T-works『THE Negotiation』丹下真寿美×村角太洋インタビュー~「チラシは重厚ですけど、軽い気持ちで観に来てもらえたら」
-
ポスト -
シェア - 送る
(左から)丹下真寿美(T-works)、村角太洋a.k.a.ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)
関西で活躍するフリーの女優・丹下真寿美が、自らの存在を全国に発信すべく立ち上げたプロデュースユニット「T-works」。18年の旗揚げ公演では、後藤ひろひと作・演出の『源八橋西詰』を復刻上演。丹下はキャラが異なる三役を見事に演じ切り、関西の演劇ファンが選ぶアワード「関西Best Act」で俳優部門一位を獲得するなど、評価と知名度を急上昇させることに成功した。そして次の公演では、その後藤が今最もライバル視しているという、村角太洋a.k.a.ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON/以下ROB)を作・演出に抜擢! 大きなビジネスの交渉という重厚な世界観の中で、大真面目なのに(ゆえに?)おかしな会話と行動を繰り広げる、二組の社長(CEO)&部下(秘書・COO)のやり取りを描く会話劇になるという。実は同級生同士だという丹下と村角に、その内容を聞いてきた。
■「爆笑する芝居は疲れるから、余力を持って帰れるぐらいに」
──第一回の『源八橋西詰』は、かなり評判となりましたね。
丹下 あの作品をやったことで、やっぱりいろんな方に観ていただけたし、いろんな声もかけていただけました。でもそれ以上に大きかったのは「私、本当にお芝居が好きなんだ!」ということを思い返させてくれたことです。後藤さんも(共演の)久保田(浩)さんも坂田(聡)さんも、本当に楽しんで稽古も本番もやってらして、しかも自分がちゃんと納得できるものを板に乗せようとしていて。お芝居が好きで役者を始めたから、今につながってるという、その根本を皆さんに見せてもらえたのが、私には一番の収穫でした。
──目上の方に囲まれた前作から一転、同級生の村角さんと組もうと思われたのは。
丹下 『源八……』の頃に、松井(康人/T-worksプロデューサー)さんから提案されました。その時私はROBを観たことがなかったんですけど、川下(大洋)さんから「お薦めの劇団です」って、長~いラブレターみたいなご案内状をいただいたりしていたので(笑)、名前は聞いていたんです。それで直感的に「面白くなりそうだ」と思ったので、ぜひやりましょうという話になりました。
──そういえば『源八……』のインタビューの時、後藤さんが「声をかけないように」と忠告していた作家の中に、村角さんは入ってなかったですね。
村角 ああ、良かった。それに上がるのだけは勘弁です(一同笑)。松井さんは、先ほどの川下さんつながりで観に来ていただいてたんですけど、まさかT-worksに呼ばれることになるとは思わなかったです。
丹下 ねえ。(ROBは)男性しか出ないですし。
村角 でもT-worksは彼女がフロントマンなので、絶対女性を書くことになるだろうと。そこはROBと違いが明確になるので、受けて面白いお仕事だと思いました。僕としてもね。
T-works#1『源八橋西詰』より。(左から)丹下真寿美、坂田聡。 [撮影]堀川高志
──丹下さんはこの話が決まってから、当然ROBを観に行かれましたよね?
丹下 『マダム』と『SINGER-SONGWRITERS』(共に18年)を、両方とも拝見しました。面白いですよねー。爆笑というよりも、ニヤニヤしちゃうじゃないですか? そのニヤニヤをずーっと積み重ねていくことで、満たされる芝居というのがあるんだなあと思いました。人間のすれ違いって、なんて面白いんだろう! というのを、すごく上手く書いてはるなあと。
村角 まあ、人間の滑稽さですよね。これ本気で言うんですけど、爆笑する芝居って疲れるんですよ(一同笑)。面白いけど、やっぱりパワーを使うんです、観る側も演る側も。疲れるのが悪いってことはないんですけど、僕としてはお客様には、ちょっと余力を持って帰っていただきたい。泣き疲れた、笑い疲れたってなると、みんな感情出しすぎて帰っていっちゃうんで。僕らの芝居は、観た後に「これからちょっと、呑みに行こうか?」ってなるぐらいがいいかなあと。
丹下 確かにそれ、いいですね。急に「いい舞台だなあ」と思えてきました(一同笑)。でも本当に、一番面白いのって人間性の所なんだろうなあと、ROBを観ると思いますね。それを見せるための方法はいろいろあるんでしょうけど、ROBのように会話のやり取りだけで見せ切るというやり方は、今まで私の演技の引き出しの中になかったもので。会話劇って、一番難しいと思うんです。
村角 答がないでしょう?
