BIGMAMAインタビュー メジャーへ“引っ越した”彼らが、最新作で自由に遊べたワケとは
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BIGMAMA・柿沼広也、金井政人 撮影=高田梓
メジャーデビューという代わりに“引っ越し”という表現で、BIGMAMAの次のステージが開幕する。ユニバーサルミュージック移籍第一弾シングルは、ドラマ『賭ケグルイ』主題歌「Strawberry Feels」をリード曲に配した、バンドの新しい名刺代わりとなる3曲入りだ。バイオリン+ロックバンドというアイデンティティに立ち返った、スピード感みなぎるサウンドにキャッチーなメロディ、知的にねじれた歌詞と繊細な歌声という、確固たるスタイルから放たれる絶対の自信作。昨年10月の武道館公演を経て未来へ突き進む、BIGMAMAの現在地についてボーカル&ギターの金井政人、ギター&ボーカルの柿沼広也が語ってくれる。
――武道館のMCで、「下北沢から青山に引っ越します」という、名ゼリフがありまして。
金井:迷ってるほうですか?
――いや、迷ゼリフではなく(笑)。あれはすごく印象的でしたね。単刀直入に聞きますが、引っ越しって、いつから考え始めたんですか。
金井:えーと、HY+BIGMAMAの時にはもう、試用期間には入ってました。それが具現化するまでに、さらに半年以上前に話があったと思うので、それぐらいのタイム感だったと思います。
――つまり2015年頃から、すでに準備は始まっていた。
金井:はい。大きな枠組みで言うと、ユニバーサルと一緒に仕事をしたいというふうに(事務所が)提案してくれて、そのひとつ前の段階としてHYとこういうチャレンジがあるよ、ということだったので。ホップ・ステップ・ジャンプで言うと、ホップとステップが、ちゃんとそこにはあったのかなと思います。
柿沼:インディーズでずっとやってきて、顔が見える人たちと一緒にやっていた中で、いきなりメジャーに行く時に、メジャーの人たちのことを感じておいたほうがいいと、ボスが考えてくれていて。見た目はHYとBIGMAMAが一緒にやっている形でしたけど、同時にユニバーサルとも一緒に作っている感じでした。
――ああ。そういうことでしたか。
柿沼:でも、やってみてすごく面白かったし、このプロジェクトがどうやったら広まっていくのかを、みんなで考えていたので。すごく真剣な人たちだなということが僕らにもわかって、すごくいい時間をいただきましたね。大きい会社だから、全員とはいかないことはわかってるんですけど、近しいところに信頼がおける人ができたというのは、すごく大きかったです。
BIGMAMA・金井政人 撮影=高田梓
――そもそもの話をすると、リスナーの側から見ると、BIGMAMAって、メジャーデビューという形にはこだわっていないタイプのバンドだと思っていたんですよ。
金井:そうですね。かたくなにメジャーデビューという言い方を嫌がって、“引っ越し”と言うぐらいの人間ですから。
――それが今なぜ?という、率直な気持ちもあるんです。
金井:でもそれはきっとユニバーサルという看板の話ではなくて、あらためて自分たちが、バンドを遊び続けるために誰とやるか、それに尽きると思っていて。遊ぶと言っても、真剣にですよ。それをやり続けるために、関わってくれるスタッフが、たまたまユニバーサルの人だったというだけであって。ちゃんと試す期間もあったし、そこである種の適性検査のようなものがお互いにあった上で、あらためてスタートが切れているので。メジャーデビューというのは結果論であって、そこが目的ではないので、あとはこれを、自分たちでいかに正解にしていくか。
――ですね。
金井:この人たちともっと楽しい仕事がしたいから、メジャーデビューになったということなので、そこは目的ではないんですよ。なので、メジャーデビューという言葉に対しては、ラブな気持ちもヘイトな気持ちも、どっちもないです。ただ、10年やってきたバンドがメジャーデビューしますという、くすぐったさだけはあるんで。それを言い換えられる方法を、ずっと探していました。
