エレファントカシマシ 30年の集大成にして新たなスタートラインとなった、さいたまスーパーアリーナワンマン
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『30th ANNIVERSARY TOUR 2017“THE FIGHTING MAN”FINAL』
2018.3.17 さいたまスーパーアリーナ
エレファントカシマシの音楽の断片をサウンド・コラージュしたようなSEが流れて、30年間の音楽活動の軌跡の映像、および47都道府県ツアーの様々な場面の写真が映し出されていく。続いて現れた“restart from here today”という文字がこの日のライブの趣旨を明解に表していた。30周年の一連の活動の締めくくりであると同時に、31年目の新たなる始まりのステージ。超満員の観客とともに、この場所からまた新たなスタートを切っていくのだという出陣式にも通じる、熱気を感じる瞬間が何度もあった。
いきなりクライマックスからのスタートだった。オープニング・ナンバーは47都道府県ツアーでも1部のハイライトを形成していた「3210」。宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)というメンバー4人に加えて、サポートのヒラマミキオ(G)、村山☆潤(Key)、金原智恵子ストリングス・チームの8人、さらに山本拓夫グループのホーン隊4人が加わる総勢18名の“気”が混ざり合って、ダイナミックかつスケールの大きな世界が展開されていく。そして一瞬の静寂を挟んで、「RAINBOW」へ。この「3210」と「RAINBOW」の間の無音の中にも“restart”の瞬間のパワーが凝縮されている。無音を切り裂く宮本の歌声はまるでスタートを告げる号砲の合図みたいだ。18名の奏でる「RAINBOW」によって出現した音の渦のすさまじさ、美しさ、みずみずしさに息を飲んだ。会場内には早くもとてつもないライブを目撃しているのだという感動と驚きと喜びと興奮が充満していく。
バンドサウンド全開の「奴隷天国」では天井からカラフルな風船が降り注いで、天国感がさらに増していく。実は4年前の25周年のさいたまスーパーアリーナでも、この曲で同じ演出があった。25周年、30周年と続いたのだから、35周年、40周年ライブと、この演出が定番化していくかもしれない。新春ライブ、夏の野音など、すでに恒例となっているものもある。彼らにとって、“恒例”とは未来への約束みたいなものでもあるのではないだろうか。この光景を観るために、また集っていく。そんな約束の場所、恒例の景色が存在することが明日への活力となることを、バンドはよくわかっているのだろう。もちろん観客のパワーはバンドのパワーにもなっていく。双方向のエネルギーの幸福なる循環が30周年のファイナルをさらに特別なものにしていく。
「準備はいいかい? いい熱気が伝わってくるぜ。一緒にカウントしよう」という宮本のMCで始まった「今はここが真ん中さ!」では、ホーン隊とストリングス隊の重厚な演奏が歌の世界をさらに強力なものにしていた。宮本が一瞬、タンバリンを叩く場面もあった。花道の真ん中での渾身の歌。宮本には花道が似合う。そしてど真ん中が似合う。つまり生まれながらのフロントマンということなんだろう。
「最高の1日にすべく、自慢の曲を聴いてもらうべく、たくさんのメンバーでみんなに最高の歌をお届けしに来ました。存分に楽しんでくれ!」という言葉に続いては、メンバー4人での「悲しみの果て」。47都道府県ツアーを完遂し、バンド史上、最高の動員力を更新し続けている現在の彼らの存在そのものによって、悲しみの果てに何があるのかを体現していくような演奏に胸が熱くなった。壁にぶつかり、もがきながらも、あきらめることなく、明日へと進み続けてきたものだけが奏でることのできる希望の歌が鳴り響いていた。ハッピーエンドは映画や物語の中にしか存在しない。悲しみは波状攻撃のように、何度だって繰り返し訪れるものだ。だからこそ、「悲しみの果て」のかけがえのなさが際立っていく。
石森のギターで始まった「星の砂」は宮本が15歳の時に作った曲だが、50代になった今もこんなにも生々しく演奏できるところがすごい。宮本が石森と肩を組んで、ギターを弾いている。今の世相ともシンクロするようなシニカルさとエンターテインメントの楽しさが渾然一体となっているところがクールだ。「i am hungry」は最も肉声に近い楽器であるホーンが加わることで、ワイルド度もハングリー感もパワーアップ。ソリッドかつ骨太なブラスロックにシビレた。エンディングでの宮本の「GO!」というシャウトが背中をドンと押すように力強く響いてきた。この曲の直後には、「毎日ハラハラドキドキで過ごしています。というのも6月6日にアルバムが出ることが決定しまして。でも曲がまだ途中だったりするので、必死の思いで作っています。みんなにいい歌、届けたいぜ!」との発言もあった。つまり宮本はすでに未来へと思いを馳せながら、この日を迎えたのだろう。
