EGOIST chellyが語るベストアルバム『GREATEST HITS 2011-2017 “ALTER EGO”』と“見えてきたEGOISTの未来”

プロデューサーのryo (supercell)とボーカルのchelly、そしてフロントを務める「楪いのり（ゆずりは・いのり）」による架空のアーティストであるEGOIST。彼女たちがこれまでの活動を詰め込んだベストアルバム『GREATEST HITS 2011-2017 “ALTER EGO”』を2017年12月27日に発売する。境界線上に立つ稀有なアーティストがどういう気持ちでこのアルバムを作ったのかを知りたくて、ボーカルchellyに全曲レビューをしてもらった。半年ごとに行っている彼女へのインタビュー。過去最大ボリュームになったchellyのこれまでとこれからを感じてもらいたい。

――今回リリースされるベストアルバムですが、まずは「ALTER EGO」というタイトルが気になりました、これはchellyさんが？

そうですね。私と、あとはryoさんとの合作というか。

――なんでこのタイトルに？オルターエゴって“分身”とか“別の自分”みたいな意味だと思うんですが、今だと『Fate/Grand Order』が浮かぶ人もいるかもしれません。ベストアルバムにこのタイトルを付けた意味や理由というのは？

いろんな似たような意味が多分あると思うんですけど、そのどれもが当てはまるように。活動をまるっと振り返ってみて、EGOISTとか楪いのりちゃんが私にとってどういう存在なのかと考えた時に、オルターエゴだな、って。これ以上ぴったりな言葉はないな、というぐらい。

――確かにredjuiceさんのメインビジュアルを見てもしっくり来るなと思いました。あらためてCDの全16曲について伺っていければと思います。１曲目はいきなり新曲「英雄 運命の詩」からですが、オープニングにこの曲を持ってきた理由は？

全体的に言ってしまうと、最新曲からデビュー曲に遡っていく構成なんですけども、まずここまでEGOISTが来たよ！というのをどっと一番目に持ってくるというか、インパクトをここでドンと出したいのもあって、これになりました。

――このシングル発売のインタビューでお伺いした時、だんだん求められていることが増えて難しくなっている気がすると仰っていましたが、振り返るとそのような感じはしますか。

そうですね、上にいくにつれてどんどんと難しくなるのは変わらずなんですけども。

――M2「Welcome to the *fam」はライブでも拝見しましたが、一番難しそうだなという印象があります。

なんだろう、EGOISTとしては新ジャンルだし、そういう難しさですよね。曲としてというかジャンルとしてやったことがないので、未知ですね。

――ライブではよく歌えるなと正直思って。

私も今も思います、よく歌えたなって（笑）。

――次に『甲鉄城のカバネリ』OPテーマ「KABANERI OF THE IRON FORTRESS」ですが、この曲に対する思い入れなどは。

EGOIST史上最大にアニメのほうと寄っている、歩み寄っている曲だと思っていて、カバネリというタイトルが付いているのもあるんですけど。なので本当に『カバネリ』のために作られたと言っても過言ではないかと。となるとやっぱりEGOIST的立場でどういうふうに曲にアプローチするのかとか、あらためて考え直したところでもあったんですよ。

――『ギルティクラウン』で作品と存在がリンクして始まったところから、一歌手としてタイアップ主題歌をやるようになりましたが、確かにそれが顕著かもしれませんね。この曲は最初に聴いた時は凄い壮大な曲だと思いましたが。

ね、ふぁーっと入りますからね（笑）。

――ここからProject Itoh三連発で『屍者の帝国』の「Door」、『ハーモニー』の「Ghostof a smile」、『虐殺器官』の『リローデッド』。これも多種多様というか、EGOISTカラーはありつつも方向性が違う。

三部作まるっと一枚のCDに入ると最初聞いていて、こんなにバラエティというか曲調の違う３曲が入るとは思わなかったので、あとから考えて自分的にこれは名盤なんじゃないかとちょっと思っているんです。

――個人的な趣味ですが「Ghost of a smile」がすごい好きなんですよ。

みんな言うんですよ、「Ghost of a smile」は（笑）。

――ご自身の中でProject Itohに関わったことにはどういった思い入れがありますか。

まず新録したものが劇場で流れるのは初めての経験だったので、そこの感動がまずあったんです。それに伊藤計劃さんの原作ファンの方に作品に合っているねとか、EGOISTのこの曲がこの作品の主題歌で良かったと言っていただけることがすごい嬉しくて。何か受け入れていただけた感じはありますね。

