株式会社ホリプロ代表取締役社長・堀義貴氏 ロングインタビュー<後編>~オリジナル・ミュージカルの挑戦

2018.10.2
インタビュー
舞台

堀義貴・株式会社ホリプロ代表取締役社長 (写真撮影:敷地沙織)

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『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(2017)や『メリー・ポピンズ』(2018)といったビッグタイトルの国内上演を立て続けに成功させ、さらには出資した『バンズ・ヴィジット』がトニー賞を総嘗めにするなど、次々とインパクトのある話題を提供し続けるミュージカル界の風雲児こそ、株式会社ホリプロ代表取締役社長の堀義貴氏である。そんな堀社長にロングインタビューを敢行、<前編>では快進撃の内幕を振り返ってくれたが、今回の<後編>では、今秋開幕の二作品、マシュー・ボーンの『シンデレラ』、そして海外を見据えた新作オリジナル・ミュージカル『生きる』を中心に、今後のヴィジョンを披歴してもらう。

■バレエに対する偏見を払拭するマシュー・ボーンの『シンデレラ』

――今秋、2つの大きな上演があります。まずは『メリー・ポピンズ』の振り付けも手掛けたマシュー・ボーンの『シンデレラ』来日公演が10月3日から東急シアターオーブで始まります。『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』以降のマシュー・ボーンのカンパニー(ニュー・アドベンチャーズ)の招聘は、ホリプロがずっと手掛けてきました。

長いですね。もう14年になります。

―― 堀社長から見て、ボーン作品の魅力とは。

まず、普通の人って、バレエとかあまり観に行かないじゃないですか。でも、実際に観てみると面白いということがわかると思うんです。日本でその間口を開けたのは熊川哲也さんでした。熊川さんは『ビリー・エリオット』を観て、「自分もビリーそのものだった」と言うんです。父親はまさにあのとおり頑迷で、周りの人たちもみんな自分のことを「変わっている」と言っていたそうです。バレエを観に行くこと自体、「変わっている」と思われていた。でも熊川さんは自らの力で、そうしたバレエへの偏見をなくすために活躍してきました。そしてマシュー・ボーンもまた、そのような存在なのだと思います

マシューの作品は、バレエとは言いながらも、言葉のない​ミュージカルみたいなもので、踊りがセリフのように表現されている。そのうえ誰もが知っているような古典作品が、全く違った設定になっているのが新鮮ですよね。あるときはバンパイアだったり、あるときは白鳥の男だったりとか。彼は映画が好きだし映画からインスパイアされるものがいっぱいあるから、観客も映画を観ているような感覚でバレエを楽しめる。これを観たらバレエに対する偏見なんてなくなるぞって思いますね。

『シザーハンズ』を日本で上演したいと思って以来、マシュー・ボーンの公演はずっとホリプロで引き受けてきました。全部いい作品。いい作品だから持ってくるんです。ただそれが、必ずしも世の中にうまく伝わらないことがもどかしいのですが……。

Matthew Bourne's Cinderella Photo by Johan Persson

―― 一般の方々のバレエに対する意識は、ミュージカルなどに比べるとまだどうしても。

「バレエは自分の生活と関係ない」と思ってる人が多いんでしょうね。ただ、バレエ団でもないホリプロが、わざわざ上演するわけですよ。そこには必ず何らかの意味があるんじゃないかって、お客さんには気にしてほしいんですよね。でも現状、ミュージカルのお客さんにもストレートプレイのお客さんにも、そのようには映っていない。要は、劇団四季さんや宝塚さん、東宝さん、松竹さんの歌舞伎などに比べたら、ホリプロの演劇のブランド力なんて、まだまだ全然弱いんです。ホリプロは何でもかんでもやってる会社だから、なおさら印象が薄いのでしょう。

