MOROHA、自主企画ライブ『怒濤』にbachoを迎えた夜 “あなたにとってMOROHAがつまらなくなったら唾吐いて捨ててください”
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MOROHA 自主企画ライブ『怒濤』第十四回 bacho 2018.3.28(Wed)渋谷TSUTAYA O-nest
——今、ライヴを観ながら僕は怖気付いている。無数のスポットライトが照らすステージの上で、アフロは鬼のような形相でこちらを睨みつけ、UKは力強くギターを弾く。体が硬直していたのは、感動していたせいではなくて殺気のようなものを2人に感じていたからだ。——この“最後の曲”が終われば現実に引き戻されて、明日からまた憂鬱な仕事が始まる。いっそのこと、このまま終わらなければいいのに、そう思った。
……話は3時間前にさかのぼる。2018年3月28日、MOROHAの自主企画『怒濤』を観るため、僕は渋谷のTSUTAYA O-nestへ向かった。時刻は19時。会場に到着すると、大勢の観客で場内はやや汗臭く、異様な熱気が漂っていた。そんな中、最初に登場したのはゲストのbachoだ。
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迎えられた声援の中、北畑欽也が「行くで今日はホンマに……熱くて何が悪い」と言って「これでいいのだ」から始まった。自分の体から汗がどっと吹き出したことに気づく。あまりに衝動的なその音は、僕を含めてオーディエンスの心と身体を躍らせた。《一回きりの人生だから好きなように生きなきゃ》という一節を聴いて、今日、僕らはライヴを観に来たのではなくて、戦う男の覚悟をこの目に焼き付けに来たのだと思った。
のっけから観る者を圧倒した後、2曲目は「孤独な戦い」。弱音をこらえて、互いに意思を確かめ、久しぶりにあった時は笑おう。まるでbachoとMOROHAの関係じゃないか。誰の後ろにも並ばず、己だけの道を進むということは、孤独への道のりだ。この2組はずっと、それを続けてきたのだと思うと言葉にならないほど胸にこみ上げるものがあった。
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MCに入り北畑が「MOROHAとやるのは一昨年の12月に九州でやって以来。(bachoとMOROHAの音楽は)全然違うんねんけど、思っていることは同じことも多い。何よりもお互い絶対に負けへんぞ、っていうライバルのつもりでやっております」そして披露したのは「萌芽」。ステージの4人は自分の音を噛み締めながら気持ち良さそうな顔をしている。この人たちは勝負することがとことん好きなのだろう。《今にみよって僕は言う、もうダメだは心の中だけで》歌いながら、北畑が拳を差し出すと何人もの人がステージに向かって同じように拳を向けた。心から震える言葉というのは、何を言うかじゃなくて誰が言うかだ。bachoが言うなら、全力で信じてみようと思える。そして「ビコーズ」、「夢破れて」を演奏して、中盤戦に突入した。
再びMCになり「俺はみんなの手助けはできひんけど、ええようになるように、カッコイイ人生になるように。今までじゃないよ、全部これから」そう告げて披露したのは「全てはこれから」。年齢を重ねるたびに、僕は新しい一歩を踏み出すことが怖くなっている。失敗することで積み上げてきた小さなプライドを傷つけてしまうのではないか、と弱気になってしまう。だけどbachoはいつだって教えてくれるのだ。《思い出が僕を殺しにくるけど 僕の全てはこれからさ》と。結成して16年目を迎えたバンドが、今、目の前で《僕の全てはこれからさ》と歌うことにどれほど希望をもらえるだろうか。人生のハイライトはいつだって過去ではなく「これから」なんだ。
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感動の津波を生み出して、10曲目の「最高新記憶」へ。自分にとって最高の記憶はいつなのか、考えてみると10代の思い出ばかりが浮かんでくる。沈んでいく夕日を眺めながら、友達と将来について語り合った日のこと。今、僕はあの頃に思い描いていた大人になれているのだろうか。明るさしかなかった将来は、大人になるにつれてだんだんと影を落とし絶望へ変わっていた。スピーカーから北畑の声が聴こえる……「今が最高だと思える日がくるまで、死ぬまで走れ」そう言われた気がした——。
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そしてbacho、最後のバッターボックス。「アフロ、UK。俺たちを呼んでくれてありがとうございました。まずはここまでで半分。ええ1日になったやろ」そう言って最後に披露したのは「NENASHIGUSA」。演奏が始まると北畑はステージの隅へ移動して、代わりに三浦義人がメインボーカルを歌ったかと思えば、伊藤知得、高永和裕基とマイクリレーが続き、最後はアフロがステージに姿を現して、サビを熱唱するとオーディエンスから歓声が起こった。そして曲が終わる直前、アフロが北畑に向かってドロップキックをして、再びステージ袖へ消えていった。倒れたまま中々起き上がらない、北畑。2分ほど経ってから、ゆっくりと身体を起こして第一声「……だから言うたやん。アフロは友達には向かへんタイプなんやって……」そう言うと初めて会場から笑いが起こった。切迫したステージを見せながら、最終的にはオーディエンスを笑顔にしてしまう。そんな緊張と緩和を含んだ最高の60分間を演出し、bachoはMOROHAのライバルとしての役目を全うした。
