DATSインタビュー デジタルとアナログ、洋楽と邦楽を自在に行き来し取り込んだ最新作を解く
-
ポスト -
シェア - 送る
DATS・MONJOE 撮影=風間大洋
タイトルは『Digital Analog Translation System』。エレクトロを軸にしたデジタルサウンド、ロックバンド特有の生々しいグルーヴを融合してきたDATSの本質が、このアルバムには端的に示されている。本作とともにメジャーシーンに進出するDATS。バンドの成り立ち、新作のコンセプト、この先に向けたビジョンなどについて、フロントマンのMONJOE(Vo/Syn)に聞いた。
――メジャーデビューアルバムのタイトルは『Digital Analog Translation System』。つまり“DATS”ですが、このフレーズは以前からバンドのなかに共有されていたんですか?
そういうわけではないですね。たとえばラジオなどで「DATSの由来って何ですか?」と聞かれたときに、冗談交じりで言ってた言葉なんですよ、これは。今回のアルバムはもともと別のテーマを掲げていたんだけど、途中でちょっとパンチに欠けるなと思って。メジャーデビューのタイミングって、今までとは違うマーケットに進出するということじゃないですか。だったら、DATSをDATSたらしめるワードをアルバム名にしたほうがいいと思って、冗談で言ってた『Digital Analog Translation System』をタイトルに採用したんです。
――できるだけわかりやすいほうがいい、と。
「DATSはこういうバンドです」ということですね。いままで「僕らはこうです」と言葉で説明しきれていなかったという反省もあるし、この時期だからこそ、このタイミングでストレートに示しておくべきかなと。このタイトルにはいろんな意味があって、まずは「デジタルとアナログの橋渡し的な存在になりたい」というのがひとつ。あとはクラブカルチャーとライブハウス、洋楽と邦楽の架け橋にもなりたいんです。そういう活動を続けてきた中でのコンセプトをひと括りにして説明したのが、今回のアルバム名だと思います。
――“橋渡し的存在になりたい”という発想の源はどこにあったんですか?
まず、自分はロックで育って、エレクトロミュージックも好きで、どっちの楽しみ方もわかるという自負があるんですね。でも、ライブハウスで行われるイベントに行くとDJのプレイが(ステージの)転換中のBGMになってしまったり、クラブイベントにロックバンドが出演すると、クラバーたちが「この時間、どうする?」みたいな探り探りの状況になることがあって。自分たちの音楽活動で、そういう状況を変えてみたいと思ったのが最初のきっかけであり、原動力にもなってますね。
――クラブカルチャーとロックの壁みたいなものって、いまだに存在してますよね。ケミカル・ブラザーズが世界を席捲して20年以上経つのに。
確かにケミカル・ブラザーズは、ロックとダンスミュージック、レイヴカルチャーの融合を体現したアーティストですからね。最近はそういうマインドを持ったバンドも出始めているけど、僕らがDATSを立ち上げた2013年頃は、全然状況が違っていて。当時は高速の4つ打ちを取り入れるバンドで溢れていた印象があるんですよ。でも聴いている側が「音楽の歴史を探ろう」という感じにはならなかったというか。少なくともDATSは、そのあたりのことをきちんと踏まえたうえで音楽をやりたかったし、リスナーにもさらに深く音楽を知ってもらえるきっかけになれたらいいなと思っていて。
――なるほど。DATSのメンバーが出会った大岡山のライブハウス(LIVE INN PEAK-1)は、同じ志向を持った人たちが集まっていたのでは?
よくご存知で(笑)。当時はまだ高校生だったし、洋楽のコピーバンドをやって、ただただ好きな音楽を楽しんでいただけですけどね。そのなかにYogee New Wavesの角舘健悟さんとか、SuchmosのYONCEさんがいたっていう。「シーンを作る」みたいなことではなく、近所の人たちがたまたま集まってたというか(笑)。もしかしたらD.A.N.のメンバーもいたのかな?
――ここ数年の間にD.A.N.、PAELLASなども頭角を現して。いまは確実に新しい世代のバンドシーンが形成されてますよね?