でも、よくよく見ていただければ、これまでホリプロは相当エッジの立っているものを製作してきているんです。「演劇とはこうではないか」とか「ミュージカルってこういうものではないか」という先入観に対して、「こういうアプローチもありますよ」というのをお見せしてきたつもりなんです。でも残念ながら、今まではそれがあまり浸透しきれていませんでした。ですが、『ビリー・エリオット』と『メリー・ポピンズ』をやったことで、新しいお客さんが増えたこともまた確かなのです。

そして、例えば『メリー・ポピンズ』の振付に魅了された方なら、マシュー・ボーンのカンパニーの作品の振付に必ず共通性を見出すことでしょう。さらに、今回の『シンデレラ』は、第二次大戦中のロンドンの舞踏会で靴を忘れるっていう、その誰も思いもつかないような発想に注目していただきたいんです。今までのバレエとは全然違います。もしそれで「バレエって面白いんだな」と思えてきたら、今度は熊川さんのところに行って、ちゃんとフルオーケストラ付きで上演されるものを観ていただきたいですね。

とにかくバレエは男女みなアスリートですよ。歌舞伎役者もそうかもしれないけど、みんな恐ろしいほどの身体能力があって体操選手並みだと思います。それを観るだけでも「おお、凄いな」と感動します。

―― 2013年の『ドリアン・グレイ』の時にはダンサーの大貫勇輔さんが出演していましたね。

『ドリアン・グレイ』は僕が最初にロンドンで観てから日本で上演できるまでに10年かかりました。僕が「どうしても日本人でやりたい」と言って、でもマシューがなかなか首を縦に振らなかった。でも、大貫という逸材が見つかり、彼がうちの会社に所属しているということで、ようやく日本での上演に漕ぎ着けたのです。

そういえばロンドンだと、マシューの『スワンレイク』に、『ビリー・エリオット』の子たちが出演したりもするんです。だから、いずれ日本版『ビリー』の子たちも……みたいな、長期的な繋がりが今後できればいいなと、個人的には期待しているんですけどね。特に(ビリーを演じた一人の)加藤航世くんは、その後もバレエをずっと続けていますしね。

人の繋がりということでいえば、そもそも『メリー・ポピンズ』は、マシューが振付をやっているから僕はロンドンまで観に行ったのです。実はマシューの作品を手掛けているプロデューサーはキャメロン・マッキントッシュのカンパニーの人で、彼とはずっと十何年も一緒にやってきました。その彼から「『メリー・ポピンズ』に興味はあるか」と訊かれたことから、今年の上演に繋がっていったというわけです。

点々と人がいて、それが繋がっていくと、また新しい次の何かが起こる。そのことは、蜷川幸雄さんから教えてもらいました。そもそもうちが蜷川作品をやっていなければ、海外公演も経験できなかったろうし、僕が「日本のミュージカルを海外に持っていこう」なんて考えることもなかったでしょうね。蜷川さんが亡くなってから、他に海外でやれる「人」がいないという現実に直面して、でも「作品」だったらあり得るんじゃないかって思ったことが、『デスノート』になり、また今回の『生きる』にも繋がっていくんです。

■海外を見据えた新作オリジナル・ミュージカル『生きる』

―― いまタイトルの挙がった『生きる』は、今秋のもう一つの大きな注目作品です。黒澤明監督の没後20年という企画ですが、そもそも何故『生きる』をミュージカルにしようと?

黒沢さんの没後20年だからやろうとしたわけではなく、「よし、やるぞ!」となって、いざやる年が決まったら、なんと没後20年だったというのが本当のところです(笑)。で、その経緯を話すと少し長くなるんですけど、いいですか?

