パン・シヒョク~BTS(防弾少年団)と二人三脚で世界へ。 プロデューサーの発言からひも解く、世界ヒットの裏側/【KPOPクリエイター列伝】vol.2  

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2018.6.14
BTS(防弾少年団)『LOVE YOURSELF 轉 “Tear”』

BTS(防弾少年団)『LOVE YOURSELF 轉 “Tear”』


BTS(防弾少年団)のアルバムが米”Billboard 200”で初登場1位に!

BTS(防弾少年団)の3rdアルバム『LOVE YOURSELF 轉 “Tear”』(2018.05.18発売)が米ビルボード・アルバム・チャート”Billboard 200”で初登場1位(2018.06.02付)、加えて新曲「FAKE LOVE」がビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初登場10位(2018.06.02付)のTOP10入りを果たしたが、これはどちらもK-POP史上初の快挙である。

BTSは5月21日にはLAで開催された『2018 ビルボード・ミュージック・アワード』に出席し、昨年に続き韓国歌手として初めて2年連続でトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞。通常であれば韓国の音楽番組やショーケースで新曲を初披露するが、『2018 ビルボード・ミュージック・アワード』というハレの場で韓国語であるアルバムのタイトル曲「FAKE LOVE」を初パフォーマンスし、海外でのカムバックを果たしている。

BTS「FAKE LOVE」(2018年)

これまで多くのK-POPアーティストがなしえなかった栄冠を手にしたBTS。彼らを世に出したプロデューサーこそ、Big Hitエンターテインメント代表のパン・シヒョクである。BTSの世界的な成功を評価され、5月21日には、ビルボードが選出する世界の音楽市場を動かせる業界のリーダー、『インターナショナル・パワープレイヤー』73人の音楽制作部門パワープレイヤーに選定されている。本特集では、総括プロデューサーとしてBTSを成功へ導いた軌跡を核に、パン・シヒョクを紹介しよう。

JYPのパク・ジニョンの片腕として、2AMをスターに

パン・シヒョクは1972年生まれの45歳。ソウル大学(日本でいうと東京大学)美学科出身の秀才だ。卒業後は作曲家として活動していたが、JYPエンターテインメント(以下、JYP)のパク・ジニョン(【KPOPクリエイター列伝】vol.1参照)にスカウトされ、JYPに入社。「パク・ジニョンにプロデュースのすべてを学んだ」という師弟関係を築いているが、パク・ジニョンも2009年にWonder Girlsの米国デビュー曲「NOBODY」が韓国初、アジアで50年ぶりの「ビルボードHot 100」76位にランクインして沸いたが、師匠をはるかに超える成果を得たこととなる。

2005年にはJYPから独立し、Big Hitエンターテインメント(以下、Big Hit)を設立。独立とはいえJYPとは提携関係にあり、Big Hitを経営しながらJYPのプロデューサー業も並行し、Wonder Girlsの米国進出時には、パク・ジニョンと米国に携行している。また、2014年まで、JYPのボーカルグループ2AMのマネージメントもBig Hitが請け負っており、マネージメント業務の基礎を築いた。2AMもパン・シヒョク楽曲「Never let you go」で初の地上波1位を獲得し、ボーカルグループとしての地位を確立し、両者はWinWinの関係性であったといえる。

2AM「Never let you go」(2010年)

2010年にはテレビの人気オーディション番組『スターオーディション - 偉大な誕生』に出演し毒舌ぶりで名を売ると、同年9月2日に、自社オーディション『ヒップホップオーディション HIT IT』開催を発表。これはヒップホップグループ防弾少年団の新しいメンバーを募集する全国オーディションで、この時点ですでに、「防弾少年団」というグループ名と、練習生として所属していたキム・ナムジュン(RM)がグループの中心となることが決まっていた。防弾少年団は、本格的なヒップホップグループとして2011年にデビューする予定だったが、紆余曲折の末にヒップホップアイドルグループに路線変更。30人近い候補生の中から、最終的に現在の7名のメンバーが選ばれた。

自作アイドルBTSに課したのは、自分の内面の物語を歌い、同世代の共感をよぶこと

ヒップホップアイドルグループとして2013年6月にデビューした防弾少年団だが、デビュー当初からこれほど爆発的に人気があったわけではなく、ブレイクのきっかけになったのは2015年のミニアルバム『花様年華Pt.1』で、ヒップホップ色の強いイメージから、大衆的なメロディーで青春の悩みや不安を描いた作品にシフトしたころからである。

BTS「I NEED U」(2015年)

デビュー前から方言を用いたラップ曲「八道江山」などの自作曲を発表してきた防弾少年団は、パン・シヒョク、Pdoggというプロデューサーの下、作詞作曲をメンバーが手掛けている。パン・シヒョクが彼らに課してきたのは、ファンとの"共感"だ。デビューからの「学校3部作」では学生の気持ちを代弁し、『花様年華』の「青春2部作」では少年期から青年期への青春模様を歌にしたが、自分の内面の物語を歌い、同世代の共感をよぶことが大事だという。制作に関してはそれだけを求め、ほかの事務所のようにプライベートに関する規制は一切しなかったそうだ。

