さユり インタビュー 己と向き合い他者と向き合い歌う“これからのこと”――酸欠少女の第2幕は何を生むのか

2018.2.27
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音楽

さユり 撮影=菊池貴裕

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アニメ『Fate/EXTRA Last Encore』のエンディングテーマとして2月28日にリリースされる、さユりの6thシングル「月と花束」。デビューから約2年を経て世に放った1stアルバム『ミカヅキの航海』以降、初の音源リリースとなる今作は、さユりが第2幕ともいうべき新たなステージへと向かった記念碑的な作品となっている。アルバムのリリースとツアー、過去最大キャパでのワンマンライブと歩みを進める中で、彼女はどう変わったのか。今、何と向き合うのか。
表題曲「月と花束」をはじめ、自身と向き合うことと他者と向き合うこと、表裏一体な双方の視点から生まれたという収録曲たちが映し出す、さユりの現在地とは。


■初めて、自分と向き合うことを自分で選んでみた

――アルバム『ミカヅキの航海』とその後のツアーや先日の東京ドームシティホールでのワンマン、何かアクションがあるごとに、さユりさんの存在と楽曲が着実に広がりを見せていったわけですが、ご自身の実感としては何かありますか。

自分自身の中で初めて変化を感じましたね。デビューをしてからいろいろな事があって、でもそれは変化というより進んできたような感覚だったんですけど、初めてアルバムを作り終えてお客さんに届いたところで、そこにようやく一区切りがついた感覚はあります。進むところまで進み切ったような。
アルバム自体は今までの自分の、10代からハタチまでの集大成みたいなもので、それが航海、船だったんです。デビューからアルバムまでは、気づいたら船に乗っていて、その中で曲を作って音楽をして、自分が抱えてきたものをどこかに辿り着かせなきゃいけないっていう気持ちでやってきて。自分と向き合う作業によって誰かとつながれたことに気づけて、アルバムとツアーでひとつ完結できたように感じました。

――進む、という言葉がありましたけど、これまでは何か明確な目的地があってそこを目指していくような感覚とは違っていたわけですよね?

そうですね。気付いたら船に乗っていて、風があれば進んでいくけど、ここに行きたいっていう場所があるわけじゃなくて、とにかく船を漕がないとっていう。

――今となっては「自分はここへ向かっていたのか」みたいな気づきはありました?

アルバムを出し終えてからある段階のときに、結果的に陸に着いたことに気づいたんです。もう陸に着いていて、波もなくて、船から降りてたんですよね。そこで、その先自分はどこへ行ったらいいんだろう?っていうことを考えて。

――アルバムに大きな反響があったことを受けて、自分の中で創作へのハードルが上がったとか、そういう感覚は?

ちょうどアルバムを出し終えた状況でアニメ(『Fate/EXTRA Last Encore』)のお話をいただいて、そのテーマが人と関わり合うこと、他者との関係の中で生まれるもの、みたいな内容で。そこで他者という存在と向き合うきっかけをもらったときに、新たなやるべきものが見えたというか、そこから自分がどう進んでいくかが見えてきたんです。だからハードルというよりも、新しい地点から作り始めました。

――「平行線」や「十億年」当時にも、さユりさんの中に“他者”という存在が生まれ始めているというお話をしたことがありました。そのときともまた違った感覚ですか。

そうですね。そのときは、自分と向き合うことが結果として誰かとつながる行為だったっていう気づきだったんですけど、今回明確に違うのは、最初から「他者と向き合ってみてください」っていう状況に置かれて、他者と向き合うということを考えた結果、自分と向き合わないといけないって気づいた。そこが大きく違います。

――つまり主従関係が逆になったと。奇しくも作品のテーマと、おそらくこの先のさユりさんが向き合う必要があったこととが一致したわけですね。

最初はすごく遠かったんです。アニメの主人公と、主人公のために戦うキャラクターがいたりして、誰かのために自分を使って戦ったりする中で生まれる“光”みたいなものがこのアニメの魅力だなと思って、その主人公のために戦うセイバーの信念に何か惹かれるものがあったから、なんで惹かれるんだろう?ってその正体を暴いていく作業でした。

――能動的に他者との関わりを意識したということ、進行方向を決めて自分で歩いていくというスタンスの変化。きっとアルバム以降の第2幕で大きく変わった点はそこですね。

はい。船に乗っているときは嫌が応にも自分と向き合わなければいけなかったし、そこに選択肢はなかったんですけど、今度は陸に降り立って人がたくさんいる中で向き合った自分っていう……初めて、自分と向き合うことを自分で選んでみたっていう感覚です。

さユり 撮影=菊池貴裕


■自分がこういう容姿で、こういう性格でいる意味

――音楽的には今作で何か変えたこと、変わったことがありました?

