金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第5回「『狂気』から『異邦人』まで――コンセプト・アルバム六選」
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金属恵比須黎明期
プログレ・バンド「金属恵比須」を続けて22年。今年の夏ごろに4年ぶりのフル・アルバムを発表することが決定し、にわかに忙しくなってきている。今回のアルバムはデビュー・アルバム『箱男』(2001年)以来のコンセプト・アルバムということで気合満々。
さて、プログレッシヴ・ロックの定番ともいえる「コンセプト・アルバム」という言葉。
通常のアルバムは、収録曲各曲が独立しているのに対して、「コンセプト・アルバム」というのは、1曲1曲が独立しているわけではなく、アルバムを通してつながっている。そして歌詞の内容などは、物語のように連なっていたりもする。また同じメロディやフレーズがところどころにちりばめられている。以上のような体裁を持つアルバムを「コンセプト・アルバム」という。
加えてライヴでは、そのアルバム全曲を大仰なセットで再現したりする。まるで演劇やオペラやミュージカルのような流れを持ち、「ロック・オペラ」などと表現されることもある。
プログレに限った手法ではなく、実はビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』やザ・フーの『トミー』などの大御所が作り始め、それに追随し完成形に昇華させたのがプログレ勢なのだ。
有名なところで、私自身も多大な影響を受けたピンク・フロイド『ザ・ウォール』がコンセプト・アルバムの代表格。
あるロック・スターが、ファンや母や妻から疎外されているように感じ、孤独になってしまうことを「壁(ウォール)に囲まれた」というデフォルメで展開する物語。
アルバム制作前のライヴにて、リーダーのロジャー・ウォーターズがバカ騒ぎする最前列の観客に対し嫌気がさして唾を吐きかけてしまったことが着想の原因の一つともいわれている。
さて、この『ザ・ウォール』ライヴも非常にコンセプチュアルだった。
ざっくりいえば、ライヴの前半で舞台と客席の間に壁を積み上げていき、後半には壁が積みあがったままで演奏し、最後にぶっ壊す、そんなライヴ。
演奏者は、基本的に壁の後ろで演奏し観客からはその姿が見られないという何ともストイックな舞台演出。演奏者が見られなければさすがに観客もバカ騒ぎしないだろう――なんて魂胆だったのだろうか、ロジャー・ウォーターズ。
映像で確認してみたら、演奏者から見えないだけにこれ見よがしにバカ騒ぎしていた。ある意味、お互いにメリットのあるライヴだったのかもしれない……。
金属恵比須の前身バンドだった中学2年の時、このライヴの再現を試みたことがあった。コンビニを経営している家の友達から、お酒やドリンクの空段ボールを130個もらい、フロイドのようにライヴ中にそれらを積み上げるという演出をした。当然ライヴの約半分はお客さん(というか同級生)には見えない。そして私たち演奏者にも同級生たちは見えない。最後に崩す演出もした。『ザ・ウォール』に収録されている壁の崩れる音をカセットに録音し、大音量で流し、空段ボールはボトボトと倒れた。
倒れた瞬間、見えたのはすっかりしらけきった同級生たち。
そりゃそうだ。壁を積んでから演奏した曲目は、
・ハートに火をつけて(ドアーズ)
・暑中見舞い(吉田拓郎)
・人生を語らず(吉田拓郎)
・落陽(吉田拓郎)
・イン・ザ・フレッシュ(ピンク・フロイド)
・豚(オリジナル)
・行け行け暴走族(オリジナル)
など。
壁の無意味さ、選曲の脈絡のなさ、そして「そもそも1曲も知らないし、ヒットチャートの曲は?」状態の曲ばかり。オリジナルも「豚」はフロイド風、「行け行け暴走族」はディープ・パープル風と、中学2年生の期待する展開が全くなかった。
かくして、頭に「?」が浮かび続けていた同級生は帰っていった。
つくづくロジャー・ウォーターズは幸せ者だと思う。観客はシラケもせずにバカ騒ぎしていてくれたのだ。
さて過去の苦い経験はさておき……。
金属恵比須は今回、コンセプチュアルなアルバムを制作している。
