アヴィシャイ・コーエンインタビュー イスラエル出身のベーシストが思うジャズ界・音楽への思い
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イスラエル出身のベーシストで、コンポーザーでもあるアヴィシャイ・コーエンによるオーケストラ・プロジェクト公演が2018年8月26日に紀尾井ホールにて、1日限定で開催される。この度、コーエンに話を聞くことができた。
アコースティック・ベース。ウッド・ベース。ダブル・ベース。コントラバス。アップライト・ベース。いろんな呼び名があるものの、その重低音を担う楽器はサウンドの屋台骨を担う、縁の下の力持ち的な楽器である。だが、秀でた使い手にかかると、それは敏感なハンドル役を担いサウンド総体をぐいぐいと動かしたり、ちょっとしたフレイジングや間(ま)でサウンドの情緒や奥行きを望外に与える。そこらあたりに着目すると、いかにも木の楽器という感じのこの大型の弦楽器に対する興味は倍加するだろう。
そして、今のジャズ界において間違いなくトップ級の面白さ、味わい深さを持つベーシストがアヴィシャイ・コーエンだ。彼はNYで修行をしているときに、その力量を重鎮ピアニストのチック・コリアに見初められ、彼のバンドに参画。そこでの確かな技巧に支えられた風景を鮮やかに浮き上がらせるような雄弁な演奏は多大な印象を受け手に残し、1998年以降はリーダー・アーティストとして百面六臂の活動をしてきている。
そんなコーエンを語る際にまず外すことが出来ないのが、彼がイスラエル人であることだ。彼はNYに出る事でジャズ界でエスタブリッシュされたが、12年前からは本国に戻り活動している。
「イスラエルのジャズ・シーンはここ数年で随分と大きなものになりましたが、大きな理由がそこにはあります。イスラエルは今まで常にモロッコやギリシャ、トルコ、ブルガリア、スペイン、そして東ヨーロッパ諸国の多くの異なる文化、そして世界各国にいるユダヤ人の子孫たちから影響を受けてきました。その影響は音楽や言語、そして美味しい食べものなど多岐にわたって見られ、様々な場所にそれぞれ違ったように吸収され、より独創的なものにする助けとなっています」
また、イスラエルのジャズ界について、彼はこうもコメントしている。
「ここ最近はイスラエルにも、本当に多くの才能にあふれた若い音楽家が出ています。彼らと一緒に活動することで私自身、彼らからインスパイアされますし、同時に学ばされてもいます。私はその成長の手助けとなることに大きな関心を持っていますし、彼らを好きですね」
そんなオープンな姿勢を持つコーエンの音楽営為はとてもしなやか。トリオでの活動を柱に置きつつ、ジャズの本質を浮き彫りにするようなストーリー性にあふれた即興演奏を鋭意求めたり、一方ではイスラエルのフォーク・ソングを題材に置き(時には、ザ・ビートルズ・ソングも)悠々とベースをつま弾きながら歌ってみたり。さらには、ストリングスやオーケストラと共演する特別仕立ての公演も彼はたびたび行ってきている。
「2013年に『アルマー』を作った時、その収録曲のためにオーケストラを使ったアレンジメントを書くという事は、私にとって大きなステップとなりました。まわりにいる皆んなは私の楽曲はオーケストラと合うと言ってくれていましたが、5年以上の歳月をかけて新しい編曲と楽曲を進化させるべく練り上げました」
今度東京で持たれる17人の弦楽器奏者を擁する<アヴィシャイ・コーエン・トリオwith 17ストリングス>は、過去試みてきたそうしたクラシック奏者たちとの邂逅を磨いたものとなる。『アルマー』に収録されていた2曲をはじめ、数々のマテリアルがトリオとチェンバー・オーケストラ用に新しく編曲されるという。
「殆どの楽曲が私のアレンジです。私のアイディアとイメージを基に、何人かの音楽家/編曲家のちょっとした何かが足されていたりもします」
基本となるトリオの同行者二人を、コーエンは以下のように説明する。
「ピアニストで作曲家のエルチン・シリノフはアゼルバイジャンの出身で、私のトリオの新しいパートナーです。これから一緒にやっていく年月で一緒に成長していけることを、とても楽しみにしています。そしてもう一人のステージにおけるパートナーであるイタマール・ドアリはマルチなタレントで、才能あるイスラエルの打楽器奏者です。彼とは最新のアルバム『1970』のレコーディングも一緒に行っており、また遡れば2009年と2011年に出した『オーロラ』と『セヴン・シーズ』でもフューチャーしています。彼は今までも私と世界中のいろいろな所で、様々な違った編成のもと一緒に演奏しています」
様々な楽曲素材をめくるめくチェンバー・オーケストラと紐解くその出し物は、多様な文化や音楽様式を思うまま超え、結果的にコントラバス、そしてジャズという楽器や表現の自由な可能性を浮き上がらせるものになるに違いない。
「一連の活動は様々な文化や音楽のスタイルを求める長い旅路なんです。それを求めるからこそ、私は音楽家たりえると思っています。音楽が発展していくことや動いていくのを止めることはできませんし、それは私を高みへと導いていってくれます」
彼は新しいプログラムを用意、それをもとに日本で新しく出会う音楽家と一緒に事にあたることを、今心待ちにしている。
取材・文=佐藤英輔
公演情報
Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents
AVISHAI COHEN TRIO WITH 17STRINGS
『アヴィシャイ・コーエントリオ with 17ストリングス』
出演:
アヴィシャイ・コーエン(ベース、ボーカル)
イタマール・ドアリ(パーカッション)
エルチン・シリノフ(ピアノ)
松本裕香、渡邉みな子、蓑田真理、西野絢賀、坂本尚史(1stバイオリン)
emyu:、土谷茉莉子、村津瑠紀、西原史織(2ndバイオリン)
惠藤あゆ、土谷佳菜子、西村葉子、吉田飛鳥(ヴィオラ)
山田健史、福井綾、岡本渚(チェロ)
永田由貴(コントラバス)
曲目:
アヴィシャイ・コーエンによるオリジナル楽曲、アレンジ楽曲
(日本初演ストリングス・オーケストラ版)
会場:
紀尾井ホール(東京都千代田区紀尾井町6−5)
日時:
2018年8月26日(日)
1st stage 14:30開場 15:00開演
2nd stage 17:30開場 18:00開演
料金:S席 9,500円 A席 8,000円 学生席(大学生以下)5,000円
※未就学児入場不可。小学生以上のお客様は通常の
※学生席(大学生以下)
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※会場内外で発生した事故・盗難等は主催者・会場・出演者は一切責任を負いません。
※会場内への録音、録画、模写に使用する機材及び酒類、飲食物、危険物等の持込はお断り致します。
※都合により、出演者、公演内容の一部を変更する場合がございます。予めご了承ください。公演が中止や延期となった場合の旅費等の補償は致しかねます
主催:ぴあ、ブルーノート・ジャパン