打首獄門同好会レポート “生活密着型ラウド・ロック”が日本武道館に旗を立てた日
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打首獄門同好会 撮影=HayachiN
打首獄門同好会 at 日本武道館 2018.3.11 日本武道館
「まさかこのバンドで日本武道館に立てるとは夢にも思ってなかった、まさかソールド・アウトするとは夢にも思ってなかった!」と大澤敦史(Vo/G)は興奮を抑えられない様子だった。確かに結成から約13年の歳月が流れ、ようやく辿り着いた武道館公演である。ここに来るまで階段を一段一段踏みしめるように会場のキャパを広げ、ファン層を徐々に拡大させてきた。振り返れば、新木場スタジオコースト公演(17年3月25日)では2階席を完全にファミリー席にしてお年寄りから子供まで熱狂させていた(※武道館公演もファミリー席を設置)が、この日も家族連れの姿を多く見かけ、前代未聞の三世代楽しめるラウド・ロックの魅力を存分にアピールする。いや、ほんとに今回の武道館公演は隅から隅までダレることなく、打首ワールドを貫く素晴しさだった。早くも今年のベスト・ライブ候補と断言したい。
この日は開演17時前から10獄放送特別編『お遍路フェス』と題し、四国のフェスのみに出演できなかった代わりに四国八十八カ所を回る企画が立てられ、大澤とアシュラシンドロームの青木亞一人(Vo)の2人で巡る映像が流れた。ちょうど冬シーズンだったこともあり、雪の中をチェーン・タイヤを付けて走行する過酷な場面もあったが、雪が溶けてアスファルトが見えてくると、アスファルトへの感謝の歌を「アスファルト タイヤを切りつけながら~♪」と「Get Wild」(TM NETWORK)調に青木が歌うシーンに会場は大爆笑。
打首獄門同好会 撮影=HayachiN
そして、17時20分に大澤、Junko(B)、河本あす香(Dr)、サカムケと風乃海のVJチームが揃い、「日本武道館へようこそ!」と大澤が挨拶すると、「DON-GARA」で本編はスタート。ステージ両脇には男鹿ナマハゲ太鼓の2人が血沸き肉踊る勇壮なリズムを叩き出し、これ以上ないオープニングに観客も大興奮。「音楽依存症生活」を挟み、ここから関連性のある楽曲が4曲続く。「私を二郎に連れていって」を経て、ステージに火柱が付く中でおどろおどろしいメタル・テイストで迫る「TAVEMONO NO URAMI」と繋ぎ、食べた後は歯の治療とばかりに「歯痛くて feat. COYASS」へ。現役歯医者のCOYASSを迎え、何度も共演しているだけあり、息の合った打首流ミクスチャー・ロックの精度はグッと上がっていた。歯を治した後は見た目も大事と「糖質制限ダイエットやってみた」をここで披露。このダイエット方法もCOYASSが伝授したらしく、すべてが澱みなく進行し、観客をガンガンと焚き付けていく。
打首獄門同好会 撮影=HayachiN
河本がドラムが叩き、「皆さん大きな声を出せますか?」と呼びかけ、「岩下の新生姜」を観客とコール&レスポンスして会場の空気が温めると、「New Gingeration」が炸裂。ステージ上の5人は新生姜の被り物、ステージには巨大な生姜バルーンが出没し、視覚と聴覚のダブル攻撃で心底楽しませてくれた。「島国DNA」に入ると、「魚食え、コノヤロー!」という挨拶と共に特別審査員に漁港の森田釣竿(Vo)を招き、何をするのかと思いきや、アリーナを6ブロックに分けて、マグロ風船を一つずつ渡す。そこで高さ、飛距離、床に落としたら減点というルールを化して競わせる。曲が始まるや、6匹のマグロが元気よく宙を舞う光景はなんとも可笑しかった。
さあ、魚の次は肉シリーズだと言わんばかりに「ニクタベイコウ!」、「ヤキトリズム」と打首得意の食べ物シリーズの曲を畳み掛ける。スクリーンに美味しそうなカルビや焼き鳥が映され、胃袋も容赦なくアジテートしてくる。それから「きのこたけのこ戦争」でウォール・オブ・デスを作り上げると、次の「88」においてはアシュラシンドローム・青木がワイヤーで宙に舞う羽目に。メンバーがプレイ中に、手を合わせて真剣に拝んでいる青木の姿を見てニヤリと笑う表情も見逃さなかった。それから「10獄食堂へようこそ」で青木をゲスト・ボーカルに迎えた親密コラボも。
打首獄門同好会 撮影=HayachiN
ライブ後半に差し掛かると、TV番組『水曜どうでしょう』エンディング曲「1/6の夢旅人2002」のカバーや、アリーナにうまい棒を配布して「デリシャスティック」を見舞い、熱い一体感を生み出す。「懐かしい曲やってもいいですか? 結成して初めて作った曲」と大澤が言うと、「Breakfast」をプレイ。曲名そのままに朝ご飯の重要性を歌った楽曲を聴きながら、打首のブレない音楽性にも感心した。
打首獄門同好会 撮影=HayachiN
本編ラストは「日本の米は世界一」、「カモン諭吉」とライブ鉄板曲が続き、トドメにお札が武道館に舞って幕を閉じた。鳴り止まぬアンコールに応えると、フォークとスクリーモを掛け合わせたような「布団の中から出たくない」でMVに出ていたコウペンちゃんもステージに現れ、賑々しい雰囲気の中でプレイ。この曲の後はこれでしょ!と最終曲「フローネル」で締め括る。曲中にKenKen(B)がサプライズで一瞬出てくる演出もあったりと、過剰に作り込まれた演出の数々に唸らされた。
日本人にしかわからない心の機微を、日本人ならではの感覚で歌い上げる打首獄門同好会。天井に日の丸が吊るされた武道館という場所でライブを体験して、バンド自ら名乗る「生活密着型ラウド・ロック」というジャンル名をさらに深いところで理解できた。痒い所まで手が届く、きめ細かなエンターテインメント性により、ここに集まった人たちのハートを見事に射抜いていた。“生活密着型”とは、日本人の心に寄り添った“最強のラウド・ロック”なのだ。そうしみじみと痛感した。
取材・文=荒金良介 撮影=HayachiN、朝岡英輔
撮影=朝岡英輔