―― ぜひ、お聞かせください。

ホリプロという会社は、国際的なマーケットと、インターネットのマーケットについては、うちの売上の中でほぼゼロに等しかったんです。しかし、これを増やさない限り30年後のホリプロはない、と。それで「海外、海外」と10年位前から言い続けてきたのです。幸い蜷川さんのおかげで海外公演を十数ヵ所で経験できました。それでわかったのは、セリフがわからなくても作品の本質さえ素晴らしければ、日本国内よりも遥かに反応がいいということ。よく笑い、よく拍手してくれる。そのおかげで台湾とか上海などアジア公演にも行けました。一方で、アニメソングなんかは最初からアジアで流行っているんです。シンガポールあたりからどんどん広がっていって。そういうところから2.5次元の『デスノート the musical』(2015年)をミュージカルとして上演しようという構想がでてきました。儲かろうが儲かるまいが、とにかく海外を目指すんだ、ということで。

でも、当初「『デスノート』をやりましょう」というアイデアが現場から出てきた時に、僕は「映画の公開からもう10年経ってる。今更、なんで『デスノート』なのよ」みたいなことを言ったかもしれない(笑)。ところが、蜷川作品の世界ツアーの時、藤原竜也とロンドンの普通のパブでビールを飲んでいたら、現地の通りすがりのイギリス人が一回僕らの前を通り過ぎてからまた戻ってきたんです。「あ、お前ムービースターだろ。ケーブルテレビで見た」って。何を見たのかって訊いたら『デスノート』と『バトル・ロワイアル』だって。それから、あれは『ムサシ』の時だったかな。リンカーンセンターだったかバービカン劇場だったか忘れましたけど、楽屋口にね、『デスノート』のタトゥーを足に彫った男が出待ちしていたんです。竜也が出てきたら「私はあなたに会えるのを夢にまで見ていました」と(笑)。パンフレットを持って「一緒に写真撮ってください」「サインをください」と。そういうことが続いて、『デスノート』って意外と海外で多く観られているんだな、と。それで「これはあるぞ」と。

企画段階から日韓同時上演を前提に動き出し、本も音楽も外国人に作ってもらうことになりました。そこで作曲をフランク・ワイルドホーンに相談したら、最初は「うーん……」と言って煮え切らない感じだった。彼は『デスノート』を知らなかったし、自分がやりたい他の企画があったんです。その後、彼は資料をニューヨークの自宅に持って帰り、息子に「お前これ知ってるか」と尋ねると、息子が「他の仕事を全部断ってでもこれをやるべきだよパパ」って言ってくれたのだそうです。そのおかげで、僕らは助かったんです。

お陰様で『デスノート』のミュージカルは日本でも韓国でも大ヒットして。台湾にも行きました。「30年かかってでもドーバー海峡を渡る」という目標を掲げていたのですが、その第一歩を踏み出せました。でも、それが終わった後すぐに「『デスノート』だけじゃだめだ。カタログを充実させなきゃいけない。“二の矢”、“三の矢”だ」って、次の企画を考えさせていたんですよ。そこに出てきたのが「『生きる』はどうですか」という提案だったんです。「そんな古い作品」って、普通は思うでしょ。でも僕は迷いなく「いいね」と言いました。

アメリカから『デスノート』の作曲家や作詞家などのクリエイターたちが日本での公演を観に来たことがありました。その懇親会の雑談で映画の話題になった。フランクの作品でも作詞をやっているジャック・マーフィーが「お前と俺で、自分が観たベストの映画を10本選出しよう」と。僕はその時も今も10本選ぶことができないのですが、ジャックはすぐに「もう10本書いた」って。その中に『アメリ』があり、それは僕も大好きでした。もう1つ彼が『生きる』と書いたんですよ。英語タイトルは別にあったみたいだけど、みんなは「Ikiru」って覚えているんだそうです。で、他の外国人と話しても『生きる』はいいよねって。……そんなことがあって、外国の人がそれほどいいと言っていたのだから、これは絶対に海外に行けるぞと。但し舞台化にあたっては、黒澤明さんのご家族の許諾が得られなければいけない。交渉は難航するかもしれない……。しかしこれが意外にも、すんなりと許諾がいただけまして。

それから、うちの公演プロデューサーに、やるにあたって僕から1つだけお願いがあると言いました。それは、映画で最も印象的な「ゴンドラの唄」を必ず使ってくれと。これはとても大切なところだからと。

ミュージカル『生きる』製作発表会見 Photo by KOMURASAKI

--今回、作曲を手掛けるのは、ミュージカル『ビューティフル』や『デスノートTHE MUSICAL』『スカーレット・ピンパーネル』などの編曲を手掛けたジェイソン・ハウランドさんという方です。