過去を振り返ったり、未来を見据えたり、時間軸を自在に行ったり来たりするようなライブでもあった。これは30周年のファイナルならではだろう。「風に吹かれて」は過去の風景が浮かんでくるような歌が染みてきた。感傷的な要素もあるのだが、感傷に浸る歌ではない。過去に訣別して、未来へと進んでいく意志が根底にある。孤高の歌声を包み込むようなストリングスもいい。ツアーの合間に撮影した写真とともに、宮本と石森が高速道路を移動中に車から撮影したという素材を編集した、手作り感たっぷりの映像が流れる中で演奏されたのは「ベイベー明日は俺の夢」。この日のために購入したという石森の12弦と6弦のダブルネック・ギターもフィーチャー。推進力を備えた力強い演奏から様々な思いがにじむ。
ツアー・ファイナルという位置付けなので、ツアーで軸となっていた曲中心の選曲となっていたのだが、久々の曲も演奏された。そのひとつは「さらば青春」。メンバー4人とヒラマ、村山での6人の息の合った、ニュアンス豊かな演奏が見事だった。「桜の花、舞い上がる道を」では、花道からの桜吹雪が舞う中で宮本が歌う光景が印象的だった。関東地方ではまだ桜は開花していなかったのだが、アリーナ内は一足早く満開だ。
「子どもでも大人でも夢を見ようぜ」と囁くように言葉を発して歌い出したのは「今を歌え」。冨永のゆったりとしたドラムとともに、宮本がアコギを弾きながら、歌を丁寧に紡いでいく。ひとつひとつの言葉を慈しむような歌だ。ストリングスもバンドもひとつひとつの音を丹念に奏でていた。音を発する瞬間だけでなく、音が消えるところまでしっかり聴きながらの演奏。手足だけじゃなく、耳が演奏の重要な役割を担っている。そんなステージ上の集中力が聴き手にも乗り移ったかのようだった。伸びやかな歌と演奏が見事な「風と共に」、得体の知れないエネルギーほとばしる「ガストロンジャー」、そして宮本と石森とが一緒に花道に立っての演奏となった「俺たちの明日」で1部終了。4人、6人、10人、14人、18人と、曲によって演奏者の編成は変化していたのだが、どの形態でもバンドと形容したくなるような一体感と連帯感を感じた。つまりステージ上の全員が、エレファントカシマシの歌の世界を深いレベルで共有していたということだろう。
2部の最初に演奏されたのは昨年夏の野音でも演奏された「男餓鬼道空っ風」。人生に山や谷があるように、バンドにも山や谷がある。谷だけでなく、山の上にいる時でも、変わらずハングリー精神と闘志を持ち続けていられることが、エレファントカシマシをエレファントカシマシたらしめていると思うのだ。まだまだこんなものではない。そんな思いはバンドが続く限り、なくならないのではないだろうか。焦燥感までもエネルギーに変換するような白熱の演奏を展開したのは「この世は最高!」だった。火柱が上がる中での演奏となったのは「RESTART」。ホーン隊も加わって、燃え上がる炎のように、闘志がほとばしる熱い演奏だ。続いての「夢を追う旅人」もホーン隊が参加して、バンドサウンド全開になっていく。石森と高緑が向き合って演奏すると、歓声が起こった。
「一番新しい曲を聴いてください」という言葉に続いて、第2部ラストを飾ったのは新曲「Easy Go」だった。デビュー31年目の始まりを告げるニューソングは意表を付くような、いや、度肝を抜くような曲だった。ドラマ『宮本から君へ』の主題歌として制作されたとのことだが、前のめりなビートで疾走していく、パンクロックと形容したくなるナンバーだ。80年代末から、90年代、00年代、そして現在までの30年のパワーをすべて飲み込み、ほとばしらせていくような演奏がゴツゴツ直撃してくる。力強さとせつなさと懐の深さとが表裏一体となって、へばりつくように一体となって届いてきた。シンプルなのに、いや、シンプルだからこそ、深くて濃い。あくまでも個人的な勝手な解釈となるのだが、この曲の“Easy”というフレーズが“いいぜ”という言葉に聴こえる瞬間があって、聴き手を肯定してくれる歌のようにも響いてきた。50代となった今の彼らだからこその、説得力と推進力と破壊力と包容力がまざりあった演奏だ。円熟ではなくて、未完の50代を高らかに提示するような歌に胸が熱くなった。これが最新のエレファントカシマシ。