曲の作り方自体はそんなに変わってないと思います。置かれている状況が変わったぶん、中身の、歌詞だったりは(変化が)あります。

――「月と花束」の<使い慣れた夢を離れ君は  たった一人きりで  本当の季節や色を知ってゆく為楫を切った>という一節あたりに顕著ですけど、全体として変化や前に進む感覚と、それを自分自身に宣言するような意志を感じました。

今まで、「自分の見つけてきたものはこうでした」っていう歌詞だったんですけど、今回はこれからのこと――「わたしはこう生きてみます」っていう、そういう書き方ではありますね。それは今までにない書き方だったと思います。
今回は初めて人の中にいるっていう感覚で作って、人の中で向き合う自分っていうのはものすごく怖かったし、最初は意味がわからなかったんですよね。人の中で生きるってどういうことだ?とか、他者と関わり合って生きる意味ってなんだろう?とか考えたときに。
で、生きる実感を得る為には、やっぱり自分が自分として生きてる意味に立ち返って、自分がこういう容姿で、こういう性格でいる意味。そこと向き合って。自分を持っていかないと他者と関わる意味がないし、そこで生まれるものが世界を作っていることなんだっていう、その実感を得たい思いで作りました。

――冒頭でお話ししたような自覚する変化も、この楽曲を作っていく中でだんだんとクリアになっていったことが多そうですけど、制作時期自体はいつ頃だったんですか?

去年の6月頃からです。

――じゃあ、その後のツアーや追加公演はこの曲を作り終えた状態で行われたわけで、ある意味では人と向き合うこと、人の中で生きていくことへの答えを持っていった、その答え合わせみたいな場でもあったと。

答え合わせ……でも、全国ツアーをしてるときにはあまり自覚的ではなかったんです。こういう歌詞ができた意味とか、自分で書いたにも拘らず、その意味をそこまで深く感じ取れていなかったんですけど、そうやってライブをしていく中で、「これってこう進む為の、こういう意味だったんだ」っていうことがだんだん分かってきたというか。……そうですね、そういう意味では答え合わせだったかもしれないです。

――これまでの曲とこの曲、歌詞を並べてみるとかなり大きな違いがありますよね。

はい。

――だけど、初めて聴いたときに違和感がない。ということは、向き合うべくして今向き合うテーマなんだろうし、こういう曲が生まれるべくして生まれてきたという気がします。それと、歌い方。特に出だしの部分にかなり生身の感覚を感じたんですよ。これまで以上の人間らしさというか。

二本足で立って、目の前に人がいる中で歌っているという感覚は、確かにありました。あとは“こういう風に生きてみる”っていうメッセージが歌にも出ているかなって思います。


■共感してもらったり理解し合えることがゴールじゃないんだ

――その表題曲以外は盤によって違ったカップリング曲が収録されますが、まずは初回生産限定盤の「平行線」、これがまた良くて。一曲目の生々しさとは対照的に、原曲と比べてイノセントな魅力を感じました。曲のメロディの良さもあらためて知れたし。

ありがとうございます。もともと前回のシングルを弾き語りで収録するっていうのはデビュー以来やってきてるんですけど、結果的にメッセージとして重なる部分もあったと思います。

――既存曲でいえば、通常盤には「プルースト」が入ります。この曲がバンドアレンジで音源になるのは初ですね。ライブではお馴染みですけど。

(過去の収録時は)弾き語りだったので、初ですね。基本的にはライブでやっているのと同じアレンジで。

――今回新たに生まれたカップリング曲に関しても聞きたいんですが、「日向雨」はポップスとして非常に強度の高い曲になっていますね。歌詞では詩人っぷりも発揮されて。

今回のカップリングは、「レテ」(期間生産限定盤収録)もそうなんですけど、「月と花束」ができてから作った曲なんです。他者と向き合うことで「月と花束」ができて、今まではそう自覚的ではなかったですけど、やっぱり自分の中で抱えてきたことを外に出したら共感してもらえるって、どこかで思いながら作ってたのかなって思ったんですよね。
でも、共感してもらったり理解し合えることがゴールじゃないんだって思って。そういう思いからできた曲なんです。だから「日向雨」は、分かってもらえないことってあるよね、それが大事だったりするよねっていうことを日常に落とし込んで作った曲だし、「レテ」の方は、「月と花束」で“選んでみること”や“選んだことの正しさ”を歌っているけど、それで良かったの?っていうことを、ギリシャ神話のモチーフを借りて歌ってみたり。
分かってもらえない部分とか、さっき言ってもらった<使い慣れた夢を離れ>の、今までのやり方ではない部分、その裏を大事にしてみたいっていう思いで作った2曲です。

――ある意味ではこれまでの創作スタイルに近いというか……いや、でも結局は「分かり合えないことがある」っていうことを、人に対して歌っているわけですもんね。

そうですね。今までは人の中に入ることもしてなかったから、そもそもわからなかったんですけど、人と関わる中で、そこに飛び込んでみたときに気づいた思いを、自覚的に書いてみたっていうか。

――他の人もそうなんじゃないか、そういう人に届けばいいなとか、そういう意識はあります?

