ようこそバレエの世界へ! 同時代人として観ておきたいダンサー、必見の舞台! 吉田都×堀内元『Ballet for the Future 2018』

2018.8.10
コラム
クラシック
舞台

『吉田都×堀内元Ballet for the Future 2018』

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ローザンヌ国際バレエコンクール受賞を機に世界有数のバレエ学校に学び、各々、英国ロイヤル・バレエ団とニューヨーク・シティ・バレエでプリンシパルの座に昇り詰めた吉田都堀内元が特別出演し、次世代のダンサーと観客にバレエの魅力を伝える〈吉田都 × 堀内元 Ballet for the Future 2018〉が実施される。2015年にスタートしたChacott チャコット ・バレエ公演シリーズの第四弾である。

瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

吉田と堀内の許に、二人と同様、国際バレエコンクール受賞者や海外のバレエ学校・団出身者および現所属者が参集する。2000年のローザンヌ国際バレエコンクール受賞者にして今年はその審査員を務めた加治屋百合子は、アメリカン・バレエ・シアターを経てヒューストン・バレエでプリンシパルとして活躍中、新国立劇場バレエ団プリンシパルである福岡雄大は、2008年のヴァルナ国際バレエコンクール銅メダリスト。堀内がニューヨーク・シティ・バレエを退団した後の2000年以来、芸術監督を務めるセントルイス・バレエの現・元団員も参加する。

しかし〈Ballet for the Future〉は、スターダンサーが集う一期一会のガラではない。第一回以来、出演者は舞台に立つ前の段階から、吉田と堀内とともにレッスンで汗を流し、リハーサルを繰り返し、ともに舞台を作り上げる。一連のプロセスを共有することこそが、吉田と堀内が何よりも大切にする、この公演の核心なのだ。

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の前・芸術監督ピーター・ライトの下で頭角を現し、英国ロイヤル・バレエ団でさらに大輪の花を開かせた吉田が、稽古場で人一倍ならぬ、人三倍もの稽古をして舞台に臨む真摯な姿勢自体が、若きダンサー達の成長の糧となるに違いない。筆者自身、たまたま見学したレッスンに現れた吉田を間近で見る幸運に恵まれたことがある。舞台さながらの凛とした佇まいや軽やかでありながら精密なテクニックに目を奪われただけでなく、自身のボディと会話を交わすかのように、何気ない手足のポジションやポーズを丹念に確認し、調節し、踊りをさらに磨き上げようとする貪欲さに感服したものだ。

瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

生前のバランシンが愛でた、歴代のニューヨーク・シティ・バレエ団員のなかでも抜きん出てシャープな堀内の踊り、芸術監督を同時に務めながら、自身のコンディションを万全に保つ堀内の姿もまた、周囲のダンサーを発奮させずにはおかないはずだ。実際、回を重ねる毎に、脇を固める若手達の放つ溌剌としたエネルギーが増していることは印象深い。

瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

すなわち〈Ballet for the Future〉は、吉田と堀内の豊かな経験を次世代のダンサーと観客に惜しみなく伝える場、と言い換えることができる。

プログラムの主軸をなすのは、前三回の公演がそうであったように、セントルイス・バレエのレパートリーから選りすぐった演目だ。本公演の芸術監督でもある堀内が自ら振り付けた作品あり、彼が委託した作品あり、恩師バランシンの作品あり。いずれの作品も、アメリカのバレエの根幹をなす、明朗にして快活な味わいを備えている。ロシアやヨーロッパのバレエを鑑賞する機会の多い日本にあって、堀内をダンサー・振付家・芸術監督として育てたアメリカならではのバレエの間口の広さと奥深さを味わう格好のプログラムなのだ。

堀内の『La Vie』は、クラシックとジャズを融合させたフランス人作曲家クロード・ボリングの音楽さながらに、振付もクラシック・バレエの枠組みに留まることはない。随所にジャズ・ダンス顔負けの躍動感がみなぎり、ロマンチックなデュエットにはバランシン作品を彷彿させる入念なパートナリングが織り込まれている。

瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

〈Ballet for the Future〉第一回公演では堀内と共演した吉田が、彼女の身上である英国仕込みの端正な踊りとは一味違う、快活な踊りで新生面を開いたことは記憶に新しい。今回の女性プリンシパルは、加治屋百合子をゲストに迎える。「円熟味を増し、圧倒的な表現力とテクニックを併せ持つ、今や世界有数のプリマ・バレリーナ」とは、彼女との最初のリハーサルを終えた堀内の加治屋評。「今から、本番が楽しみ」と語る。初めて踊る堀内作品で堀内本人と初共演する加治屋が、どのような表情を見せるのだろうか。

瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

『Bloom』は、セントルイスを拠点とする振付家ブライアン・イーノスに委託した作品で、バレエのステップと自由闊達なムーブメントが渾然一体になった振付を眼目とする。ミニマル・ミュージックの響きを持つ音楽は、ニューヨーク・シティ・バレエ出身のクリストファー・ウィールドンが英国ロイヤル・バレエ団で発表したヒット作『不思議の国のアリス』の作曲者ジョビー・タルボットによる。

セントルイス・バレエのレパートリーの一翼を担うバランシン作品からは、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』と『Valse Fantaisie』がお目見えする。前者は、チャイコフスキーが『白鳥の湖』用に追加作曲した音楽を用いて、別個の作品として振り付けたもの。繋ぎのステップを極限まで削ぎ落とし、跳躍や旋回などの美技をスピーディに連ねた振付が、文字通り、アメリカらしいダイナミズムを醸し出す。グリンカの「幻想的ワルツ ロ短調」に振り付けた後者は10分弱の小品ながら、音楽と呼応しながら刻々と隊列を変化させる群舞や変幻自在のデュエットに、バランシンの真骨頂が凝縮されている。バランシン作品が、ダンサー・堀内だけでなく、振付家・芸術監督・堀内の引き出しを豊かにしたことを実感できるだろう。

吉田は、彼女が自身の原点と呼ぶ古典バレエの中から『ライモンダ』第三幕の結婚の祝宴(抜粋)を選び、福岡雄大と踊る。彼女が2020年9月に新国立劇場舞踊部門の芸術監督に就任することは、既報の通り。同劇場の〈今日〉を支えるプリンシパルと〈明日〉を支えるリーダーの共演が実現することとなった。

瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

洒脱な現代作品から正統派の古典作品まで、バレエ鑑賞初心者にも親しみやすいバラエティに富んだプログラムで、肩肘張ることなくバレエを楽しもうではないか。次世代にバトンをつなぎ、〈未来〉を築こうではないか。〈Ballet for the Future 2018〉の舞台の端々から、吉田と堀内の声が聞こえてくることだろう。

文=上野房子(舞踊評論家) 写真=瀬戸秀美「Ballet for the Future」公演より

公演情報

吉田都×堀内元 Ballet for the Future 2018

<大阪公演> 
日程:8月21日(火) 開場17:45 開演18:30
会場:NHK大阪ホール
料金:S席¥9,300/A席¥7,800/B席¥6,300(税込)
主催:チャコット
<新潟公演> 
日程:8月23日(木) 開場17:45 開演18:30
会場:新潟県民会館
料金:S席¥9,300/A席¥7,300/B席¥5,300(税込)
主催:新潟日報社/チャコット
<仙台公演> 
日程:8月27日(月) 開場17:45 開演18:30
会場:仙台銀行ホール イズミティ21
料金:S席¥9,300/A席¥7,300/B席¥5,300(税込)
主催:チャコット/TBC東北放送
協力:河北新報社
 
発売情報:一般発売中
 
※未就学児童入場不可。
※車椅子をご利用のお客様は、事前にお問い合わせ先までご連絡ください。
※出演者は2018年4月末日現在の予定です。出演者の怪我や病気その他やむを得ない事情により変更になる場合がございます。
※出演者の変更等により、やむを得ず演目が変更になる場合がございます。最終的な出演者・演目は当日発表とさせていただきます。
※公演中止の場合を除き、キャンセルや変更及び払い戻し等はいたしかねます。また、公演中止の場合の旅費等の補償はいたしかねます。
※開演後の入場は制限させて頂く場合がございます。
※20名様以上の団体の方には団体割がございます。チャコットwebサイトお問い合わせ先メールまでご相談ください。以上を予めご了承の上、お買い求めください。
 
協力:ブルーミングエージェンシー/オフィス・エイツー/バレエスタジオ ミューズ/セントルイス・バレエ/株式会社ビデオ
企画・制作:チャコット
 
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