演劇・お笑い好きも必見、プロレスを新たな地平に導くマッスル坂井「両国国技館に集ったお客さんを、腹を抱えてずっと笑わせます。しかも純粋にプロレスで」 

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2019.1.31
 マッスル坂井

マッスル坂井

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ここ数年、プロレス人気が右肩上がりで帰ってきた。業界最大手の新日本プロレスは山手線にレスラーの勇姿でラッピングした電車を走らせ、早くも2020は東京ドーム2days興行を発表した。その新日本の棚橋弘至が映画で主演、真壁刀義がスイーツ番組に出演などを筆頭に、最近ではバラエティ番組にもさまざまな団体の選手が登場している。女子だって、あのビッグダディこと林下清志さんの娘・詩美がデビューから1年しないうちに4つのチャンピオンベルトを獲得したり、アンニュイなムードをまとった女優でもある安納サオリ(いつか取材したい!)が注目を浴びたりと、話題に事欠かない。

しかしほんの15年ほど前は、世の中は空前の格闘技ブーム。PRIDEやK-1が強さの象徴で、大晦日は紅白歌合戦の視聴率を凌駕していた。あのころ日本人は何を求めていたのか。しかし、時期を同じくして、プロレスの聖地・後楽園ホールを笑いと驚きと感動で包み込んだニッチで野心的なプロレスがあった。それが『マッスル』。2010年に2030年の再会を約束して、惜しまれながら幕を閉じた『マッスル』が復活する。2.16両国国技館。『マッスル』をプロデュースするプロレスラー、マッスル坂井を直撃した。

みんなでマッスルポーズをやれば、すべて大団円?! 写真提供:週刊プロレス

みんなでマッスルポーズをやれば、すべて大団円?! 写真提供:週刊プロレス

 『マッスル』は、文化系プロレス団体DDT(小佐野景浩氏によるALL ABOUTコラムに詳しい)の1ブランドとして、試合前に流される煽りVTRを手がけていたマッスル坂井が立ち上げた。数カ月に一度の後楽園ホール興行は即日完売という人気ぶり。その内容はプロレス雑誌では扱いずらかったろうが、演劇情報誌では逆だった。プロレスファンでもある僕は、演劇情報誌シアターガイド編集長というちっぽけな権力を振りかざして、何度か取り上げた。逆エビ固めという技を坂井に掛けてもらい背骨が軋む音がする写真も撮ったりして。

 その『マッスル』が2030年を待たずして帰ってくる。しかも、しかも両国国技館という大会場(翌日はDDTの本興行も行われる)。そこには、先を見据えた坂井の野望があるが……それはともかく『マッスル』とはなんだったか。

プロレスラーの感情をもっともっと伝えたい

 「僕は高校までプロレスはほぼ見てないんです。大学に入って就職先を考え始めたころ、深夜に新日本プロレスの中継をふと見たら、そこに大仁田厚さんが出ていて。たった一人で巨大な団体にけんかを売るというストーリーを“大仁田劇場”と銘打って見せていた。試合は屈強なレスラーを相手に、火や毒霧攻撃を使った反則負けですぐ終わってしまう。けれど試合後の囲み取材で、テレビ朝日のアナウンサー相手に血まみれ、涙や汗まみれで大演説をするんです。ロックミュージシャンのように自分の生き様について絶叫する。生き様すべてを見せるのがプロレスなんだと。試合も入場から盛り上がるんだけど、それ以上の熱狂をバックステージで繰り広げるんですよ。アナウンサーも一緒に号泣する。これはスポーツ中継じゃないのか?と。でもドラマや映画より面白くて、ものすごく引っかかったんです」

 これが坂井のプロレス原体験。だからこそ斬新な視点が育まれた。坂井は当時、早稲田大学に通い、シネマ研究会に在籍していたが、これを境にプロレスの方が近づいてきた。新たなヒーローを探し求めるように。「もちろんレスラーになろうなんて思っていませんし、何者でもない大学生が近づける場所ではないと思っていた」というが、なんと、知人の紹介でDDTの映像班を手伝うことになる。初めはサークル感覚だったが、トレーニングも開始して「練習生」というキャラクターを与えられてリングに立つように。

 DDTはカラーの違う戦いを提供する興行=ブランドをいくつも立ち上げるが、その中に『マッスル』があった。その影には“大社長”高木三四郎の嗅覚とセンスとアイデアがある(僕は高木の経営本を作りたいのだが)。

『マッスル』はデフォルメされたプロレス

 「当時は僕もプロレスが昔のようにエンターテインメントの最先端に戻ることはないだろうと思っていました。だからこそ小さな団体にもチャンスはあると。一方で、プロレスラーのフィジカルな部分は進化し、技もものすごく高度化しているんです。その時に僕はリング上でレスラーが抱く感情の表現をしっかり伝えればもっと世の中に広がるのではと思っていました。レスラーがどんな気持ちでリングに上がって、相手と対峙しているのかがもっと描かれれば、お客さんも感情移入できるはず。最初『マッスル』ではファイティング・オーディションというサブタイトルで、学生プロレス、プロレス雑誌に載らないような活動をしている人たちをDDTの持っているパッケージの中で紹介しながら、僕も一緒に大きくなっていこうと思っていた。僕自身も早く世の中に認められるようになりたいとは思っていましたから」