ジェイソンとは、フランク(・ワイルドホーン)を通じて知り合いました。『デスノート』をやると決めたくらいの時に、フランクが濱田めぐみでレコーディングしたいと。それで僕もニューヨークに行き、レコーディングの現場でアレンジャーを務めていたジェイソンに会いました。おどろくほど仕事が早いうえ、人間もいい、という印象でした。彼とはすっかり気心も知れているから、『生きる』はジェイソンがいいんじゃないか、となりました。みんなもすぐに賛成してくれて。

そういえば、『デスノート』のNYレコーディングの時のスタッフに、ヒロ飯田という人がいて、ミュージカル公演のスタッフにも入ってもらいました。彼は『バンズ・ヴィジット』でも音楽スタッフに入っているんです。そうやって、点と点がどんどん繋がっていく。ヒロさんとはよくFacebookでやり取りしていて、僕が「こんな作品が開幕したけど評判どう?」と聞くと「いや、いまいちだ」とか。彼が今度係わる作品はこういう感じだとか。僕は彼のことを仕事上の間柄とは思っていないし、彼も同様でしょう。だから普通に本音で喋りますね。

ジェイソン・ホーランド Photo by KOMURASAKI

--海外上演を狙っての『生きる』ですが、まずは東京で10月8日から開幕ですね。

といっても、このミュージカルは日本人のために作っているわけではなく、最初は日本人に観てもらいつつ、できるだけ外国の人にもたくさん観に来てもらって、その先、一刻も早く日本の外で上演する、ということを想定しています。無理してスケジュールを組んじゃったので国内では東京公演しかない。通常そんなことはやりませんよ。

でも色々な国の人たちが映画の『生きる』をよく知っていて、強い関心を抱いてくれている。ジェイソンに後で聞いたことだけど、彼のお父さんも『生きる』の大ファンだったそうです。アメリカでは大学で映画エンターテイメントを専攻している人たちが自主上映会をよくやっていて、『生きる』をかけることが多いと聞きました。

--黒澤明監督の古い映画が原作ですが、若い世代にどう訴求させるかが課題ですね。

いや、そこはもうしょうがないですよ。ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」という小説がミュージカルになりました、と言って、そんな古い作品は今どき観ないよって日本のミュージカルファンは言いましたか、と。コクトーの「美女と野獣」だって、ユゴーの「レ・ミゼラブル」だってそうでしょう。なんで外国のはよくて、日本のはだめなのかとなります。日本の文化で世界中にこれだけ知られているのなら誇りに思っていいし、それを世界に先駆けて日本で上演するわけですよ。もちろん、うちがやる以上、中途半端なものは作りませんから。その価値に気づいて欲しいです。

今、台本がどんどん改稿を重ねているのですが、1稿目を見た時には「これは違うな」って言いました。しかし、7稿目を読み、ジェイソンが台本に合わせて全曲をラ・ラ・ラで歌うのを聴いて、これは絶対素晴らしくなると思った。その思いをその通りにツイートしました。それでも信用されないんだったら、もうしょうがないですよね。

とにかく、できあがった本と楽曲がとてもいいんです。本の読み合わせを見学しましたが、3シーンくらい、十分に泣けます。「ゴンドラの唄」もちゃんと使われているのですが、きっとお客さんも「なんて素晴らしいメロディだ」と思ってくれるはずです。できれば海外上演でも、これはいいメロディだとみんなに思ってほしいなあ。当初、外国でやる際には外してもいいと思っていたんですけど、今では外すのはあまりに惜しいと思えるくらい、効果的に使われています。作品自体も、思われているような暗さは全然ありません。まあ、それは元になった映画を観てもらえばわかることなのですが。