――そこで一番重要なのは、自由にやれるということですか。ざっくばらんに言うと、自分たちの思う通りの楽曲を作って、思う通りの活動がしたいと。
金井:もっと自由にやるためでもあったし、でも11年バンドをやってきて、「あなたのやりたいことは何ですか?」と聞かれたときに、もう伝えきってなきゃ馬鹿なんですね。書きたいことを書き終わってないと、頭が悪いんです。「おまえ、11年間何やってたんだ?」という話で、もうやりたいことは一度やり終わってるんです。あとは、ここからどう言い換えていくか、広げていくか、新しいことを更新していくか。そのために、自分の中で方法論を変えていく、手段を変えていく、新しい表現に出会っていくということが、自分のすべきことであって。そのときには、制約があることで逆に自由になったりするんですね。
――ああ。はい。
金井:大喜利のお題をもらうようなもので、それがあるから燃えるということがある。ここから先は、自分の中から湧き出てくるものもちゃんとあるんだけど、一つレールを敷いてもらったほうが、速く走れることもある。提案してもらったことに対して、自分が切り返していくこと。闇雲に答えを探すよりも、いい質問をもらって答えが出たほうが、やりとりとしてきれいに見えるところもあるし、本質を貫けるところもある。だから、人に何か提案されることが不自由だとは、そもそも思わないかな。
――よくわかりました。安心しました。
柿沼:だからこそ、こうやってメジャー1発目の曲を作る時も、お題はあったんですけど、それはガチガチの制約というものではなくて。むしろすごく自由に、まあいつも自由にやってるんですけど、今までよりも広がっていく可能性があるという意味でワクワクして、みんなが挑戦して、いろんなことができたので。いいタイミングで、いい曲ができたのかなと思います。
BIGMAMA・柿沼広也 撮影=高田梓
――「Strawberry Feels」、いい曲ですよ。バンドのルーツであるメロコアも見えるし、クラシックやプログレや、今までやってきたことも全部見えるし、なおかつフレッシュな勢いがある。すごくいい曲だと思います。
柿沼:良かったです。
――これは、ドラマ主題歌のオファーが先ですか。曲が先ですか。
金井:メジャーで1曲目がこういう曲であるべきだなというのは、ビジョンとして何となくありました。ざっくり言うと、バイオリニストがいるロックバンドであるということが、一番先頭になきゃダメだなと思っていて。その中で、差し出してもらったテーマとして、スピード感やスリリングや、そういったキーワードを挙げられたときに、こっちが歩み寄らずとも、BIGMAMAが得意な曲を作ればいいだけだと思ったので。ワンコーラスのメロディとコード進行を持って行って、あとはタイトルに引き寄せられて、みんなが楽器で遊ぶニュアンスが出たのが、かえって良かったなと思ってます。
――楽器、すごいですよ。特に間奏から後半は、思いきり遊んでいるし、バトルしてる。間奏とか、まるで別曲ですよ。
柿沼:そうですね(笑)。その前の部分までできたときに、正直、そのままストレートに行くこともできたんですよ。
金井:そこで「ごめん、俺ちょっと歌詞書いてくるから」って、一回消えたんです。
柿沼:ドラマのタイトルが『賭ケグルイ』じゃなかったら、たぶんあの間奏は作らなかった(笑)。「ちょっとみんなで狂おうか」という、そんなキーワードのもと、俺が狂った感じで進んでいったら、みんな乗ってきて、「リズムを3で取れば、4で割っても、12とか24で会えるね」とかいろいろやっていったら、プログレっぽくなった(笑)。
金井:そこでたぶん、各パートの大喜利が始まってると思うんですよ。ギターがボケたら、ベースがツッこむみたいな。
柿沼:もともとうちのバンドはそういうところがあって、「その歌詞ならこう演奏してみよう」とかよくやるし、逆にバンドサウンドがこうなったから、金井が言葉を変えるということもあると思うんですけど。今回はさらにドラマの『賭ケグルイ』というワードをもらえたので、いい意味で引っ張られて、思っていたよりもいい曲になったんだなという気はします。
BIGMAMA・金井政人、柿沼広也 撮影=高田梓
――金井さん、歌詞は台本を読み込むとか、そういう作業を経て?
