東海地区で幅広く活躍する演出家・振付家、ほりみかの関連団体による合同公演『ネジ男』が名古屋で

ゴミを巡って浮かび上がる、人々の暮らしや過去。またその裏に潜む想いとは…？

愛知県小牧市や知立市、三重県四日市市の市民ミュージカルなど、これまで多くのミュージカル作品の振り付けや演出を手掛けてきた、ほりみか。彼女が代表を務める〈M. カンパニー〉と、長年に渡り指導を続けてきた〈ミュージカル劇団スパーク〉の出身者らが集結、〈M. カンパニー×大人スパーク。〉として初の名古屋公演となる『ネジ男』を、5月11日（金）から13日（日）まで名古屋市北区の「ユースクエア」で上演する。

ほりは3歳からモダンダンスを習い始め、その後クラシックバレエやタップなども習得。青年座の演出家・鈴木完一郎や劇作家のふじたあさやに演技を学び、当初はダンサーや演者として宮本亜門演出のミュージカルなど多数の舞台に出演していたが、徐々に振り付けや演出助手の仕事が増え、所属していた名古屋の〈総合劇集団俳優館〉を退団後は、フリーの演出家・振付家として、ミュージカルや演劇、ショーなどの舞台を手掛けてきた。「演出はもともと興味があったわけではないんですけど、たまたまやるようになって。でも、ブロードウェイなどでは振付師からミュージカルの演出家になる場合が多いらしいので、そういう道もあるのかなと」と、ほり。

こうした活動の中、小牧市の市民ミュージカルを6年に渡って指導・演出したことを機に、〈ミュージカル劇団スパーク〉が2000年に結成されたという。「小牧の市民ミュージカルに出演していた子どもたちがいて、その子たちは市がミュージカルを開催しなくなくなった後も「ミュージカルをやりたい」ということで、保護者の方が劇団を作ったんですね。そこに教えに行ったり、演出するようになったんです。当時は小学生だった子たちが大人になって、いろいろな劇団でいい役がもらえるようになってきたのと、〈ミュージカル劇団スパーク〉は小牧でしか公演したことがないので、名古屋でもやった方がいいんじゃないかと。それで今回は〈大人スパーク。〉という名前にして。あと、保護者の中にも芝居に出たいと言う人がいてここ2年ほど公演に出演している方や、小牧在住で市民ミュージカルに出ていただいた方なども今回参加されています」

また、時期を同じくして自身が代表を務める〈M. カンパニー〉も2001年に結成している。「日本演出者協会に入ってるんですけど、古い建物などを利用して演劇を上演する【まちんなか演劇祭】という企画があったんですね。それで2001年に初めて自分のカンパニーで上演したのがきっかけですね。でも、あちこちで演出したり大きな公演が入ったりすると時間がなくて、〈M. カンパニー〉の公演は3年に1回ぐらいしかできていないんです」

そんな中、実現した今回の名古屋公演では、旧知の劇作家である鏡味富美子の作品『ネジ男』を起用した。「鏡味さんの戯曲は何度か演出していて、彼女の作品を初めて演出したのも私なんですよ。『ネジ男』は初期の作品で、以前、戯曲をいっぱい見せてもらった時に面白いなと思ったんですけど、人数も多いしゴミ収集車が出てきたりと大変なので、その時は使えなかったんです。今回は人数も多いのでやろうかなと」

本作の舞台は、とある町のゴミステーションだ。近所に暮らす収集癖のある老女、姑である老女の廃品集めをやめさせようと苦戦する嫁、アルミを集め続ける男、老女の家に苦情を申し立てる主婦グループ、ゴミの収集を行い苦情対応に追われる環境事業所の職員たち…。さまざまな人々が集まるこの場所では、ルールやゴミに対する価値観の違いから毎日のように諍いが起こっている。そして時折、焼け焦げた柱時計を背負いネジを探しに姿を現わすネジ男…。老女はなぜ廃品を集め続けるのか、そして謎の男、ネジ男の正体とは…？

今回の上演にあたっては、鏡味に多少の手直しを依頼したそうで、「勢いもあるし発想も面白いんですが、すごく前の戯曲なので、背景やゴミのことなど今の時代に合わせてもらったり、短かかったので書き加えてもらったり、若い頃に書かれているので辻褄が合わない部分なども直してもらいました」と。

演出については「言葉のリズムとか、伝える、ということを一番大事にして自然に…あまり芝居臭くならないように気をつけています。主題であるゴミ問題も、ただ社会的な問題だけじゃなくて、心に何があってそういうことになっているのかとか、絆とか心のふれあいとか、そういうものに繋げていって描けたらいいなぁと思います。あとはとにかくゴミがいっぱいなので大変で（笑）。舞台転換に苦労しながらも工夫していますし、ゴミ収集車も出てきますので、その辺りも楽しみにしていただければ」と。

モノに溢れた暮らしの中で、日々膨大な量の廃棄物を生み出し、ゴミ屋敷など今や深刻な社会問題も発生している現代。本作を通して、人と廃棄物の関わりについて改めて考えたり、そこから浮かび上がる、自分にとって本当に大切なものや大切な人にも思いを馳せてみては？

取材・文＝望月勝美