――レコーディングの時の思い出などはありますか。

レコーディングは結構映画サイドの紆余曲折があったじゃないですか。（編集部注：『虐殺器官』が元の制作会社の経営危機のため、当初の上演予定の2015年10月から制作会社を引き継ぎ2017年2月に公開が延期したこと）そういうハプニング要素もあったりとか含めて、三部作やっぱりまとめて主題歌担当させていただけてよかったなと思います。

得意な曲調は”ほの暗い曲”だと思う

――ここで『PSYCHO-PASS』EDの「Fallen」、「好きと言われた日」が入ってきますが、「好きと言われた日」はノンタイアップの配信曲です。

これはやっと日の目を見たというか。言っていいかわからないですけど、1stアルバムに入る予定だった曲なんですよ。でもあぶれてしまって、急遽配信曲という形で皆さんに知ってもらって、ライブでも歌うようになった曲なんです。不遇といえば不遇なんですけど、とっても個人的には良い曲だなと思っていたので嬉しいですね。

――「好きと言われた日」はタイトルや歌詞の雰囲気だけを見て聴くと意表を突かれる、アッパーに切ないことを歌っている、良い意味でミスマッチ感がある曲ですよね。「Fallen」も『PSYCHO-PASS』EDといえば「All Alone With You」の印象が強い中で、これも比較的隠れた名曲感がある気がします。

結構疾走感というか息つく暇がなく、でも何かを訴えかけているというのが、EGOISTの中では珍しめというか。

――世間的にはEGOISTは「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」とか「All Alone With You」の印象が強いイメージがあるんです。最近は「カバネリ」や「英雄の歌」のような壮大な曲もありますが、切ないバラードの印象が強いのかなと。

バラードをよく良いねと褒めてくださる方が多いので、そういうイメージなのかなって思いながらも、最近は壮大な曲も多くて、いい感じに対局にあるかなと。

――周りの評価はさておき、chellyさんの中では自分はこういう曲が得意だというものはありますか。

私は多分……ほの暗い曲が得意な気が（笑）。 闇を感じるというか、声質的にも自分で分析してみて、そういう一点に集まっていくような、「Door」とか「エウテルペ」とかそうなんですけども。ファンタジックだけど闇を抱えつつ、みたいなそういう特殊な曲が結構ハマるのかなと思いますね。

――そして次に「All Alone With You」。これは代表曲のひとつだと思います。

これも、ここまで私は爽やかというか切ない曲ではあるんですけども、さっぱりと歌っているような印象はあって。そういうのも、それまでのEGOISTにはないパターンの、バンドが後ろで鳴っている中で切ない曲を歌うというのは初めてだったので。

――確かに歌詞を見るとM8の「好きと言われた日」の女の子より強いというか、推進力のある女の子のイメージがありますよね。

そうですね、あなたと一緒に歩いていきますよ、という曲。

――そうすると『PSYCHO-PASS』という作品にすごく沿っているような印象がありますね。

アニメとリンクして見てくださる方からリプライとか結構いただいて、狡噛さんと茜ちゃんの曲として見てくださる方もいれば、他のふたりで見てくださる方もいてと、ちょっと見方が人によって違うのかなと思います。

――M10「カナデテル」ですが、こちらはいかがでしょうか。

これは「名前のない怪物」のカップリングなんですけど、私がさっきも言ったんですけどほの暗い曲がすごい好きで、個人的にもすごく気に入っている曲もあるし、すごい良い曲に聴こえるなというのもあって、好きなんですよね。でも何か周りの人に聞くとそうでもないと言われたりして、なにくそと思いながら（笑）。

――これも、歌詞も含めてシンボリックな曲ですよね。

一番最初に録音した「エウテルペ」がアニメの『ギルティクラウン』１話の冒頭で流れていたあの印象が強い人もいるんですよね。私も多分そのひとりで、ただ「エウテルペ」っぽい路線の違う曲が当時やっと来たという思いで一生懸命歌っていた記憶があるので、思い入れはすごくあります。

――そして「名前のない怪物」ですが、ド頭のインパクトが強い、代表曲のひとつですよね。

やっぱり『ギルティクラウン』から離れて最初の別タイアップとしての曲なので、インパクトがあったかなと。

――この曲は回数も歌われていると思いますが、イベントでの盛り上がりもすごくて。だんだんAメロが静かな感じで流れたのちサビでどんとくる転調ぶりもEGOIST感があると思ってます。一番歌っている曲ってこれか「The Everlasting Guilty Crown」なんでしょうか。

