三島由紀夫原作『命売ります』が初の舞台化 東啓介×上村海成が作品への思いを語り合う「いいものを届けたい」
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(右から)東啓介、上村海成
三島由紀夫のユーモア小説『命売ります』が初めて舞台化される。今年ドラマ化されるなど注目を集めている作品で、台本と演出を手がけるのはノゾエ征爾(出演も)。個性豊かな登場人物を演じるべく、個性あふれるキャストが集まっている。自らの命を売りに出す主人公の山田羽仁男役の東啓介と、吸血鬼の女の息子で羽二男の命を買うこととなる井上薫役の上村海成が、作品への思いを語り合った。
ーーこの舞台の話をお聞きになって、まずどんなところに興味を持たれましたか。
東:三島由紀夫さんの作品の初めての舞台化に出られるということでものすごく興味を持ちました。実際に原作を読んでみると、非常に読みやすくてポップで、いろいろと情景が思い浮かんできました。三島作品は中学生、高校生のころにいくつか読んだんですが、難しいなというイメージがあって、ちょっと疎遠になっていたんです。でもこの『命売ります』は全然印象が違いましたね。さまざまな登場人物が出てくる中で、山田羽仁男は、どうでもいいやみたいな、とにかく死ねさえすれば何でもいいみたいなところから話が始まって進んでいくので、平凡な男と言えばそうかもしれませんが、いろいろと解釈できて、捉え方によっては非常におもしろい解釈もできそうだなと思いました。
上村:僕は原作があるとは知らず、まず台本を読んだんですが、すごくおもしろいなと。すごくすいすい読めるんですよね。
東:すいすい行っちゃうよね。
上村:主人公がさまざまな女性と関係を持ちながら話が進んでいって。僕が演じる井上薫は吸血鬼の女の息子という設定で、すごくいい子だなと思うんですけれども、やっていることがちょっと狂気じみているというか。ちょっとヤバいなあと。お母さんのためとはいえ、買うか、人を? という(笑)。
東:そうだよね。サイコパスみたいだよね。お母さんさえよければいいのかっていう。
上村:いい人だけれどもちょっとヤバさもあるという、そういうところにひかれて、ぜひ演じてみたいなと思いました。三島由紀夫作品はあまり読んだことがなかったんですが、意外と読みやすいんだなあと思いました。小説はけっこう読むんですが、読みづらいものは本当に読みづらくて。名だたる文学作品となると読みづらいことが多かったんですが、全然そういう感じがなくて、すらすら読めましたね。西加奈子さんとか、乙一さんとか、重松清さんとか、読みやすくてよく読むんです。『痴人の愛』もおもしろかったです。でも、三島由紀夫作品となるとちょっと敷居が高い感じがしていまして。
東:何だかその名前だけで近寄り難い感じがするよね。難しいんじゃないかなとか、古文っぽい感じなんじゃないかなとか、勝手ですけど何だか先入観があって。でも、この作品に関しては現代風でもあるし、これをきっかけに皆さんにも親しんでいただけたらいいなと。
上村:僕も、友達にこの舞台の話をして、原作があるよという話をしていたら、難しそうという様な反応があって。わりと先入観にとらわれがちなんですけれど、実際観たり読んだりしたらそのイメージも変わると思うんですよね。臆せずチャレンジしていただきたいです。
ーー今日は扮装してのヴィジュアル撮影がありましたが、その感想と、それぞれの役どころについてお聞かせください。
東:この衣装を着てみて、ちょっと不思議な感じでした。会社に勤めていたコピーライターという設定なので、スーツなのかなと思っていたんですが、今回の撮影のテーマが60年代ということで、人形っぽい感じの雰囲気でおしゃれに撮ったんですよね。ネクタイなんかも謎めいていていい感じなんじゃないかなと。羽仁男は最初、何を考えているかわからないという設定なんですよね。なんで“命売ります”なのかがわからない。本当に死にたかった人間が、生について次第に考え始める。彼が変わっていくところが描かれているのかなと思いますね。いろいろ恵まれていたんでしょうね、きっと。それが、突然死にたい、と思う。でも、そういう人って現代にいないこともないと思うので。死にたいって思う人もいるでしょうから、そういう共感も演じていけたらいいなと。僕自身はさすがに死にたいと思ったことはないですけど、目指していたものがあって、それができなくなったときは、なんで生きているんだろうと思いましたね。やりたいことができない中で、自分が生きている意味を考えたというか、そういうことはありました。
