ハルカトミユキが『溜息の断面図』ツアーを通して伝えたかったメッセージ、その核心は
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ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
溜息の断面図 TOUR 2017-2018 種を蒔く~花~ 2018.2.2 恵比寿LIQUID ROOM
不穏なベースラインがループし場内に緊張が走る。拡声器を持ってフロアの柱に上ったハルカが、世にはびこるゆがんだ価値観への疑問を吐き出す。ミユキも持ち場を放りだし、フロアに向かってダイブ。そして「狂ったふりした凡人ばっか」という歌詞カードにはない言葉が。それは、まさにそこでエクストリームなパフォーマンスを繰り広げている自分たちの存在ごと撃ち抜くような、ハルカトミユキが現代日本に鳴らすパンク。媚びない、寄せない、捉われない。本編最後の「近眼のゾンビ」は、二人が今こそ表現したいことに猛進した気概を強く感じるアルバム、『溜息の断面図』のツアーたるにふさわしい締めだった。
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
セットリストはアンコール含め全19曲。2017年6月リリースの『溜息の断面図』からは10曲。そのあと、この日までに発表された2曲と初お目見えの新曲が1曲。あとは過去の曲だが、いわゆる“代表曲”は「ニュートンの林檎」と「Vanilla」のみ。これまでのライブを支えていた「世界」も「ドライアイス」も、2016年のアルバム『LOVELESS/ARTLESS』をリードする、「DRAG&HAG」や「奇跡を祈ることはもうしない」も演奏しなかった。その理由は“アルバムのツアーだから”ということで片付く話ではあるが、もう少し掘り下げて考えてみる。
『溜息の断面図』の特徴として、ときに激しくときに静かに、サウンドの緩急が生むダイナミズムと、先述した「近眼のゾンビ」のような、ビートやメロディー、言葉の刻みの反復からくるスリルが挙げられる。一発で強烈なインパクトを残せる前者と、そこにしかない時間軸や空気感を創り出し聴く者を覚醒へと導く後者のハイブリッド。ハルカトミユキが新たに手に入れた圧倒的な個性にある魅力を、ライブにおいてさらに一歩前に進めるべく選ばれたのが、この日演奏された過去の曲たちだったのではないだろうか。
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
まずは、ハルカとミユキが2人だけで登場。1曲目は今回のツアータイトルにもなった「種を蒔く人」。アコースティックギター1本、ワンコードのストロークが不安定に揺れるイントロから、生命力に溢れたサビまでの展開が、まさに錆びれた心に撒かれた種が芽を出さんとする瞬間を想起させる。バンドセットでのライブでアコースティックから入るという意外性はあったが、これしかない始まり。そしてバンドメンバーがステージに。 ミユキがキーボードから即興ノイズの如くカオティックな音を鳴らし、アッパーな「ニュートンの林檎」へ。まさに緩急の勝利だ。
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
序盤でフィジカルな盛り上がりを煽ったあとの中盤もまた素晴らしい。誰よりも言葉の力を信じるハルカが近年、より“伝わる”ように、ミニマルな言葉の展開を突き詰めたのであろう、「WILL(Ending Note)」と「LIFE2」。怒りが原動力となった『溜息の断面図』に対するひとつのアンサーとも、ハルカトミユキなりのレット・イット・ビーとも取れる「どうせ価値無き命なら」と、新機軸のバラードにシビれた場内のムードを、「手紙」がさらに塗り替える。レトロなポップスの香りと、隠し味のエレクトロニカやトリップホップ的なアンビエンス、ミユキが奏でる優しい鍵盤の和音や神秘的なコーラス、ギターを置いてハンドマイクで歌い上げるハルカの声と佇まい、すべての要素が見事に溶け合って生まれた感動の渦。映画『ゆらり』のタイアップという前提があったこと、2016年から、ハルカに任せていたソングライティングの半分を、ミユキが担うようになったこともあってのことだろう。フロントマンとしてのハルカのポテンシャルが、奇跡的なレベルにまで引き出された瞬間だった。
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
