「伸びる若手、ダメな上司の見分け方」山崎武司の仕事術~アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術【コラム】

2018.9.7
コラム
スポーツ

通算403本塁打・山崎武司の意外な素顔

9月に入り、夏が終わり、プロ野球もシーズン終盤に突入している。

ぼちぼち大物ベテラン選手の引退や監督の去就が話題になるこの時期、中日・森繁和監督も注目を集めるひとりだ。複数年契約と報じられていたが、単年契約と判明。落合監督時代の名参謀ぶりや、オフのドミニカウィンターリーグ視察を元にした“森ルート”の外国人選手発掘や松坂獲得の決断等、球界最後の寝業師の異名を取ったが、今季のチームはリーグ最下位に低迷。そうなると、結果がすべてのプロの世界では、次期監督候補の名前がメディアを賑わす。小笠原道大2軍監督の昇格案だけでなく、地元マスコミで根強い若い生え抜き監督待望論、例えば山本昌、立浪和義といった面々だ。

個人的には山崎武司に注目している。通算403本塁打のスラッガーだが、彼ほど現役時代に様々な経験をした選手は珍しい。86年ドラフト2位で中日入りも、若手時代は捕手として芽が出ず10年ほど下積み生活の日々。プロ10年目でようやく規定打席に到達してホームラン王を獲得するが、やがて首脳陣とぶつかり移籍を繰り返す。誰もがもう山崎は終わり…と思ったら、新球団の楽天で復活して30代後半で43本塁打、108打点と打撃二冠獲得。星野仙一や野村克也といった名監督たちの下でもプレー、12年には古巣中日に復帰、翌年45歳でユニフォームを脱いだ。

公称身長182cm、体重100kgのプロレスラーのようなド迫力の風貌。ベンツにフェラーリ、ランボルギーニと高級外車を集めることが好きで、一見豪快なジャイアンキャラのイメージが強いが、今回紹介する著書『今、意味がないと思うことに価値がある』(KKベストセラーズ)を読むと、実像はそんな第一印象とはまったく違うことに驚かされる。

なんと山崎はああ見えて酒がほとんど飲めない…ってそこじゃなくて、ヤンチャだった自身の若手時代を「ひどく自惚れた人間」「客観的に見ればただの勘違い野郎」と冷静に振り返る一方で、結果が出ない2軍生活の中では、自惚れて自分の力を信じるしかなかったと正直に書く。サヨナラアーチを放ち、自軍ベンチに向かって「おっさんボケェ〜オレを使えば打てるんじゃ!」と絶叫したとか、オリックス時代に「ボケェ!」なんつってシャウトながら監督室にバットを投げつけた…的な現役時代の武勇伝を期待していると肩すかしを食らう内容だ。

伸びる若手、ダメな上司の見分け方

自分がヤンチャだったからこそ、ベテランになりそのスタンスを見つめなおす。複数の球団で多くの若手を見てきた山崎は、怒られ方でその選手の器量が分かると言う。伸びる素質がある人ほど、言い訳したり不貞腐れたりせず、まず最初に「はい、わかりました」と答える。相手を受け入れる人間は、どんどん新しい知識を身につけ成長していく。偶然にも、あの名キャッチャー古田敦也もノムさんのぼやきに対しては「とりあえず言われたことには、分からなくても『ハイ!』と答えていました」と自著『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)でカミングアウトしている。最初は理不尽でも何も言わずに引き下がって耐えて結果を残すと、徐々に「あのピッチャーはどうだ?」と監督の方から意見を求められるようになる。プロ野球選手、そこからが勝負だよと。

山崎はさらに球界に多い「責任を取るという勘違い上司」についても言及する。監督やコーチは「最後はオレが責任を取る。お前らは思いきってやれ」なんて格好良く言うけど、いったいどうやって責任を取るというのか? ただの責任逃れにしか聞こえない。責任を取るというのは、結果を出すため自らが具体的な努力をすることだ。

そう言えば、会社でも「何かあったら責任はこっちが取るから、思いきってやれ」なんて言う部長とか課長がいるが、そう言うあんたも雇われの身じゃねーかと突っ込みたくなるあの感じ。ちなみに以前、元ロッテの里崎智也氏にインタビューをした際に「責任を俺が取ると言う人ほどすぐ諦める。自分の部下を従わせる能力がないから、責任という言葉を使って従わせようとしているだけなんです」とほぼ同じ指摘していたのを思い出す。ということは、球界にはまだ「オレが責任を取る」的な古いタイプの指導者がいる(もしくはいた)ということだろう。自身の立場を守るための口だけ指導はそのバランスを見誤ると、選手からパワハラで訴えられるハメになる。

昭和と平成球界を体験した世代が指導者に

恐らく、山崎のように現役で昭和と平成の空気を両方経験してきた世代は、それぞれの時代の長所と短所を肌で感じているはずだ。例えば、年下の後輩との接し方も上からの一方通行ではなく、頻繁に誘うと気を遣わせるのが分かっているので、半年に一度くらい若い連中を食事に連れて行く。いつ帰っても自由な無礼講の会で、彼らが普段何を考えているか野球と関係ない話を聞く。山崎自身もそれだけで元気になり、自分が忘れてしまった初心を思い出すことができるという。

このご時世、ドラフト1位でプロ入りし、スター街道を突っ走った突っ込みどころのない優等生キャラよりも、異なる環境で様々な経験をしてきた山崎のような男の方が指導者には向いているのではないだろうか。「オレならそんなこと簡単にできた。遊んでないで練習しろ」よりも、「オレも下積みが長くてさ、もっとこうやった方が良かったよ」的なアドバイスの方が、怒られ慣れていない今の若手選手には響く。

山崎と同時代を生き、ともにラジコン大会“山山杯”を開催していた3学年上の山本昌も、これまでの野球解説者のロールモデルとは異なり、テレビでラジコンの冠番組までやっている。さらに解説だけではなく、食レポや講演会にも飛び回る日々。元一流選手のプライドに縛られず、「なにか面白そうなものを見つけたとき、まずは気楽にやってみてほしい」とマサさんは言うのだ。

そう言えば、山崎武司、山本昌、立浪和義と彼らは皆、昭和の時代に中日へ入団して、やがて平成のドラゴンズの主力となった男たちだ。90歳の白井オーナーとベテラン指揮官ではなく、もしかしたら新元号の中日ドラゴンズの再建は、そんな過去と今を知る次世代の指導者たちに託されるのかもしれない。

 

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