パク・ヒョナ(チェロ)&岡田奏(ピアノ)が誘う「音楽お国巡り」の多彩さ

2018.8.21
レポート
クラシック

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

画像を全て表示(12件)

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.7.1ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。7月1日に登場したのは、国内外でソリストとして活躍するチェリストのパク・ヒョナとピアニストの岡田奏だ。

韓国の淑明(スクミョン)女子音楽大学、桐朋学園大学院、ウィーン国立音楽大学、東京音楽大学大学院博士後期課程で博士号習得、および優秀賞を受賞するなどで研鑽を積み、2013年からソリストとして活動しているパク・ヒョナは、ヨーロッパ各地でのオーケストラとの共演、イタリアでのリサイタルツアー、ニューヨークのカーネギーホールリサイタル、ベルリン交響楽団との共演等で好評を博し、現在、東京音楽大学付属高校と東京音楽大学にて後進の指導と活発な演奏活動をしている実力派チェリスト。
一方、15歳で渡仏し、パリ国立高等音楽院を最優秀で卒業、修士課程を最優秀で修了し、第3課程アーティスト・ディプロマ科を経て、ヨーロッパと日本を拠点に活動しているピアニストの岡田奏も、国内外のオーケストラとの共演をはじめ、各地の音楽祭への出演の他に、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」および「きらクラ!」など、メディアへの出演を精力的に展開している。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

人の声に近いチェロの音色が奏でるドイツの歌と、ピアノによるフランスの調べ

そんな二人が登場したサンデー・ブランチ・クラシックは、まずシューマンの「献呈」からスタート。シューマンが最愛の妻クララに贈った連作歌曲集『ミルテの花』の第1曲に位置するこの曲は、シューマンが結婚式前夜にクララに捧げた曲として知られている美しい愛の歌だ。人の声の響きに最も近いと言われるチェロの音色が、この歌曲にベストマッチ。パクのチェロの歌心と、岡田のピアノの繊細さが一瞬にしてリビングルームカフェ&ダイニングを、豊かな音楽世界に包んでくれる。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

二人から「暑い中私たちのサロンにようこそ。素敵な時間を過ごしてください」と、演奏家が自宅にお客様を招いてのサロンを想定しているサンデー・ブランチ・クラシックの趣旨に沿った挨拶があり、ドイツロマン派を代表する作曲家シューマンの曲からはじまった演奏にちなんでパクが、この時開催中だったサッカーワールドカップで「母国がドイツに勝ちました!」と喜びを語ると、微笑ましい拍手がわきおこる。

「今日はなるべく違う国の曲を選びました」という解説のあと、岡田のピアノソロのコーナーとなり、まずドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」。ドビュッシーの前奏曲集第1巻の第8曲に位置するピアノ曲だが、曲集から離れてドビュッシーの楽曲の中でも特に知られている有名曲。岡田の演奏にはフランス音楽に対する深い造詣に裏打ちされた、静寂の中に染みわたる幻想性があり、ポピュラーに知られたメロディーだからこそ、近現代の作曲家であるドビュッシーの音楽が持つ音色の複雑さが際立った。

岡田奏

続いて同じドビュッシーの「喜びの島」。ロココ時代のフランスの画家ジャン・アントワーヌ・ヴァトーの作品「シテール島への巡礼」に影響を受けて書かれたピアノ独奏曲。シテール島は神話の世界では愛の女神ヴィーナスの島とされているが、楽曲が単純な明るい「喜び」を連想させるものではないところが近現代音楽の面白さ。和声の響き、装飾音やリズムの変化に富む速いパッセージの軽やかな演奏が、岡田のテクニックの確かさを感じさせる。終盤の盛り上がりは圧巻で、大きな拍手が贈られた。

ウィーン、スペイン、ロシア、それぞれの音楽に流れる個性を際立たせて

パク・ヒョナが舞台に戻り、オーストリア出身のヴァイオリニストであり作曲家クライスラーの「愛の悲しみ」。「愛の喜び」「美しきロスマリン」との3曲が「ウィーン古典舞曲」の3部作の位置付けで作られていて、特に「愛の喜び」とセットで演奏されることが多い楽曲だが、チェロの深い音色で「愛の悲しみ」が単独で奏でられることによって、独特の味わいを生んだのが新鮮。愛することは、その愛が深いほどに必ず悲しみを伴うことが心に刺さる演奏となった。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

