テニスコートが新作コント公演『浮遊牛』を語る~「僕らを観るなら、今がちょうどいい」
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テニスコート(左から)神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸
神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸の3名によるコントユニット「テニスコート」の単独公演『浮遊牛』が、2018年6月21日(木)より24日(日)まで、渋谷・ユーロライブで開催される。
テニスコートは、3人が武蔵野美術大学在学中の2002年に結成された。毎年1、2本のペースで公演を重ね、2016年には「いとうせいこうフェス」にゲスト出演し、のべ8000人の前でコントを披露。2017年3月にはブルー&スカイ率いるフロム・ニューヨークの公演にも参加し存在感を発揮した。テニスコートとしてEテレ『シャキーン!』の脚本を担当するほか、神谷は「あたらしいみかんのむきかた」等、イラストレーターとしても活動している。
6月21日よりはじまる新作『浮遊牛』は、昨年11月のユーロライブにおける「テアトロコントspecialテニスコートのコント『水をたくさん飲んできたので結構』」に続く、単独公演第二弾となる。SPICEはテニスコートの神谷、小出、吉田の三人にインタビューし、『浮遊牛』への意気込みを聞いた。
左から、神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸
のどかな新古典派ナンセンスコメディ
――テニスコートさんのコントは、お笑いにも演劇にも分類しづらいですね。友だちを誘うとき、どう説明するか迷います。
小出 演劇では……ないですね。
神谷 学生の頃は、“劇団”ではないと伝わるように“コントユニット”と名乗っていた時期があります。すると「お笑い芸人さん?」と思われる。お笑い芸人さんとはまた違うルートできているので、自分たちでもよく分からないんですよね。テアトロコント(ユーロライブで定期開催されるイベント。複数の芸人&演劇人が、持ち時間30分で演目を披露する)では、いつも演劇側に入れていただいています。
(同席されたユーロライブの方より「決して演劇でもないのですが、芸人さんではないということで無理に演劇側に入れています」)
一同 無理に(笑)。
神谷 裏口入学みたいな感じですね。
――その作風は、“のどかな新古典派ナンセンスコメディ”と、テニスコートの公式サイトの中で形容されていますね。
神谷 その言葉を考えてくれたのは、かつて僕らに活動の場を提供してくださったリトルモア地下(原宿にあったパフォーマンスギャラリー。2011年8月閉廊)の元制作スタッフのかたです。最初は「どういう意味かな?」と自分たちでも思ったのですが、僕らのコントを観たことがある人には「そうだな」と思ってもらえているようです。観たことがない人には、伝わりづらいですかね?
――何を古典と定義した新古典なのかな?とか、興味がわきました。てっきり自称されたものかと思っていたのですが、違うのですね。
神谷・小出・吉田 違います(笑)。
神谷 自分たちで書く時は「ナンセンスコメディをベースにしたコントを展開する」みたいに書きますね。でも……、コントを展開するってどういうことだ?
小出 まずナンセンスコメディから伝わりにくいかも。
吉田 コメディとコントの違いの説明もしないと。
神谷 そうしたら……、色々ぼかしてくれる「新古典派ナンセンスコメディ」ってめちゃくちゃいいじゃん!
小出 やっぱりそれなんだよ。詳しい人がそう言ったんだから。
テニスコートの作り方
――作・演出は「テニスコート」とあります。3人で、どのような流れで作るのですか?
神谷 一緒に作ります。結成した当初は僕がむりやり始めた感もありましたが、その後、小出くんと僕で脚本を書くようになり、やがて3人で書くようになり、今一番書いているのは吉田くんかもしれない。各自で作ってきたコントの土台を、3人でやりながらいじったり、誰かが書いたものを別の誰かが持ち帰り書き直したりして、なんとか形にします。
神谷圭介
――コントを作る上で、過去に影響を受けたものは?
神谷 僕が学生時代に好きだったのは、シティボーイズさんとか、ブルー&スカイさんが主宰していた演劇弁当猫ニャーとかでした。あとは漫画も好きでした。天久聖一さんとかタナカカツキさんのテイストにも影響を受けましたね。
最初にシティボーイズさんを教えてくれたのは、小出くんだった気がします。
――小出さんはいかがですか?