丹下 ない! でもそんな中で、ROBはちょっとクスクスさせるのが、すごく上手いじゃないですか?
村角 たまたまいい回観たんじゃないですか?(笑)いや会話劇って、やっぱり役者さんのその日のコンディションとかで、ちょっとテンポがズレたら、急にお客様の反応がなくなるものなんですよ。そういう意味では会話劇って難しいし、いつまでも完成しないと思います。
──村角さんは「女性のコメディを作るのは難しい」という理由で、女性の出る芝居を避けていたと聞きましたが。
村角 昔はありましたね。ROBの最初の頃は、男子高校生たちが部室でワイワイやってるような所の面白さに、ちょっと重きを置いていた感じがあって。その面白さと、女性の面白さは対極というか……「これは絶対、男性がやらないと面白くない。女性に同じ面白さは無理だ」と、勝手に考えていたんです。でも最近、それがなくなりました。丹下さんが言ってくれたみたいに「人間性が面白ければいい」みたいになってきたんです。そうなると性別は全然関係ないし、むしろ男女が入れ替わっても、別に台本上問題ないかもしれないのでは? ぐらいの気持ちに。それはありがたいことに、僕に作家としての筋肉が付いたからかもしれないです。
丹下 『マダム』で、女性の役を初めて出したんですよね。
村角 そうそう。「女性で面白いことができるかも」と思っても、いきなり女性に女性(役)を演出するのは、ちょっとハードルが(笑)。二個ぐらい飛び越えなあかんことになるから、まずは一つだけクリアしようというので、台本上は女性だけど、舞台上は男性にやってもらったのが『マダム』でした。あれが「別に女性でもいいじゃないか」と思えたので……ハードル一個越えることができたので、次はちゃんと女性に女性を演出するという、一番「そらそうやろう」ということを(一同笑)。
丹下 あ、じゃあお声がけをしたのは、いいタイミングだったんですね?
村角 いいタイミングでしたよー。ただまだこの作品では、愛だの恋だの言いませんからね。だからそれはもう一個、別のハードルですよ。愛だの恋だのをやろうと思ったら、もう一回男性だけでやります(一同笑)。
丹下真寿美。
■「今回の役名が面白すぎて、しばらくまともに言えなさそう」
──今回は「交渉(ネゴシエーション)」がテーマですけど、どんな内容の交渉が行われるのでしょうか?
村角 2つの企業が新会社を設立することになって、その会社の名前を、どちらを先にするか? という。ザ・リッツ・カールトンって、2つのホテルがガッチャンコしてるんですけど、要はリッツ・カールトンにするかカールトン・リッツにするか? ってことです。やっぱりお互い、自分の名前を最初にしたいじゃないですか? 力の強い方が当然先になるんでしょうけど、まったくイーブンだった場合、訳のわからん戦いになると思うんですよね。そのトップ同士が部下とともに、極秘でホテルにこもって交渉するというお話です。
──チラシのような、高級ホテルのラウンジ的な所で?
村角 まず交渉の場となる会議室付きのスイートルームがあって、それぞれのチームの控室のような場所が一室ずつあって、あとはちょっと大人なバーがあるという。だから物語の場所が、四つある形になってます。これもROBではやらなかったことですね。
──ROBはもっぱらワンシチュエーションなので、となると今回初めてそうじゃない舞台に挑戦するということに。
丹下 「この部屋だけで」っていうのではないですからねえ。
村角 そういう意味では、そうなりますよね。まあでもホテルからは出ないので、でっかい意味で言うと「ホテル」というワンシチュエーションです(笑)。
──丹下さんは、三上市朗さん扮する社長の秘書役ということになりますか?
