吉田兄弟の吉田良一郎率いる和楽器のグルーヴがうなる新・純邦楽ユニット「WASABI」のとんでもない音に迫る
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WASABI
津軽三味線で有名な吉田兄弟の吉田良一郎の呼びかけにより、尺八の元永 拓、太鼓・鳴り物の美鵬直三朗、箏・十七絃の市川 慎で構成される新・純邦楽ユニット「WASABI」其の活動はグローバルに世界中から、はたまた学校を巡る学校公演に加え、一般公演、舞台音楽制作など、さまざまなステージを展開してきた。邦楽と呼ばれる和楽器を使った音楽もここ近年では注目を浴びるようになってきたが、和楽器音楽とその他の楽器を融合させ、別の音楽にするクロスオーバーではなく、それぞれが圧倒的スキルを持つ和楽器奏者たちが、和楽器だけで新たな世界を創造、他の音楽を表現するというのは彼らだけだろう。そしてこの度渋谷のカフェにて公演を行うことが決まった彼らに話をきいた。
WASABI
吉田兄弟と差別化をしたいと思って
――WASABIは2008年にまず、津軽三味線の吉田良一郎さんの呼びかけで、太鼓の美鵬直三朗さん、尺八の元永拓さんという同世代の3人で結成し、小・中学校を回り、若い人に和楽器の素晴らしさを伝える活動をしていました。2010年に箏の市川慎さんが加わり、今の形になりました。
吉田:吉田兄弟が10周年を迎えたあたりで、学校公演を回りたいという気持ちが強くなって、せっかく回るのであれば津軽三味線だけではなく、和太鼓、尺八、箏という日本のメジャーな和楽器を揃えて回りたかった。とにかく若い人たちに、和楽器の素晴らしさを知って欲しかったんです。
元永:紋付き袴で行く事もありますが、やっぱりその時は近寄って来ない(笑)。でも今日のようなカジュアルな格好で行く事もあって、その時はみんな近寄ってきてくれて、受け止め方が違うようです。
吉田:そこはすごく考えています。個人的には吉田兄弟と差別化をしたいと思っていて。吉田兄弟の時は必ず着物と三味線なので。やっぱり生徒と同じようにカジュアルなスタイルで行くと、反応が全然違います。
元永:親近感が圧倒的に違いますよね。
元永拓、吉田良一郎(WASABI)
――高校でのワークショップも、ずっと続けているんですよね。
元永:そうです。一年目は1校だけしか呼ばれなくて(笑)。
吉田:で、二年目に2校になって(笑)、3年目から一気に増えて行きました。今までで一番感動したのは、ある高校で演奏を終えて楽屋に帰ったら、女子生徒が興奮して来て、「感動しました!カッコよかったです!今度どこでライヴやるんですか」って言ってくれて。和楽器の良さ、自分がやりたい事が伝わっているのが嬉しかったです。やっぱりオリジナル曲にこだわっているのが大きいと思う。古典、民謡をそのままやっても伝わりにくいので、WASABIの曲はAメロ、Bメロ、サビというポップスと同じ作りで、聴きやすいと思います。そこも考えて作っていますが、でも古典のフレーズ、その楽器ならではの部分も、ちゃんと入れていて、そこが僕達の武器だと思います。
――市川さんが合流するのは2年後ですが、吉田さんが理想とする4人がようやく揃って、初めて音を出した日の事は覚えていますか?
元永:まず合宿をしました(笑)。
吉田:市川君に、「何曲かWASABIの曲に、箏を入れてきて欲しい」とリクエストして、作ってきてもらい、そこで初めて音を出しました。その時、さっきも出ましたが、本当に曲が魔法がかかったように輝きはじめて、感動しました。すごく聴きやすくなるし、今まで聴いた事がないテイストの曲になりました。
元永:色が足される感じですよね。
――これまでのライヴ映像を観ていると、4人が本当に楽しそうに演奏しているのが印象的で、お客さんはもちろんですが、自分達が作り出すグルーヴを自分達が一番楽しんでいる感じが伝わってきました。
吉田:和楽器というとどうしても敷居が高いものと思われがちで、でも僕はクソ真面目にやるのはもう違うと思っていて。やっぱり楽しいんだという事を伝えていくべきだと思っていて、例えば三味線を始めました、でも笑顔はダメ、これはダメ、あれやっちゃダメ、こういう風に弾くべきだとか、そういう“しきたり”みたいなものがあるのは確かなんです。でも音を楽しむ、楽しく演奏するという、音楽に原点に返って欲しいという思いが強いです。
普通のバンドと同じです
吉田良一郎(WASABI)
――この4つの楽器の音がひとつになった時のグルーヴって、他のバンドにはないグルーヴです。
吉田:そうなんです、和楽器ならではのグルーヴなんです。和楽器だけでバンド、というのはちょっと前までは考えられなかった。
美鵬:このバンドでは、太鼓がフルで音を出すと、他の楽器の音が聴こえなくなってしまうので、そこが洋楽器のバンドと異なる部分です。普通のバンドはボーカル、ギター、ベース、ドラムという編成が多いですが、そんなに音のレンジは変わらないし、意識しなくてもバンドサウンドになります。でも和楽器だと、箏は室内音楽から始まったもので、太鼓は楽器以前に陣太鼓のように外で情報を伝える役割のものという感じで、楽器のそもそもの成り立ち、用途が違うものが集まったバンドという部分も、面白いところだと思います。
――オリジナル曲を作る時は、どうやって作っているのでしょうか?
