東京二期会プッチーニ「三部作」公演に向けてプレ・イベントを開催 プレ講座&ミニ・ライブで名曲の数々に客席が酔いしれた
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東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
9月に東京二期会が上演するプッチーニ「三部作」公演に先立つプレ・イベントとして、プレ講座&ミニ・ライブが8月16日にすみだパークギャラリーSASAYAにて開催された。満席となった客席は、プッチーニと『三部作』についての解説に聞き入り、プッチーニの名曲の数々の生演奏に酔いしれた。
講座に登壇したのは、テノール歌手の高田正人。NHK「ラジオ深夜便」“ミッドナイトオペラ”に出演中で、甘美な歌声と知的でわかりやすい解説が好評を呼び、人気沸騰中の話題の歌手だ。「三部作」には、『外套』の〈流しの唄うたい〉役で出演する。
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
プッチーニの生涯と作品
前半は、高田によるプッチーニの生涯と作品についての話。宗教音楽の作曲家の一家に生まれながら、ヴェルディ作曲の『アイーダ』との出会いによって、オペラ作曲家を目指したプッチーニ。生涯で12本のオペラを遺したが、『マノン・レスコー』『ラ・ボエーム』『蝶々夫人』『トスカ』……など、多くの作品がイタリア・オペラ界に燦然と輝く傑作となった。
高田は、プッチーニがオペラ作曲家として活動していく様子を、イタリアの街並みをスライドに映しながら巧みに解説した。
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
途中、プッチーニの代表作から『トスカ』の〈星は光りぬ〉を披露。銃殺される直前にカヴァラドッシが、空に輝く星に向かって、愛するトスカを想いながら歌う珠玉のアリアだが、高田の伸びやかで熱のこもった歌声に聴衆は魅了された。会場の雰囲気が、一気にオペラの世界に変わったのを感じた。
続いて、プッチーニの人生にとって重要な出来事となっていく、エルヴィラとの結婚についての話に移る。プッチーニは、すでに別の男性と結婚していたエルヴィラとのミラノへの駆け落ちをして、その20年後に正式に結婚する。しかしその後、プッチーニの自動車事故をきっかけに、エルヴィラは看護をする女中ドーリアとプッチーニの浮気を疑い、彼女を責め立てた。事実は潔白であったが、気を病んだドーリアは自殺してしまい、エルヴィラは遺族から訴えられることとなる。
イタリア中の大きな話題となり、後に映画の題材にもなったスキャンダラスな事件だったが、プッチーニのその後の作品に大きな影響を与えることとなった。一説には自殺したドーリアの面影が「三部作」の『修道女アンジェリカ』や未完の遺作となった『トゥーランドット』のリューに反映されているとも言われている。
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
プッチーニを代表するこれらの作品の背景にあったエピソードを、聴衆も興味深く聞き入っていた。
前半のラストには、ミラノを拠点に活躍するソプラノ歌手で、「三部作」出演のために帰国している新垣有希子が『トゥーランドット』の〈リューのアリア〉を歌った。プッチーニが人生の最後に書いたアリアであり、短剣で自らの胸を刺して死ぬ間際のリューの痛切な想いが、新垣の澄み切った美声を通して、見事に表現され、胸を打つものがあった。
「三部作」について
後半は、いよいよ今回の講座の本題である「三部作」についての話だ。
「三部作」は、『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』という3つの作品からなる。
プッチーニは、この作品を地獄篇/煉獄編/天国編と三部からなるダンテの『神曲』から着想を得たと言われている。『神曲』の暗・暗・明という構成は、『外套』『修道女アンジェリカ』が悲劇、『ジャンニ・スキッキ』が喜劇というつくりと相似形をなしている。また、『ジャンニ・スキッキ』の話は、地獄篇 第30歌をモチーフにしており、『神曲』から大きな影響を受けていることがわかる。
「三部作」の一つひとつの作品には、物語上のつながりはない。『外套』の舞台は、1910年のパリ。『修道女アンジェリカ』は、17世紀末イタリアのとある修道院。『ジャンニ・スキッキ』は、1299年のフィレンツェ。それぞれの作品の時代も国も違い、舞台美術や衣裳もまるで異なったものが必要となるため、公演規模は大きくならざるを得ない。これが、3作品が通して上演されることがなかなかない大きな理由のひとつだ。
天才演出家ダミアーノ・ミキエレットが見出した共通点
しかし、今回演出するダミアーノ・ミキエレットは、3つの作品の共通項を見出し、現代のひとつの連続した作品に仕上げた。その共通項が《親子》というキーワードだ。それぞれの作品には、何かしらの形で《母と息子》また《父と娘》の関係性が描かれている。最後の『ジャンニ・スキッキ』で、娘のラウレッタが〈わたしのお父さん〉を歌い、父の許しを得ることになるが、それが何故なのか。その答えは、この3作品を通した《親と子》というキーワードの連鎖とつながってくるとのことだ。劇場でぜひとも確かめてほしい。
また、同じ歌手がそれぞれの作品で別の役を演じることで、まったく違う役でありながら、どこかに共通点やつながりが見えてくる演出的な仕掛けもあるとのこと。通奏低音のように響き続ける共通のイメージを探りながら観るのも面白いだろう。
プッチーニ音楽の魅力を存分に堪能
イベント終盤には、テノール歌手で本公演のカヴァーキャストの一人である菅野敦が登場。数多あるプッチーニのアリアの中でも最も有名であろう『トゥーランドット』の〈誰も寝てはならぬ〉を披露した。フィギュアスケートでも多く取り上げられる人気曲だけあって、曲目を発表しただけで客席がざわついたのが印象的だった。聴衆の期待感が高まる中、豊かな声量と真摯で瑞々しい歌声が会場に響き渡った。
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
感動的な空気が客席に広がり、目頭をハンカチで押さえる観客も散見した。
菅野は近年『ダナエの愛』ミダス役での主演したほか、『ばらの騎士』『ローエングリン』などでもその実力を遺憾なく発揮しており、二期会歌手の層の厚さを改めて感じた。
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
ラストは、再登場した新垣有希子の『ジャンニ・スキッキ』から〈私のお父さん〉、そして高田正人との〈ラウレッタとリヌッチョの二重唱〉の熱唱でイベントを締めくくった。満席の客席からは鳴りやまない熱い拍手が贈られた。
東京二期会プッチーニ「三部作」プレ・イベント プレ講座&ミニ・ライブの模様から
《講座》と題名は付いていたが、オペラの専門的な知識がなくても分かりやすく楽しめ、そして興味をそそられる内容だった。ユーモアたっぷりの高田の語り口は親しみが持て、終始和やかな雰囲気をつくり出し、随所で笑いを取った。普段、舞台の上でしか見られないオペラ歌手と実際に接することで、よりオペラを身近に感じられるきっかけになるイベントだったと思う。こうしたイベントは、敷居が高いと思われがちなオペラの世界の裾野を広げる非常に大切な取り組みであると感じた。
「三部作」は9月6日~9日まで新国立劇場オペラパレスにて上演される。二期会が「三部作」を通し上演するのは1995年以来。数少ない貴重な上演をお見逃しなく!
公演情報
ジャコモ・プッチーニ「三部作」『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』
日程:2018年9月6日(木)~9月9日(日)
S席:¥17,000
A席:¥14,000
B席:¥11,000
C席:¥8,000
D席:¥5,000
■平日マチネ・スペシャル料金
S席:¥15,000
A席:¥12,000
B席:¥10,000
C席:¥8,000
D席:¥5,000