安倍康律インタビュー 劇団ぼるぼっちょ 音楽劇『ダンナー・ジェンダップ』再演と『井上芳雄 by MYSELF』スペシャルライブについて語る

2018.8.18
インタビュー
舞台

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ミュージカル俳優として数々の舞台で活躍している、安倍康律。2016年に劇団ぼるぼっちょを旗揚げして、自身が演出や脚本を手掛け積極的に公演を行っている。2017年には、井上芳雄コンサート『By Myself』の構成を担当するなど、クリエーターとしての活躍も目覚ましい。

2018年9月7日(金)から9月17日(月)にかけて、劇団ぼるぼっちょ旗揚げ公演で行われた『ダンナー・ジェンダップ』の再演が決定した。また10月と11月に開催される『井上芳雄 by MYSELF』スペシャルライブにも、昨年に引き続き構成担当として参加することが決まっている。

今回安倍康律に、『ダンナー・ジェンダップ』再演への意気込みと、井上芳雄コンサートの構成を手掛けるきっかけとなったエピソードについて話を聞くことができたので紹介する。



――ミュージカル俳優としてのイメージが強い安倍さんですが、劇団ぼるぼっちょの旗揚げをするきっかけは何でしたか?

もともと僕は大学の演劇科出身なんです。大学時代はピアノの鍵盤でドレミファソラシドを弾いても音階がわからず、その音程を出すことができなかったぐらいで。それが卒業公演でたまたまミュージカル『回転木馬』をやることになって、何を間違えたか主演を務めることになったんです。

歌唱指導は東宝ミュージカルの『レ・ミゼラブル』などを担当されているビリー山口さんで、なにせ僕は伴奏で歌えなかったので「きみは話にならないね」と言われ、泣きそうになりトイレで「やばいやばい」と言っている日々でした。でもこの経験をきっかけにしてミュージカルが好きになり、ミュージカルの世界へ進みました。演劇科出身としては珍しいことですね。

ただ、ミュージカルに出演をしている当時から芝居がやりたいという思いが強かったし、まわりにも「芝居がやりたい」とよく言っていたみたいです。ですので、芝居をやるために劇団を旗揚げしました。

――旗揚げ当初、劇団員は安倍さん一人だったんですよね。

最初は友達と二人でやろうかという話もあったんですけど、お互いやりたいことが一致していたわけではなかったので、自分のやってみたい作品を作りたいというのがあり、一人でやることにしました。20代の頃から脚本はずっと書いていて、書き上がった時にプロデュース公演をするという選択肢もあったのですが、劇団のほうが泥臭くていいな……と思ったんです。

――旗揚げ公演『ダンナー・ジェンダップ』を観に行きましたが、出演者と観ている側がすごく近くて驚きました。小劇場、少人数の作品へのこだわりはあるんですか?

大きい劇場だと、演劇は演劇なのかもしれませんが、エンターテインメント色が強くなってしまうなと思っています。そういうものではないものがやりたいんです。

また、小劇場好きの人にも「ミュージカルって、そんなに嫌じゃない」と思ってもらえるものを作りたいというのがありました。僕は自分の作品を「音楽劇」と言っていますが、ミュージカルに近いものがありますから。

――ミュージカルが苦手な人は「突然歌い出したり踊り出すのが分からない」とよく言いますが、人生には突然歌い出したり踊り出したくなる瞬間があるということを『ダンナー・ジェンダップ』でとても自然に演出されていたと思います。ミュージカルが苦手な人にとっても楽しめる作品だったのでは?

ありがとうございます。実はそういう意見をいっぱいいただきました。出演者の知り合いの小劇場ファンが「ミュージカルは嫌いだったけど、これは大丈夫だった」という意見をくださったりもしました。でもまだまだ小劇場ファンに劇団ぼるぼっちょの名前は知られていないので、もっと知られるようになりたいですね。

――俳優をやっているときと劇団をやっているとき、どちらが楽しいですか?

