不思議な数字9にまつわる、親子の愛の物語 『ルイの9番目の人生』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第四十四回
(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
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今回は、アレクサンドル・アジャ監督最新作『ルイの9番目の人生』を紹介する。なんだか強そうな名前のアジャ監督を私が知ったのは、4大フレンチホラーのひとつと名高い監督作『ハイテンション』(03)がきっかけだった。同作は単純にゴアゴアな血まみれホラーとしても素晴らしかったが、シンプルなストーリーの末に待ち構えている、最後の大どんでん返しには驚かされた。そんなアジャ監督の最新作『ルイの9番目の人生』はホラーではないが、やはり最後まで一瞬たりとも見逃せない作品に仕上がっている。
難産の末に生まれた少年・ルイは、毎年大きな事故に遭い生死の境をさまよってきた。
母親のナタリーは「猫の命は9つある」ということわざを引用し、8度も死にかけた息子に、“最後の命”を大切にするよう伝えるが、ルイは9歳の誕生日に崖から転落し、昏睡状態に陥ってしまう。一方、ルイのカウンセリングを担当する医師のパスカルは、彼を救う手立てを探す内に、悪夢に悩まされるようになる。やがて、ルイの父親は行方不明となり、母親のもとに差出人不明の警告書が届くなど、次々と不可解な出来事が起こり始める。
ファンタジー、サスペンス、そしてクリーチャー 謎解きだけに終わらない魅力
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昏睡状態のルイによるひとり語りで話が進んだり、担当医のパスカルとルイが夢でつながったり、その夢の中に水びたしのクリーチャーが出てきたりするので、本作にファンタジックな印象を受けるかもしれない。しかし、ファンタジー要素だけではなく、ルイの謎に迫る、サスペンス的な展開も見せてくれるのが、本作の魅力のひとつだろう。肝心の「なぜルイは何度も死にかけるのか?」「誰が崖から突き落としたのか?」といった謎の答えが、明かされる前にわかってしまう人も多いのではないかと思う。私も途中で「こういうことかー」と勘付いてしまったが、本作は謎が解けたらハイ終わり、という単純な作品ではない。むしろ謎が解けてからが本番なのだ。
親子の深い愛に涙する
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よく、「子どもは親を選べない」などと言うが、実際大体の子どもは、どんな親であっても親のことが好きなものである。主人公であるルイも両親のことが大好きで、もちろん両親もルイのことをとても愛している。ルイと両親の、互いの愛を感じれば感じるほど、観れば観るほどに切なく、苦しくなってゆく。私はまだ子どもを持った経験がなく、親の愛を重荷に感じながら幼少期を過ごしたので、終始ルイに気持ちを重ねて観ていた。親の立場で観ても、子の立場で観ても、それぞれ感ずるものがあるのではないだろうか。
ルイが親に求められているものに気づいてしまったからこそ生まれてしまった、ルイが何度も死にかける理由と、それでもルイが死ななかった理由。私がこれら2つの答えにたどり着いたとき、「あれは巧妙な伏線だったのか!」と、驚かされた。ルイの語る言葉の中に存在するその伏線は、意味がわかると涙が止まらなくなるはずなので、ぜひ彼の言葉に、注意深く耳を傾けて観てもらえたらうれしい。
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キャストのなかでは、特に父親役のアーロン・ポールのお芝居に注目してほしい。私の中では、『トリプルナイン 裏切りのコード』(15)や『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15)に出演していた童顔の俳優という印象があり、父親役というのが意外だったのだが、ルイの気持ちを誰より理解し寄り添っている、深い愛情を持った父性を見せてくれた。
本作のタイトルにも含まれている9という数字は、様々な意味を持つ。日本では「九死に一生を得る」ということわざが知られているし、中国では縁起のいい数字と言われている。エンジェルナンバー(占術の類)の9は、周期の終わりと始まりを意味すると言われていたりと、何かしら特別な意味を持つ数字として挙げられることが多い。
はたしてルイが最後に選択した9番目の人生は、一体どんな意味を持つものになるのか。
『ルイの9番目の人生』は公開中。
映画『ルイの9番目の人生』