3部は久々の曲「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」での始まり。ホーン隊もストリングス隊も参加してのセッション感覚あふれる演奏が楽しい。メンバー紹介を交えつつ、ソロ演奏も交えつつ。宮本がフェイクで参加する場面もあり。石森のギターソロ、高緑のチョッパーに大歓声。冨永のドラムでは、宮本が「行け! 絶好調」とあおっていた。メンバー同士の信頼の深さもうかがえる。ホーン隊が映える「so many people」、ヒューマンな「友達がいるのさ」に続いては、宮本の弾き語りによる「涙」。2017年1月6日の武道館でも、47都道府県ツアーの節目の12月9日の富山オーバード・ホールでも演奏された曲だが、毎回毎回が特別な歌となっていく。弾き語りというパーソナルな歌が歌い手だけでなく、聴き手の内面をも剥き出しにしていくかのようだった。3部の最後の曲はエレファントカシマシのトレードマークのような代表曲にして、バンドのその時々の姿を鏡のように映し出す「ファイティングマン」。問答無用のロックンロールだ。バックドロップに描かれた宮本がジャンプするシルエットと曲の締めのパフォーマンスが重なっていく。鮮やかなエンディングからは、全力を出し切ったという清々しい空気すら漂っていた。18人のメンバーが肩を組んで、終演の挨拶をしている。
が、この日のライブ、ここで終わりではなかった。完全燃焼のその先がまだあった。「これからの季節にぴったりだと思うんで最後に。すべての養分を使い切った感じもあるんですが」と言いながら、アンコールの最後に演奏されたのは「四月の風」だった。1部、2部、3部あわせて30曲。そしてアンコールのこの「四月の風」が31曲目。31年目の新たなる季節の始まりを告げる曲となった。歌い出してまもなくして、声がかすれた。エネルギーを使い切って声が出なくなったわけではない。感極まって歌えなくなってしまったのだ。画面でも宮本の頬が濡れているのが確認できる。全力を尽くした者が最後に流すきれいな涙だった。宮本が歌えなくなった部分では、観客が引き継いで歌っていた。ともに胸を熱くして、ともに笑い、ともに泣き、ともに進んでいくような感動的なファイナルだ。曲間で宮本が「Everbody、どんと行け! 気を付けてな。うまいもん食って帰れ~。ありがとう~。いい顔してるぜ~!」と叫んでいる。観客が拍手と歓声で応えている。バンドと観客、なんて相思相愛なんだろう。愛と勇気と闘志とが入り混ざった空間が出現した3時間強。
1曲1曲を悔いなく歌いきること、演奏しきることこそが、次なる展開への最良のスタートとなることを、この日のステージが雄弁に示していた。このファイナルのステージで、彼らは正しく終わり、そして正しく始まっていた。どうやら完全燃焼した灰の中からは、新たなる芽が顔をのぞかせていたようだ。宮本のMCで次なるアルバムも予告され、終演後に配られたフライヤーでライブハウスツアーとフジロック・フェスティバル初参戦も告知された。すでにエレファントカシマシは未来へと向かっているということだろう。
「四月の風」が鳴り響いた3月のさいたまスーパーアリーナには未来からの風が吹いていた。
取材・文=長谷川誠 撮影=大森 克己
セットリスト
2018.3.17 さいたまスーパーアリーナ
[一部]
1. 3210
2. RAINBOW
3. 奴隷天国
4. 今はここが真ん中さ!
5. 悲しみの果て
6. 星の砂
7. i am hungry
8. 夢のかけら
9. 風に吹かれて
10. ベイベー明日は俺の夢
11. 昔の侍
12. さらば青春
13. 笑顔の未来へ
14. 桜の花、舞い上がる道を
15. ズレてる方がいい
16. 今を歌え
17. 風と共に
18. ガストロンジャー
19. 俺たちの明日
[二部]
20. 男餓鬼道空っ風
21. この世は最高!
22. RESTART
23. 夢を追う旅人
24. 今宵の月のように
25. Easy Go
[三部]
26. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
27. so many people
28. 友達がいるのさ
29. 涙
30. ファイティングマン
[ENCORE]
31. 四月の風
ツアー情報
6月25日(月) 愛知・Zepp Nagoya 18:00 / 19:00
6月26日(火) 愛知・Zepp Nagoya 18:00 / 19:00
6月30日(土) 大阪・Zepp Namba 17:00 / 18:00
7月01日(日) 大阪・Zepp Namba 16:00 / 17:00
7月05日(木) 東京・Zepp Tokyo 18:00 / 19:00
7月06日(金) 東京・Zepp Tokyo 18:00 / 19:00
7月13日(金) 宮城・仙台 PIT 18:00 / 19:00
7月14日(土) 宮城・仙台 PIT 17:00 / 18:00
7月16日(月祝) 北海道・Zepp Sapporo 16:00 / 17:00
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1F スタンディング / 2F 指定席:6,900円(税込)
※仙台PIT公演は、1Fスタンディングのみ
※ドリンク代別 ※3歳以上
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<オフィシャルサイト
■受付期間:3月19日(月)12:00 ~4月3日(火) 23:59
※おひとり様1申込み2枚まで(複数会場申し込み可)