この時期恒例、名古屋のavecビーズによる北村想の新作公演は、第13弾にして初の外部演出家で!
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avecビーズ『さよならの霧が流れる港町』イメージ写真
北村想の新作は、音楽で彩られた、“亡き人々に捧げるレクイエム”の側面も
劇作家・北村想の意欲的新作を発表する場として2004年に旗揚げして以来、ほぼ年に一度、真冬のこの時期の公演が恒例となっているavecビーズ。今年も新作『さよならの霧が流れる港町』が、まもなく2月22日(木)から4日間にわたって名古屋・丸の内の「損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール」で上演される。
前列左から・二宮信也、小林正和、たなかちさ、スズキナコ 後列左から・中島由紀子、金原祐三子、北村想、加藤智宏
avecビーズの演出家は、初回からしばらくは作家自身が務め、2011年のévolution9『あの、屋上のひと』以降、役者の小林正和が兼任してきたが、今回は「役者としての小林正和を見たい」という北村の希望により、office Parky patの加藤智宏に演出を依頼。
加藤は、プロデュースや演出を行う自身のユニットperky pat presentsで、『DOWMA』(2016年)や『ザ・シェルター』(2017年)など、過去4本の北村作品を手がけた実績を持ち、本作で3年続けての演出となるわけだが、今回は「avecビーズの公演として、劇団側の作品に対するイメージをふまえた上で、どう舞台化するか」という、プロデュース公演とはまた違った観点と心持ちで取り組んでいるようだ。
さて、そんな今作『さよならの霧が流れる港町』は、その名の通り港町を舞台にした作品である。古い倉庫を改築したパブレストでは夜毎、歌手や踊り子、芸人などがステージを繰り広げている。そこへある日、少年とも少女ともつかないコルネット奏者が訪れる。目的は、この店をリサーチすることらしい。やがて、マネージャーのデータファイルが盗まれるという事件が。一方、店の専属タクシードライバーの送迎車では、最近港湾に遮蔽壁が出来たため、道路を迂回しなければならない、という会話が交わされる。壁の向こうでは一体、何が建造されているのか…。
稽古風景より
何やら謎めいたこの作品。興味をそそられるサスペンス仕立てで展開されていくのだが、実は裏テーマがあり、作者は身近な人々のことを描いたのだという。
「今まで私が親しくしていた方々で早生している人が多いので、そういう人たちのことを書こうと思って書いたんです。それが『さよならの…』の意味ですね。そのあとの『…霧が流れる港町』は、語呂がいいから付けただけですけど(笑)。でもそれだけでは芝居になんないから、タイトルの“港町”にまつわる話をくっつけたという感じです。今の演劇は、現代の状況みたいなものを少し放り込まないとダメだと思ってるんですよね。ですから、遮蔽壁の中で何か作っているとか、ポリティカルな部分があります。最後までそれを明かさずに、謎として提出して終わるという風にしてあるんです。書いちゃえばわかるんですけど、書かずにやめて途中で終わってますから(笑)」
この台本を受け取った加藤は、「繋ぎであるとか、ラストをどうするのか、ということがホンの中に明示されてなくて、これはどうすればいいのかな、と(笑)。演出をする時は、いつも構造を考えるんですよね。組み立てをして、この場面がどういうような意味づけでこれがどういう関係性で、と考えていく。それで「こうなっていきますね」という感じで創ってますけど、僕が迷っているところとかは必ずと言っていいほど想さんからスパッと指摘が入ります」と。
一方、ビジュアル的な見せ方についても、台本の段階で書いてあったものを、「加藤さんがこれまで演出した作品は、スタイリッシュなものとか美術的なものを並べたりしているから、それに近い感触の方がいいんじゃないかと推測して、舞台美術をそういう風に直してもらったんですよね。スタッフ会議で照明や舞監とも話し合いまして」
と、北村自ら変更を提案するなど、互いに発展的なコミュニケーションを重ねながら、新たな試みの作品創りを行っている模様。
稽古風景より
そして、公演回数のナンバリングに掲げるévolution(進化)の文字通り、前作『And in the End ~つまり そういうこと~』で、北村の「全員、楽器をマスターしてください」という無茶振りともいえるミッションを2年かけて遂行したavecビーズの面々は、今作でも引き続き、劇中で楽器演奏を披露。稽古を拝見し、その上達ぶりに驚いていると、「前回より格段に上手くなったでしょ」と、北村も満足げな表情を見せた。
また、今回の客演にあたって、魅惑的な歌声も披露する秋葉由麻、ベースを一からマスターしたという二宮信也の奮闘ぶりに加え、北村も歌唱予定とのことなので、こちらも乞うご期待!
北村作品を敬愛するが故に、やや緊張の面持ちで今回の初演出に臨んでいる加藤だが、『ザ・シェルター』を演出した際、「想さんのホンは、あまり演出的に何かやるよりも、そのままやっているうちに戯曲を読んだ時とはまた違うものが見えて来る気がする」と、インタビューで語っていた言葉が思い出される。それが今作にも当てはまるならば、演出作業を重ねた加藤の視界にどんなものが立ち現れ、観客にどう提示してくれるのか、またそれを通して私たちも明かされない結末をどう想像して観るのか、それも楽しみに劇場へ足を運びたい。
avecビーズ『さよならの霧が流れる港町』チラシ表
取材・文=望月勝美
■作:北村想
■演出:加藤智宏
■出演:小林正和、金原祐三子、中島由紀子、たなかちさ、スズキナコ(以上、avecビーズ)、秋葉由麻(フリー)、二宮信也(星の女子さん/スクイジーズ)
■日時:2018年2月22日(木)19:30、23日(金)14:00・19:30、24日(土)14:00・18:00、25日(日)14:00
■会場:損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール(名古屋市中区丸の内3-22-21 損保ジャパン日本興亜名古屋ビル19F)
■料金:前売2,800円 当日3,000円 中高生前売1,500円(avecビーズでの電話予約のみ)
■アクセス:名古屋駅から地下鉄桜通線で「丸の内」下車、4番出口から東へ300m
■問い合わせ:avecビーズ 080-3627-3833
■公式サイト:http://www.geocities.jp/avec_beads/