元永:メンバーそれぞれで作り方が違います。私は全部のパートのスコアを書くのですが、それぞれの楽器によってスコアの様式が違って、数字だったり記号だったり、共通するのがいわゆる五線譜に書く楽譜なんです。
吉田:僕は三味線で自分のメロディは全部作って、あとはみんなに丸投げです(笑)。
元永拓(WASABI)
――それでセッションしながら作りあげていくのでしょうか?
吉田:そうです。そこは普通のバンドと同じです。
元永:私は尺八から出てくるメロディを、そのまま三味線にも弾いて欲しいと思ってスコアを書きますが……。
吉田:え、これ弾けないよ、楽器的に無理だよ、というところがよく出てきます(笑)。
元永:「あり得ない速さだ」とか「叩きにくい」とよく言われます(笑)。それは私が高校の時にメタルが好きで自分でもやっていたので、その名残りです(笑)。だから速弾き、複雑な構成が大好きで、プログレ、メタルへの憧れです(笑)。
吉田:僕達は和楽器といいながらも、実はジャンルがわかれています。僕と鳴り物の(美鵬)直三朗君は「民謡」で、元永さんと、箏の市川さんは「古典」なんです。その二つのジャンルが一緒にやる事は以前はほとんどありませんでした。
――作品を出す事が決まったら、全員で曲を書いて、それをまた全員で吟味して採用、不採用を決めているのですか?
吉田:そうです。そこもバンドと同じです。ライヴだけにこだわって作る事もありますし、眠っている曲達もたくさんあります。
元永:最近は朗読劇も増えてきていて、ストーリー、セリフに合わせて音を生でつけていくのですが、そのために書き下ろす事もあります。
――色々なスタイルで、色々な音、楽器ともコラボレーションできるのも強みですね。
吉田:よく「どんな楽器とコラボしたいですか?」と聞かれるのですが、お互いが歩み寄れば、僕はどんな楽器ともコラボできると思っています。箏と津軽三味線なんて、歴史的にも一緒にやる事はなかった。雅な箏と荒々しい津軽三味線が交わる事は考えられなかったのですが、僕にとってはそんな事は全く関係なくて。箏が出せるコード感は、単音楽器の津軽三味線には出せないので、箏があるだけで音が生まれ変わります。
だから心から笑顔で演奏できるんです
WASABI
――WASABIでは海外でも評価が高いですが、これからも国内、国外両方を視野に入れた活動というのが基本になりますか?
吉田:日本の音楽を世界に紹介したいので、海外は攻めていきたいですし、日本での学校公演もどんどんやっていきたい。でも、日本での反応と海外での反応の違いを経験すると、やっぱり刺激になります。こちらが盛り上げたら盛り上げた分だけ会場が盛り上がって、その点日本はクールというか、おとなしいです。インドでライヴをやった時も、どこかのビッグスターが来たんじゃないかと思うくらい、凄い盛り上がりでした(笑)。
美鵬:勘違いしそうでした(笑)。
元永:その興奮冷めやらぬ中、日本でライヴをやると、その差にあれ?って一瞬思いますが、「あ、でもこうだった」って正気に戻るという(笑)。
吉田:そういう意味で、海外にはもっと可能性があると思っています。
元永:インドや東南アジア諸国は、人口の比率が圧倒的に若い人が多いので、ライヴのお客さんもみんな若くて、盛り上がるというのはあると思います。日本でも若い人がもっともっと来てくれるようになると、海外のようなノリになると思います。
吉田:学校公演をやると、終わった後生徒がすぐTwitterで「教育の一環で和楽器を経験する会だと思っていたら、なんかライヴハウスでライヴを観ているみたいだった」と呟いてくれたり、少しずつですが広がっていると思っています。
元永:確かに「芸術鑑賞」ってタイトルでした(笑)。
吉田:吉田兄弟で海外に行った時も、全然盛り上がらなかったり、お客さんが途中で帰ってしまったり、苦い思い出はたくさんあって、それは全体の構成やいいオリジナル曲が必要だったり、聴かせ方をもっと考えなければいけないという事を学びました。その経験が、今、若い人達に伝える時に、役に立っています。
吉田良一郎(WASABI)
――海外だからといって、どこか日本の伝統を押し付けていたのでしょうか?
