TENDREが語るアルバム『NOT IN ALMIGHTY』言葉の距離感ーー直接的な表現より、温度感で表現できる曲を作りたい
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TENDRE 撮影=小杉歩
バンド・ampelのメンバーであり、ベース・ギター・鍵盤・サックスなどを演奏するマルチプレイヤーでもある河原太朗のソロ・プロジェクト・TENDREが、10月24日に待望の1stアルバム『NOT IN ALMIGHTY』をリリースした。自分の人生観や自分がここまで音楽を続けてきた意味をテーマに掲げ、今作では、その持ち味である耳心地のいい音楽がさらに高い浸透性を見せている。そこで、彼が紡ぐ言葉と音楽がいつも以上にそっと寄り沿ってくれる理由を聞いた。
TENDRE 撮影=小杉歩
――1stアルバム『NOT IN ALMIGHTY』リリースおめでとうございます。
なんとか無事に完成しました。
――ということは、制作は大変だったんですか?
初のアルバムなので1枚として自分の伝えたいことをストーリーにしつつ、一曲一曲でもその曲にドラマやテーマがあるので、頭の中にあるイメージや景色を言語化する時、自分らしい言葉を探すのがすごく大変で時間がかかったかなと思います。わかりやすい言葉を使えば解決もすると思うんですけど、自分らしい言葉や言い回しに今回は一番力を入れたので、その分いいものができたなと感じています。
――今回、自分の言葉にこだわった理由とは何でしょう?
自分の人生観や自分がここまで音楽を続けてきた意味というのが、最初にテーマにあったんです。TENDREという名前自体も自らを表す言葉の一つで、柔らかいとか感動しやすいとか心配性とかそういう意味を持っていて、アルバムでもTENDREというものが、どういう意思を持って音楽をやっているのか?というのを、約1年活動してきてある種の区切りとして、ちゃんとパッケージしたいなと。そういうテーマでビートミュージックを作った時、聴き心地のいい言葉やリズムで完結させることもできるんですけど、もう少し自分の芯に迫った言葉を、大げさな比喩なく綴りたいなという気持ちが強くなって、例えば英語を使わないとか、パーソナルな言葉を使うという今回の趣旨が決まってきました。
――確かに『NOT IN ALMIGHTY』 は、TENDREさんの中の世界、インナーワールドが描かれていますよね。でも、とても聴き心地いい音楽なので言葉の方にそこまで重きが置かれたのが意外でした(笑)。
インナーワールド的なことで言うと、たぶん、フツフツと煮えたぎっていたものが実はあったんでしょうね(笑)。でもトラックとか音楽を作るうえでの手法は、実際にそんなに(これまでと)変わりないんです。昔からこういう音楽を作りたいっていうビジョンもブレてないし、今回も皆がこういうのが好きだろうなという意図のようなものはなく、自分が好きだから作るというのがありつつ、お互いが好きになれるものだったらいいなという感覚がちゃんと音に封じ込められたかなと思います。ただ、聴き心地のいい音楽やトラック……いわゆるオケですよね。それと言葉がどうやったらちゃんとかみ合うことができるか?というのをより突き詰めました。
TENDRE 撮影=小杉歩
――言葉とトラックがよくなじんでいるせいか、変な言い方かもしれませんが、聴いていて耳が疲れませんでした。でも、かと言って『NOT IN ALMIGHTY』ではしっかり言葉も聞こえます。
例えば洋楽にしても、おもしろいトラックやサウンドがあるけど、それを日本人が吸収する時、いわゆる聴き心地で判断することが多いじゃないですか。でもそのリリックを見ると、(トラックを聴いて)感じることと違うことも書いてあったりしますよね。登場人物と風景の鑑賞というか。その2つ(トラックと詞の物語)があってこその音楽だって僕は思うからこそ、トラック自体がいい雰囲気というそこだけで終わってしまうのがもったいないと思うんですよ。もちろんいいトラックを作ることに関しても、まだまだ自分がやってみたいことはいっぱいありますし、自分の可能性を広げたいというのもあるんですけど、今やるべきことは(聴き心地のいいサウンドを作る)自分の手法は武器として持ちつつも、自分なりのソウルミュージックっていうことであるんだったら、ちゃんと言語化した方がいいのかなって思って。
――でも、その言葉は印象が強過ぎず弱過ぎずの程よさですよね。
それは、よく言う言葉なんですけど距離感ですね。僕の場合はですが、自分のことを叫ぶように並べるのは違うと思っているんです。(言葉には)聴き手と共通するものも、逆にありえないようなものもあって、みんな一緒じゃないからいいわけです。その中で言葉選びは抽象的というか、なんかこうお互いが違うイメージを持てあえるようにしたいなって思っていて、もちろん僕は僕なりに(具体的な意味を)提示もしますが、例えば、自分は〇〇のことを歌ったつもりでも、聴いた人からは「恋愛の曲だと思ってました」と言われて「あ、そういう風に聴こえるんだ」みたいな。そういうやり取りをするのが好きなんです。それは絵画とかもそうだと思うんですけど、人によっては悲しそうに見えるけど、人によっては嬉しそうに見える。そういう違いあるからこそ、硬い言葉で言えば芸術性があるというか。
TENDRE 撮影=小杉歩
――その方が想像が広がりますよね。対極はわかりやすいメッセージソングとかですね、たぶん。