小出 僕は名古屋で生まれ育ったのですが、高校生の時にBSの劇場中継を観てから、演劇が面白いと思うようになりました。大人計画とかナイロン100℃とか、単純に笑えてストーリーもあって。デザインなどにはあまり興味はなかったのですが、上京すれば演劇をみられると思い、ムサビ(武蔵野美術大学)に進学しました。
その頃は観るのが好きでも、自分がやるのは性格的にむずかしいと思っていました。それが、この二人に出会ったことで無理やりにでも人前でやるようになって。なんとかできるようになっていますね。
神谷 着地したね。
小出 うん、着地した。
小出圭祐
――吉田さんはいかがですか?
神谷 吉田くんは、もともとこちら側(舞台・お笑い)のイメージはなかったかもしれない。卒業制作で映像をつくってたよね? 本当はドキュメンタリー作家になろうとしてた?
吉田 してないしてない!
――どんな作品だったのでしょうか?
吉田 いろいろな新興宗教の人の話を聞く10分くらいの映像です。上映したら、学外から観にきていた大学の学生さんに「ぜひ、うちの学校のドキュメンタリーの授業にきて話をしにきて欲しい。映像も授業で上演させて欲しい」と、声をかけられました。その一方、その新興宗教に関わる人だったのか、上映中に出ていってしまう人もいました。でも、あれはドキュメンタリーというほどのものではなかったよ(笑)。
神谷 当時僕がそれを観た限り、宗教を冒とくするようなものではありませんでした。「何かを信じ切っている人の目ってこうだよな」という感想をもつ映像でした。
吉田 その点でいうと『マネーの虎』(2001年10月~2004年3月放送のリアリティ番組)の作り方には影響を受けたかもしれません。必要以上に間をとる過剰な演出とかにグッときたんです。嘘を必要以上にやると本当っぽくなるんじゃないかって。
神谷 過剰になったがゆえに「本物かもしれない」って思うことあるもんね。ともあれ、みんなそれぞれに興味があるものはあって、それでも大まかには似通ったところのある3人かなと思っています。
吉田正幸
普通のおしゃべりはする
――みなさんで、今年3月に客演されたフロム・ニューヨーク『サソリ退治に使う棒』(作・演出:ブルー&スカイ)はいかがでしたか?
小出 僕と吉田くんは初めての外部客演だったのですが、とても勉強になりました。こんなにしっかり稽古をやるんだなと。
――ブルー&スカイ(以下、ブルー)さんは細かく丁寧な演出をされると伺いました。実際に演じてみせてたりもされるとか。
吉田 やってくださいます。ただ「もっと本気でこうやるんだ!」ってみせてくれるブルーさんが、ふざけているようにしか見えないんです(笑)。
神谷 本息(ホンイキ)のブルーさんからは、僕らには出せない“おもしろ”が出ちゃう。それを自分たちがやるには、じゃあどうしたらいいのかな……と。勉強になりましたね。
――稽古場の雰囲気はいかがでしたか?
神谷 僕らがちょっと緊張していたこともありますが「もっとみんなで喋ってください」とブルーさんに言われました。
一同 (笑)
神谷 ブルーさんもワイワイとよく喋るタイプではないので「僕が言うのもあれですが、もう少し何か雑談をしたほうがいいんじゃないかと思う」と。ただ、それを言われてもなおワイワイすることはなく(笑)。
小出 あまりにも静かすぎるからって、空調を入れてたりしていました(笑)。
――3人だけの稽古場も静かな感じですか? ここでお話を伺っているかぎりは、楽しそうだとおもったのですが。
吉田 ワイワイはしないね。
小出 稽古の合間に、普通のお喋りはします。
神谷 たいてい小出くんが本当にどうでもいい話をはじめて、それを吉田くんが掘り続ける。
小出 早い段階で神谷くんに止められるのは、松屋の新メニューの話です。
吉田 そうそうそうそう。復活したビビン丼の肉がさ……。
神谷 やめろって(一同、笑)。
『浮遊牛』について
――6月21日に初日を迎える新作コント公演『浮遊牛』について伺います。タイトルにはどんな意味があるのでしょうか?
神谷 逆に聞きたいんです。このタイトルを聞いてどう思われましたか?
