日本を拠点に音楽活動を再開したニック・ムーン(KYTE)にインタビュー「アジカンとのツアーは、過去最高の旅になると思う!」
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ニック・ムーン Photo by Yoshiharu Ota
日本でも高い人気を誇るUKのバンド、KYTE(カイト)のフロントマン、ニック・ムーンのソロ・アルバム『サーカス・ラヴ』が4月11日にリリースされた。アルバム収録曲が初披露された3月の「プレ・ライヴ」では、キーボード、ドラムマシーン、ループステーションなどを全て一人で操り、ライヴ感と温もりのあるエレクトロな音世界、そして聴く者の心を浄化してくれるような、繊細かつ美しい歌声でオーディエンスを魅了した。5月末には<GREENROOM FESTIVAL ’18>に出演し、6月~7月に開催されるASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ライヴハウス・ツアー『Tour 2018 「BONES & YAMS」』の全公演でオープニング・アクトを務めることも決定している。日本での活動を本格的にスタートさせたニック・ムーンに話を訊くことができた。
――いつ頃から日本をベースに音楽活動をしてみたいと思っていたのですか?
10年前、KYTEで初めて日本に来た時から、長めに滞在してみたいとずっと思っていました。来るたびに音楽関係の友人が増えて、ちょっとずつ日本のこともわかってきて、いつも心の中ではもっと長く、少なくとも数日以上は滞在したいと思っていたので、最近こうやって日本に頻繁に来て、日本の文化や音楽を知ることが出来ることを心から嬉しく思っています。
――初来日の頃からそのような感情を抱いて下さっていたのですね。
「日本のどこが好き?」と、よく訊かれます。具体的に説明するのは難しいのですが、たとえば、日本を離れて他の国に行った時に、「もう少し日本にいたかったな……」と思っていたし、日本は僕の性格にも合っている気がしています。あとは、自分にとってやりやすい形で仕事が出来ているし、色々なことが上手くフィットしていますね。
――日本に長期滞在してみて、以前と見方や感じ方が変わったところはありますか?
更に面白みが増しています。(出身地の)レスターはとても小さな街なので、隅々まで知り尽くしているけれど、東京はとても大きいので常に新しい発見があります。実際に住んでみると、新鮮に感じることばかりなので、考えることが色々と多くなりました。これは、ミュージシャンにとってはとても良いことだと思います。居る場所や環境が曲作りに影響することは多いですからね。これまでに見たことのないものを一日中見た後なんて、ものすごく創作意欲がわいてきます。
――KYTEとして最後にライヴを行ったのは2013年のフジロックとのことですが、現在、バンドは少しお休みをして、それぞれがソロで活動をしている状態なのですか?
僕たちは学生時代からの友人で一緒に長い間音楽をやってきました。バンド活動が仕事になり、”ビジネス”として音楽業界で働いていると、友情関係にねじれが生じてしまうこともあって……。始めたころは20歳くらいだったから、若かったというのもあると思います。20歳から26歳の頃って、すごく成長して、変化する、難しい年頃でもありますからね。現段階でKYTEの今後について話すのはちょっと難しいのですが、今は、一息つく時間があっても良いかなと思ってお互いに違うことをやっています。でも、連絡は取り合い、遊んだりしていますよ。一緒にツアーをまわっている時も勿論仲は良かったのですが、面白いことに、今はそれ以上に良い関係が築けています。
――ソロ・アルバム『サーカス・ラヴ』が4月11日にリリースされました。曲作りを始めた頃、KYTEとちょっと違うサウンドにしたいという思いはありましたか?
それはあまりないですね。その頃は、以前よりもエレクトロニック・ミュージックやポップ・ミュージックを聴いていて、元々はリリースしようとも思っていなかったので、家で、楽しみながら作っているだけでした。当時、KYTEでの予定が何もなかったので、色々なことを試しながら音楽を探求してみようと思っていただけです。KYTEではいつもトムと一緒に曲を作っていて、一人で作ろうと思ったこともなかったのですが、何もやっていないことが落ち着かなかったので、チャレンジして、前よりも少しポップでアップテンポな曲を作ってみました。でも、特に最近は、KYTEの時のような曲もまた書いていますよ。まずは自分が感じるままに書いて、後で曲について考える感じですね。
――3月のイベントで、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)のメンバーに5年前にデモを聴いてもらったとの話をされていましたが、彼らに聴いてもらったことで、作品をリリースしたいという気持ちへと変化していった部分もありますか?