歴史小説家・伊東潤氏のメジャーデビュー作『武田家滅亡』をもとにした歴史文芸モノである。今まで横溝正史や三島由紀夫などの作品は取り上げてきたが、いずれも故人であり「本人公認」になりえなかった。それが今回は飛ぶ鳥も落とす勢いの現役人気作家である。ということでご本人に許諾を取ったのだ。そしてなんと、作詞までしていただいた。つまり、初の小説家ご本人公認アルバムとなる。
詳細は決まっていないが、こちらの『SPICE』上でも徐々に報告できればと思っている。アルバム発売のあかつきにはライヴも行なうことだろう。その時はコンセプチュアルに戦国時代の物語を創出できるようなステージにしたい。
決してお客様との間に壁を作るような演出だけは避けつつ。
続く
(次回は、番外編として、プログレッシヴ・アイドル「キスエク」のライヴレポートを予定)
【高木大地のおすすめコンセプト・アルバム(もしくはコンセプト・アルバム風)】
◆ピンク・フロイド『狂気』
イギリスの5家庭に1家庭は所有されているというお化けヒット・プログレ・アルバム。老い、金、時間など人間の苦しみをそれぞれ曲にするという、仏陀の「四苦八苦」のようなテーマ。これを30歳前の若者がつくりあげたと考えただけで、相当達観した(老けた?)哲学を持った方々なのである。
◆ピンク・フロイド『アニマルズ』
人間の階級社会を「豚・羊・犬」になぞらえ、いささか社会主義的な政治メッセージを内包したアルバム。ジョージ・オーウェルが『動物農場』で社会主義を批判するために採った手法をあえて取り上げているのが皮肉めいて彼ららしい。各曲の完成度は高く、個々の独立した曲として聞くこともできる。
◆イエス『海洋地形学の物語』
ヒンドゥー教の教典『あるヨギの自叙伝』をもとにつくられた2枚組4曲(1曲20分)の超大作オンパレード。イエスらしく形而上学的で捉えにくい歌詞だけれども、私たちは日本人。音だけ聞いて楽しもう。これでもか!――と出てくるメロディの洪水にただただひれ伏すばかり。疲れた時によく聞きます。
◆ジェネシス『静寂の嵐』
これはコンセプト・アルバムではないものの、「コンセプト・アルバム風」としては最高の仕上がり。原題に使用されている”Wuthering”は、19世紀イギリスの小説『嵐が丘』のタイトルからで、うら寂しい樹木のジャケットだけでその雰囲気が存分に味わえる。最初の曲、中間の曲、最後の方の曲に同じメロディが登場し、これがアルバム全体を「コンセプト・アルバム風」にしているゆえん。これぐらいライトなのが実は好み。
◆久保田早紀『夢がたり』
大ヒット歌謡曲「異邦人」を収録した久保田早紀のデビュー・アルバム。羽田健太郎のピアノ・ソロ「プロローグ……夢がたり」で幕を開け、様々な国に旅に出ているような感覚に。エキゾチックな音階や、うら寂しげな若い一人の女目線の歌詞が全体を包む。「コンセプト・アルバム」と表現した評に出会ったことがないが、これはまぎれもなく、コンセプト・アルバム。1枚を通して楽しむものだ。「異邦人」だけで満足してしまうのはもったいない。
◆人間椅子『怪人二十面相』
こちらも限りなく「風」に近いコンセプト・アルバム。江戸川乱歩の人気小説『怪人二十面相』をテーマに、明智小五郎、小林少年、蛭田博士などが登場。「芋虫」は人間椅子史上5本の指に入る名曲。なおジャケットとPVで小林少年役を演じたのが、現在、我が金属恵比須のドラムを担当する後藤マスヒロである。半ズボン、意外とお似合いだった。
2/18に予定されていた『後藤マスヒロ解体ショー』が後藤マスヒロ欠席に伴い、代替イベントを開催。
制作中の新作『武田家滅亡(仮)』のプロトタイプの音源を一挙公開!皆さんでミックスしながら、アルバムの方向性を決めていきます。
■日時:2018年2月18日(日)15:30~
■場所:ディスクユニオン 新宿日本のロック・インディーズ館
http://diskunion.net/shop/ct/shinjuku_jp
■出演:高木大地、稲益宏美(金属恵比須)
JPRG RECORDS presents ExProg×078
■公演日:2018年4月29日(日)
■会場:神戸チキンジョージ 078-332-0146 神戸市中央区下山手通2-17-2-B1
■出演:荘園、Quaser、KADATH、金属恵比須
■主催 JPRG運営委員会×CHICKEN GEORGE
■共催 078KOBE実行委員会 https://078kobe.jp/
※詳細後日