K-POPアイドルは、魅力的な外見、驚異的なパフォーマンス、完成度の高いMV、グローバルトレンドを反映した音楽のトータルパッケージ

今や世界が注目するBTSだが、「当初は世界的なアーティストにするという目標はなかった。でも、いいものを作る自信はあった」とパン・シヒョクは語る。ではなぜ、BTSは世界の音楽市場に進出できたのか。その問いにパン・シヒョクは「海外ファンは歌詞ではなく、ダンスに同調する。デジタルネイティブは、ネットでK-POPをキャッチして、SNSで拡散する。K-POPは言葉の壁を越え交流できる視覚的な音楽だから」と答えている。近年K-POPから世界的ヒットとなった作品といえば、PSY(サイ)の「江南スタイル」が挙げられるが、この曲も韓国語曲でありながら、ノリやすいリズムと、PSYのキャラクターにマッチした奇妙なダンスをフィーチャーしたミュージックビデオ(MV)で瞬く間に世界に拡散された。BTSもそれを実証するようにMV制作に力を入れており、新曲「FAKE LOVE」では映画のような壮大な世界観が映像化されている。

またパン・シヒョクは、「K-POPアイドルは、魅力的な外見、驚異的なパフォーマンス、完成度の高いMV、グローバルトレンドを反映した音楽のトータルパッケージである。BTSは、このすべての要素で高い完成度を求めている」とも発言。特に一糸乱れぬパワフルなダンスパフォーマンスが特徴のBTSにおいては、「事務所としては稼働させればお金になるが、カムバック前にはほかの仕事は入れずに練習に集中する時間を設けるようにしている」というほど徹底している。

本格的に“世界”を視野に入れたのは、2016年の2ndアルバム『WINGS』からだろう。「BTS Cypher 4」ではジャスティン・ビーバーの「Baby」やブリトニー・スピアーズ、リアーナ、ビヨンセなどそうそうたるアーティストのプロデュースで知られるトリッキー・スチュワートを筆頭に、海外作家とのコライト作が急増。その結果、「Billboard 200」で韓国アーティスト最高位の26位にランクイン。続くアルバム『LOVE YOURSELF 承 'Her'』(2017年)では海外作家とのコラボが増えてゆき「Billboard 200」で7位というアジア最高位を記録した。それが大きく花開いたのがスティーヴ・アオキがリミックスした「Mic Drop」で、BTS初の全米トップ40入りのヒットとなった。そして、このコラボの結実が、11曲中7曲が海外作家との共作である最新アルバム『LOVE YOURSELF 轉 “Tear”』といえるだろう。

[2017 MAMA in Hong Kong] BTS:BTS Cypher 4 + MIC DROP(Steve Aoki Remix Ver.)

前述のように海外作家とのコラボが増えてはいるが、リード曲「FAKE LOVE」はパン・シヒョク、韓国人プロデューサーPdogg、BTSメンバーRMの手による楽曲である。パン・シヒョクを追ったドキュメンタリー番組『防弾少年団(BTS)とK-POPの未来~明見萬里』(KBS)では、アメリカでレコードを大量買いする姿も映し出されていたが、彼は絶えずさまざまな音楽を聴きまくっている。「BTSの「血、汗、涙」は、レゲエを基盤としたムーンバートントラップ。ダンスホールやム―ンバートンなど、最新のトレンドを反映した。アメリカではエスニックが熱いが、ピンときたものが次のトレンドになる。多くの音楽を聴き、市場を先読みし、絶えず完成度の高い作品を作り続けることが成功の要因だ」と自身の制作スタンスを語っていたが、もはや韓国人である彼らの作り出した音楽がトレンドになるまでに。

アイドルのプロデュースは運命。届けるメッセージに集中したい

自身のルーツについて、「ビルボードキッズで、デュランデュランにどハマりした。だから今、アイドルのプロデュースをしているのは運命かも」と語ったパン・シヒョクは近年BTSのプロデュースに集中していたが、5月にリリースされた韓国のバンドアイドルIZ(アイズ)の2ndミニアルバム『ANGEL』で久々に外部プロデュースを手掛けた。また、Big Hitとしては、グローバル音楽市場を目指す、ヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージックに特化した新しいプロデューサーを発掘する「NEXT NEW CREATOR - Darker Than Black Edition PARTⅡ」の開催を発表(2018年6月現在)。ちなみに4月に「韓国のモバイルゲーム大手Netmarble、話題沸騰中のK-popグループ「BTS(防弾少年団)」の音楽レーベルに1億9,000万米ドルを出資」というニュースが出たが、Netmarble代表とパン・シヒョクは親戚関係で、今後、『BTS World』というBTS メンバーを育成するマネジメント・シミュレーションゲームをリリースする予定だという。ビジネスマンとしてもヤリ手だ。

パン・シヒョクは成功を手にしたBTSの今後について「メンバーたちと、成功や記録に執着するのはよそうと話している。音楽は五輪ではない。成長に価値をおき、届けるメッセージに集中し、そのメッセージは率直でありたい。それを続けていることが大事だ」と語っている。BTSのジョングクは、「目標は、アルバム全曲を自分たちでプロデュースすること」と公言しているが、プロデューサーとしてパン・シヒョクは、「成長の物語を続けていけるように助けるのが自分の仕事。BTSには独自のモデルを作り、次の道を切り開き、K-POPの今後に寄与してほしい。K-POPには現代の音楽をより豊かで多様にする底力があると信じている。新しい挑戦が次の時代を開く。私自身も、それに備えている」と語っているが、BTSとパン・シヒョクはどこまで蜜月を続けるのか、そしてこの先、BTSが世界でどのような活動を行うのか注目したい。

IZ「ANGEL」(2018年)

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