もしかしたら少しあるかもしれません。アジカンのメンバーやスタッフの方はすごく応援してくれて、いつも的確なアドバイスをくれます。あの時は、iPodに入っていたデモをランダムに聴いてもらったのですが、「これはいいね!」とか、「これはちょっとどうかな……」とか、正直に意見を言ってくれました。人の意見なんてどうでも良いと言う人もいるかもしれませんが、僕は色々な人の意見を聞くのが好きなので、リスペクトしている彼らからそう言ってもらえたのがとても嬉しかったです。
――とても美しいアルバムで大好きです。
アリガトウゴザイマス。
――初めて聴いた時、KYTEの時よりもエレクトロニック/ポップな要素が少し強く、バンド(KYTE)とソロでのサウンドの違いが、シガー・ロスのヨンシーのソロ作品を初めて聴いた時の感覚と少し似ているように私は感じました。
そんな風に言ってもらえて嬉しいです。シガー・ロスは大好きなバンドですから。彼は天才だと思います。
――バンドで作る時と、表現のしかたは少し変わりましたか?
KYTEの時は、まだ22歳くらいだったし、「他のメンバーに自分が何を思っているのかが100%わかってしまうのは恥ずかしいな……これはあの子のことだってバレるかな……」など、考えることもありました(笑)。今回は家で一人で書いていたので、よりパーソナルな歌詞になっていると思います。あとは、1ヶ月寝かせてまた曲に戻ったりできるところが良かったです。これまで、ミキシングやプロダクションをちゃんと学んだことがなかったので、勉強しながら作っていて、大学のコースを受けているようなところもありました(笑)。オリジナルのセッションを聴いてみたら、音が全て大きすぎたり、ディストーションをかけすぎているところがあったりして。今度は、ゼロからではなく、今のレベルからスタートできるので、次の作品を作るのが既に楽しみです。きっと、もっと良いサウンドを聴いてもらえると思います。
――KYTEでもソロでも、メロディーが美しいところが共通していると思います。どのようにメロディーは出来上がるのですか? 急に降りてきたりすることもありますか?
メロディーが降りてきてiPhoneに録音することもありますが、だいたいはシンプルなフレーズからはじまり、キーボードを弾きながら広げていきます。なかなか上手くいかなくてちょっと寝かせておこうと思うこともあれば、あっという間に出来上がることもあります。プロダクションが面白くなってきて、ドラムから作りはじめた曲もありましたが、ピアノとヴォーカルで仕上げることが多いです。そうすると、その曲を好きかどうかが自分でよくわかるのです。その後、歌詞を考える感じですね。
――アルバムの流れもとても心地よいです。描いていた全体的なイメージやテーマなどはありましたか?
音楽的には自分の頭の中で鳴っているサウンドを形にしようとしていて、「雰囲気のあるポップ・ミュージック」を目指していました。ポップ・ミュージックだけど、ある意味そうではないような面白さを持っている音楽を作りたいな……と。歌詞はほぼ同じこと、無意識のうちに6ヶ月前の恋人との別れについて書いていました。その時はそれが一番書きたいと思ったことだったのですが、それに気づいたのは、数年後、リリースが決まった時でした。
――同じことについて書いていると、ライヴで歌っているときに当時のことを思い出したりしそうですね。
最近……、そうですね。KYTEだと比喩を用いたり、政治のことを歌っていたり、テーマも大きかったりします。でも今作では、登場人物を全て知っているし、書いた全てのストーリーの内容がわかるから、数年前のこととは言え、妙な感じはしますね。でも、その分ライヴではより曲に入り込めるので、良いかなと思っています。
――今作では、作詞・作曲、演奏、コーラスはもちろん、プロデュースまで全てご自身で手がけていらっしゃいます。アルバムのジャケットがサウンドのイメージとぴったりだと思ったのですが、アートワークのデザインもニックさんが担当されたのですよね?
兄がイラストレーターなので、これまでアートワークは彼にお願いしていて自分ではあまりやったことがなかったのですが、今回は音楽面で色々試していたので、アートワークも自分でやってみました。まずはPhotoshopを使って自分のiPhoneに撮りためていた写真を重ねていったり、色の濃淡を調整したりしてイメージをつくり、このボタンはなんだろう……と思いながら色々と試しているうちに、「希望」と「クレイジー」な部分を併せ持ったような、収録曲のイメージに合うものが出来上がりました。同じものは2度と作れないと思いますが……(笑)。
――この作品の、特にここに耳をかたむけて聴いてほしいと思うところはありますか?
KYTEで僕のことを知ってくれた人は、バンドの時のようなサウンドを期待して聴くと、もしかしたら少し戸惑うかもしれません。でもこれが僕にとっての新しいサウンドです。ポップで、面白い作品だと感じてもらえたら光栄です。少しだけ、辛い気持ちを歌っているところもありますが、それは正直な感情です。たくさんの音楽の中から、僕のアルバムを選んで聴いてもらえるだけで嬉しく思います。