吉田:そうです。これが日本の伝統だから聴け!みたいな感じだったのだと思います。そこでの経験があって、今があります。オリジナル曲の作り方もそうですし、バンドに興味が出てきた時も、ドラムは太鼓、ベースは箏、ギターは三味線、サックスとかリード楽器楽器は尺八と変換していって、他にはない和楽器だけのバンドを作って、海外のお客さんにも盛り上がって欲しいと思って作ったのがWASABIです。
――良一郎さんが吉田兄弟で度々海外に出かけ、そこで得た経験や学んだ事が全てWASABIには生かされているんですね。
吉田:だから心から笑顔で演奏できるんです(笑)。やりたい事ができるので自然と楽しくなって、お客さんにも喜んでもらえます。吉田兄弟は伝統と革新、WASABIは全てが革新的ですが、伝統もいい塩梅で注ぎ込み、全く新しいものを作りあげていくという感じです。僕達はそれぞれの世界の中で、今までしきたりや伝統に抑え付けられてきた部分もあります。もちろん伝統も大切ですが、でもそれだけじゃないという反発もあります。これから和楽器を若い人たちに伝えていくためには、このままじゃいけない、このままではなくなってしまうという危機感があります。
――伝統に胡坐をかいてはいけない、と。
吉田:そうです。新しい事にチャレンジしていかないと、和楽器は残っていかないと思います。
モダンなスペースで和楽器だけの演奏というギャップ
美鵬直三朗(WASABI)
――みなさんカジュアルなファッションですが、やはり佇まいが普通のミュージシャンとは違うといいますか、どこか凛とした空気がありますよね。それこそ伝統が作り上げるものなのでしょうか?
美鵬:普段の生活の中で、粛々と座っているだけの時間ってないじゃないですか。でも和楽器の奏者は舞台に出て演奏して、でも自分のパートではない時は待っている時間も結構あって、舞台上、人前でじっと待っているので粛々とした感じ、凛とした雰囲気はキープしていなければいけません。それが自然と身についているのだと思います。そこが洋楽器と和楽器の違いだと思います。
――今回、3月8日に、渋谷の真ん中のレストランカフェで、ライヴをやる事が決まった時はどう思いましたか?
吉田:実は僕がWASABIを立ち上げた時から、渋谷でライヴをやりたいと思っていました。それは、昔渋谷の公園通りに「ジァン・ジァン」というライヴハウスがあって、そこで伝説の津軽三味線奏者・高橋竹山さんが、若い人を相手にライヴをやっていたという話を聞いて、その意志を継ぎたいという気持ちもどこかにあって。それでWASABIも渋谷で和の音楽を演奏したいと思っていました。それが活動10年を前にようやく実現できます。やはり生の音を目の前で聴いて、和楽器ならではの音の波動を感じて欲しくて、100~200人前後のキャパが理想なので、今回の『eplus LIVING ROOM CAFE&DINING』さんは、僕らが求めていたハコです。
元永:ピッタリの場所です。楽器の特性や雰囲気を考えた時、今までなかなかフィットする場所がなかったというのが正直なところです。若い人たちに聴いて欲しいのはもちろんですが、僕達のお客さん中高年の方も多く、居心地も大事な要素になるので、総合的に見て、最高の場所だと思います。
美鵬:こういうモダンなスペースで和楽器だけの演奏というギャップは、他にはあまりないと思います。
美鵬直三朗(WASABI)
――そのライヴのタイトルが『WASABI LIVE 2018“CHALLENGE”』ですが、“CHALLENGE”に込めた意味を教えて下さい。
元永:今までライヴをやっていた場所とは違うところへ飛び出していくという意味で、“CHALENGE”にしました。
美鵬:ライヴは毎回テーマを考えていて、今回は元永さんが“CHALLENGE”というタイトルを考えて、来年10周年の節目という事もあって、4人共このタイトルがしっくり来ています。
元永:新曲を4~5曲作ってきますよ。
美鵬:できない事を言うのはやめようよ(笑)。去年、初めて台湾・高雄で行われたフェスに出演する機会に恵まれて、そこで各国のバンドが演奏するネイティブな音楽を聴いた時に、メンバー全員すごく刺激を受けたので、その時感じた刺激を、今回のライヴではフィードバックしたいなと思っています。
吉田:若い人達が、それぞれの国の伝統楽器を使って、色々チャレンジしている姿を観て、伝統の表現方法という部分では「やばい、日本負けてる」と思いました。
美鵬:向こうの人は、自分達の国の伝統音楽の捉え方が違います。決して特別なものではなくて、もっと身近なものとして捉えています。
元永:新曲、期待していてください(笑)。
取材・文=田中久勝 撮影=三輪斉史 編集=秤谷建一郎
WASABI LIVE 2018 CHALLENGE
【日時】3/8(木) open 18:30/start 19:30
【場所】eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
e+(イープラス)
一般発売:2/4(日)12:00~
全席指定 ¥4,500(税込、飲食代1フード1ドリンク別途)
※未就学児童入場不可
※お席は相席となる場合がございます。
※当店舗の環境、立地の関係上、周辺店舗の営業状況や催しの内容により、騒音、振動の影響がある場合があります。予めご了承ください。