「《二期会プレ・マチネ》バロック・オペラは魔法の世界!~ヘンデル『アルチーナ』公演のプレ・トーク&コンサート~」イベントレポート
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エヴァ・ブッフマン(真ん中)、和田朝妃(右から2番目)、市川浩平(一番右)
2018年4月21日(土)めぐろパーシモン(小ホール)にて、5月19日・20日に上演される『アルチーナ』のプレイベント「《二期会プレ・マチネ》バロック・オペラは魔法の世界!~ヘンデル『アルチーナ』公演 プレ・トーク&コンサート~」が開催された。
本公演のメインは、今回が初来日となる演出のエヴァ・ブッフマン自身による作品解説だ。作品の魅力や聴きどころ、このオペラのつくられた当時の上演スタイルや、今回のプロダクションで目指すものなど多岐に渡った解説を行い、公演への期待感を高めてくれた。
ブッフマンによって語られた作品解説の内容を紹介したい。
オペラ『アルチーナ』とは?
「ヘンデル作曲のオペラ『アルチーナ』は、英雄や奇跡や魔法といった要素からなるおとぎ話であると同時に、私たちと同じ人間の物語でもあります。
オペラ『アルチーナ』の原作は、『オルランド・フリオーゾ(狂えるオルランド)』という、今でもイタリアでは知られた物語のひとつです。原作の大筋は、オルランドという騎士の物語で「義理」や「愛」がテーマとなっているといえますが、実はそこに数多くのサブストーリーがあり、オペラ『アルチーナ』もそのひとつです。なお、ヘンデルは『オルランド・フリオーゾ』からほかに2つのオペラ『リナルド』『オルランド』も書いています。
ドイツ生まれのヘンデルは旅先のイタリアに滞在中、このオペラの台本に出会いました。それは当時有名なカストラート歌手ファリネッリの兄であるブロスキ作曲のオペラのために書かれた台本でした。ヘンデルにとって、この台本は、かつてないほどに幅広い人間の感情を表現できる、格好のオペラの題材でした。」
エヴァ・ブッフマン
魅力的なあらすじ。原作との違い。
「島に棲む魔女アルチーナがこの物語のタイトルロールです。何人もの男性を誘惑し、飽きては魔法で動物に変えてしまいます。青年騎士のルッジェーロは、彼女の最後の「被害者」。そして、彼の本当のフィアンセであるブラダマンテがルッジェーロを救い出すためにアルチーナの島に到着するところから、この物語が始まります。
そのほか、原作にはいなかった人物がオペラには加えられていたり、新しい設定が施されたりもしています。
モルガーナとオロンテのカップルは、ちょうどモーツァルト『魔笛』のパパゲーナとパパゲーノのようにアルチーナのストーリーの下部でパラレルに展開してきます。
また、原作ではルッジェーロの弟であるリッチャルドが兄を助けに現れますが、このオペラでは、恋人のブラダマンテがリッチャルドに変装して島に乗り込むという設定に変わっています。モルガーナはその男装のリッチャルドに心奪われてしまいます。」
ヘンデルの時代のオペラ上演スタイルと今回の上演で目指すもの
「ヘンデルが活躍していた頃の上演は今とは違うものでした。オペラは形式に則って書かれていました。劇場の機構もいわゆる「書き割り舞台」とこんにちいわれるもので、劇場が持っている広場、宮殿、森といった背景画を吊るして舞台転換を行っていました。演技も大きく異なり、バレエのように言葉の意味や表現する感情に対してポーズが決まっていたのです。そしてオーディエンスも、現代とは違って、飲食をしながら、巷のゴシップ話をしながら、そして、しばしばご贔屓の歌手には大喝采の声を上げるのでした。
エヴァ・ブッフマン
今、私たちがオペラ『アルチーナ』を上演するときには、より自然でリアリティのある演技が求められます。私たちは、この作品の魔法劇の要素を含みつつ、人間のリアルな心理ドラマとして描こうと思います。今回の舞台を作る上で、装置や衣裳、照明のチームともに、おとぎ話のような舞台の始まりを作ることができました。豊かな色彩とともに神秘的な雰囲気がただよい、バロック時代の様式感をもった衣裳には登場人物の性格があらわれているでしょう。
アルチーナは男を誘惑する人として描かれますが、誘惑を拒否されるとまたたくまに自信を喪失してしまいます。アルチーナにとって、「魔法」と「自信」とはかたく結びついているものです。彼女が拒否を受けたとき、魔力は解け、おとぎ話が現実へと変わっていきます。」
公演への意気込み・メッセージ
「今、まさにリハーサルの最中です。私にとって、若い才能のある歌手たちがきわめて高い集中力と意欲を発揮されている中で一緒に仕事に取り組めることは大きな喜びです。人物たちの演技はできる限り自然にそれぞれのモチベーションから生まれてくるキャラクターを活かしたいと考えています。どうぞ5月の本公演でまたお会いしましょう。ありがとうございました。」
イベント後半は、キャストを代表して和田朝妃(ブラダマンテ役)、市川浩平(オロンテ役)が自身のアリアを披露。チェンバロは上尾直毅がつとめた。バロック・オペラ独特の旋律美に聴衆は酔いしれた。
和田朝妃
市川浩平
出演者からのメッセージ
市川浩平
「昨年、二期会の『蝶々夫人』でピンカートンのアンダースタディを務めさせていただきました。そして、今年『アルチーナ』でオペラでは二期会デビューを迎えることになりました。初めての舞台ですので、よく勉強して、皆様に楽しんでいただけるように努めます。どうぞいらしてください。」
和田朝妃
「自分のやるブラダマンテという役が大好きなのですが、ほんとうに、すべての登場人物のキャラクターが際立っていて、音楽的にもそれぞれの個性が強く出ている作品だと思います。それを歌う私たちも、とても個性的な人たちばかりです。今、エヴァと一緒にこうして作り上げている最中ですが、自分でもどのような舞台になるか楽しみです。残り1ヶ月めぐろでしか観られない『アルチーナ』ができるように頑張ります!」
二期会ニューウェーブ・オペラ『アルチーナ』公演は、5月19日(土)・20日(日)の2日間のみ、めぐろパーシモンホール(大ホール)にて開催される。決して上演回数の多くない作品をお見逃しなく!
公演情報
20日(日)14:00
指揮:鈴木秀美
演出:エヴァ・ブッフマン
梶田真未/花房英里子/郷家暁子/宮地江奈/島内菜々子/市川浩平/金子慧一
<5月20日(日)>
渡邊仁美/杉山由紀/和田朝妃/今井実希/齋藤由香利/前川健生/的場正剛
管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)