多分どっこいぐらいですね。

――歌っていて自分の中で進化するものはありますか。

あとなんだろう、「The Everlasting Guilty Crown」を歌うとわりとアニメの『ギルティクラウン』のファンの方がぶち上がってくださるイメージがあるんですけど、「名前のない怪物」を歌うともう会場全体がうわーっとなるんです。なんというか、需要があるんだなと思います。やっぱり盛り上がるべきところが作られている
のもあって、光る棒とかを振りやすいのかなと思ったり（笑）。

このアルバムで初心に帰りたいと思った

――ここから『ギルティクラウン』での楽曲群になっていきますが、こう通して聞いていくと、だんだん初期衝動に戻っていく選曲は面白いですよね。曲順はご自身でお考えに？

はい、私が考えました。

――逆転しようと思った理由は？

やっぱり初心に帰りたいと思ったんですよね。自分たちに関しても初心に帰って原点回帰と思ったし、ファンの方にもあの頃を思い出していただきたいというのがあって、逆にしています。

――13曲目が『ギルティクラウン』OPの「The Everlasting Guilty Crown」ですが、デビューのきっかけや出会いの曲になると思います。

今はもう無いんですけど、一口坂スタジオというスタジオがあって、そこで初めて本格的にプロとしての気持ちで録ったというか。「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」とか「エウテルペ」ってもうオーディションを受けて合格して、素人なのかプロなのか分からない気持ちでさまよっているような時期だったんですけど、次のシングルがあるよと聞かされた時に、この気持ちじゃだめだな、と言いながら録ったのがこの曲、ここから先のものなんですよ。なのである意味切り替えの時期だったというのがあって。

――そこは気持ちを入れて入った部分があると。

何か自社スタジオから別のスタジオに連れて行っていただいた時に、ああプロになったんだなと思ったんですよ。そこは気持ち的には変わっていて。

――M14「エウテルペ」、これが最初に録音したものだったと聞きました。

はい。何が何だか分からないまま、とりあえず全力でやらなきゃという感じで結構必死に頑張っていたところですね。

――作品冒頭で流れる印象的な曲ですが、変な話、活動を続ける中でレコーディングは慣れてくるものなんでしょうか？

慣れてきますね。

――最初の頃は時間がかかったり。

意外と時間はかかっていなくて。あまり時間的には変わってないと思うんですけど、やっぱり求められたものを返せる力が徐々についていったかなという感じで。それができるようになったところにまたこだわりが詰められるでしょう、空いた部分に、というので時間的には一緒なんですけど。

――常に箪笥の中にはみっしり詰まっていると。

もっとできるだろう、と言って。

――アーティストとしては健全な積み方を。

色々と詰めていただいて、みたいな感じです。

――「エウテルペ」を歌った７年前に「英雄 運命の詩」を渡されていたら、やはり手こずりましたかね？

多分歌えていないと思います。曲に負けて、そのへんに転がっていると思います。打ちひしがれていたかも（笑）。

――ラストを飾るのは「Departures ～あなたにおくるアイの歌～」です。

やっぱり根強い支持、人気がありますし、自分的にもアニメのEDにも使われるし、たくさんの方の耳に触れることになるし、今までの鼻歌カラオケレベルでは済まされないんだぞ、ということを素人ながらに感じていて。すごいプレッシャーもあって、結構ガチガチの中で録っていたんですけれども、そんな中で良いところをryoさんに見つけ
ていただいて、とても良い曲に仕上がったという思い出があるので、やっぱりライブでも外せないですし、EGOISTを語るうえでも絶対外せない曲ではありますね。

――ボーナストラックの形でM16にアコースティックバージョンが入りますが、これは新録で？

はい、新録になります。

――こういうアレンジなのかと驚いたんです。パキパキのバラードをこのアレンジに持ってきたのかと。このアレンジはryoさんが？

これもryoさんがアレンジしてます。

――アコギも入り、新鮮味はありましたか。

はじめてスタジオRECというか、ギターの方と一緒に「いちにのさん！」で録った曲なんですよ。それがすごく新鮮で楽しかったなという思い出はあったりしまして。

――アレンジ的には歌ってみてどうですか。今までの「Departures ～あなたにおくるアイの歌～」と比べて、歌い方をこうしたという部分は。

ギターと一緒になることによってバラードからおしゃれなカフェで流れてそうな曲になってしまって、これをどう伝えたらいいんだとちょっと迷ったところもあって。

――仕上がったものを聴いてみていかがでしたか。

歌詞は同じだけど伝わり方は違うんじゃないかなと思っていますね。

――コレは個人的感想なんですけど、今までのEGOISTの全ての楽曲の中で一番chellyという存在が前に出ている印象があって。

やっぱり音の数も少ないですし、いつもいろんな音の中で歌わせていただいているので、おっしゃるとおり私が結構全面に出ている曲になったかなと思います。

――楪いのりとchellyさんが表裏一体で一心同体で繋がっているという、ライブの演出もそうですが、この曲はいのりよりもchellyさんが半歩ぐらい前に出てきた印象があります。