そして後半、いよいよ『溜息の断面図 TOUR 2017-2018 種を蒔く』と題し、アコースティック編成の「種」と、バンドセットの「花」の2バージョンで回ったツアーの核心に迫っていく。「Tonight」から「インスタントラブ」、80年代ポップ風のキラキラした曲がきて、ハルカが「ここからはハルカトミユキなりの花を」と話しての、ダークな骨太ロック「終わりの始まり」。そのMCが狙いだったのかどうかは定かではないが、多数の人が“花”を感じるであろう前2曲とは対照的な色を持った曲。鈍い音で響く動かないベースラインとともに、社会の構図や人間関係のわずらわしさにメスを入れるメッセージが響き、最後は歌詞にある「キリのない鬼ごっこ」や「逃げ場ないかくれんぼ」に終止符は打てるのか打てないのか、「もういいかい まだだよ」と、お馴染みのかくれんぼのフレーズが繰り返され、かすかな光に照らされた花が見れるよう。アンコール時にハルカが「“花”ってなんなのか、これという答えが見つからないまま。みんなにも訊きたいんだけど……。答えなくてもいいよ、みんな考えてくれてると思うから」と話したことと合わせて、いろいろと思いを巡らせた観客も多かったのではないだろうか。明るく咲き誇るのも花、歪な形をして目の前の虫を食らうのも花、どちらを好むかも人それぞれ。
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
例えば、競争社会を勝ち抜いて富や名声を得ること。ハルカトミユキはそういった“花”ではなく、常にその裏にある犠牲や、その狭義の“花”とその価値観が一般化することで居場所を失われた人の気持ち、すなわち言いたくても言えないことにスポットを当ててきた。巻かれないために、流されないために、向きあうもよし、ときには逃げるもよし。思えばハルカトミユキが我々に与えてくれた“花”は、彼女たち自身の模索であり、成長そのものだったのかもしれない。そんなヒストリーを、どんどん強度とカッコよさを増していく音とともに味わえる。なんて楽しいんだろう。
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
最後にもうひとつ、今回のライブでもうひとつ印象的だったことがある。そのメッセージの強さに反して、MCが実にナチュラル。おそらく、ふだんの二人に近いであろう和やかさがあったことだ。「ありがとう、どこから来たの?」と観客にフランクに話しかけるミユキ、そんなミユキがツアーの“花”にちなんで育てようとしたのが実用性の高いニンニクだったことを話すも、落としどころが見つからなかったのか、ぶっきらぼうに「曲やりま~す」とハルカ。自ら選んだワイルドサイドを抜けてちょっと楽になれたのか、そういった素が垣間見えたことも、“伝える”力が増した要因だと思った。4月からはまた始まるツアーでは、どんな空気を演出してくれるのか。楽しみにしながら春を待ちたい。
取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=上山陽介
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介
ハルカトミユキ 『どうせ価値無き命なら(demo)』【期間限定公開】
1. 種を蒔く人
2. ニュートンの林檎
3. バッドエンドの続きを
4. Sunny, Cloudy
5. FAIRY TRASH TALE
6. 僕は街を出てゆく
7. WILL(Ending Note)
8. どうせ価値無き命なら *新曲/初披露
9. LIFE2
10. 手紙
11. Vanilla
12. Pain
13. Tonight
14. インスタントラブ
15. 終わりの始まり
16. Stand up, baby
17. わらべうた
18. 近眼のゾンビ(extended)
[ENCORE]
19. その花の名前は *新曲
4月1日(日) 16:30 / 17:00 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE(東京)
4月6日(金) 18:30 / 19:00 BL cafe(名古屋)
4月20日(金) 18:30 / 19:00 阿倍野ROCKTOWN(大阪)
4月22日(日) 16:30 / 17:00 福岡ROOMS(福岡)
4月29日(日) 18:30 / 19:00 渋谷7th FLOOR(東京)
4月30日(月・祝) 16:30 / 17:00 渋谷7th FLOOR(東京)
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