オフィスコットーネセレクション『US/THEM わたしたちと彼ら』『踊るよ鳥ト少し短く』綿貫凜・スズキ拓朗・山田佳奈に聞く

2018.9.19
インタビュー
舞台

オフィスコットーネ・セレクション『わたしたちと彼ら US/THEM』『踊るよ鳥ト少し短く』左から、山田佳奈(□字ック)、綿貫凜(オフィスコットーネ)、スズキ拓朗(チャイロイプリン)


オフィスコットーネで、新たなシリーズが誕生した。選りすぐりの短篇2本で構成する「オフィスコットーネ・セレクション」である。その第1回として、昨年、英国ナショナルシアターで上演されたカーリー・ヴェイス作『US/THEM わたしたちと彼ら』(日本初演)、ノゾエ征爾作『踊るよ鳥ト少し短く』が、下北沢・小劇場B1で上演中だ。プロデューサーの綿貫凜と、演出を手がけるスズキ拓朗、山田佳奈に話を聞いた。

新シリーズ「オフィスコットーネセレクション」

──新しいシリーズ「オフィスコットーネセレクション」について伺います。オフィスコットーネプロデュースとしては、すでに本公演の他に「アナザー公演」を企画・制作されているのに、もうひとつ、さらに立ちあげる理由を教えてください。

綿貫 もちろん本公演であるオフィスコットーネプロデュース公演でも、自分で選んだ作品を上演していますが、あえて、もっと企画に特化したシリーズができないかと考えました。

ふたり芝居『US/THEM わたしたちと彼ら』を読んで、実験的な試みができるんじゃないかと思ったし、1時間ちょっとの作品だったので、同じテーマでもう1本新作を同時に上演できないかと考えました。そういう企画意図で、この2作品をセレクトしたんです。

──では、『US/THEM わたしたちと彼ら』について聞かせてください。

綿貫 これは2004年9月、ロシアのベスラン第一学校を武装テロリストが襲撃した事件を描いています。1200人以上が人質になり、そのほとんどは子供で、3日間にわたる膠着状態が続き、結局、300人以上が犠牲になるという歴史上稀な大惨事でした。

その事件を題材にした戯曲に関心を惹かれたのは、起きたことをストレートに上演するのではなく、その現場にいた子供の視点を通して出来事が描かれていたからです。

実際の事件は、ネットで調べるとかなり悲惨で、目を背けたくなる映像ばかりです。劇作家が台本の序文に書いていますが、大人であるわたしたちは、ある出来事を見るとき、常に経験に基づいて物事を決めつけようとします。そして、マスコミで報道されることを、あらかじめ決めつけるように見てしまう。でも、作者が描きたかったのは、事件を子供の純粋な視点で、怖いけど楽しいとか、壮絶な体験なのに面白いとか思っているところ。登場人物のふたりは、実際にそう感じているし、差別的な意識がまるでないところも面白いと思いました。

──子供の視点から、先入観なしにテロリストによる襲撃事件を描いているところですね。

綿貫 だから、原題の『US/THEM』は「わたしたちと彼ら」という意味ですが、自分と他者を区別すると同時に、もうひとつ、自分も他者もやはり同じであるというふたつの意味があると考えています。

──続いて、『踊るよ鳥ト少し短く』について聞かせてください。ロンドンのナショナルシアターでは、『US/THEM わたしたちと彼ら』は1本だけで上演されましたが、今回はもう1本、同時上演になります。

綿貫 どちらの作品も、1本ずつ上演できるボリュームは充分にあるし、内容の濃さもありますが、今回は企画として「ふたり芝居」の2本立てにしたいと考えました。

それで日本におけるテロリストはどういうものかを考えて、ノゾエ征爾さんに相談したんです。できれば新作を依頼したかったんですが、スケジュール的に時間がとれない。そこでノゾエさんから、それなら同じ意味合いで書いた台本があるからと『踊るよ鳥ト少し短く』を提案してもらいました。元々はノゾエさんの劇団はえぎわで、『鳥ト踊る』というタイトルで、こまばアゴラ劇場で上演された作品です。それを改訂して、ショートバージョンにしました。

どこかわからない場所で、髪の毛が扇風機に絡まって動けなくなった女性と、そこをたまたま通りかかった男性との、滑稽でもあり、密室である怖さを感じさせるやりとり。そして、ふたりの関係が狂気的に変化していく面白さ。ふたり芝居という共通点もあるし、極限状態が連続するという意味では、この2本を連続上演することに意味があるんじゃないかと考えました。