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2組目に登場したのはMOROHA。この日は「革命」からスタートし、1曲目を歌い終えてアフロが口を開く。「どうか、今日ここに来る前の自分よりも、帰る途中の自分の方がちょっぴり胸を張れますように。ちょっぴり目が強くなりますように。心がまっすぐになりますように。……言いたいことはただ1つ、俺のがヤバい!」。張りつめていた糸が切れたように、僕の心の中でゴングが鳴った。
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「ドラマ『宮本から君へ』のエンディング曲が俺らに決まったり、TSUTAYA O-nestの自主企画(『怒濤』)がソールドアウトしたり。とても、ありがたいなって思ってはいるんですけど、心からのお願いが1つありまして。あなたにとってMOROHAがつまらなくなったら唾吐いて捨ててください。ダセェなって思ったら唾吐いて、蹴っ飛ばして、捨ててください。それが俺たちの愛してる、厳しくも残酷で、だからこそ美しい世界です」。アフロの目がどんどんと鋭い目つきになっていくのがわかる。あまりに辛辣な言葉を浴びせた後に披露したのは「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。《勝てなきゃ皆消えていくじゃないか》あまりに残酷、だけど現実。何度も聴いている曲なのに、この日のMOROHAはいつもと違う気迫が漂っていた。
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続けて歌ったのは「tomorrow」。あの日、描いていた未来の自分はどこにいるのだろう。気づけば勝手に自分の限界を決めている、もう1人の自分がいて「お前に夢を叶えるなんて無理だよ」と囁く。MOROHAを聴いていると、忘れようとしたいつかの僕が姿を現す。諦めるなんて一番楽な方法じゃねぇか、ステージの2人がそう言っているようだった……。
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6曲目は「遠郷タワー」。あの街で俺は変わるんだ、と飛び込んだ東京。全員が敵に見えて、全員をぶっ殺してやると思っていたアフロ。この曲は上京した後に理想と現実の壁にもがきながら、帰りたくても帰れない遠い故郷に思いを馳せる"遠郷"の歌だ。演奏中、脳裏に浮かんだのは僕の地元や母の姿。「あんたは偉いね、東京で立派に頑張って」電話越しに言った、母。「そんなことないよ……」と、いつも本音を言えない自分に後ろめたさを感じてる。東京で一旗あげた者が勝ち組で、田舎に帰った者が負け組なら、どちらにも入れない僕は半端者だ。《「良かった 本当に良かった 故郷を捨てて あの街を捨てて しがみ付く手を振り切って良かった」言えるようにならなくちゃ》。この曲を聴くと、失くしてしまった想いを掘り起こされる。大事な人を、大事な景色を捨てて、東京へ飛び込んだ日のことを。ステージを観ながら、僕は強く拳を握りしめていた。今、手の中には知らぬ間にこぼれ落ちていた、いつかの叶えたかった想いが詰まっている——。
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8曲目に歌ったのは「三文銭」。曲中、UKが激しくギターを弾く中でアフロが叫んだ。「つまらなくなったら唾吐いて捨てろ。ダサくなったら唾吐いて捨てろ。そんな言葉を毎日、自分自身に向かって唱え続けております。その先はなんだと思う? その先に何があると思う? 何があるんだろうな、わかんねぇな! 何がメジャーデビューだよ馬鹿野郎! ざけんじゃねぇよ! 俺は、俺のままじゃねぇか! 何が変わんだよ、おい。つまらなくなったら唾吐いて捨てろ! 捨てろ! 捨てろ! 捨てろ!」。どうしてこの人たちは、ここまで自分を追い詰めて苦しまなければいけないのだろう。2人の鬼気迫る怖さと、理由の分からない感情でグチャグチャになり、僕は涙を流していた。
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「笑顔で優しい曲で終わるのも悪くないな、と思っていたんですけど。今の自分たちに一番フィットする曲を手渡して帰りたいと思います。音楽は楽しいものですけど、痛いのも音楽です。いつか、あなたにとって必要となる爆弾を……」。最後に演奏したのは新曲「ストロンガー」。曲の終わる間際、アフロは叫ぶ。《手に汗を握る その汗が鍵だ 不安や緊張 それこそが 次の扉のドアノブだ》。この“最後の曲”が終われば、明日から憂鬱な仕事が始まる。いっそのこと、このまま終わらなければいいのに、そう思った。——だけど、ライヴハウスの扉を開けたら、次に始まるのは自分のステージだ。恐れるな、僕らには音楽があるじゃないか。こうして2組による120分のライヴは幕を閉じた。
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——終演後、僕はライヴの余韻を噛みしめながら歩いていた。駒沢公園を通ると満開の桜が咲いていて、東京に春が来たことを知らせている。「ストロンガー」の最後の歌詞を思い出した。《さあ 出かけようぜ 胸を張ってさ》。
取材・文=真貝聡 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-