 とはいえ、柔道や格闘技などのバックグラウンドがなければ、団体の知名度もない、メジャー団体の一部の選手や多くのファンからインディー団体が厳しい目で見られた時代でもあった。しかし坂井の思いは、ある意味プロレスの基本ともいえる。ただ、手法は違ったが。そんな坂井にとって重要な出会いがあった。

 「そもそもエリートと同じやり方では絶対に勝てるわけがないし、表現の仕方を変えないと見つけてもらえない。メジャー団体は1、2カ月かけて日本全国を回り、挑戦者が現れてチャンピオンに挑むという物語をつむいで、その最終回として大会場でビッグマッチをやるんです。けれど僕らは団体の体力もありませんから、興行も数カ月に1度。たった2時間の中で一話完結の起承転結を見せないといけなかった。そうすると情報量が濃すぎて。そんな時に劇団「双数姉妹」を見たら、今林久弥さんが演出家役で出ていらした。それでいろいろがつながったんです。プロレスは台本もないし演出もないけれども、あえて演出家が表に出てきて自分の台本通りに興行を進めるというフィクションを持ち込んだらどうだろうと。それなら情報も整理できる。そして実際に、鶴見亜門というキャラクターで登場してくれた今林さんは、レスラーでは覚えられないボリュームのセリフを高い演技力で再現してくれた。そこから『マッスル』が一気に加速していくんですよ。プロレスのデフォルメができた」

「頂点」  写真提供:週刊プロレス

「頂点」  写真提供:週刊プロレス

対鈴木みのる戦  写真提供:週刊プロレス

対鈴木みのる戦  写真提供:週刊プロレス

 ある時は、会場の後楽園ホールで「笑点」の収録が行われることから、「頂点」と題して大喜利で戦いの決着をつけるという設定を持ち込んだ。またある時は、リングで技を決めて、フィギュアスケートのキッス・アンド・クライよろしく点数を争うという設定を持ち込んだ。その時は、“世界一性格が悪い男”鈴木みのるが、坂井をボコボコにするすさまじい試合でだれもが設定を忘れてのめり込んでいたが、スリーカウントを得た鈴木がすかさずキッス・アンド・クライに駆け込み、高得点を獲得するという演出で、ものすごいカタルシスを巻き起こした。またある時は、結婚式を翌日に控えた今林が役者でもあるAKIRAとリングで戦ったこともある。

 「プロレスはリングの中で、相手の肩をつけた状態で3秒数えれば勝ち。でも負けてもその選手の株が上がる試合もあって、勝ち負けの基準はいろいろあるんじゃないかと常に考えているんです。また選手もファンもそれぞれに、これはプロレス、これはプロレスではないという判断基準を持っているんですけど、僕はそこにないものを見せたい。けれどプロレスを見たときの高揚感、興奮、熱狂を新しい表現で生み出せたら最高だなと。それが僕の役割。だって僕にはアントニオ猪木さん、長州力さんのようなプロレス、三沢光晴さんとか小橋健太さんの命を削るような四天王プロレスはできません。それでもなんとか名勝負と言われるものと同じような感動と興奮を与えたいんです」

対鈴木みのる戦でのスロモーションシーン  写真提供:週刊プロレス

対鈴木みのる戦でのスロモーションシーン  写真提供:週刊プロレス

 そうやって生まれた『マッスル』の代名詞は、スローモーションの戦いとその背景に流れるセピア色の映像だ。これは早く特許を取ったほうがいいアドバイスしたくなるほどの大発明だ。

 「たとえば三沢さん川田利明さんの試合を見ていると、カウント2.9で肩を上げて、フラフラになりながらも立ち上がっていく姿に、高校時代の先輩後輩の関係とかが見えてくるんです。そのBGMに葉加瀬太郎の情熱大陸が聴こえてくる。実況のアナウンサーもそのことをしゃべったりもする。戦いの背後に人間ドラマが見えてくるわけです。僕らは観客と共有できる生き様もないから、だったら見える化させようと。照明が落ちて、曲がかかり、スローモーションになり、回想シーンと心の声がスクリーンに流れる。それは面白さとしてやっているわけではなく、本当にいいものをつくろうという純粋な気持ちでやっているんです」

 たとえば前述した鈴木との試合は、『マッスル』への覚悟を試すようだったし、今林の試合も結婚する彼に向けたAKIRAや観客からのエールに見えた。試合にはうそがないから、設定を超えて感動を生み出すのだ。

