串田和美演出『白い病気』で新鮮な顔合わせ! 「世界の権力者の顔が浮かんで身につまされる」(横田栄司)、「生々しいけど、おかしみ満載」(千葉雅子)
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千葉雅子(右)と横田栄司
まつもと市民芸術館が制作し、松本と神奈川芸術劇場でも公演する『白い病気』には、これまで串田和美芸術監督と縁がなかった新鮮な顔ぶれがいる。劇団猫のホテルの千葉雅子、文学座の横田栄司もそうだ。互いに初顔合わせとなる二人に話を聞いてみた。
『白い病気』はチェコを代表する新聞記者で劇作家、絵本や園芸書も手がけるカレル・チャペックの作品。チェコスロバキアにナチスの影が迫る中で描かれた反戦劇。ユーモアや滑稽さの先に、そこはかとない恐怖も漂ってくる。
50歳を超えた人がかかる謎の病気。初期症状は身体の表面に白い点ができるだけだが、やがて身体は悪臭を放って崩壊していく。街に蔓延するこの病気に、とある軍事国家の町医者が治療薬を発見するが、彼は貧乏人しか診療しない。そして軍事国家の独裁者や戦争を推進する大企業の社長にある条件を提示する。今回の演出では、合唱隊が起用される。それは名もない庶民の叫びなのか、あるいは……。
ーー横田さんの串田作品出演はとても新鮮です。やっぱり蜷川幸雄さんの作品に出ていらっしゃる印象が強かったので。
横田 そうですね。僕もうれしかったです。松本の劇場の方、串田さんが僕のことを知ってくださっていたんだなあって。
ーーあえていえば、串田さんは文学座の遠い遠い先輩です。
千葉 そうなんですか?
横田 そう。串田さん、吉田日出子さん、文学座の大先輩なんです。
千葉 存じ上げませんでした。横田さんは今も文学座にいらっしゃるんですか?
横田 今も所属していますよ。
千葉 横田さんは吉田鋼太郎さんとよく一緒にやられているイメージがあります。
横田 蜷川さんの演出作品でご一緒させていただいたり、吉田さん率いる劇団AUNにも出演させていただきましたから。吉田さんは劇団シェイクスピアシアターのご出身で、主宰の出口典雄さんも文学座にいらしたので、芝居の作り方に違和感が少ないです。
ーー串田作品はご覧になったことはありますか?
横田 もちろん拝見しています。20歳過ぎたころは特に、ブレヒト作品を見ていました。沢田研二さん主演の『三文オペラ』とか『セツアンの善人』とか。
千葉 私は学生時代に自由劇場を六本木で見ていて、とても憧れていたんです。同じ劇団の中村まことくんが『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』に呼んでいただいた時は、串田さんとご一緒するというのが事件で、周囲がざわざわしたんですよ。そして去年の『K.テンペスト』にも中村くんが出ていたので、打ち上げにまぎれて、一緒にお話をさせていただきました。そうしたら、このお話をいただけて、勇気を出して参加してよかったなと。でも道は中村くんが開いてくれたのかなと感謝しています。
横田 打ち上げに出るの大事ですよ。
千葉 それありますよね、社交術というか。
横田 演劇を志す若いみなさんに向けて言いたいです、最近は呑まない人も多いようだけれど、打ち上げに図々しくいくのはすごく大事だぞと(笑)。
千葉 話したことのあるのと、全く話したことがないのとでは全然違いますもんね。何かの一歩にはなるかもしれません。
横田 そうですね。
ーーそれでは作品の印象を教えてください。
千葉 本当にこういうご時世ですからね。物語が世の中の動きにすべてリンクするようで、すごく生々しいんです。最初から最後まで。これは全然他人事ではない、数十年も前ではなく今のことだと思いました。そういう意味で、今の自分の思いに結びつけやすい、身近な作品だなと思いました。私が演じるのはとある家族の母親で、やはり白い病気にかかってしまう役です。
横田 千葉さんがおっしゃったことに尽きるんですけど、本当にいろんな権力者の皆さんの顔が浮かんできましたね。書かれた当時のヒトラーや、現在の世界の権力者たち、日本のいろんな方々の顔が。だからとっても新しくて、身につまされる話だと思いました。僕の役は戦争を仕切っている元帥、軍人のトップ。戦争を始めたきっかけであり、推進して自分たちの誇りを守るという大義名分のもとに国民を戦争に駆り立てていく役です。
ーー串田さんとしてはめずらしく直球な作品という気がします。
千葉 まだ、いろいろ試している段階で、もちろん串田さんご自身は見えていらっしゃると思うんですけど、ストレートに行くのか、あるいはユーモアで行くのか、まだまだいろんな可能性を模索しています。
ーー稽古で面白いなと思ったところはありますか?