東啓介
上村:僕は制服がブレザーだったので、衣裳の学生服が初めてで新鮮でした。薫はすごく素直だなと思います。ちょっと大人ぶっているところがあったりして。台本を読んだとき、中学生かなと思ったら、高校生だったんですよね。今の時代の自分が読むと中学生に感じられるけど、当時の高校生はこんな感じだったのかなと、この役に対していろいろと想像がふくらんで。人の命を買う以外に手立てはなかったのかなとも考えましたが、すごくまっすぐな人だからこそ、人を買って母にあてがうということをしたのかなと。周りが見えていないというか、そういうところに若さが出ているなと思いましたね。かわいらしいですよね。でも、だいぶヤバいですけど(笑)。舞台でも、まっすぐだけど、でもこいつちょっとヤバくない? と思っていただけるよう表現できたらと思っています。
ーー羽仁男と薫の間には次第に心の交流が生まれていくという設定です。
東:羽仁男は四人の女性と関わっていきますが、この吸血鬼の女の話がかなり好きで。他の三人との話に比べて、羽仁男自身からもこうしてあげたいと思うところがあって、それがすごく自然なので。
上村:三人で家族みたいな雰囲気になるんですよね。
東:そうそう、結末的にもすごくせつないし、ここの話、すごく好きですね。
上村:そう言っていただけてすごくうれしいですね。僕も読んでいて、とても惹かれた話だったので、その役を演じられて、ラッキーと。
東:(笑)
上村:一緒に過ごす時間はちょっとだけだと思うんですが、家族みたいになるんですよね。そしてけっこう終盤まで関わりがあって。だから、一緒にいた間に仲が深まるような出来事がけっこういろいろあったんだろうなって。そういうところも作っていけたら楽しいですよね。
東:唯一続いていく関係性だもんね。
上村:だいたいいなくなりますからね。
東:そうなんだよね(笑)。
ーーお二人は今回が初共演ですね。
東:初めてです。
上村:今日初めてお会いしました。
東:年齢……。
上村:22歳です。
東:そうなんだよね。最初会ったとき、学ラン着てたから、高校生かなって本当にびっくりして。役にぴったりだよね。でもすごくしっかりしてるし、早くいろいろ会話してみたいなというのが第一印象でした。
上村海成
上村:ありがとうございます。僕、実は今ごりごりに人見知りしてますが(苦笑)。メイクのところでお会いして、髪型を見て、あ、いいなあって。
東:今のこの状態よりもっと爆発してたんだよね(笑)。
上村:それまで写真でしか見たことがなかったので、お会いしたら、背が高くて、僕にないものをたくさん持っていて、いいなと。だって、おいくつでしたっけ?
東:23歳。
上村:一つ上なんですよね。でもすごく大人っぽくて。何から何まで真逆な二人がどうなるのか、僕自身楽しみです。
東:おもしろそうだよね。今回ベテランの方が多いキャストだから、同年代で携われることがうれしいよね。
ーー台本・演出のノゾエ征爾さんとはお会いになりましたか。
東:一度だけお会いしました。自分も手探りで、みんなと作っていくから、わからないことがあったら何でも聞いてほしい、全員で掛け合いで作っていこうということをおっしゃってくださって。テレビで見ていたので、目の前にノゾエさんがいる! とミーハーな感じになっていて、一緒に舞台が作れるんだなと、どんどん実感が湧いてきましたね。
上村:僕はまだお会いしたことがなくて、この間出演されていた『ニンゲン御破算』を観に行きましたが、声がすごく印象的で。
東:確かに!
