2018年注目必須バンド・PAELLASの生み出す音が“現代のスタンダード”たりえるワケ
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PAELLAS
「現代のスタンダードを作りたい」
PAELLASがここ1年ほどのインタビューで、目指す音楽性を語るとき、発言しているテーマがこれだ。リスナーの嗜好が細分化され、全世代的なヒットがない時代のスタンダードを定義するのは難しいが、彼らが見ている“現代”を一つ例えるとすれば、すでに一昨年の作品になるが、フランク・オーシャンの『ブロンド』と宇多田ヒカルの『Fantome』という二つの作品の間に、パーソナルでありながら大胆に先進の音楽性を取り入れた、狭義のR&Bというジャンルや、あるいは人種の違いを超えた近しいものを感じたリスナーも少なくなかったと思う。
しかし音楽的な共通項もやはり存在していて、それはインディR&Bや、BPMを落としたラップミュージック、そしてそれらを現実的に音像として具体化するエレクトロニックなサウンド、そして丁寧に重ねられてはいるものの、パッと聴くとミニマルに聴こえる音数の少なさなどが挙げられるだろう。
PAELLASは元々、大阪でMATTON(Vo)とbisshi(Ba)が結成し、最初はサイケデリックやニューウェーヴ色の強いバンドだった。そこに現在のメイン・ソングライターで楽曲の全体像を作っているSatoshi Anan(Gt)が加入し、上京。AnanのUSインディに対する志向が加わり、さらにその上でサンプラー担当のmsd.、ファンク、ハウス、新世代ジャズ的なアプローチも嗜好としてあるドラマー・Ryosuke Takahashiが加入する。
そして、MATTONのセンシュアルなボーカルとポストパンクもハウスも消化しようとする意欲が、2016年当時の東京インディシーンの中でも頭一つ抜けていた感のあるEP『Remember』、Ananがフランク・オーシャンやケンドリック・ラマーら、インディロックの感覚を通過してきたブラックミュージシャンのセンスに触発され、全楽曲のベーシックを担当した2016年12月リリースの1stアルバム『Pressure』を生む。それまでのインディーロックバンド的サウンド・プロダクションから、一音一音とボーカルに集中でき、ひいてはクールな中に儚さや切なさをたたえた、ジャンルを超えて音楽作品としての強度を上げた転機の作品だと言えるだろう。
そのニュアンスと地続きになりながら、ビートもギターも出すべきところはより立体的になり、これまで全て英語詞で歌われていた歌詞に日本語も効果的に配置されるようになったのが、2017年9月リリースのEP『D.R.E.A.M.』だ。ロック、R&B、ハウス、ニューウェーヴなどを飲み込みんで消化する彼らの作品の中でも、6曲というEPのサイズ感が、バックボーンとなっている音楽性を明確に把握させてくれる。洒脱なカッティングがスムーズなナンバーから、人力ハウス的なプレイヤーとしてのスキルと遊び心を同時に感じさせるナンバーまで、PAELLASという個性をオープンに感じることができるEPと言えるだろう。
ざっとこれまでのキャリアや音楽性の変化のプロセスを綴ってきたが、ここからは実際に楽曲を聴きながら、その特徴や彼らが目指す“現代のスタンダード”感を各々感じてもらえれば幸いだ。新しいものから過去に遡っていくので、過去からの変化のプロセス、そしてベーシックにある不変のフィロソフィも感じてもらえるのではないだろうか。
Shooting Star
EP『D.R.E.A.M.』のリード曲であるこの曲は、生のスネアとパッドがミックスされてはいるものの、かなりフィジカルに訴える強めのビート、最低限のギターリフとカッティングが、彼らのナンバーの中では珍しく疾走感を体感させる。このEPでは同曲と「Together」で日本語詞を英語詞にミックスすることにトライしているが、同曲ではセクシュアルでありつつ、孤独な人間同士の切なさが描かれることで透明感すら漂っているのが白眉だ。
Fade
異空間に飛ばされるシンセとタイトなビート、ブラックフィール溢れるギターリフ。The XXもブラッド・オレンジもフランク・オーシャンも、なんならもっと平易にミニマルなファンクも飲み込んで消化。サウンド・スケープとしては斬新というより、もはや現代を生きる私たちのサウンドトラックと言えそうな、クールでありつつ少しねじれたエモーションにマッチする。切実な思いを孕んだ上で抑えめのボーカル、これはMATTONならではの表現力だろう。
MOTN
ここまではEP『D.R.E.A.M.』より。打ち込みの人力再現的なハイハットの面白さには少々、新世代ジャズ以降のリズム・アプローチが見えつつ、意識がグラグラするような位相のズレを作り出すサンプリングが、ある種グライム的でもある、PAELLASのもう一つの側面が表出したナンバー。が、インストではなく、呟くように歌が乗っているのも聴きどころ。
The Stranger
1stアルバム『Pressure』の実質的な1曲目。16のビートはファンクだが、極めて静謐なところから始まりギターリフ、シンセ、空間の収縮を演出するサンプラーが渦を作っては消滅するような踊れるのに儚い、不思議なアンビバレンツを残すナンバー。まさに「The Stranger」だ。
Body
こちらもアルバム『Pressure』から、「聴かせる」という意味で彼らの引き出しの多さを知ることができる1曲を。Ananの不安と安堵を行き来するようなコードワークと、MATTONの抑えたバラード・シンガーとしての魅力だけで聴かせる、PAELLASのソングライトの骨格の強さとAnanのギタリストとしてのイマジネーションの豊かさを証明するナンバー。
Hold On Tight
まだポストパンクとUSインディーの影響が大きかった頃のナンバーを。ロックバンドのセオリーに則った歌メロだが、それでもやはりメランコリックで美しいところは今に通底している。MATTONのThe Drums好きはサウンドだけでなく、傷つきながらもイノセントなバンド像にもあるのではないかと思わせる色褪せない良い曲。四つ打ち、ドリーミーできらめくギターやシンセも今のPAELLASに至る、世界との共振という点で根っこにあるものだろう。
3月7日(水)には、次なる一手としてニューミニアルバム『Yours』を世に放つPAELLAS。とかくクールでアーバンなイメージを持たれがちなバンドではあるが、MATTONがボーカリストとして歌うバンドの言葉が、都会の夜、それも喧騒を離れた時に向き合う心象、そして死生観などであること、そしてバンドが作り出すサウンドも、グルーヴィでこそあれパーティ的なものからは遠く、むしろそこから離れ、一人でいる時に染み渡る柔らかさとロマンティシズムがあること。
まさにそれこそが、彼らがジャンルではなくリスナー一人ひとりの状態に寄り添う、“現代のスタンダード”たる所以ではないだろうか。
文=石角友香
3/10(土)札幌 COLONY〈ゲスト:PARKGOLF〉
3/17(土)名古屋 APOLLO BASE〈Tempalay〉
3/18(日)大阪 Shangri-La〈Tempalay〉
3/20(火)福岡 the VooDoo Lounge〈Seiho〉
3/22(木)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd〈向井太一〉
3/24(土)東京 WWWX〈ワンマン〉
※東京公演のみワンマンライブ
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<一般発売> 1 月 27 日(土)
発売日:2018年3月7日(水)
価格:\1,600(本体)+税
規格番号:PECF-3201