オフィスコットーネセレクション『US/THEM わたしたちと彼ら』『踊るよ鳥ト少し短く』のチラシ(表)

深刻な題材をダンスでライトな感覚に

綿貫 『US/THEM わたしたちと彼ら』は、身体表現の要素が強い。子供たちが体を使いながら、いわゆる拘束されている3日間を、子供の視点から、遊び心を織り交ぜながら、笑いもジョークも含め、なにかテレビドラマを見てるような感覚のお芝居だったので、チャイロイプリンのスズキ拓朗さんにお願いしました。

スズキ あらすじを最初にいただいた時点から、不謹慎な意味ではなくて、とても面白いなと思いました。それから、台本をいただいて改めて読んだんですけど、率直な感想はすごいライトだなと。重大事件であるにもかかわらず、とてもライトに描かれています。

──極度の緊張を強いられる3日間、そして、悲劇的な結末が待っているのに、どこか他人事みたいで、テレビで世界中に自分たちが放映されたことを喜んだり……。

スズキ で、いま話に出たんですけど、ラストはとても美しいなと思っちゃって。映画でも『ヤバい経済学』とか『100,000年後の安全』のように事実を距離をとり、解説しながら進める演出手法がすごく好きで、ドキドキする部分もありました。読んだ時点では、ライトに描かれているからこそ、ぼくのいつもやる手法だなという……たいてい暗い戯曲を選んで、それをライトなダンスに置き換えて演出していくんですが、今回は最初から台本に、その手法すらも書かれていました。

カーリー・ヴェイス作『US/THEM わたしたちと彼ら』を演出するスズキ拓朗

実際の事件と舞台における身体表現

スズキ だから、まず最初に思ったのは、そのままやりたいなと。一回、そのまま向き合ってやってみたいという思いから始まりました。役者は「面白くなるんですかね?」とか「もう、ぼく、暗すぎて心が付いていけるかどうか……」みたいに言うから、ぼくは「絶対面白いよ」と言ってるんです(笑)。

とにかく暗い話だからこそ、稽古にのぞむときも明るい服を着ていこうとか、明るい気持ちで挑まないと。先ほど綿貫さんがおっしゃったとおり、事件の映像を見て、ぼくもご飯食べられなくなっちゃった。

綿貫 事件を報じたホームページには、すごくへこむ画像がたくさん載っています。3日間、学校の体育館に1000人が押し込められ、水も飲ませてもらえない。赤ちゃんもいるのに、トイレも行けない。たくさんの子供たちが、大人だって耐えられない状況に置かれていた。

スズキ 台本には音楽の指定もあるんですが、ぼくのなかで、この雰囲気はこう表現したいという音楽は使っていきたい。演出も、チョークで床に現場の見取図を描くことも含めて、映像も取り入れたい。もちろん、あくまで台本どおりに上演するんですけど。

やっぱり極限状態のふたりを描くのは、すごくやりがいがあります。ライトな文章にもかかわらず、実体験を語る少年と少女なので、嫌な映像も全部見なきゃならないし、相当なバックヤードというか、内面を作らないと。身体で表現するとしても、しんどい日々になるだろうなと思いつつ、でも、そういう経験が身体に滲み出てくるような舞台にしたい。

振付を始めたときに思い描いた演劇的なダンスという意味では、今回はぼくの集大成。自分では絶対に選ばない戯曲に、綿貫さんが選んでくれたから出会うことができたので、ぼくのお客さんやファンのかたも、見にくると、たぶんびっくりすると思います。ぼくとしては初めてのステップなので、そういう意味で、ものすごく楽しみですね。

──極限状態と子供たちの日常を往復するのも、見どころのひとつですね。

綿貫 大人は襲撃されたときに、それがどういうことで、これからどういう事態になるかについて、経験上、想像できるんですが、子供は何が起きてるかわからない。実際に、親に「あそこにいるおじさんはいい人なの? 悪い人なの?」と訊いたりしてる。突然、現れた人たちが誰で、どうして来たのかわからないし、何をされているのかもわからない。そんな中、子供はアニメとかでヒーローものを日常で見ているために、きっとスーパーマンが来て、助けてくれるとずっと考えているわけです。

それが実際にはかなわないことで、目の前で起きていることが現実であることを、時間と日を追うごとに突きつけられていく怖さを体感していただきたいなと思っています。

不謹慎な笑いをファニーに演出したい

──『US/THEM わたしたちと彼ら』は、ロシア対チェチェンという歴史的、民族的な対立を背景にした集団によるテロ、それに対して、『踊るよ鳥ト少し短く』は、個人的な状況が理不尽な行動を誘発していきます。