そのことについて、ちょうど昨日考えていたんですよ。同時代に同じようなマインドを持ったバンドが存在しているのはすごく良いことだと思うし、シーン全体で台頭するのもいいと思うんだけど、僕らよりも上の世代のバンドほど連帯感は持っていないんですよね。個々のバンドがそれぞれのペースでカッコいいことをやっているだけというか。ただ、ひとつのシーンとしてカタログ化されるのは、音楽業界全体にとっても意味があると思うんです。下の世代の人たちがそれを見て「こういう音楽があるんだ」と気付いたり、「自分もバンドをやろう」という動きにつながればいいなと。カルチャーやムーブメントって、そうやって受け継がれるものですからね。そこで進化が生まれたり、退化したり。そういう繰り返し、盛衰の波を絶やさないことが大事だと思います。
――DATSの音楽的志向についても聞かせてください。今回のアルバム『Digital Analog Translation System』もそうですが、さまざまなジャンルが混ざり合ってますよね。ロバート・グラスパー以降のジャズ、フランク・オーシャン以降のR&Bの流れともリンクしているし、そのあたりは意識的にやっているんですか?
いまって、世界的にはサブスクがメインになってますよね。そのことによって音楽の在り方自体も変わってきていると思うんです。そのシステムのなかで映えるAI的な音楽で溢れているし、人々の耳が浸食されているというか。僕らとしては、その流れに抗いたいという気持ちが強いんですよね。そのためには自分たちの表現を固有のものにしなくちゃいけないし、DATSにしか鳴らせない音を確立する必要があると思っていて。だからこそ新しい音楽を知らないといけないんですよ。それを自分の目で確かめて、知っておかないと、流れに抗うこともできないので。
――活動のビジョンのなかに海外のマーケットも入っているんですか?
DATSとして、ということですよね? これは僕個人の考えで、周囲の思惑とは関係ないところでの発言になりますけど、海外で活動したいという気持ちはそんなになくて。それよりも国内、ドメスティックなところでDATSの音楽がどう作用するか、音楽シーンをどう活性化できるのかに興味があります。いまのところ海外のマーケットは意識していないし、「海外でウケるためには?」というスタンスにも懐疑的ですね。ただ、さっきも言ったように“橋渡し”でありたいので、いまの海外の音楽を聴いて、その要素を音源やライブに取り入れることは続けていきたいです。“輸入”と言ったほうがわかりやすいかもしれないですね。
――メジャーデビュー盤で日本語の歌詞にトライしているのも、国内のリスナーにリーチするため?
その意識はすごく強かったです。これまでの僕らの作風は、海外に向けているのか日本に向けているのはハッキリしなかったと思うんですよ。海外風のサウンドだし、英語で歌っていたわけで、悪い解釈をすれば「海外の真似事を日本でやってるだけ」と取られかねなかったというか。僕らのマインドは「日本でどう活性化させるか」という点にフォーカスしているから、海外のマネと思われるのは明らかに良くない。それを払拭するためには振り切らないといけないという思いがあったんです。この時代を生きている日本人として、東京という土地で音を鳴らしていることを示す。それができれば、より説得力のある活動につながるんじゃないかなと。
――なるほど。
あとは単純に、今までやってなかった領域にチャレンジしたかったんです。僕は2つのバンド(DATS、yahyel)をやっていて、プロデューサーの仕事、DJ、トラックメイカーとしても活動しているので、できるだけ引き出しを増やしたいんです。DATSのアルバムで日本語の歌詞の曲を作ることで「こういう曲も書けます」という提示にもなるし、いい機会だなと思って。ずっと「日本語では歌えない」「自分の声は英語で歌ったほうがカッコいい」と思ってたんだけど、実際に(日本語詞で)やってみると、めちゃくちゃおもしろかったです。それもこのアルバムの制作を通して気付いたことですね。
――「TOKYO」という楽曲もありますからね。その名の通り、東京に対する思いをまっすぐに歌っていて。
“ド”ストレートですよね。この曲は正直、アルバムに入れたくなかったんですよ。僕としては「TOKYO」はナシで9曲入りの作品にしたかったんですが、「いや、絶対にこの曲は入れるべきだ」という話し合いがあって。僕も「せっかく活動のフィールドが変えるんだし、新しいチャレンジをしないと意味がないな」と思って、恥ずかしさには目をつぶるというか(笑)、自分で自分のケツを叩くような気持ちで「TOKYO」を収録することにして。この曲を入れたことでパッケージとしての味がさらに出たし、結果的には良かったですね。
――どうして東京をテーマにした曲を書こうと思ったんですか?
