SEKAI NO OWARI初の全国野外ツアー『INSOMNIA TRAIN』が向かった先と我々にもたらしたもの
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SEKAI NO OWARI
全国野外ツアー 2018 「INSOMNIA TRAIN」
2018.6.2 富士急ハイランドコニファーフォレスト
青空によく映える富士急ハイランド・遊園地ゾーンの真っ赤なゲートに背を向けて、今日ばかりは違う入り口を目指す。細い階段を上がり、県道をまたぐ歩道橋を抜けた先に広がるのは草木に覆われた森。私たちはそこで、もう一つのゲートを見つけることができる。色はくすんだ紫で、電飾の施されたロゴ部分は赤色。そこに、本日の目的地の名である“INSOMNIA TRAIN”の文字を確認した。うっすらと鳴る愉快なBGMに導かれながら、歩みを進めること数分。突如現れた開放的な空間には、一度に視界に収めることなど到底できないくらいに、大きな大きな列車が横たわっていたのだった。いったい、全長何メートルだ?
そう。停泊する列車の名こそ“INSOMNIA TRAIN”。“移動式歓楽街”をテーマにした今回のツアーの準備は1年以上前から始まっていたのだそう。様々なネオンサインに飾られたこの列車のデザインは、昨年上半期、アジア諸国でライブを行い、メンバー自身が見てきた現地の景色に影響を受けているのだろうか。列車型ステージの周辺には、メンバープロデュースのフードを扱った飲食店、射的などを楽しめるゲームエリア、仮装コンテストブースなどの露店も多く並んでいる。セットの頂点に構えるピエロ像が掲げるのは“NICE PEOPLE MAKE THE WORLD BORING”というキャッチコピー。
全国6ヶ所12公演をまわるSEKAI NO OWARIの野外ツアー『INSOMNIA TRAIN』。セカオワが初めて開催した野外ワンマンは、2013年10月の『炎と森のカーニバル』。巨大樹をモチーフにした規格外のステージセットはかなりセンセーショナルなもので、これ以降、空間まるごとプロデュースしてみせる彼らのライブはテーマパークのようだと称され、老若男女問わず楽しめる“体験”として親しまれるようになった。そして今回の『INSOMNIA TRAIN』は、セカオワにとって初めての全国野外ツアーとのこと。
ステージセットはやはり巨大で、運搬・設営等にかなりのコストがかかるであろうことは容易に想像できる。さらに、それでも悪天候によって中止になってしまう可能性があるというリスクの存在を踏まえると、簡単にできるようなことではないだろう。しかし、彼らはやってみせたのだ。
この記事でレポートするのは、6月2日に開催された山梨・富士急ハイランドコニファーフォレスト公演の模様。冒頭の描写も同会場で見た光景だが、調べてみると、熊本・広島・新潟・宮城・北海道公演に関しても、似たような立地の会場が選ばれているようだった。森の奥へと歩みを進めていった果てに現れる、独立したエンターテインメント空間。最寄り駅/駐車場からやや長めに歩くこと、そうして観客に一旦俗世から離れてもらうこともこのツアーに欠かせない要素だったのかもしれない。
開演時間を迎え、いよいよライブがスタート。「When the corpse flowers bloom, INSOMINA TRAIN comes to your town.」というアナウンスとともに汽笛が鳴り、煙突からは煙が噴出。その煙が風に流され、視界が晴れた頃には、ステージ上にNakajin (Gt)、Fukase (Vo)、Saori (Pf)、DJ LOVE (DJ)が揃っているというオープニングだ。男性陣はタキシード姿で、Saoriはエレガントな黒色のワンピースを纏っている。1曲目はなんと「インスタントラジオ」。彼らのライブでは終盤に演奏されることの多いこの曲が、ジャジーなアレンジに生まれ変わり早くも登場したのだ。軽快にスウィングする都会的なアンサンブルに乗っかって、「富士急元気かー?」と呼びかけるNakajin。「唄える?」とFukaseが客席にマイクを向ければ早速大きなシンガロングが起こり、サポートベーシスト&ドラマ―を交えたソロ回しも披露された。