 もちろん、他団体のレスラーから「お前らのやっているのはプロレスじゃない」と怒られたこともある。それもプロレスの価値観が違うから仕方がない。一方で、会場が蜂の巣をつつくように盛り上がる大物も参戦してくれたのも事実。

 「お怒りのメールはそのまま大社長に転送していましたけど、気にするなと(笑)。そう言ってくれる高木さんはものすごく頼もしかったです」

 その後、人生の岐路に立ったか一旦は引退して新潟で父親が経営する金型工場へ就職するが、いつの間にかマスクマン、スーパー・ササダンゴ・マシンとしてプロレス界に舞い戻り、試合前の煽りパワポを使ったプレゼンで新たなムーブメントを作った(fromAでも取り上げられている、すげー?!)。さらに「劇場版プロレスキャノンボール2014」「俺たち文化系プロレスDDT」と映画を監督して多才ぶりを見せ、現代ではバラエティ番組でもちょこちょこ顔を見る。そんなさまざまな経験を経たからこそ思うことがあると坂井は言う。

俺たち文化系プロレス DDT 配給:ライブ・ビューイング・ジャパン  (c)2016 DDTプロレスリング

俺たち文化系プロレス DDT 配給:ライブ・ビューイング・ジャパン  (c)2016 DDTプロレスリング

 「マッスルで後楽園をフルハウスにしていたころは20代ですよ。プレッシャーのかかる中、興行の責任者を任されたんですけど、たぶん早かったんですね。本来なら40代になった今やることだと思う。あのころは人間として未熟すぎたし、与えてもらった機会へのありがたさもよくわかっていなかった。お客さんに対しても敵だくらいの気持ちで作っていた。けれどもっと地に足をつけてやるべきこともあったはず。いまなら冷静に、両国に何人入れば黒字とか考えますしね。どうやったて発売即完売にはならないですし。初めて券売に関するプレッシャーを感じます」

 さて、やっと両国だ。と言いつつ、何をやるかは僕は書かない(笑)。坂井はじめ、『マッスル』の主要メンバーが両国に向けたミーティングをYOUTUBEで公開しているので、ぜひ見てほしい。

【2019.2.16 祝開催】マッスルメンバーによる第①回ミーティング

【2019.2.16 祝開催】マッスルメンバーによる第②回ミーティング

【2019.2.16 祝開催】マッスルメンバーによる第③回ミーティング

 両国では、現在のところ、『マッスル』ではおなじみの個性あふれるメンバー、アンドレザ・ジャイアントパンダ、DDTの興行に何度も参戦している南海キャンディーズの山里亮太、安田大サーカスのクロちゃん、そして心機一転再出発を切った純烈(リーダーの酒井一圭も実は『マッスル』で戦っていた一人なのだ)が決まっている。この顔ぶれだけでも混沌としていて、何が起こるかわからない。坂井の手腕をぜひ、ぜひ、ぜひ、ぜひ、ぜひ両国で確かめてほしい。

酒井一圭HGデビュー戦 写真提供:週刊プロレス

酒井一圭HGデビュー戦 写真提供:週刊プロレス

身長だけでも人間の3倍はありそうなアンドレザ・ジャイアントパンダ 写真提供:DDTプロレスリング

身長だけでも人間の3倍はありそうなアンドレザ・ジャイアントパンダ 写真提供:DDTプロレスリング

 「お客さんの数が後楽園ホールの2倍、3倍になればそれだけリアクションが大きくなる。そのお客さんたちが手を叩き笑ってくれればものすごい熱量になる。『マッスル』では固唾を飲んで手に汗握るような試合をやるつもりはサラサラありません。気楽にゲラゲラ笑えるようなものを目指しています。そこに僕が考える強さがあるような気がするので。僕の言う強さは、両国国技館に集まったたくさんのお客さんを、腹を抱えてずっと笑わせること。けれどやることはお笑いのライブではなく、あくまでも純粋にプロレス。ただ見てくれる人に、最強の笑いがそのまま強さと直結して感じてもらえるかはわからないですけどね。それはプロレスラーの永遠のテーマですから」(坂井)

取材・文:いまいこういち

イベント情報

「マッスルマニア2019 in 両国~俺たちのセカンドキャリア~」
 
■日時:2019年2月16日(土) 開場16:00 開始17:00
■会場:東京・両国国技館
■参戦決定選手:
マッスル坂井、男色ディーノ、アントーニオ本多、ペドロ高石、趙雲子龍、
ヤス・ウラノ、大石真翔、大家健、藤岡典一、鶴見亜門、
アンドレザ・ジャイアントパンダ
■出演決定ゲスト:山里亮太、純烈
■チケット料金:
株主優待風シート 完売
マッスルシート20,500円 完売
アリーナ席12,500円(残りわずか)
マス席A 10,500円/マス席B 7,500円/マス席C 5,500円
2Fイス席A 5,500円/同B 4,500円/同C 3,500円
※当日は各席1,000円増
■問合せ:DDTプロレスリング https://www.ddtpro.com/contact
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