!(笑)
岩松:ちょっと何かしたら「違う!頭は動かさないで!」とか!?
麻生:あーーどうしましょう! これまでの作品では、岩松さんが望んでいるようなお芝居が出来なくて悩むこともありましたし、毎日緊張して稽古場に行ってましたね。舞台以外だと岩松さんはとても優しいし、笑顔多めで話せるんですけど、稽古中はなかなかそうはいかなくて。私にはもう一人違う岩松さんがいるような気持ちになります(笑)。
稽古の激しさに思わず顔を覆う麻生久美子と、それを楽しんでいるような岩松了
――大森さんから見た岩松さんの印象もそんな感じなのでしょうか?
大森:確かに、そういう面もあるんですが……。前は稽古の休憩中に喫煙所で和むという文化がありましたけど、今はもう吸われてないですよね?
岩松:そうだねえ。吸わなくなったね。
大森:そうなると、ストレスの出先がどこになるのかわからないから岩松さんの感情が読めないです。演出卓にタバコを置いておこうかな?(笑)
――ちなみに、今回の舞台は、初演時の同じく、岩松さんも演出しつつ、出演もされるんですよね?
岩松:ええ……こんなことなら麻生さんの役と絡むシーンを書いておけばよかった!
麻生:どんな絡みですか?(笑)
岩松:いやいや、いろいろとね(笑)。
昔の稽古の内容に悲鳴が上がったりもしたが、結局は気心の知れた3人。トーク中は常に笑顔に溢れていた。冬が終わり、新緑の頃には麻生の心を掴んで離さない岩松の台詞を聞くことができるだろう。その時を楽しみに待ちたい。
取材・文・撮影=こむらさき
【宮城公演】2018年6月5日(火)電力ホール
【福島公演】2018年6月7日(木)白河文化交流会館コミネス
【大阪公演】2018年6月9日(土)・6月10日(日)梅田芸術劇場 シアタードラマシテ
【富山公演】2018年6月12日(火)富山県民会館ホール
【愛知公演】2018年6月14日(木)・6月15日(金)日本特殊陶業市民会館ビレッジホール【静岡公演】2018年6月17日(日)三島市文化会館
出演:大森南朋、麻生久美子、三浦貴大、森優作、池津祥子、岩松了