頑張れ!という曲があって、それに説得力があって励まされるとするじゃないですか。僕もそういう曲を好きではあるんです。でも自分が作品を作るうえでは、自分なりに消化した言葉を並べて、その中で一つ、表現としていろんな可能性をもった文章を作りたいし、そういう作業がすごく楽しい。それで音楽(の制作)もより楽しくなるし、言葉と音楽がどんな風に何が絡みあっていくか?別々の作業ではあるんですけど、そこの親和性を持たせていくことの楽しさがアルバム制作を通して感じられて、また表現の幅が広がった気がしています。
――直接的ではない、“伝える”表現ですね。
僕は人と寄り添いたいと思うからこそ、距離感って大事だなと思っていて。ぴったりくっついているよりも、ちょっとその辺で見守るとか、ずっと抱きしめているより、隣に座っていたいみたいな(笑)。でも、普段の会話もそういうことが多いんじゃないですかね。こうやってお話をする時も、仕草とか返ってくる言葉とか、会話って言葉の飛ばし合いだけじゃなく、それ以外のコミュニケーション。あ、スピリチャル的なものじゃないですよ(笑)。察しっていうか、汲み取るっていうか……。愛してるっていう言葉あっても、そのうしろの風景によって、意味が変わってくる。うしろが廃墟ならシリアスで「俺はもう死ぬけど……」みたいな(笑)。でもそれがお花畑なら円満なそれ。そういう差異を作ったり、引き算したり、見せたり見せなかったりするのが、おもしろみなのかな。う~ん、なんて言えばいんだろう(笑)? 言語化はできないんだけど、人と人がつながれるものだったり、本来つながっているものを、直接的な何かで表現したいというより、温度感だったりとかで表現できる曲を作っていきたいなと。それは、TENDREを始めてこの1年で強く思ったことですね。
――ちなみに実際の歌詞で言うと、生活感や具体性のある単語が少ないのかなと思いました。
それは自然にではありますけど、あまり入れたくないなとは思ってました。日本語ならいわゆる季語で例えば桜とか。それって絵だったら、それがまず描かれちゃうわけじゃないですか。だったら桜を思わせる何かを言いたいって思ってしまうんです。
――大変な作業ですね。
ま、でもそういうのを考えるのが楽しいんです。自分なりに納得がいく言い回しができれば、いいトラックを作った時と同じくらいの充実感がありますね。
TENDRE 撮影=小杉歩
――そこが醍醐味なんですよね。そしてTENDREさんは言語以外でのコミュニケーションにも長けているんでしょうね。
僕の場合は、母がどちらかと言うと察してくれる人だったんです。
――お母様はシンガーですよね。
母に「音楽をやりなさい」と言われたことはないんですけど、自然とその道を選ぶことになって。でも僕が(音楽を)やりたいと言うタイミング、例えば(音楽の)学校に行きたいとか、そういう時に「この人は音楽を続けてくんだろうな」と母は察していてくれたみたいです。その時はそうやって察してくれたことには気づいてないんですけど、のちにそうだったのかな?と思えることもあって、自分の中でそれは大事にしないといけないなって。
――でも知らないうちにTENDREさんから、思いがあふれ出ていたのかも(笑)!?
顔に出ちゃってるかもしれない(笑)。
――と言うのも、以前ライブを拝見した時、一見すると物静かなのに、すごく楽しそうな笑顔だったのが印象的です。
ライブってお客さんのリアクションだったり、僕以外のメンバーのアクションだったりがあって、(音源の)再現をするわけではなく、その時にしか作れないライブをやっているから、その場の高揚感には日常では計り知れないものがあるんですよね。だからライブでは「あ~っ!」みたいな(笑)。その辺、僕はステージ上とそうじゃない時の顔は一緒じゃなくていいし、作り過ぎなくていいかなって思っているんです。でも、どこにいても自分の感情には常に純粋にいるつもりではいますね。
――さて。11月はそんな「あ~っ!」となっているTENDREさんが見られるであろう(笑)、『NOT IN ALMIGHTY』のリリースツアーがあります!
今年はいろんな地方に行く機会に恵まれてはいたんですけど、自らツアーと銘打って行くのは初ですね。各地でたっぷりTENDREを長尺で見てもらえると思います。僕は感動を共有できたら一番いいかなって思っていて。やっぱりライブはその場でしか作れないものなので、ライブでしか見えないものがあると思うんですよね。毎回アレンジも必ず同じではないし。だからその会場で一番の可能性を見出すためにやっているというか、なんか奇跡って言ったらちょっとダサいんですけど、ミラクルというか……ま、それもダサいんですけど(笑)、でも計り知れないものを発揮したいなって思います。たぶんTENDREのライブに初めて来る人も多いと思うんですけど、そういう人にも忘れさせないライブをしたい。衝動だけでなく衝動もありつつ、笑いあり涙ありじゃないけど、ライブを通して人の感情が爆発するところ……何て言うんですかね? まずは僕が感動したいし、音楽を通した感動を!って思っています。ライブでもTENDREの可能性を感じてもらえたらうれしいですね。
TENDRE 撮影=小杉歩
取材・文=服田昌子 撮影=小杉歩
イベント情報
2018年11月22日(木祝前) @東京 渋谷 WWW (ワンマン公演)
OPEN 19:00 / START 19:30
1F : ALL STANDING / 2F : 指定席
前売¥3,500税込 *ドリンク代別途必要
jizue New Album「ROOM」Release Tour
jizue×TENDRE
2018年12月2日(日)@KYOTO MUSE
open 17:00 / start 17:30
[Live]
jizue
TENDRE