ここで岡田が一端退場し、スペインのチェリストであり作曲家カサドの『無伴奏チェロ組曲から』「インテルメッツォ・エ・ダンツァ・フィナーレ」。晩年日本人ピアニスト原智恵子と結婚し、日本にも所縁の深い20世紀スペインを代表するチェリストの1人であるカサドの、スペイン情緒にあふれた情熱的な楽曲で、無伴奏であるからこそチェロという楽器が持つ様々な可能性が感じられる。パクの演奏は実に自在で、静かに歌うメロディー、躍動するリズムが次第に互いが互いを引き立て合うように盛り上がり、フィニッシュへと駆け抜けて尚、しばしの静寂があったほど集中していたリビングルームカフェ&ダイニングの空気が喝采に包まれた。

パク・ヒョナ

ここで再び岡田がステージに戻り「30分はあっという間ですね!」と語り、「日本人と変わらない日本語を話すばかりか、漢字も大丈夫なんですよ」とパクの語学力にも太鼓判を押して、音楽の旅の最後はロシアへ。チャイコフスキーのヴァイオリンとピアノの為の小品集『懐かしき土地の思い出』から「メロディー」が演奏される。タイトルの通りに豊かなメロディーを、チェロは歌いピアノは奏で双方の掛け合いも見事。チェロの温かい低音、ピアノの輝く高音が響き合い、その美しさは格別。ラストは共に高音を美しく響かせて消え入るように演奏が終わると大きな拍手が贈られた。

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

パク・ヒョナ(チェロ)、岡田奏(ピアノ)

その拍手に応えた二人がアンコールに選んだのはモンティのチャルダッシュ。ヴァイオリンの華やかな技巧による演奏がサンデー・ブランチ・クラシックでもお馴染みだが、チェロの音色に漂う哀感が独特の香りを醸し出す。重音にも迫力があり後半の超絶技巧は圧巻。チェロが奏でる高音だからこその緊張感が独特で、その重厚さにピアノのグリッサンドが華やかさを加えた素晴らしい演奏に惜しみない喝采が贈られた。チェロという楽器の深み、演奏者のコンビネーションの良さを感じさせる40分間だった。

固い信頼とセンシティブな魅力で結ばれた二人の演奏

演奏を終えたお二人にお話しを伺った。

ーー素晴らしい演奏をありがとうございました。リビングルームカフェ&ダイニングでの演奏で感じた雰囲気や手応えから教えてください。

パク:あんまりこういう雰囲気の中で弾いたことがないな、というのを演奏してから気づきました(笑)。お食事もしながらクラシック音楽を楽しめる空間というのはなかなかないのでとても貴重だと思いますし、お客様の雰囲気もとても良かったです。

岡田:日本でこういうサロンで演奏することは、場所自体が少ないこともあってほとんどなかったので、本当に良かったなと。お客様との距離が近いので普通のコンサートホールで演奏するのとは全然違って、私たちもお客様を近くに感じられますし、お客様にも私たちを近くに感じていただけていたらいいなと思いながら演奏していました。

パク:それが第一ですよね。

パク・ヒョナ

ーーお客様の反応もダイレクトに伝わりましたか?

岡田:そうですね! すごくアットホームに感じましたし、クラシックというとカッチリして聴かなければいけないというお気持ちがある方も多いと思うのですが、ここはとてもフランクなので気楽に聴いていただけたのではと。

ーークラシック=難しいというイメージがどうしてもありますからね。

岡田:そうなんです! あとは「長いな」とか(笑)。でもこういう形でリラックスして聴いていただいて「クラシックも楽しい」と思っていただけたらいいですよね。

パク:本当にそうですね。

ーーそんな中で今日の選曲は「音楽で世界のお国巡り」というコンセプトでしたが。その意図というのは?