金井:ちらっと。原作を読んで、台本を読んで、でもそこから歌詞を拾うことでもないと思ったし、そこに似合う言葉と曲が、ゾーンとしてちゃんと見えていたので。それと、僕はこのシングルをBIGMAMAの自己紹介にしたかったので、歌詞が先に来ないほうがいいと思ってました。ロックバンドであることと、スピード感と、バイオリンとが先に来ることがいいと思っていたので。言葉を立てると、そっちが先に来ちゃうことがあるんですよ。
――ああ。なるほど。
金井:言葉は、一歩遅れていいと思ってました。なので、歌詞はちゃんとリズムに当てに行くけど、それが勝ちすぎないほうがいいと思ってました。もう曲が乗り物として成立していたので、それに乗って、どこに言葉を集めて並べるか。言葉は記号で良かったんですよ。だから食べ物でも良かったし、△と☆と〇でも良かったし、何か一貫性があって、ちゃんと並んでいることが重要だと思ってました。
――それで今回のシングルは、カップリング含めて3曲が食べ物の名前で統一されている。
金井:そうです。それをとトータルでデザインすることのほうが、楽しいかなと思ったので。
――それにスピード感のある、刹那的な言葉が並んでますよね。<潔く汚れなく、散るのなら美しく>とか。
金井:メジャーデビューの曲で、縁起でもないって言われました(笑)。でも、何も気にしてなかったですね。これは最近よくしゃべってるんですけど、ちゃんといい質問がしたいんですよ。自分の答えじゃなくて、いい質問で終わりたい。この曲の場合、“本当の勝者は誰?(who really won?)”がそれで、自分なりのいい質問をすることが、次につながると思っていたので。
BIGMAMA・金井政人、柿沼広也 撮影=高田梓
――ライブで聴くのが楽しみです。
柿沼:この間、25曲のワンマンがあって(2月14日、恵比寿LIQUIDROOM)、この曲を24曲目にやったんですけど、間奏のバトルの前にみんな力尽きてましたね(笑)。でもその日初めて演奏したんですが、ドラマのおかげもあってすごく盛り上がって、お客さんとも戦ってる感じでしたね。BIGMAMAにとってまた一個、いい曲ができたなと思いました。
金井:このフレーズって、たぶんみんな一生懸命で、それぞれの立ち位置で集中して弾いてるだけなんですけど、それで歓声が上がるのはすごくいいなと思っていて。それってすごく音楽的だし、自分たちが演奏していることって、ちゃんとかっこいいんだって確かめられた瞬間でもありました。この曲の間奏を演奏してるときって、我々5人は誰も余裕がないんですよ。すごく集中して、音楽に向かってるんです。それって単純にかっこいいんだろうなって、あらためて思いましたね。
そういうギリギリの余裕のなさって、最近あんまり味わってなくて、年々、気持ち良さや音の良さや、余白みたいなものを大切にするようになってきて、それも正しいと思っていたんですけど、でもそれとは対極にある余白のないもの、余裕のないもののかっこよさが、この曲にはあるなと思うので。初期の曲は、そういうものが多いんですよ。理屈もわからず、発作みたいに作っているから、「なんでこうなったんだろう?」って、余裕のない瞬間もあるんですけど、それはそれできっと良かったんだろうなと思う。無理なことを一生懸命やっていたんだなって、この曲の間奏で追体験するようなところがあって、それがこの前のリキッドルームのライブでつながったところがあって、自分としては再発見でした。一生懸命やってます、と言わないで、一生懸命やってることを伝えることが、そこで自然に起きていたので。それを自分たちの新曲に教えてもらいました。
――素晴らしい。みなさんもう一度、聴き直してみてほしい。そしてカップリング「POPCORN STAR」は、ジャスト2分で突っ走るストレートなメロディック・パンク。
金井:何も考えて作ってないし、誰かにやれと言われたものでもないし、僕が家でギターを弾いて歌って、「とりあえずドラム作ってみて」ってリアドに渡したら、安井がベースを、柿沼がギターも入れてくれて。普段はそこからさらにスタジオで仕上げていくんですけど、この曲だけほったらかしになっていて、それはたぶんもうそれで完成していたから。これ以上動かしようがないし、これ以上長くするのは野暮だし、「これってそういう曲だよね」ということだったんだと思います。
柿沼:最初に金井が持ってきたものが、何で録ったかわからないような遠いアコギと遠いボーカルと、メロディだけあって、でもそこでもう光るものがあったので。リズムもそんなに決めないで、イントロも適当につけて、とりあえず勢いでやってみたら、30分ぐらいで完成した。そういう曲って、めちゃくちゃ考えて作った曲より「いいじゃん」って言われやすかったりするし、そういう曲も必要なんですよね。前日ぐらいに不安になって、「本当にこれでいい? これでいい?」って、何度もみんなに確認しましたけど(笑)。でもこういう曲を今のモードで録ると、シンプルだけどかっこよく出せるし、こういうサウンドをメインでやってるバンドと比べても「俺らにもできるし、負けないぜ」という、なんとなくそういうテーマもあったので。タイトルも含めて、ポップなんだけど実は肉体美というか、血が通ったいい曲になったなと思います。
