グスターボ・ヒメノ(指揮)ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)

2015.11.7
インタビュー
クラシック

©Marco Borggreve

RCOでの演奏経験が、指揮にも大いに役立っています

 今秋のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)の日本ツアーを指揮するグスターボ・ヒメノ。彼は、2001年から13年まで首席打楽器奏者を務めた、RCOを知り尽くす音楽家だ。
「故郷スペインのバレンシアで打楽器を始め、17歳から音楽都市としても理想的なアムステルダムへ移り、良い先生がいる同地の音楽院で学びました。そしてRCO入団と同時に音楽院へ戻り、夢だった指揮の勉強を開始。アマチュア・オーケストラなどを振りながら、人目につかない所(笑)で研鑽を積みました」

 12〜14年にはRCOでマリス・ヤンソンスの副指揮を経験。「13年にモーツァルト管でクラウディオ・アバドのアシスタントを務めた際、前半のみを担当したマドリードでの公演」で公的なプロ・デビューを果たし、翌14年春にはRCOの演奏会を初めて指揮した。
「急病のヤンソンスの代役で、最初のリハーサルから受け持ちました。メンバー全員を知っているだけに反応が心配でしたが、フレンドリーに対応してくれたので、音楽のみに集中できました」

 RCOは、所属した彼にとっても魅力的なオーケストラだ。
「やはり特別なサウンドが魅力です。美しく透明感があって丸みを帯びた音。これは歴史的なホールの音響が大きく影響しています。さらにマーラーから今日まで、各時期の最先端な音楽と関わってきたことに拠る柔軟性も特徴です」

人間の自然な感情を表現する3つの作品

 デビュー公演の成功によって抜擢された日本ツアーには、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ベートーヴェンの作品で臨む。
「『シェエラザード』は、オーケストラの様々な側面を表出できる曲。特にソロ的な部分はRCOの各セクションの繊細な表現を聴いていただけます。また、この作品を“シェエラザードが死を先延ばしにするために話す長い物語”と解釈していますので、楽章間を休まずに演奏します。『田園』『悲愴』の両交響曲は音楽史上の重要作。『田園』は、自然や農民の踊りが描写されますが、終楽章では自然と神に感謝を捧げます。つまり外面性の中に宗教的な親密さが表現されています。『悲愴』は人生そのもの。やはり外面的な第3楽章の後、悲劇が訪れます。終楽章は単独で1つの曲になるほどの音楽。人生との別れに怒りやメランコリーを感じながら、最終的には死を受け入れます。これら3曲は、人間の自然な感情が強く表れている点で共通しています」

 さらには、超絶奏者ユジャ・ワンがソロを弾くチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番もある。西欧的な美感をもちながら生演奏が稀な同曲を彼女とRCOのコンビで聴くのは、生涯唯一になるかもしれないエキサイティングな体験だ。
「第1番の陰に隠れていますが、素晴らしい曲です。RCOでさえも約15年ぶりに取り上げるので、団員共々楽しみにしていますし、奔放かつ技巧的に完璧なユジャ・ワンがソリストですから、面白い演奏になりますよ」

 なおこれらは、アムステルダムの定期で公演後、台湾ツアーののちに、日本で披露される。彼も言う通り「繰り返し演奏すれば、予期せぬ展開や進化もある」ので、いっそう楽しみだ。「日々鍛錬。目の前のものに全力を注ぎ、一歩一歩積み重ねるしかない」と実に謙虚な彼だが、既にミュンヘン・フィル、バーミンガム市響などや日本の複数の楽団を指揮し、夏以降もクリーヴランド管、シュターツカペレ・ドレスデンなどの一流楽団への客演が目白押し。今期からルクセンブルク・フィルの首席指揮者にも就任する。今回は、最高の器(RCO)を通して未来の巨匠の本領を知る貴重な機会となる。

取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)

公演情報
グスターボ・ヒメノ(指揮) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
11/7(土)16:00 京都コンサートホール 問:京都コンサートホール075-711-3231
11/8(日)16:00 兵庫県立芸術文化センター 問:芸術文化センターオフィス0798-68-0255
11/9(月)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール 問:中京テレビ事業052-957-3333
11/11(水)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール 問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
11/12(木)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール 問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
11/13(金)19:00 サントリーホール 問:カジモト・イープラス0570-06-9960
※プログラムは公演により異なります。