いやー、どちらも楽しいですね。違った楽しさがあります。外部で出演しているときは、自由に作品の世界に没頭して楽しめますし、ぼるぼっちょではどういう作品にしようかと考えて作品が出来上がっていく、みんなで作り上げていく作業が楽しいですからね。

――ご自身をどういうタイプの俳優だと思いますか?

僕は基本的に物怖じしないタイプなので、「ここでこれをやってやろう」と試してみるほうです。いわゆる演劇でいうところの「履歴書を作るタイプ」ではないですが、「ここでこれをしようかな」と表面的なプランを考えていく時間が楽しいですし、そのプランを投げかけて、相手の役者さんがどうでるのか、そういったやりとりがすごく面白いです。突発的なアクシデントがあっても「おっ、きたな」って思います。

でもこの楽しさは自分の劇団では、なかなか感じられないですね。

――それはどうしてですか?

自分の劇団では演出もしているので、作品の責任というのがあると思います。外部の舞台の場合は、僕が試したことが全然違うのであれば「そうじゃないです」と言ってくれる人がいます。でも劇団では、僕がやったことが果たしていいのか自分では見えないですし、僕が舞台に上がっているときはその芝居の良し悪しがジャッジできないところは難しいです。

でもこれは僕だけじゃなく、演出と出演することの両方をやっている人はみんな言っています。一度両方やっている人にどういう気持ちでいるのか聞いてみたいですね。

――そんな大変な葛藤がありながらも、9月に旗揚げ公演『ダンナー・ジェンダップ』の再演が決まりました。初演とは出演者もガラッと変わるということで、見どころを教えてください。

まだ稽古が始まったばかりなので今後いろいろ変わっていくと思いますが、見え方が旗揚げのときと違うと思うので、全部をしっかり観ていただきたいですね。

初演を観ていただいた方にも、今回は出演者が変わるということで持っている役者の個性が全然違います。台本は基本的に変えませんが、裏に含んでいる「あれ?この人本当はこう思っているの?」というように、ニュアンスを変えるのも面白いのかなと思っています。

また前回は出てくる登場人物が全員底抜けに明るいところがあったんですけど、今回は僕が書いたことと違う可能性が見える役者が集まっているので、せっかくだからいろいろと試してみたいなと思います。試して違っていたら、もとに戻しますけど。

――現段階では分からないけれど、前回とは違う『ダンナー・ジェンダップ』が期待できるかもしれないんですね?

はい。皆さんが気付くぐらいに押し出すかどうかは分からないですけどね。わりと普遍的な童話テイストで、幼い頃の記憶をくすぐられる感じがある作品なので、そういうワクワク感を感じに観に来ていただけたらと思いますね。そして先ほども言いましたが、僕は一貫して、ミュージカルが苦手な人にも楽しんでもらえる作品にしたいと思っています。

また前回もそうですけど、役者が登場人物としてだけじゃなく参加する場面も楽しみにしてほしいです。前回よりふんだんにそういうシーンを入れようかなと思っていて、せっかくなので、みんなで体を使って作る芝居にしてみたいです。

――次に井上芳雄さんのコンサート『井上芳雄 by MYSELF スペシャルライブ』のお話を伺いたいと思います。井上さんがラジオで「構成は昨年に引き続き安倍康律くんで……」とおっしゃったときに、そういう仕事もなさるのかとびっくりしました。どういうきっかけで関わることになったんですか?