根本の部分では思ってるんですけど、それよりも、自分の中のあらためて自覚した部分を大事にしなきゃいけないっていうことを、「月と花束」を作ったことでより感じたので。

さユり 撮影=菊池貴裕


■もらったら自分のものにして、また返すっていう選択肢ができた

――これらの楽曲群を作り終えた今現在、そしてリリース後の展開に関しては、どんなことを考えてますか。

すごく、ライブをやっていきたいなっていう気持ちでいますね。全国ツアーと、そのあとに東京ドームシティホールでやったこの前のライブが、結構明確に違っていたんです。前は“1対みんな”みたいな感覚があって、自分が持ってきたものを渡して帰るみたいな、そんな感じだったんですけど、東京ドームシティホールのときは終わったあとに少し違ったんですね。ライブをしながら“もらう”ことができたというか、お客さんからもらったものをその場で自分で受け取って返すような、少しそういう感覚になれたんです。それは自分の中で海と陸っていうイメージを持ってやれたからっていうこともあるかもしれなくて……陸にいる、その場にいる人とわたしとの関係の中で、もらって、それを燃料にして返すみたいな。すごく豊かだったんですよね。そういう中で歌える歌があるんだなって気づいて。

――使い古された表現ですけど、“ライブはキャッチボールだ”とかいうじゃないですか。そういう感覚に近いですか。

ああ、そういうことなのかなぁ。うん、そうですね。今までももらってきたんですけど、もらったものを抱え込むことしかできなかったんです。「大切にしなきゃ」って思って抱えて、それしか大切にする方法を知らなかったんですよね。一番わかりやすいじゃないですか、人から何かもらったときにすごく大事に取っておくって。

――そうですね。

それをずっとやっていたら、もらったものが増えて、自分の大事なものがわからなくなってきたりもして。そのときに自分を大事にしようって考えたら、「月と花束」でいうところの“焼べる”――燃料にするっていうことを覚えたんですよ。もらったら自分のものにして、また返すっていう選択肢ができたので、それがキャッチボールなのかな。

――そういう関係っていうのは、心のどこかで望んでいたものですか? それとも実際にそうなってみて悪くないなという感覚なのか。

望んでたのかな……考えたこともなかったんですけど、でも自分が好きなものを好きって言ってみたいというか、今までは世界が与えてくれるものをもらうことで自分を広げていく作業だったんですけど、そういう段階を経て、そこから何かを選びとって「自分の好きなものはこれです」って言ってみたいっていう気持ちは、どこかにちょっとあったんだと思います。

――「好きなもの」を伝える術の一つが楽曲であり、もっと直接的に手渡せるのがライブで、だから今ライブがやりたい。きっと今は、ライブが楽しみに思えてますよね?

楽しみです!  それは大きい変化ですね。わたしのライブって、分かりやすく盛り上げたりとか、みんなで同じことをしたりしないのですが、この前のワンマンは、ライブに来てくれる方が一人一人のやり方で楽しめる空間だったと思うので、ライブをしながらそれをもっと深めていけたら良いなって思います。


取材・文=風間大洋 撮影=菊池貴裕

さユり 撮影=菊池貴裕

リリース情報

6thシングル「月と花束」
2018年2月28日発売

初回生産限定盤

《初回生産限定盤》CD+DVD
  CD
  1. 月と花束
  2. 平行線-弾き語りver,-
  3. 日向雨
  DVD
  月と花束 MV(フルレングスver.)
《特典》
  ①全面箔三方背BOX仕様
  ②酸欠少女キャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
  価格:¥ 1,574+税
  BVCL-857〜858
 

期間生産限定盤

《期間生産限定盤》CD+DVD
  CD
  1. 月と花束
  2. レテ
  3. 月と花束-アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」EDver.-
  DVD
  アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」-ノンクレジットED映像-
《特典》
  ①「Fate/EXTRA Last Encore」描き下ろしアニメジャケットデジパック仕様
② アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」キャラカード2種封入
  価格:¥ 1,481+税
  BVCL- 860〜861
 

通常盤

《通常盤》CD
  1. 月と花束
  2.  プルースト
《初回仕様限定 特典》
  酸欠少女キャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
  価格:¥926 +税
  BVCL-859
 
  ※ c/wは3形態全てで違う楽曲を収録
 
【さユり「月と花束」特設サイト】
http://tsukitohanataba.sayuri-web.com
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