丹下 そうなんです。三上さんは一方的には存じてるんですけど、舞台上ではご一緒したことがなくて。どういう風に台詞を交わすのかを考えるだけで、今も手に汗が(笑)。
村角 三上さんは酸いも甘いも知った生え抜きの社長で、対する(山崎)和佳奈さんは自分で会社を立ち上げて勢いに乗ってるCEOです。前者はじっくり構えてドンという感じで、後者はイケイケでスピードがあるという。なので山崎さんと(COO役の)森下(亮)さんの会話は、割とリズミカルでポンポンポーンというイメージで、三上さんと丹下さんの方はゆっくりしていて間も多い。何かこのお二人は、変な間がある方が面白い気がしたので。だから台本を書いていても、テンポのまったく違う会話が繰り広げられてます。
村角太洋。
丹下 でも私、今回の役名聞いた時に、すごく笑っちゃったんですよ。全員外国人で(笑)。
村角 というのは、この人たちで翻訳調の芝居が観たいと思ったんですよね、僕は。でないと何か、もったいないなあという気がしたので。
丹下 役名の時点で私には面白すぎて、この名前を三上さんに対して言うのかー! と思ったら、しばらくまともに呼べなさそうです。
村角 もう、ぜひ役名で呼んであげてください……アレックです。
丹下 (手を叩いて爆笑)
村角 スーツを着た三上さんが、一瞬アレック・ボールドウィンに見えたので、じゃあアレックにしようと。丹下さんは「ドナ」ですけど、僕が好きな海外ドラマの秘書は、必ずドナっていう名前なんで(一同笑)、もうドナしかないと。
丹下 そんなに多いんですか?
村角 アメリカには秘書=ドナってイメージがあるんかな? って思うぐらい。僕らも執事=セバスチャンって、あるじゃないですか?
丹下 あるある(笑)。『アルプスの少女ハイジ』の。
村角 そういう元祖みたいなドラマがあるのかどうか知らないけど、そんなにドナかぶりするかねえ? と思って。じゃあ僕が日本で初めて、ドナをかぶらそうと思いました(笑)。あと今ちょっと悩んでるのが、この四人の中で誰を一番のバカに……バカは言葉が悪いですね。何か抜けてる、ズレてる人にしようかなと。この(チラシの)写真では全員スキがなさそうなので、どこで抜けばいいのかと考えている所です。
T-works#2『THE Negotiation』公演チラシ。 [デザイン]堀川高志
丹下 えー? 誰でも面白そう。
村角 理想としては、全員が抜けていくのが一番いいんですよね。だんだんみんな、ドロっと溶けていくという。
丹下 「あれあれ、おかしいぞ?」って。
村角 それで形がどんどんなくなって、四人がグチャグチャになって、最後アーッ! みたいなことになっていけばいいなあと(笑)。
──今回の作品は、最近日本版も制作された『SUITS』の影響があるそうですが。
村角 あれも割と、翻訳調の台詞回しでしたよね? もともとの『SUITS』は、八年前から見ていて、海外ビジネスマンの所作が面白いなあと思ってました。椅子に座ったら、絶対前ボタン開けるとか(笑)。でも向こうは弁護士もので、そういうドラマってどうしてもワンサイドだから、必然的に主人公側ばっかり味方しちゃう。それがドラマの面白さかもしれないけど、僕はつい「敵役の方も頑張ってるのに、何でこんな書かれ方するんかなー?」と思うんです。
丹下 優しいなあ。
村角 逆目線でドラマを作ったら、主人公側が敵になるわけですしね。だから僕は、今回ちゃんと両サイドを書きたいと思います。どっちが勝ってもいいし、どっちが負けてもいい。しかも1対1じゃなくて、2対2というのが面白いんです。身内に内緒で、相手に塩を送るみたいなことができるわけですから。
(左から)丹下真寿美、村角太洋。
■「丹下さんは器用なイメージなので、今回はアタフタしてほしい」
──丹下さんは客演が主なので、T-worksのように自分が中心になって、意見を出し合って作っていくということは、あまりなかったことなのでは?