(井上)芳雄くんが、劇団ぼるぼっちょの『イケ・ダーニェル3世』を観に来てくれて、「良かった」と言ってくれたんです。その後ミュージカル『グレート・ギャッビー』で共演した時に、芳雄くんのファンイベントをアシスタントとして手伝ってくれないかと言われました。芳雄くんから「ファンイベントでこういうことをやりたいから台本を書いてくれない?」と言われ、そこで小ネタみたいなものを書きました。あとからそれが過去最大級にアンケートの評判がいいですと言ってくださったんですよ。

そしたらラジオのライブの話がきて「勉強のためにやってみない?」となったんです。

――井上さんのファンイベントをきっかけに、大きな話になったんですね。

そうですね。『グレート・ギャッビー』上演中にも『アイスキャッスルの夕べ』というアフターイベントの台本を書いたりしていたので、ぼるぼっちょの公演を含めて、そういうのを見ていてくださったのかなと。ただ僕は曲目を決めているわけでもなく、歌以外の部分について書いているだけなんですけど。

――昨年は具体的にどうやって進めていきましたか?

芳雄くんが「こうしたい、ああしたい」と出してきたアイデアを一緒に話し合って、ここに立ってほしい、見えづらいからこっちのほうが面白いよ、と話し合いながらやりましたね。芳雄くんとは仲がいいので、コミュニケーションが取りやすいですから。

――今回ゲストもミュージカルで活躍されている俳優さんだけじゃなく、ジャングルポケットの斉藤さんが出演されるという意外性もありますが、ゲストとのやり取りも書くことになるのですか?

そうですね。実は斉藤さんは大学時代の1学年下の後輩なので、当時仲が良かったんですよ。芳雄くんも『リトルマーメイド』のコンサートで斉藤さんと一緒になって仲良くなったみたいですね。

今は決まったゲストに対して、「このゲストでどんなおふざけをしようかな」というのを勝手に書いて芳雄くんに送って見てもらっています。大枠を決めるのはコンサートの主催者側と芳雄くんなので、僕は隙間をうめる役なのかなと思っています。

――今からどんなコンサートになるかとても楽しみです。

もともと芳雄くん自身が楽しい人ですからね。トークが上手ですから、本当は僕が書いたものは必要ないんですよ。だって全然違うことをしゃべることもあるし、一応ギャグとかも入れて書きますが、全然違うことを言って「それのほうが面白いな」ってことがいっぱいありましたから。

――それはもともと安倍さんが書いた台本があるからこそ、できることでは?

そうですよね!(笑)

――井上さんもすごく安倍さんを頼りにしているのではないですか?

頼りにしているかどうか、今度会ったときに聞いてみますね(笑)。

――今後もこのような仕事が増えていくんでしょうか?

以前、ベイビーレイズJAPANの林愛夏さんがライブでやる一人芝居を書きましたが、今のところ「この仕事をやっていこう!」と思っているわけではないです。ただ先のことは分かりませんからね。

――今後の目標をお聞かせください。

芳雄くんは以前、僕とミュージカルを作りたいって言ってくれたんです。芳雄くんがそう思っているうちに、作品を作りたいなと思っています。

例えば、最近芳雄くんが「プリンス役がこない」と言っていたので、超プリンス役をやってもらっていじり倒すというのもいいのかなと。僕は出番を少なくしながらも芳雄くんと絡みたいので、芳雄くんのお付きの者の役というところでしょうか(笑)。

演劇としての笑いとおふざけを入れつつ、芳雄くんが僕とやりたいと思ってくれているうちに、早めに実現したいですね。最近この話をすると「はあ……」とうやむやになってしまうので(笑)。

取材・文・撮影=吉永 麻桔

公演情報

劇団ぼるぼっちょ 第4回公演 音楽劇『ダンナー・ジェンダップ』

公演チラシのイラストも安倍康律が描いている

 
■作・演出・作詞・作曲・振付:安倍 康律
■出演:
林勇輔 中村勇矢 蜂谷眞未 岡崎大樹
池田紳一 碓井菜央 安倍康律
■公演日程・会場
2018年9月7日(金)~9月17日(月) ザ☆キッチンNAKANO
料金 3,500円(日時指定/自由席) 学生割引 2,500円(要学生証提示)
■企画・製作:劇団ぼるぼっちょ
■協力:株式会社オスカープロモーション
■公式サイト:https://peraichi.com/landing_pages/view/boluboccho
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