――いったい何だろうと想像させられました。過去のタイトル(『水をたくさん飲んできたので結構』、『最高に盛り上がるイエイ』等々)とも違う印象を受けます。
神谷 これまで本公演には、長めのタイトルをつけることが多かったんです。今回は、あえて言い切ってみようという話になりました。全員でファミレスでナプキンの裏とか適当な紙に案を書いて出しあうのですが、その時に吉田くんが出した案の1つが『浮遊牛』でした。
第一印象では「一番ありえない」と思ったんです。でも候補が絞られてきた時、3人とも『浮遊牛』という言葉からだと色々な連想をしやすかった。その場で会話がはねたので「このタイトル、いいのかも」と思いました。
――どんな公演になりそうですか?
小出 出る人の数が少ないです。
神谷 今回の出演者はシンプルに、僕ら3人と山口ともこさんの全部で4人しか出ません。この人数の少なさは大学出たての時以来です。
――会場は、渋谷のユーロライブです。
神谷 ユーロライブさんに出させていただくまで、同じ劇場に二度以上出ることがありませんでした。その意味でユーロライブは、はじめてのホームっぽいホームです。テアトロコントに出たことをきっかけに、お笑いファンの方も演劇ファンの方も観にきてくれるようになりました。
――構成・演出としてポテンシャル聡さんが参加されますね。
神谷 第三者の目で冷静にみてくれる人がいた方がいいだろうと、前回は今田健太郎くん(劇団トリコロールケーキ)にお願いしました。今回は中村くん(ポテンシャル聡)がちょうど芸人をやめてフリーの作家になったタイミングだったので、思い切って声をかけさせていただきました。中村くんとは「弱い人たち」(ラブレターズ塚本、ゾフィー上田、ポテンシャル聡、玉田真也によるユニット)とテアトロコントで一緒になったこともあり、飲みに行く仲ではあったんです。
どうやら作家になってからの彼は、組む人組む人のポテンシャルを開花させているらしいんですよ。僕らのポテンシャルも、ぜひお願いしたいと思います。
――楽しみですね。本公演にレギュラー出演されている、山口ともこさんについてもお聞かせください。
神谷 同姓同名の大女優さんではない方の、山口ともこさんですね。今回から名前の表記をひらがな(智子→ともこ)にされました。大学時代からずっと出演してもらっています。
――では山口さんは、第4のテニスコートといえる存在?
吉田 僕らが第2の山口ともことも言えます。
――(笑)。山口さんとのやりやすさは、どういった点にありますか?
神谷 余計なことを一切しない人です。学生時代に役者をやろうとしている人には、面白くみせようとか何かしら主張しようとする気がします。でも彼女は言葉だけを置いていく感じ。それがテニスコートのナンセンスにあうんですよね。透明で、不誠実なことを言わせれば言わせるほど透明感が増す。小出くんと真逆のタイプの人ですね。小出くんは誠実なことを言えばいうほど、不誠実になるでしょ?
小出 そうかな?(笑)
観るなら今がちょうどいい
――最後に、テニスコートをまだ観たことのない方にもお誘いの一言をいただけますか?
神谷 名前は聞くけどどうなのかな?という方も一度くらいはね。どうですか?
吉田 今はまだ知る人ぞ知るユニットです。
小出 今観ておけば、そのうち「前から知ってた」って言えるかもしれない。
吉田 のちのち「テニスコート、変わったよね」とか言える。
小出 「あの時から変わったよね」とか。
神谷 なので僕らを観るなら、今がちょうどいいタイミングだと思います。
吉田 「テニスコートを観た」っていうと、おしゃれな人だと思われるらしいですよ。
神谷 自分たちは意識していないけれど、聞くところによるとテニスコートを観ることはおしゃれな行為にうつるらしいですよ。よく知りませんが、って話。
小出 そうなんだ!
神谷 でも「おしゃれです」って、自分で言ったら一気におしゃれじゃなくなるからね。思い切って言い切ったらいいんだよ。そもそもおしゃれにするつもりはないんだから。
小出 じゃあ……。おしゃれするような気持ちで、テニスコートを観にきてください!
神谷 それだ。
吉田 すごくいい。
テアトロコントspecialテニスコートのコント『浮遊牛』は、6月21日(木)より24日までの上演。チラシをみて、うわさを聞いて気になっていたけれどまだ見たことがないという方は、ぜひおしゃれにユーロライブに足を運んでほしい。
取材・文・撮影=塚田史香
公演情報
■日程:2018年6月21日(木)~24日(日)
■会場:ユーロライブ
■作・演出・出演:テニスコート
■ゲスト出演:山口ともこ
■構成・演出:ポテンシャル聡
■公式サイト:http://tenusugawa.com/fuyugyu/