千葉 およそ1週間ディスカッションしたんです。6時間くらい話す、内容も自由というのは私の経験としてはないことなので興味深かったし、シーンの稽古が始まればアイデアがいっぱい出されるんです。
横田 毎回毎回さまざまな提案があって、前に演じたシーンでも新たに作るのが面白いですね。あまり決めないというか、すべての可能性を残しておくというか。昨日、面白かったのは、巨大病院の医院長が新聞記者を相手に自慢話をしている場面。話を聞く記者は一人だけれど、しゃべる側の虚栄心で新聞記者がだんだん増えていくというカリカチュアなイメージは、串田さんらしい膨らませ方だなあと思いましたね。
松本公演に出演する市民合唱団の稽古の様子
ーーせっかくなのでお互いの印象をお願いします。
千葉 横田さんは頼れる兄貴感がありますね。その姿を拝見していて、頼もしい大人にならなきゃと思います。
横田 千葉さんは穏やかに、そこはかとなく自然さがあります。大森博史さんとご夫婦の役なんですけど、知性的でかわいらしい、きっと千葉さんそのものじゃないですか?
千葉 (笑)ちょっとがんばらないといけませんね。
横田 優しくて理知的で、ちょっと面白い。でもね旦那役さんの大森さんがめちゃくちゃなんですよ。放っておくと、一人でピストル打ちながら歩き回っている感じなんです。まだみんなが様子をうかがいながら、間合いをつめながら、ようやくつばぜり合いになろうかという時に、急に後ろから入ってきて背中から打つような芝居をする。そういう大森さんにのっかっていく千葉さんがまた素敵なんですよ。
(一同笑い)
横田 もしかしたら千葉さんが一番被害を被っていたかもしれない。でも、それをひらりとかわしながら大森さんと新しい空気を作られているのがさすがです。白い病気にかかる人物の中でいちばん悲しいんじゃないかというくらい、気の毒なお母さんですけどね。
千葉 貧乏だったらお医者さんに診てもらえたのに。
横田 大森さんが白い病気にかかっても同情はわかないんです。
千葉 ギリギリ治りそうな旦那さんですからね。
ーー松本の若者(TCアルプ)たちはどうですか?
横田 頼もしいですね。さすが串田さんの考えを汲み取るのが早い。率先して動けるし、彼らを見ていて、なるほどと思うこともあります。
ーー個人的には、猫のホテルの皆さんのように去勢されていない感じが出てきたらいいなと思うんです。
千葉 いやいや、あの人たちは怒られようとしていますからね、わざと。串田さんの稽古場では、怒られようとしてやることが有効だと思えないから、今の感じでいいんじゃないですか。
ーーでは最後に、どんな作品になりそうか、改めて一言ずついただけますか。
横田 劇場でしか味わないような作品になりそうな気がしますね。ぜひ楽しみに劇場に足を運んでください。
千葉 さきほど読んだ第一印象で昨今の不穏な日常を喚起するようで怖いと話しましたが、この芝居自体はおかしみとか、滑稽さが盛りだくさん。串田さんの演出、この多彩なメンバーで、お客さんが率先して楽しめる作品になるだろうと手応えを感じています。
《横田栄司》東京都出身。1994年、文学座研究所入所。1999年、文学座座員となる。舞台を中心に活躍。初舞台は『特ダネ狂騒曲』。劇団外では蜷川幸雄演出作品に数多く出演。最近の舞台作品に東宝『ピアフ』『お気に召すまま』、新国立劇場『あわれ彼女は娼婦』、梅田芸術劇場『バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』、りゅーとぴあ『エレクトラ』、シス・カンパニー『ワーニャ伯父さん』、彩の国さいたま芸術劇場『アテネのタイモン』など。一方テレビドラマへの出演も多く、最近では『真田丸』『逃げるは恥だが役に立つ』『刑事7人』『99.9-刑事専門弁護士-Ⅱ』などにも出演。
《千葉雅子》東京都出身。劇団「猫のホテル」主宰で、作・演出、役者も担当。外部やテレビ・ラジオへの脚本提供も数多い。女優としては、はえぎわ、THE SHAMPOO HAT、阿佐ヶ谷スパイダース、柿食う客、KAKUTAなど他劇団への客演も多い。精力的な劇団活動の一方で、「真心一座身も心も」「千葉雅子×土田英生舞台製作事業」など別団体において幅を広げる。また、落語会屈指の人気を誇る柳家喬太郎と組んでの落語会「きょんとちば」では、新作落語の書き下ろしと古典落語も披露している。
取材・文=いまいこういち
まつもと市民芸術館プロデュース『白い病気』
■原作:カレル・チャペック
■潤色+演出+美術:串田和美
■音楽:寺嶋陸也
■出演:
串田和美 藤木孝 大森博史 千葉雅子 横田栄司
西尾友樹 坂本慶介 大鶴美仁音 飯塚直
近藤隼 武居卓 細川貴司 深沢豊 草光純太 下地尚子(TCアルプ) 合唱隊 他
■問合せ:まつもと市民芸術館 Tel.0263-33-3800
《まつもと公演日程》
■会場:まつもと市民芸術館 実験劇場
■日時:2月23日(金)〜28日(水)
開演時間:24日・25日14:00、26日19:00、27日14:00、28日(水)13:00
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■まつもと市民芸術館ホームページ https://www.mpac.jp/
《神奈川公演日程》
■日程:2018年3月7日(水)~11日(日)
■会場:KAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオ
開演時間:7日・8日19:00、9日・10日14:00、11日13:00
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■KAAT 神奈川芸術劇場ホームページ http://www.kaat.jp/