--人間賛歌というか、何のために生きるかというメッセージが込められている作品ですね。

自分も明日頑張らなきゃなと思える作品なので、『ビリー』や『メリー』とも共通しています。今回は人が1人死にますけど、意味もなく死ぬわけではないし、革命で殺されるわけでも、誰かに何か無実の罪を着せられるわけでもない。普通に生活してる中で“生きる”という方程式が最後に解けた、という話なんです。だから死んだ感じには見えない。とても生き生きとしているということにおいて、先の2つのビッグタイトルと根底のメッセージは殆ど一緒なんです。

--そうしたメッセージは、日本のミュージカルの劇場では通常少ない中高年の男性の方々にも伝えたいですね。

ただ、『ビリー・エリオット』は夏休みの期間中、男性客も多かったんですよ。お父さんが感激して、パネルのところでビリージャンプやっている人もいたし(笑)。『メリー・ポピンズ』もずいぶん多かったように思います。そして、来ていただければ、ミュージカルは面白いものだ、と思っていただけるんです。本を手に取るのもそうだけども、その気がなくても見たら面白かったというのが実はすごいきっかけになるんですよ。

或る『メリー・ポピンズ』のスポンサー企業の社長さんは、『ビリー・エリオット』を観て感激し、それまで観ることのなかったミュージカルにたくさん足を運ぶようになったと仰っていました。さっきのマシュー・ボーンのバレエもそうですが、きっかけ次第なんです。それで面白いものに出会える。『生きる』の主人公・渡辺勘治じゃないけれども、何か発見するっていうのは見つけようと思って歩き回るより、偶然見ちゃったものの方がすごいインパクトがあるんじゃないかな。だから、奥さんには旦那さんをどんどん劇場に連れて行ってほしい、嫌だとは思うけど(笑)。

--上演困難なものを買ってきて成功させるのも大変なことですが、オリジナル作品も作り、かつそれを海外に出していこうという情熱はどこから来るのですか。

もし僕が普通のサラリーマンで損すると分かっていたら、やってないですよ。でも、たまたまうちがオーナー企業で、自分もまだ年齢的に初老の段階だから、挑戦的な感覚があるのかも。それに、得したら凄いんだってことも僕は知っている。『オペラ座の怪人』だけで30年間で5千億円稼ぎだしています。で、そのうちの何%かは日本が払っているんだと思ったときに、もしロンドンでうちの作品が10年、20年とロングランしていれば?と。50億円以上、ずっと収入があるわけですよ。興行収入だけじゃない。マルチな展開で、どでかい商売なんですよね。それで還元されたもので、キャメロン・マッキントッシュやロイド=ウェバーがやってきたみたいに、自分の好きなことがやれる劇場を建てようとか。やはり製作と劇場は一体化していないとなかなかしんどいですからね。でも、それはあくまで成功すればの話で、今のうちの体力ではとてもできない。だから、劇場さんには少しでも長く貸してもらいたいんです

それでも『ビリー』とか『メリー』みたいな公演を1本やったら、日本だったら映画3本分作れるんですよ。しかし、どんなにいいものを作ろうが、大ヒットしようが、これから日本の人口は確実に減っていく。まだ若くて元気なうちに誰も経験していないことをしてみようという人が出てくるならば、多少の勝機はあるかもしれないけれど、今までと同じように固定のお客さんを中心に、外国の作品を上演し続けていたらいずれ持たなくなるのは目に見えています。だからオリジナルにこだわらなきゃいけないんです​。

たまたまこの1年くらいの間に、ミュージカルになる前から狙っていた『ビリー・エリオット』と、それとは別にディズニーとマッキントッシュとで一緒にやるべく準備していた『メリー・ポピンズ』を立て続けに上演することになったから、目をひいていますが、やはり僕の感覚ではオリジナルの『デスノート』や『生きる』の方が本業だと思っています。もし仮に、そういった作品がニューヨークやロンドンでやれることになったら、ロイヤリティが日本に入ってくる。向こうでやってくれればやってくれるほど、そのロイヤリティを原資に、日本でもロングランが可能になるかもしれない。日本でロングランをやるっていうことは、インバウンドに繋がる可能性があると思っています。