東京というタイトルの曲って、いっぱいあるじゃないですか。名曲も多いですけど、ほとんどが東京以外の場所から上京してきて、そこで思ったこと、感じたことを歌にしていて。一人の音楽ファンとして「東京で育った人間の東京の歌を聴いてみたい」と思ったんですよね。それは僕らのアイデンティティを語ることにもなるし、DATSにとってもひとつのエッセンスになるだろうなと。東京で育った人間にも孤独や苦悩はあるし……。「TOKYO」はネガティブな歌ではなくて、希望について書いているんですけどね。
――「Alexa」の歌詞も印象的でした。さっき話してもらった“AI的音楽”にも通じるし、アルバム全体のテーマでもあるのかなと。
確かにそういう背景はあるんだけど、デジタル用語を中心にした言葉遊びの感覚も強いんですよ。デジタルの世界をアナログで再解釈する、アナログの世界をデジタルで再構築するというか。デジタルのワードって、人間の身体の部位や感情を表す言葉が多いんですよね。たとえばリードトラックの「Memory」はCPUメモリーのことでもあり、人間の記憶のことでもあって。その感じがおもしろいと思ったし、僕らの世代なりの着眼点でもあるのかなって。
――DATSの制作のスタイルもアナログとデジタルが混ざってるんですか?
そうですね。基本的には僕がラップトップで作るんですけど、生楽器はすべてメンバーが弾いているので。ある程度は僕がフレーズを決めていても、実際に演奏すると、その通りになるとは限らないんです。そのときのフィーリングで弾いたものが「いいね」ということになれば採用してますね。歌詞に関しても前作(『Application』)同様、僕が書いたものに対して、メンバーに違う要素を加えてもらいながら完成させました。
――一人で音楽は作れる。でも、DATSというバンドで活動したいと。
はい。さっきも言いましたが、DATSじゃないと出来ない音楽、この4人じゃないと鳴らせない音を追求したいし、今回のアルバムはその第一歩だと思っていて。『Application』は生楽器の要素がほとんどなくて、ほぼ完全にデジタルだったんです。そういう作品を作ることも必要だったし、すごくおもしろかったんですが、その音源を持って1年間ライブを続けるなかで、いろいろなフィードバックがあって。特に感じたのは「ここにギターのフレーズを入れたい」「ベースラインを加えたい」ということ、つまり、プレイヤーとしての要素が大事ということだったんですよ。それはDATSをDATSをたらしめるために必要だと思ったし、だからこそ今回のアルバムでは、プレイヤーの顔がわかるようなフレーズを入れたくて。
――確かに『Application』と『Digital Analog Translation System』で音像がかなり違いますからね。DATSというバンドの概念自体が少しずつ変化しているというか。
いろんな形があっていいと思うんですよ。フォーマットに捉われないのは僕らのモットーでもあるし、“Ver.1”“Ver.2”みたいに更新していけたらいいなと。「次は何をやるんだろう」「どんなことをしゃべるんだろう」という期待値を確保することにもなりますからね。
――アルバムのDISC2には、全10曲のリミックス・ヴァージョンを収録。
リミックスしてほしいアーティストをリストアップして、10曲それぞれにリミキサーを立てています。こういうこともしっかり続けていきたいと思っていて。大きいイベントに出たりすることも必要だろうけど、いちばん大きいプロモーションは「自分たちは何をやっているか?」ということだし、リミックス・アルバムもその一つなんですよね。クラブカルチャーともつながっていたいし、領域を超えてクロスオーバーしたいので。こうやってステートメントを出しつづけることも、音楽業界を活性化させるきっかけになりたいという意志表示なんです。
――他のジャンルのアーティストとのつながりも増えそうですね。
はい。つながるためのハードルを意識しないでもいい状況を作りたいんですよね。もっとフットワーク軽く、もっと身軽にいろんなことをやるべきだなって。音楽って、いろいろな芸術のなかでもいちばん身軽だと思ってるんです。イヤホンを耳に差し込んで、再生ボタンを押せば享受できるから。
――音楽をベースにしながら、いろいろなアートを取り込みたいという意識もあるのでは?
うん、それもすごくあります。『Digital Analog Translation System』は音楽だけではなくて、どんなアートにも当てはまる汎用性のある言葉なので。ファッションだったり写真だったり、領域を超えてつながっていけたらなと。そういう意味でも、DATSにいちばんフィットするネーミングなんだと思います。
――こうやって言語化できるということは、バンドに対するビジョンが明確だということですからね。
いままで明確にできてなかったのは、ちょっともったいなかったですけどね(笑)。でも、メジャーデビューのタイミングで「DATSはこうです」とハッキリ言えたのは良かったんじゃないかな。
取材・文=森朋之 撮影=風間大洋
リリース情報
2018.06.20リリース
『Digital Analog Translation System』
SECL-2296 ~ SECL-2297
[DISC 1]
1. Memory
2. 404
3. Dice
4. Interlude
5. Cool Wind
6. JAM
7. Alexa
8. TOKYO
9. Pin
10. Heart
[DISC 2]
全10曲リミックスver.収録