最初のブロックで届けられたのは、12弦ギター&ウクレレのキラキラとした響きが浮遊感を演出した「マーメイドラプソディー」、無機質なループサウンドがどんどん生っぽくなっていく展開がたまらない「Love the warz - rearranged -」、そして「Error」。序盤に演奏されたこの辺りの曲に関しては、各曲のメッセージとライブ全体を貫く物語との結びつきに後々になってから気づかされることとなる。時折吹き抜ける涼しい風にマッチしていた「サザンカ」を終えて、本日最初のMC。「富士急6デイズ中の5日目だからほぼ住人と化している」「客席からは残念ながら見えないと思うが、ステージからは富士山がくっきり見えて最高の眺めだ」という話をしたあと、元バイト先の塾の生徒が会場に来ているというNakajinがそのことに引っ掛け、「模擬試験よりも他の大切な予定よりも、素晴らしい一日にしてやるぜ!」とオーディエンスに投げかけた。
そのあとは、牧歌的な雰囲気のある「Hey Ho」から「ANTI-HERO」のクールなサウンドへと繋げる流れ。最初の4曲然り、この前半戦では“光”にあたる曲と“闇”にあたる曲とが交互に登場していた印象。特に“闇”の方では、Fukaseの瞳がスクリーンに大きく映され、狂気を帯びていく彼の様子が強調されていた。そんななか鍵を握っていたのが、随所に挟まれていた台詞の無いアニメーション。それはこの“INSOMNIA TRAIN”という舞台でNakajin、Fukase、Saori、DJ LOVEがどのような環境下に置かれているのかを私たちに知らせるもので、セットリストが進むにつれて、物語の全容が一つずつ見えてくるような構成になっていた。8曲目「深い森」に達した頃には、おそらく多くの人が気づいていたのではないだろうか。彼ら4人が“INSOMINIA TRAIN”で働く囚われの身のエンターテイナーであること、そして私たちオーディエンスは“そんな4人を眺める観客”という役を与えられ、既に物語の中に取り込まれているのだということに。ゼンマイ仕掛けのオルゴールが動くのをやめた時のように、まだ続きがあるんじゃないかと思わせられるようなコードを響かせながら停止する、3拍子の精巧なリズム。やけに明るいその響きがかえって不気味でゾッとした。そして一転。
「Ladies and gentlemen, Boys and girls! 昼のショウはお楽しみいただけたでしょうか?」「ここからは夜のショウをお楽しみいただきます。It’s show time!」
意気揚々とそう告げるアナウンスを機に、ステージセットがまるごとライトアップ。バン!と大きな音を立てて花火が上がると同時に始まった「炎と森のカーニバル」からいよいよ後半戦へと突入していった。先ほどまでの“闇”が極彩色の熱狂に塗り替えられるのかと思いきや、むしろそれは深くなるばかり。新曲「Re:set」は、Nakajinがサンプラーを使用、生の楽器はSaoriのピアノのみ、という編成で臨むことにより無機質なサウンドに。<朝 夜の繰り返し>と度々唄う「白昼の夢」は、Fukaseがベースで鳴らす不協和音に近いコードも相まって、退廃的な空気を帯びていた。そしてここでもスクリーンに頻繁に映されるFukaseの瞳。「Monsoon Night」にてファイヤーダンサーによる激しいパフォーマンスが場内を盛り上げるなか、その狂気はいったいどこへと向かっていくのか――。
すると、ここでFukaseが脱走したことを伝えるアニメーションが挿入され、直後、客席エリア上手側に設置されたサーカス小屋から彼が登場! そうしてこの日2つ目の新曲「ラフレシア」がスタートした。黒色のパーカーのフードを深く被ったFukaseは、包帯姿のダンサーを従えてのダンス、そしてノコギリを使用した殺陣も披露。彼が黒い車に押し込められ、それが走り去るまでの間、客席のあちこちから歓喜・驚嘆の声が上がり、場内は興奮に包まれたのだった。「ラフレシア」は今回のツアーのために作った曲だったというし、この一連の流れが物語全体におけるひとつのハイライトだったことには間違いないが、その目玉にあたる役割をFukaseが担っていたことも改めて強調しておきたい。