パク:奏ちゃん(岡田)はフランス音楽が専門なので、まずそれは絶対に弾いていただきたかったのと、私自身、クラシック音楽というカテゴリーの中にも色々な音楽があって、ヨーロッパの様々な国から生まれた音楽はそれぞれ似ているようですが、音色や演奏法なども違うということをお客様に伝えたいというのを常に意識しているんです。なので自分のリサイタルのプログラムでも曲目が生まれた国がかぶらないように選曲する、というのを1つのルールにしているので、今日もその提案をさせていただきました。

ーー冒頭がシューマンの「献呈」で、チェロの音色は人の声に最も近いと言われる通り、まるで歌を聞いているようでなんて美しいのだろうと思いましたし、またそこから岡田さんのドビュッシーは得意中の得意というレパートリーでしたね。

岡田:自分にとっては母国語みたいな感じで、嘘偽りのない自分が出せる音楽なので、これからもずっと演奏し続けていきたいと思っています。

ーーその後も多彩なプログラムで、きっとお客様もお国柄の違いなども楽しまれたことと思いますが、お二人はパリで出会われたとお聞きしていますが、共演も頻繁に?

パク:実は久しぶりなんです。3年ぶりくらい?

岡田:そうだね。お互いのスケジュールが微妙にすれ違っていて、ヨーロッパにいる時期と日本にいる時期が噛み合わなかったりしたので。

パク:だから今日は本当にベストなタイミングだったんです。

(左から)岡田奏、パク・ヒョナ

ーーその久々の共演で、改めてお互いの魅力をどう感じますか?

岡田:室内楽ってお互いの音を聞いて、お互いが尊重し合わないといけないので、どうしても合う人と合わない人というのが出てくるんです。音楽の方向性の問題も大きいので。でもヒョナちゃん(パク)とはすごくそこが一致しますし、彼女は心がおおらかなので一緒に弾いていても優しさを感じられて、一緒に演奏する時間がとても大好きです。すごくセンシティブなんですよね。

パク:センシティブという言葉は全く同じに私も奏ちゃんに感じていて。チェロという楽器はどうしても色々なピアニストと共演することになりますが、彼女はセンシティブだから私が「こう表現したい」というのをすぐに受け取ってくれて時差がないんです。その反応が良いところがお互いにすごく合うんじゃないかと思います。

岡田:そうなの!

パク:あとは、微妙なタイミングが例えズレたとしてもそれを楽しめば良いじゃない? というのを、お互いが持つことができるんですね。それを共通認識にできるピアニストに出会うのはすごく難しいことなので。

岡田:やっぱり音楽の中で何を大事にしているのか? があるから。

岡田奏

パク:それを言葉で言わなくても、初合わせの時にスッと通じたのが私自身もびっくりしたくらいでした。3年ぶりの共演でそう感じられたので。

岡田:それはお互いが心を開いていないとできないことなので、人と人との関係の延長線上にあるもの、人間性にも関わってくるんだろうなと思います。

ーーお互いがベストな関係性を保っていらっしゃるんですね。そんなお二人の今後の活動についての夢や、ビジョンなどは?

パク:今日演奏して強く思ったのは奏ちゃんと、本格的なリサイタルをしたいということです。今日は30分という形でしたから、取り上げられない楽曲も多かったので、それは今日サンデー・ブランチ・クラシックをやらせていただいたからこそ生まれた夢です。あとは私個人としては演奏活動を続けて成長して、今教える立場でもあるのでそれにも集中していきたいなと思います。

岡田:ピアニストって1人でいる時間が長い「孤独感」が親友みたいなところがあるだけに、室内楽をとても楽しいなと思っていて。ソロ、コンチェルト、室内楽と幅広く活動できるピアニストでありたいと思っています。また1人の音楽家としては、その時だけにしかできない音楽というのがあると思うので、聴いてくださる方、お一人おひとりに様々な状況がありますからあくまでも聴く方の自由に聴いていただければよいのですが、その中でも何かが残せる、伝えられる音楽家でありたいと思っています。

ーーでは、お二人での企画が広がることも楽しみにしています。是非またサンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!

パク:こちらこそ、是非よろしくお願いします!

(左から)岡田奏、パク・ヒョナ

取材・文=橘涼香 撮影=福岡諒祠

ライブ情報

サンデー・ブランチ・クラシック

8月26日(日)
長 哲也/ファゴット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html