ブラジルの衝撃作『アスファルト・キス』を日本初演 英国の演出家フランコ・フィギュレドが語る世界
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フランコ・フィギュレド
イギリスの劇団ストーン・クラブズの芸術監督で演出家、フランコ・フィギュレドが、劇団ワンツーワークスの古城十忍と共同演出で『アスファルト・キス』を日本初演する。『アスファルト・キス』はブラジル現代演劇の先駆者、ネルソン・ロドリゲス(1912‐1980)の衝撃作。ひとつのキスから波紋のように広がる猜疑心、裏切りの生み出す悲劇を描く。さまざまなカンパニーから集まった日本人俳優とともに本作に取り組むフランコ・フィギュレドに話を聞いた。
『アスファルト・キス』稽古風景
――これまで、ネルソン・ロドリゲス作品をブラジルから英語圏へ紹介してきていますが、きっかけは何だったのでしょうか?
私がロドリゲスを選んだというより、彼が私を選んだのではないかと思っています。19歳でロンドンにきたとき、イギリスにはブラジル演劇というものがほとんどなかった。フランスやスペイン、イタリア、フランスなどヨーロッパのものばかりでした。どうにかしてブラジル演劇をイギリスに紹介したいと思っていました。
『アスファルト・キス』稽古風景
――ロドリゲス氏は1980年に亡くなっています。
作品の権利を誰が持つかで争いがあり、翻訳すること自体が難しかったのですが、ロドリゲスの息子が作品を世界に広げたいと考えていたんですね。ブラジル大使館の協力を得て、まず英語に翻訳することから始めましたがイギリスのプロデューサーは取り上げてくれなかった。最初はアメリカで上演されました。イギリスでのロドリゲス作品の初演は2005年。そのときに7作品を翻訳上演する権利を持つことができたんです。
『アスファルト・キス』稽古風景
――ブラジル演劇の中でもなぜロドリゲス作品だったのでしょうか?
ブラジルで口語体を初めて戯曲に取り入れたのがロドリゲスだったからです。それまでは古典だけで、ポルトガル語でしか上演できなかった。ロドリゲスの戯曲で初めて、演劇でブラジルの現代を見せることができるようになったんです。1940年代のブラジルでホモセクシャルや売春、権力の暴力などを描くことは大きな挑戦だった。それはセンセーショナルなことで、当時は上演禁止にもなっています。彼の描いたそのテーマは、現代でも生きていると思いました。
『アスファルト・キス』稽古風景
――『アスファルト・キス』も社会問題が強く盛り込まれています。1950年代のブラジルが舞台ですが、交通事故で死にかけた男の要求で最期のキスをした主人公。それを新聞のゴシップ記事に仕立てた記者。権力の無責任な行動。記事に翻弄され過熱する大衆…。まさに現代社会にも身近な題材ですね。
ひとりの人間の行動に周りがリアクションし、小さなことが家族まで引き裂いていく。人間は自身の価値観をどれだけ強く持っていられるか、隣にいる人をどれだけ信頼できるか。メディア、新聞は何を及ぼすか。すごく複雑なテーマだと思う。いろんな方面から作品を見る必要があると思いました。主人公夫婦、その父、記者…。それぞれの視点のバランスを大事にしています。この戯曲はト書きがひとつもないんです。作家の世界観をどうつくっていくか演出家はすごく考える必要があるし、一方でとても自由でもあります。
『アスファルト・キス』稽古風景
――日本で上演するにあたっての演出的なポイントを教えてください。
それぞれ個人の問題として捉えるにはどうすればいいかを考えました。ロンドンで上演したときは、キリスト教というものにつながるようなイメージを入れ込みましたが、日本では、クリスチャンや神へのイメージがまた違う。俳優や共同演出の古城さんに、日本人の目に登場人物たちがどう映るかをずっと質問していました。ブラジルのエッセンスは保ちつつ、クリスチャンの世界だけではなく、それを超えたところを描きたいと思っています。
『アスファルト・キス』稽古風景
――現代の日本には戯曲のどの部分が一番届くと思いますか?
すべてだと思います。ロンドンでは、「今どきこんなことは、もうないよ」と言う若い人もいましたが、一方で年齢が上の人は「今でもある」と言う。ハラスメントを告白する「Me too」の世界的な動きがありますが、そこにも潜在的にリンクしている部分があると思います。どういう思いで、どういう状況の人が劇場に来るかで、受け止めるものが違う作品。議論を起こさせるための作品でもある。ロドリゲスが演劇でやろうとしたのもそれです。議論をするために演劇をする。舞台を観て少しショックを受けて、それについて話し合ってくれれば、私はすごくハッピーです。
『アスファルト・キス』稽古風景
――現在、ブラジル、イギリス、日本と3つの言語、3つの場所で演劇をやっていらっしゃいますが、今後はどのような活動をしていきますか?
議論を呼び、対話をする場所を生みだすような新しい作品を紹介していきたいですね。ロンドンではイギリス戯曲以外の作品をやるようにしています。若い演出家を育てる演出家ワークショップもやっていますが、そこでもイギリス以外の戯曲を使うようにしています。イギリスも日本と同様で島国ですから、どう世界を見るかを意識する。私たちがそういう活動をやってきたことで、ナショナルシアターなど大きな劇場もほかの国の作品を取り上げるようになり、多様性を大事にするようにもなってきました。世界では何が起こっているのか、議論の場を作りたい。日本でもブラジルでも同様です。3つの視点で、コミュニケーションをとりディスカッションし、この世界はどうなっているのかを考えていければと思っています。
フランコ・フィギュレド
■日時:2018年1月18日(金)~21日(日)
■会場:あうるすぽっと
■作:ネルソン・ロドリゲス
■翻訳:白坂恵都子+フランコ・フィギュレド
■演出:フランコ・フィギュレド+古城十忍
■問い合わせ:ワンツーワークス TEL:03-5929-9130
■当日券は開演の1時間前より会場受付にて発売。
一般前売4,500円、当日4,800円/学生:3,000円(要学生証提示)
豊島区民割引:4,000円(在住・在勤の要証明書提示)
■公式サイト:http://www.onetwo-works.jp/