例えば前回のツアー「タルカス」でのステージの四方位に4人が立つ(=4人が同一画角内に揃うことのない)フォーメーションも象徴するように、また、“SoundProduce”(Nakajin)/“Conceptor”(Fukase)/“ShowProduce”(Saori)/“SoundSelector”(DJ LOVE)と4人全員が担当楽器以外の役割も名乗っているように、SEKAI NO OWARIというバンドはそれぞれの得意領域を尊重し、それに基づいたある程度の役割分担を行ってきた。そのため、フロントマンのFukaseだけが先頭に立つようなパフォーマンスの仕方は意外と少なく、今回の挑戦は彼らにとって画期的なものだったのだ。もちろんセカオワのエンターテインメントを創り出しているのはメンバー4人だけではないし、“巨大セットを引き連れての全国野外ツアー”という無謀な挑戦を実現することができるのは“チーム・セカオワ”としての強さがあるからだろう。しかし、というかだからこそ、Fukaseの変化はセカオワ自体のさらなる進化を後押しするようなものであるように思えるのだ。
サングラスをかけ、タキシード姿に戻ったFukaseがステージに帰ってきたところで物語はいよいよクライマックスへ。逆光の照明が4人のシルエットを浮かび上がらせた「スターゲイザー」、オーディエンスの腕にはめられたスターライトリング(リストバンド型のライト)が一斉に灯った「スターライトパレード」と、この2曲では“光”を想起させる演出が目立った。とは言ってもその“光”の種類は、前半戦で描かれたような“ステージに立つ者の煌びやかさ”とは異なるもの。一言で表現するならば、退屈な日々の中にある守るべきもの、愛すべきものをつぶさに見つめる温かさであり、つまり私たちの日常にも存在しているものである。毎朝同じ列車に揺られ、時にしんどい気持ちになりながらも、平日/休日のルーティンをやめないでいるのは、そこに守るべき何かがあるから。そういえば序盤のMCで、Fukaseが「4年ぐらい前、“SEKAI NO OWARIに興味はないけど、娘に送迎を頼まれて会場までやってきた”というお父さんとサウナで話したことがある」という話をしていたが、今回のメッセージ、そういう人たちにこそ深く響くものになっていたのでは?と思う。
いや、“今回のメッセージ”という書き方は正しくないか。実はセカオワを観たのは約6年ぶりだったが、この日最も強く実感したことはただ一つ。インディーズ時代から曲調はガラッと変わり、表現の自由度は増していく一方だけど、彼らの芯にあるメッセージは何一つ変わっていないんだなということだった。“生きる”とは? “死ぬ”とは? “生かされる”とは? “殺される”とは? 自分にとっての幸せが誰かにとっても同じだとは限らないのだという前提の下、あらゆる疑問を投げかけてくる彼らの音楽は、いつだって、世界の抱きしめ方を教えてくれていた。それが、過去最大規模の形で開花したのが今回のツアーだったというわけだ。
「東京出身だからホームって呼べる場所がなかったけど、今回からここ(富士急)を僕たちのホームと呼ぼうじゃないかと。何かしっくりくるでしょ?」とFukase。朝の次には夜が、夜の次には朝がいつだってやってきてしまうこの世界で、突如大どんでん返しが起こることはほとんどない。しかし彼らの想像力・創造力は、そんな日々を戦い抜くための勇気を私たちにもたらしてくれるものなのだ。
これからもその大いなる物語が私たちの鼓動を打ち鳴らしてくれることを期待しつつ。ひとまず今は、このツアーに立ち会えた喜びを噛み締めていたい。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=太田好治、アミタマリ、立脇卓
セットリスト
2018.6.2 富士急ハイランドコニファーフォレスト
2.マーメイドラプソディー
3.Love the warz - rearranged -
4.Error
5.サザンカ
6.Hey Ho
7.ANTI-HERO
8.深い森
9.RPG
10.Death Disco
11.MAGIC
12.炎と森のカーニバル
13.Re:set(新曲)
14.白昼の夢
15.Monsoon Night
16.ラフレシア(新曲)
17.スターゲイザー
18.スターライトパレード
19.Dragon Night
[ENCORE]
20.ピエロ
21.Fight Music