綿貫 ある閉ざされているなかで起こる恐怖。ト書きにも、場所は明確に書かれていないのに、なぜかそういう状況だけがある。

髪が絡まって動けなくなった女性がいて、たまたまそこを通りかかった男性が助けようとするところからスタートします。はじめのうちは男性は助けようとしているし、女の人もこれで助かったと思うんですが、ある時点からふたりの関係がものすごく歪んでいき、関係も反転していく。関係のパワーバランスが変わっていく面白さと、意外な展開の面白さがあり、ノゾエさんの鬼才ぶりが充分に発揮された、よく書かれた設計図だとわたしは思っています。

演出をお願いした山田佳奈さんは、山田さんなりの演出手法の持ち主なので、ノゾエさんとはちがった提示の仕方で、オリジナル演出されると思います。若くてフレッシュな山田さん。

山田 フレッシュと言っても、拓朗さんと同い年。33歳がんばりどきです(笑)。

綿貫 台本読んだときの印象はどうでしたか?

山田 ほぼほぼ綿貫さんが読み込んで、ばっちりなことをしゃべってくれました。さっき『US/THEM わたしたちと彼ら』のなかで、ヒーローがヒーローじゃないとか、そういう裏表の話をされていたと思うんですが、まさに『踊るよ鳥ト少し短く』という台本にも、まんま当てはまるお話で、わたしはこれは先入観の話だという気がしたんです。裏と表……つまり、助けてくれるはずの男がそうではなかった。そして、髪を絡ませて困っていた女が、実はただの困っていた女ではなかったという、裏切られの作業だと思っているんです。

で、社会的な切り口から言うと、まさに日本人がどこかで抱えている心のなかの翳り……そういうものがノゾエさんは得意で、巧妙に描かれている台本です。綿貫さんと打ち合わせして「どう演出したいの?」と訊かれたときに、これは子供のころに大好きだった『ダウンタウンのごっつええ感じ』だと思ったんですよね。

ノゾエさんの人の描きかたは、松本人志がブラックユーモアをやるときのセンスに似ている。ノゾエさんの作品はすごく好きで、よくよく見ているんですけれども、やっぱりノゾエさんは、とても社会的には認められないような行動や側面を、ファニーに描くのがすごいお上手なかたで、テレビではそういうものを不謹慎という言葉に置き換えてしまいますが、舞台でやる意義がある作品だと思いました。

『US/THEM わたしたちと彼ら』と『踊るよ鳥ト少し短く』のつながりも、限定された空間で、拘束された人間がどういう行動をするのかは、ある意味、滑稽な瞬間もたくさんあるから、どのように社会との背景とか、人間の翳りをコミカルに描くか、わたし自身も楽しみです。

ノゾエ征爾作『踊るよ鳥ト少し短く』を演出する山田佳奈。

不気味な戯曲に潜む現代性

──『踊るよ鳥ト少し短く』は、冒頭からずっと、ある不気味さが漂っています。この雰囲気から連想されるのが、エドワード・オールビーの『動物園物語』ですが、そこに流れているとはちがう現代的な、先ほど山田さんが指摘されたような翳りがある。

綿貫 この台本は、想像している展開がどんどん裏切られていきます。そして、どこまで行ってしまうのか、どこまで飛べない鳥が飛んでいってしまうのかと思わせるくらいの飛躍感がある。この2本に共通性を感じたのと、いまの日本で並べて上演したら、絶対的に面白いと直観的に思いました。

──ふたり芝居だし、どちらの登場人物も身動きがとれなくなるのは共通しています。

綿貫 『踊るよ鳥ト少し短く』の女の運命が男に握られているという点では、『US/THEM わたしたちと彼ら』の子供たちの運命が、テロリストたちの手に握られている点で共通しています。

──ノゾエさんは、どうしてこんな発想をするのか、本当にわけがわからない。地上から2メートル50センチの高さに置かれた扇風機に髪が絡まるという設定は、あまりに謎すぎるんですが、このありえない設定はどこから来るのか。しかも、生まれて一度も髪を切ったことがない女性ですよね。

