ディズニー/ピクサーが描く美しく現実的な“生と死”『リメンバー・ミー』 #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第四十八回
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(C)2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
日本でのお盆は、「亡くなった先祖が帰ってくる」と言われる以外にも、「地獄の釜が開く」、「あの世に連れて行かれるから海に入ってはいけない」といった、恐ろしい言い伝えがある行事でもある。時期こそ違うものの、メキシコにも“死者の日”という色鮮やかにペイントされたガイコツを街中に飾り付けたり、歌い踊ったりするイベントがある。お盆と異なり、より賑やかな雰囲気の中で死者を悼むのが印象的だ。公開中のディズニー/ピクサーの最新作『リメンバー・ミー』は、その死者の日を題材にした作品だ。CMもバンバン流れているので目にした方も多いかと思うが、「死者の国」を舞台としたアニメとは一体どんなものなのか。
メキシコに住むミゲルは、音楽が大好きな少年。しかし過去の出来事から、彼の一族には「音楽に触れてはいけない」という掟があり、ミゲルはギターを弾くどころか音楽を聴くことも許されない。そんなある日、ミゲルは憧れのミュージシャン・デラクルスのギターを手にしたことがきっかけで、死者の国へ迷い込んでしまう。そこでミゲルはガイコツになった先祖たちに出会い、日の出までに元の世界に戻らないと、自分も死者になってしまうことを知るのだった。はたしてミゲルは、無事に家族の元に帰れるのか。
美しい死者の国にワクワクドキドキ
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本作はなにより、死者の国の造形や色遣いがずば抜けて美しい。遠景は寒色の青紫で統一され、カラフルな花火が上がり、地面には死者を導くオレンジ色のマリーゴールドが敷き詰められる。街は発達した近未来都市のように煌びやかで、思わず「死んだ先がこんな国なら悪くないな」と考えてしまうほど。
そんな死者の国に迷い込んだ主人公のミゲルは、現世に帰るため、頼りないガイコツのヘクターと手を組むことになる。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)のジャックや、アニメ『ワンピース』のブルックなどのガイコツが好きな私が見ても、正直ヘクターはカッコよくも可愛くもない(笑)。さらに歩き方も情けない(笑)。「ミゲルの方がしっかり者なのでは?」と思ってしまうが、デコボココンビが美しい街を駆け回るの展開には、わかっていても胸が高鳴る。
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ミゲルが出会うご先祖様たちも個性豊かで、音楽禁止の掟を作ったママ・イメルダ(ママと言ってもミゲルの高祖母)の凛々しさと、後々見せる展開にはキューッとハートが痺れた!大人と子どもが一緒に楽しめるピクサー作品の中でも、ストーリーは王道だが見た目は渋め、テーマとなる“芯”の部分は、大人にこそ響くという、今までよりも大人向けな作品に仕上がっているのではないだろうか。その“芯”と感じる部分というのは、次の話だ。
美しくも現実的に描かれる生と死
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ヘクターはあるシーンで、「現世で自分を覚えている人間が一人もいなくなると、死者は二度目の死を迎える」と語る。大切な人との別れは悲しいことだが、その大切な人たちに忘れられてしまうことで訪れる二度目の死は、想像しただけでも切なすぎる。
私も去年末に祖母を亡くしたばかりだ。周りは「年齢順に亡くなるものだから仕方ないね」と慰めてくれるが、そういう問題ではない。いくつであっても、家族を亡くすことには恐ろしいまでの喪失感が伴う。しかし時の流れは悲しみを癒すとともに、記憶を薄めてゆくのだろう。孤独なヘクターの「忘れられたくない」という想いは、家族との別離を経験した人にとって、強く響くに違いない。
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『リメンバー・ミー』は決して悲しい作品ではない。明るく華やかに、しかしとても現実的に生と死を描いている。死は待ってはくれないし、それとともに生きている者たちも成長し、変化してゆく。この辺りが本作の“芯”なのではないかと私は感じている。本作の優しさに触れたなら、死者の国にいるあなたの大切な人のことを、思い出してあげてほしい。そして、今あなたの周りにいる家族を、今まで以上に愛してあげてほしい。
『リメンバー・ミー』は公開中。