実はそんな感じで。あんまり、これ録ったのは結構前なんですけど、いのりちゃんというよりは自分が前に出ているかなと思いますね。

――それを今までで初めて感じた曲で。これは新しいEGOISTの一歩なのかなという印象で。どう捉えられるのか気になりますね。

はい、どういう感想をくださるのか楽しみですね。

楪いのりとは0.0コンマのズレもない

――16曲を振り返って、ライブをやっていて自分の中で手応え、この曲は成長しているという曲はありますか？

ライブで成長したのは「Ghost of a smile」ですね、やっぱり。ダントツで、むしろ皆さんにCDより良いと言っていただけるナンバーワンの曲なんですよ。

――あえて１曲を選べというとどうなりますか。

この中ですか、私は「Door」です。もうずっと言ってるんですけど、誰も共感してくれないんです（笑）。 理由は、好きな曲というのもあるんですけど、一番歌いやすいし、私結構歌詞を読んで一文一文に感情を当てはめていくタイプなんですけど、それが「Door」は結構盛りやすいというか。

――Project Itoh三部作の中で一番ほの暗い（笑）。

『屍者の帝国』の原作も読ませてもらって、改めてライブでやるときに、感情が乗りやすい曲かなと思いますね。

――「リローデッド」もライブでは定番の曲ですよね。あらためてProject Itohの３曲は結構大きい３曲なのかもしれないですね。通しで聴くと、chellyさんがやりたいこと歌いたいものが今まで以上にくっきりと見えてくる。

ああ、そうかもしれないですね。

――今後のEGOISTが気になるところですが、ちょっと抽象的な質問ですけど、最近のいのりちゃんとの関係性はどうですか？

もう仲良くやってますよ。なんだろう、並列に並んでいて。前に線があるとすると、それをどっちが先に足で乗り越えるか、ということになった時に、0.0コンマずれることなく一緒に乗り越えると思うんですね。伝わりづらいと思うんですけど、もうズレることなく歩いてきているなと思います。

――2015年頃から海外ライブも増えましたが、今年も台湾でやったり。海外の反応はいかがですか。

海外の反応も、下手したら日本の方よりすごいんじゃないか、みたいな。海外の方は感情をすごい表に出す方が多いというか、喜びとかをすごい体全体で表現してくださって。合唱とかも日本にはない光景なので、とても毎回楽しみにしています。

――Zeppツアーなどをやり、海外にも行くようになり、技術の革新と共に少しずつEGOISTとしていのりちゃんと人前に出ていく場所が増えている。そこでやりたいことってありますか。

今のEGOISTの形式で。何か最新技術ではあるので、それをもっと駆使したいというか、映像なので、映像ならではの過剰な演出じゃないですけど、もっとド派手にやりたい。もっと見る参加するエンターテイメントとして楽しんでもらえるライブにはしたいなと思いながら、今練っています。

――ここでライブをやりたいという会場とかは？

もっと各地に、今まで行ったことのない全国各地に、小さな会場とかでもやってみたいなという思いはありますけど、果たして受け入れてくださるのか。あと設備が、そこがちょっと。

――年末にもライブがありますが、ご自身の中にすでにイメージがありますでしょうか。

あります、これは言っていいか分かりませんけど。あえて入っているもの全曲はやりません。それ以外の曲を結構多めにしていって、この名曲たちと裏でEGOISTを彩ってくれていた知る人ぞ知る曲たちが土台にはあるんだぞ、というのを見ていただくために、あえてカップリングだとか、1stアルバムであまり知られていないような曲とかをやろうかなと思っています。

――ライブに行って『ALTER EGO』を聴くとおおむね完成すると。

完成しますね。それとあわせてお楽しみいただけるかなって。

――最後に、ベストアルバムを手に取った人、気になっている方にメッセージがあればお願いします。

今までEGOISTがやってきたことが全部詰まっています。本当に色んなことがあったんですけれど、私の成長もそうですし、ライブ、エンタテインメントとしての成長もありますし、６年も経ったんだなって。10年も見えてきましたね！

インタビュー・文：加東岳史