現状では、いくらインバウンドだって言われていても、ディズニーランドやUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)、そして伝統文化以外はインバウンドの対象になっていない。中国やタイから日本に来る人は増えていますが、ミュージカルを観る人なんて殆どいません。ブロードウェイやウエストエンドがすごいのは、人気作品がロングラン上演されていて、いつ誰が行っても最高のものを観られることですよね。だから観光客によって演劇の経済が潤う仕組みになっている。しかし日本は人気のあるものほど一見のお客はお断りになっている。は全部先に売れちゃうし、公演はたいてい1ヶ月しかやってない。公共ホールが対応できないから。せっかく外国からお客さんが来てるのに、門戸を閉ざしてしまっているんです。だから、そういう構造を変えていくためにも、まずは『デスノート』や『生きる』のようなオリジナル作品によって海外で勝負し、新たな好循環の流れを形成していきたいと思っているんです。

堀義貴> 株式会社ホリプロ代表取締役社長。1966年6月20日、ホリプロ創業者・堀威夫の二男として生まれる。1989年にニッポン放送入社後、編成制作部に配属。1993年ホリプロ入社、2002年代表取締役社長に就任。 2013年より一般社団法人日本音楽事業者協会会長。

取材=兵藤あおみ・安藤光夫  構成=安藤光夫  写真撮影=敷地沙織

公演情報

マシュー・ボーンの『シンデレラ』日本公演


 
■日程:2018年10月3日(水)~14日(日)
■会場:東急シアターオーブ
 
■出演:
シンデレラ:アシュリー・ショー/コーデリア・ブレイスウェイト
ハリー(パイロット):アンドリュー・モナガン/エドウィン・レイ
天使:リアム・ムーア/パリス・フィッツパトリック
継母:マドレーヌ・ブレナン/アンジャリ・メーラ
他、ニュー・アドベンチャーズ
※公演ごとの配役は、ニュー・アドベンチャーズの意向により、各公演当日発表。
※公演中止の場合を除き、のお申込み・ご購入後の変更、キャンセル、払い戻しは不可。
 
■演出・振付:マシュー・ボーン
■美術・衣裳:レズ・ブラザーストン
■照明:ニール・オースティン
■音響:ポール・グルーシィス
■映像:ダンカン・マクリーン
■音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
■アソシエイト・ディレクター:エタ・マーフィット
■レジデント・ディレクター:ニール・ウェストモーランド
 
■主催:ホリプロ/TBS/BS-TBS
■企画制作:ホリプロ
■公式サイト:http://mbcinderella.com/

公演情報

黒澤明 没後20年記念作品 ミュージカル『生きる』


■日程:2018年10月8日(月・祝)~28日(日)
■会場:TBS赤坂ACTシアター
 
■作曲&編曲:ジェイソン・ハウランド
■脚本&歌詞:高橋知伽江
■演出:宮本亜門
■出演:
【市村正親出演回】
渡辺勘治:市村正親
渡辺光男:市原隼人
小説家:小西遼生
小田切とよ:May'n
渡辺一枝:唯月ふうか
助役:山西惇
【鹿賀丈史出演回】
渡辺勘治:鹿賀丈史
渡辺光男:市原隼人
小説家:新納慎也
小田切とよ:唯月ふうか
渡辺一枝:May'n
助役:山西惇

 
■公式ホームページ:http://www.ikiru-musical.com/ 
 
【あらすじ】
役所の市民課に30年勤める課長の渡辺勘治(市村・鹿賀/Wキャスト)は、まもなく定年を迎えようとする矢先に、当時は不治の病とされていた胃がんになり、余命わずかと知る。時間が残されていないことを知った渡辺は、これまでの人生を考えて苦悩し、一時はやけ気味で夜の街を歩き、知り合った小説家(新納・小西/Wキャスト)と遊びまわるが、心はむなしいばかり。そんな折に偶然街で出会った同僚女性(May'n、唯月/Wキャスト)から刺激を受け、自分の本来の仕事を見つめなおし、「生きる」ことの真の意味を考え、新しい人生を始める―。