辻村有記 ソロ名義初のEP「POP」リリース 音源に詰め込んだ想い、そしてステージに懸ける並々ならぬ覚悟とは
-
ポスト -
シェア - 送る
辻村有記
2016年にボーカルを務めていたバンド・HaKUの解散後、サウンドクリエーターとして国内外で才能を発揮してきた辻村有記が、ソロ名義としては初となるEP「POP」を1月31日(水)にリリースした。真っ暗闇に浮かび上がるタイトルが印象的なジャケットの通り、明るくキラキラしただけの単純に“POP”な作品などでは決してない。再びアーティストとしてステージに立つと決めた強い覚悟を示すだけでなく、衝動のままに突き進む挑戦心や遊び心、バンド時代とは異なり一人で背負い歩んでいかなければいけない不安や恐怖といった心の影の部分までも全てをさらけ出た渾身の一枚だ。今回のインタビューでは、今作に込めた想いはもちろん、3月に東京・大阪でのワンマンライブを控える彼に、改めてステージに懸ける想いを語ってもらった。
――先ずは、“辻村有記”として活動を始め、今回のリリースに至った経緯からお聞かせください。
HaKUを解散して個人で活動を始めるにあたって、先ずは“Fox.i.e”という別名義で海外のボーカリストに自分のトラックを歌ってもらうことに挑戦しました。そうすると作ることがとにかく楽しくて、「バンドの頃の様に、自分で歌うことは、もうないな」と思うぐらいに没頭していたんです。だけどやっぱり、作っていけばいくほど、日本に生まれ育ち感じたことを日本語で表現できるはずだと思うようになりました。それから、自分の曲に自分の歌を日本語で乗せてみた曲を、周りの人に聴いてもらったところ「歌った方がいいよ」と言っていただいて……。そこからもう一度、アーティストとしてステージに上がりたいなと思い始めました。だけど、もう一度ステージに立つからには、それなりの「怖さ」も必要だなと思って、自分の本名で立つことにしたのが今作の始まりです。
――「怖さ」というと?
自分の名前が前にあることで、これから起こる全てを自分で受け止めないといけない、そして自分自身をさらけ出していかないといけない怖さですね。その怖さがあって初めて、覚悟が持てると思ったんです。今まではバンドがあって、そのバンドのボーカルとしてステージに立って来ましたから。逆にその外側が無くなってさらけ出さなくなったからこそ、自分の中にたまっていくものすべてを吐き出せるなとも思えました。
辻村有記
――いざ、覚悟を持って再びステージに立ってみていかがでしたか?
また、ゼロからスタートするような感じでしたね。というのも、「今、自分がやってること、やりたいこと」の情報を出さずに、いきなりステージの上でやろうと思ったのでCD音源すらリリースしていない状況でライブをしたんです。バンドの頃のようにギターを持つわけでもなく、たったひとりで全然違うパフォーマンススタイルを観てもらう挑戦には、もちろん恐怖はありました。「上手くいかなかったら、失敗したら、伝わらなかったらどうしよう」って。実際に、バンドの頃のTシャツだとかタオルを身に着けて観に来てくれた人達もいて、当時のような音楽をやると思った人たちもいたとは思うんですけど、だけど「自分がやりたいことはこれなんです。これからの人生をかけて吐き出していくものはこれなんです」と、そのステージで言いたかったんです。外側は変われど、自分は自分なので、ステージ上から新しい曲を披露していくことによって、来てくれた人たちの反応を直に感じながら、「伝わった」という感覚がすごくあって、その瞬間に初めて自分の曲が色づいていったなと思えたんです。今まで独りよがりで画面に向かって音を作っていたのが、「人に届けてこそ音楽なんだ」ということが、当たり前のことなんですけど改めて実感することができました。その時に、その場の勢いのまま「CDを出す!」とステージ上で言ってしまって(笑)。だけど、それを実行に移したからこそ、今作が生まれたんですよね。
――ライブだけでなく、音源を作っていく過程もこれまでとは違ってきたと思います。
そうですね。1人だと最終的なジャッジを下せるのは自分しかいないし、結果を受け止めるのも自分だけでメンバーと分散はできない。そういう面で、臆病になってしまうところもありました。だけど、今までになかった「前に前に」と行動を起こしていくことができるようになったので、そこは一番、自分が変われたかなと思うところです。
――行動を起こすという思いは、今作の「Actions Over Words」に表れていてリンクしますね。