スズキ 不条理ですよね。

綿貫 でも、髪が扇風機に絡まることは、割とあるんです。

──ただ、どこかわからない場所で、いきなり髪が絡まるというのは、ちょっと……。

綿貫 だから、部屋で風呂上がりに扇風機で乾かしているときとか……。

──でも、2メートル50センチのところにある扇風機ですし、おそらくこの女性の部屋じゃないですよね。唯一、通りの名前は台詞で出てきますが……。

綿貫 「ミキ通り2丁目」みたいな……でも、はっきり、女性の部屋だとは言ってないし、それをどういうふうにやるかっていう……。

山田 だから、設定をちゃんと考えるとおかしいんですよ。2メートル50センチ上のところにある扇風機に、髪の毛は絡まりませんから(笑)。

でも、絡まってしまったんですよね。これがさっきの先入観につながるんですよ。絶対に絡まらないところに絡まっちゃってるんだから。それはわれわれの先入観なんですよ、というところから考えていくと、めちゃめちゃ面白いです。絶対無理だ、おかしいだろう、ここ、どこなんだ、おまえ、誰なんだっていうところを、ちゃんと先入観を外していくことが、演出の命題かなと思っています。

オフィスコットーネセレクション『US/THEM わたしたちと彼ら』『踊るよ鳥ト少し短く』のチラシ(裏)

お肉と付け合せの野菜で構成された、おいしい一皿

──それぞれの作品の見どころについて聞かせてください。

スズキ もちろん日本初演というのは、まず一番の見どころだとは思うんですけど、注目していただきたいのは、ふたり芝居で、尾身美詞さんと野坂弘君という若いおふたりが演じることです。

このふたり、そして演出のぼくに共通しているのは、三人とも演劇から入って、野坂君は新国立劇場、尾美さんは青年座、ぼくも桐朋学園で、新劇的なところで演劇を勉強してから、三人とも同じようにコンテンポラリーダンスへと興味が広がっていったこと。演劇的な考えかたを基にして、身体の躍動に興味のある三人が、この身体を拘束される作品に挑むところを、まず期待してほしい。どんな動きに、どんなワクワク感を身体で表現してくれるのかを期待して、見に来てくださればと思っています。

山田 『US/THEM わたしたちと彼ら』と対照的かつすごく似ている作品が『踊るよ鳥ト少し短く』だと思っていて、演出面ではあまり余計なことをしないことが命題かなと思っています。ノゾエさんの面白味は、たぶん演出家が余計な自意識を介入させると、逆に面白くなくなってしまうので。

占部房子さんや政岡泰志さんというベテラン勢は信用して、そして信用してもらっての作業を、稽古場でしていきたいと思います。

わたしはただ単純にノゾエさんの脚本のファンなので、絶対そういうことは客席にも伝わるというか、どうしてファンなのかは、舞台を見ていただけばわかると思います。逆に、客席のなかにいるノゾエさんのファンに、あれはつまんない解釈だったと思われないようにのぞみたい。

綿貫 とにかく見に来てくださったお客様には、オフィスコットーネらしい戯曲だなとわかっていただけそうな2本だと思っていますし、若い演出家にお願いしたので、基本は好きなようにやっていただきたいんですが、それをどうお客様に提示するかは、企画者であるわたしの責任でもある。それぞれ好き勝手に作るけれども、ひとつのお皿にどう盛りつけて出すか。

山田 お皿の話をすると面白いですね。たぶん、お肉は『US/THEM わたしたちと彼ら』で、そっちをステーキに喩えると、『踊るよ鳥ト少し短く』は、甘く煮た付け合わせのニンジンだったり。そつがない素材で作った、すごく味の濃い、おいしい料理のイメージです(笑)。

綿貫 そのふたつを合わせて、ひとつのプレートの食事としてお客さんに提示しなきゃいけない。それにはプロデューサーの責任も大きいですから。

山田 料理人ですね。

──甘く煮たニンジンとか、トウモロコシやポテトやモヤシといった付け合わせがあるから、さらにお肉がおいしく感じられる。

綿貫 そうですね。とにかく濃い戯曲ですから、それを体感しに小劇場B1に来ていただければと思います。

(取材・文/野中広樹)

公演情報

オフィスコットーネセレクション『US/THEM わたしたちと彼ら』『踊るよ鳥ト少し短く』
 
■日程:2018年9月20日(木)~27日(木)
■会場:下北沢・小劇場B1

■作:カーリー・ヴェイス
■訳:小田島恒志、小田島則子
■演出:スズキ拓朗(チャイロイプリン) 
■出演:尾身美詞(青年座)、野坂弘
 
■作:ノゾエ征爾
■演出:山田佳奈(□字ック) 
■出演:占部房子、政岡泰志(動物電気)
 
■お問い合わせ:03-3411-4081
■公演サイト:http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/
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