BIGMAMA・金井政人 撮影=高田梓
――そしてもう1曲が「Donuts killed Bradford」。これはグッとダークでオルタナな仕上がり。
金井:音楽的なところはカッキーに任せて、自分は……「Strawberry Feels」と「POPCORN STAR」の収録は決まっていて、もう1曲どうしようかなと思ったときに、この曲のメロディの中の“Donuts killed~”まで出てきたんですよ。「ドーナッツが人を殺した」という――それには理屈があって、『金田一少年の事件簿』とか『名探偵コナン』とかを幼少期に見て育ってきた自分が、それをいかにして超えるか。殺人事件の凶器で何が一番面白いか?ということを考えると、包丁でも拳銃でもなくて、何もないことがいいなと思ったんですよ。何もないことが人を殺した、それで「ドーナツの穴が人を殺した」と言ってみたかったんですよ。
――ふむふむ。
金井:前提として、オスカー・ワイルドの言葉があるんですけどね。『スーパーサイズ・ミー』的な意味でとらえてもらっても全然いいんですけど、とにかくドーナツで人を殺したくて、殺すのは誰でも良かった。そこで言いやすかったのがブラッドフォードだった、というだけの曲です。
柿沼:この曲は、完成する前にレコーディングしなきゃいけなくて、それはBIGMAMAの中では珍しいんですね。この曲だけエンジニアが違う人で、ベースとドラムを先に録るときに、俺が思ってた方向じゃないもので音を録り始めて、ざっくり言うと音が重たい方向に行って、それはすごくかっこよかったんですけど、自分のギターとハマりが良くないなと直感で思って、100%作ってあったフレーズを捨てて、その場で全部変えました。それもあって、すごく衝動的な演奏になったし、エンジニアの人が作ってくれたシンセをバイオリンと一緒に鳴らしたり、ほかの2曲とは違う、いい意味で異質なものになったと思います。
金井:僕が作ったデモとは、完全に違う曲になりましたね。1日スタジオで過ごすと、これだけ変わるか?って。
柿沼:でもこっちのほうがかっこいいでしょ?という気持ちがあったので。それを感じてくれて、金井も何も言わずに歌詞を書いてくれた。
金井:それは本当にそう。コード進行と、こういう音が欲しいというイメージだけあれば、ギターは柿沼に任せたほうがかっこいいし、ドラムもベースもバイオリンもそうだし、それは自分の中で暗黙の了解なので。自分はどっちの方向に網を投げるかを決めただけで、あとはドーナツで人を殺せたらそれでよかったんで(笑)。
BIGMAMA・柿沼広也 撮影=高田梓
――楽しんでますね。初めてのメジャーのフィールドを。
柿沼:楽しんでます。大丈夫かな?と思うぐらい、楽しんでます(笑)。
金井:でも、それがテーマでした。場所が変わっても、自分たちがすごく遊んでいることを証明することが、僕はすごく大切だと思ったので。
柿沼:そうだね。
金井:与えられたお題に対してしっかりと、大人が大喜利するということ、真剣に遊んでますよということを、伝えられたと思います。
――そしてもちろん、これからもっとリスナーの層を広げるということも、金井さんの胸の内にはあるでしょう。メジャーレーベルに来た以上は。
金井:まあ、でもそれは結果論かなと思ってます。そのために、やることの難易度や偏差値を下げることはしないし、さっき自分で話していて気付いたけど、18、19の頃の自分って、ちょっと難しいものにチャレンジする喜びがあったし、自分にしかわからないものを紐解けたときの快感もあったし。じゃあ広くに届けましょうというときに自分がすることって、優しくすることじゃないというか……より難しいことかもしれないし、はっきりすることかもしれないし、貫くということかもしれないし。簡単にすることと、シンプルにすることって、ちょっと違うと思うんですよ。
――そうですね。
金井:簡単なんだけど、難易度を下げることだけはしちゃいけないと思っていて、ちゃんと自分たちのバンドが持っている緻密さを見せたいし、共感を狙いにいくことは、たぶんしないと思います。結果、自分が貫くことで共感を呼ぶことが起きたら、それは否定しませんけど、それを欲しがって狙いにいくことって、たぶん1時間後ぐらいに恥ずかしくなるなと思うので。ということは、、5年後10年後にもっと恥ずかしくなると思うので、それはしたことないし、したくない。ちゃんとそこは、貫ければと思います。
柿沼:今よりもっと、このバンドを知ってほしいなという気持ちはあるけど、何かに媚びていたくないからずっとやってきた音楽だし、自由に自分たちの感覚を信じて、いいなと思うものはどんどんやってみて、消化していけるメンバーなので。こうやって環境が変わって、いろんなものが作れる気がしているので、この先がすごく楽しみです。
取材・文=宮本英夫 撮影=高田梓
BIGMAMA・柿沼広也、金井政人 撮影=高田梓