上村:すごくかっこいい声だなと。演出家の方は知識が多くてお話がおもしろいので、早くお会いしていろいろ聞いてみたいなと思いましたね。
東:早くみんなで一緒にご飯に行きたいよね。
ーーそして、個性豊かなキャストの方が勢揃いしています。
東:映像で活躍されている方、舞台で活躍されている方、宝塚で活躍されていた方、さまざまなジャンルの方が出演されるので、すごくおもしろくなるんじゃないかなと。いろいろな化学反応が起きるんじゃないかなと、楽しみですね。
上村:ノゾエさんと一緒に『ニンゲン御破算』にも出演されていた平田敦子さんは、江古田のガールズ『パル子の激情』で主演されていたのを観たことがあるんですが、すごくパワーのある方で。ご一緒する以上は絶対に恥ずかしくないようにしなくちゃいけないなと。どうしても経験の差もあるし、スキルも全然違いますが、すごく気を引き締めていかなくちゃいけない! と思っています。しゃべるだけで舞台の空気が違う、すごいパワーを持った方なので、近くでご一緒するだけでいろいろと学べることもあるだろうなと。もちろん他の皆さんも、テレビや舞台で観てきた方たちばかりなので、こういう機会を本当に大切にしていきたいなと思っています。
ーー舞台ではこれまでミュージカルの経験が多かったお二人です。
東:ストレートプレイ、会話劇だと、音に絶対に合わせなくてはいけないということもないし、いろいろ想像させられることができますよね。ミュージカルだと、楽曲がすごくいいとか、こういう結末が素敵だとか、こういう歴史なんだという感じですけど、会話劇だと、登場人物同士の関係性といったものを描いていることが多いので、演じ方、居方も変わってくるんじゃないかなと思います。
上村:僕もストレートプレイはほとんど初めてなので、どうやったらいいか今はまだわかっていない段階で、あまり気負わずにやった方がいいのかなとか、もっと考えた方がいいのかなとか、いろいろ考えていて。全然未知のものなので、どうしたらいいか全然わからないんですけれども、稽古場で試行錯誤していきたいなと思っています。
ーー意気込みをお願いします。
上村:おそらく初めてのストレートプレイで、周りの方々もすごい方ばかりなので、気を引き締めて、自分のやるべきことをしっかりやって、お客様に喜んでいただけるような井上薫を演じたいと思います。よろしくお願いします。
東:今回、『命売ります』に主演させていただきますが、多方面から集まった豪華なキャストの方々に囲まれて、観に来てくださった方にいろいろなものを与えられる舞台にできたらと思います。この作品を舞台で上演する意味、そして僕が山田羽仁男を演じる意味というものを考えながら、稽古場でいろいろ吸収し、みんなで一緒に作り上げていきたいなと。いいものをお届けできる舞台になると思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います。よろしくお願いします。
(右から)東啓介、上村海成
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本 れお
公演情報
■原作:三島由紀夫
■脚本・演出:ノゾエ征爾
■美術:深沢襟
■照明:吉本有輝子
■音楽:田中馨
■音響:井上直裕(atSound)
■衣裳:駒井友美子
■ヘアメイク:西川直子
■演出助手:神野真理亜
■舞台監督:榎太郎
■プロデューサー:田中希世子/藤井綾子
■製作:井上肇
■企画製作:株式会社パルコ
■出演:
東啓介 上村海成 馬渕英里何 莉奈 樹里咲穂 家納ジュンコ
市川しんぺー 平田敦子 川上友里 町田水城 ノゾエ征爾 不破万作 温水洋一
■会場 :サンシャイン劇場
■入場料金 :S 席 8,500 円 A 席 7,000 円(全席指定・税込)
■前売開始 :2018 年9月8日(土)
■問合せ :パルコステージ 03-3477-5858(月~土 11:00~19:00 日・祝 11:00~15:00)
■公式サイト:http://www.parco-play.com
<大阪公演>
■公演日程:2018年12月22日(土)
■会場: 森ノ宮ピロティホール