行動は言葉を超えるというか、動いていくことで初めて掴めることもあるなと思うんです。「あれやろうかな」って言いながら、それで終わりになってしまっていたことが多かったので行動に移すのは苦手だったんですけど、不安ながらにライブをやると決めて立ってみたことで初めて次が見えて。「音源を作る」と宣言したのも「急ぎ過ぎたかな……」と思ったりもしたけど、だからこそCDを作ることができた。そういう行動をどんどん起こしていくことで、今の自分があると思うので、そのマインドは忘れないようにやっていけたらと思って作りました。
辻村有記
――この曲はアミューズ所属の若手俳優が出演するイベント『HANDSOME FILM FESTIVAL 2017』の主題歌にも起用されていますね。
そうなんです。それで、神木隆之介さんに歌っていただいたのを聴いて、自分が励まされたんですよね。歌や曲の持っている力を自分自身で客観的に実感できたので、聴いている人達にもそういう風に励まされるような曲になってくれていたらいいなと思っています。
――《まだ何一つやり遂げていないのにって》というフレーズから始まる「Ame Dance」は、《いつまでたっても変わらないことばっかで/いい加減飽きられるんじゃないかって/いつも弱くて/臆病者さ》と歌われるところにグッときました。繊細なサウンドに乗って、とてもエモーショナルな胸の内がさらけだされていて。
ありがとうございます。この曲ができたのを機に、また歌えるかもしれないと思ったんです。なので、その時の雰囲気やナチュラルな心情が一番出ているのかもしれません。
辻村有記
――今作を通して、「本名で活動するからには、吐き出していかないといけない」という覚悟が、どの曲からも強く感じました。
本当に、凄くナチュラルに自分のことを書けるようになったと思います。内面についてもそうですが、シンプルな言葉も沢山使えるようになってきたんですよね。例えば、“愛”なんて、今までは歪めたり遠回しに伝えていたことが、今この歳になって親への愛情だったり友達への愛も分かるようになったからこそ、ようやく言えるようになった。そういう部分は、包み隠さずそのまま出したかったんです。ほんと、とにかく吐き出したかったんです。
――自分自身をさらけ出す、吐き出すというのは、「やりたいことを、まっすぐにやる」ともと思います。今作の中で特に、やりたかったことに挑んだなという楽曲は?
全部、新しい挑戦だったので難しいんですけど、ひとつ挙げるとするならば、ピアニストで鍵盤作家の村松崇継さんと作った「Light」ですね。元々は、『モンストアニメ』のエンディングテーマになった曲で、ロックチューンだったんですけど、今作に入れるに当たって新しい形にしたいなと思って、エレクトロとクラシックピアノの融合が頭に浮かびました。トラックも一式変えて、お互いにせめぎ合って作った結果がすごく上手くいって。「やってみたい、どうなるんだろう」というイメージに挑戦してみた結果、自分自身のこれからの新しい道を照らしてくれたような、今までにない楽曲になったなと思います。
――緻密にサウンドメイクされた楽曲ばかりの中で、タイトルが「POP」とシンプルなのが面白いですね。
“POP”という定義が「側にあるもの」だったり「流行・旬」という定義だとするなら、音楽が大好きで、ジャンル関係なく聴いてきたロックやヘビメタ、ジャズにゲームミュージックなど、僕の中では全てに“POP”という言葉が当てはまります。そういう“POP”な音楽は、自分の気持ちを代弁してくれたり、ぐちゃっと酔わせてくれて、他にはない逃げ場所でもあったし光でもあったから、今作を聴いた人も同じように感じてもらえたらと思ってつけました。
辻村有記
――そんな新作を引っ提げて、3月15日(木)には大阪・北堀江club vijonで、19日(月)には東京・渋谷Starloungeでのワンマンライブが決定しています。
ここで伝えないと意味がないなと、正に実感しているところです。「なんで自分の名前で音楽をやっているのか」といえば、「それは伝えたいことがあるからだろ」って。「これが“辻村有記”の音楽だ」と、言ってもらえるようなライブにしたいなと思います。もうこれ以上にないとさえ思ってるぐらいの覚悟でいます。因みに、今回は生ドラムと二人でやるので新しい体験をしてもらえるはずですし、音源とライブの違いも楽しんで欲しいですね。とにかく、伝える。そして衝撃があるようなライブにしたいです!