丹下 あー、なかったですね。大体他にメインの人がいて、私は私で自分が与えられたポジションを全うすることが多いです。前に出すぎてもダメだし、目立たなさすぎてもダメという、その仕事をちゃんとこなす感じでずっとやってました。だから自分が中心にいるのはこそばゆいというか、本当は端っこにいたい(笑)。『源八……』の時は、周りの人たちがええ感じに乗せてくれたんですよね。
──あの時は演技の方も、とにかくいろんな面を見せて「丹下真寿美全部盛り」みたいになってましたしね。
丹下 あんなに盛り盛りだとは知らなくて「(初演で演じた)楠見薫さんすげえなあ」と思いながらやってました(笑)。でも結果的には、そういう風に言っていただけてありがたいです。
村角 ただねえ、今回はアタフタしてほしいと思ってるんですよ。何となく「器用な役者」というイメージがあるのでね。『源八……』でも三役をちゃんと演じ分けて、しかも周りにあんなすごい方々がいるというプレッシャーにも負けず、器用にやってはるなあと思ったんで。だからお客さんに「本当に頑張ったねえ、今回は」と言われてほしい(笑)。
丹下 一役しかないのに(笑)、もっと大変なことになるという。
村角 まあ、あまりにも頭抱えるようなことを押し付けて、何も進まなくなっても困りますからね。でもさっき言ったみたいに、会話劇ですから。しかも短い台詞を、ポンポンポンとやり取りしたいと思ってるので、そうなると答がどんどん増えていくんじゃないですか? だからそれを、ずっと悩んでほしいという気はしますね。僕も悩むので、一緒に。
T-works#1『源八橋西詰』より。(左から)久保田浩(遊気舎)、丹下真寿美。 [撮影]堀川高志
──でも丹下さんは、村角さんが初めて女優に当てて書き下ろす脚本をやる訳ですから「実際の女性はこうじゃないです!」って、強気で行けるかもしれない。
丹下 あ、そうですよね。「絶対こういうことは思わないです!」って。
村角 「君はね」って言い返します(一同笑)。
丹下 お手上げだぁー! いっぱい言っても、4文字で返される(笑)。
村角 いやでも、言ってもらえた方が僕としては、はい。演出に関しても、割とみんなで考えて作っていく感じになると思います。
──脚本はまだ執筆中とのことですが、最終的にどんな感じの舞台になりそうですか?
村角 これはいつも言ってることですけど、舞台上の人たちは一切ふざけない方がいいんですよね。理想を言えば、ずっとしかめっ面でいてほしい(笑)。だから登場人物たちは、会社の名前がどうなるかだけを考えて、動いていればいいんじゃないかと。お客様にはその様子を、このキャラクターたちにとっての神の目線で観ていただきたいし、それを笑ってもらえたら、やっぱ最高やなあと思います。だから丹下さんは本当に、ずっと笑わないキャラかもしれないです、ついに。
丹下 ついに!
村角 いや、知らないですけど(一同笑)。今「ついに」とか言ったけど、今までそういうキャラしたことあるかもしれない。まあでも今回は、若いゆえにまだ柔らかさやゆとりがない、キレッキレのビジネスウーマンになってもらおうと。それに対して、和佳奈さんの方はちょっと余裕があって表面(おもてづら)はいいけど、根っこには経営者の怖さや厳しさがあるという。その対比ができたらなあと思います。
丹下 へー、楽しみだなあ。
村角 僕も楽しみですよ……台本の完成が(一同笑)。
丹下 おいおい、ちょっと待てちょっと待て!
──そして最初に言われたように、適度に笑って帰れるような舞台に。
丹下 そうですね。軽い気持ちで観に来てもらいたいなあというのが、一番あります。公演チラシは重厚感がありますけど、疲れ切った頭で観に来て、クスクス笑って、そのまま帰って行ってほしいですね。
村角 もう帰ってすぐに寝てもいい(笑)。
丹下 そのまま布団にダイブして幸せに眠ってもらえるっていうぐらい、ゆるーく楽しめる芝居にできたらなあと思います。
(左から)丹下真寿美、村角太洋。
──丹下さんは前回の取材で「私を売り込むとかどうでもいいから観てほしい」と、T-worksのコンセプトを自ら軽く否定するようなことを言ってましたね。
丹下 それは変わってないですね。確かにユニットの目的とはズレてるんですけど(笑)、やっぱり役者を観に来るというよりは、作品を観てもらうことが大前提で。こんな作品で、こんな人たちが出てて、そこに丹下真寿美がどういう風に関わっていたか。それを観終わった後にちょっと思い出してもらえたら、T-worksとしては一番大成功だなあと思います。
取材・文=吉永美和子
公演情報
T-works#2『THE Negotiation』
■作・演出:村角太洋(THE ROB CARLTON)
■出演:丹下真寿美、山崎和佳奈、三上市朗、森下亮(クロムモリブデン)、ボブ・マーサム(THE ROB CARLTON)
《大阪公演》
■日時:2019年3月8日(金)~10日(日)
■会場:HEP HALL
《東京公演》
■日時:2018年3月13日(水)~17日(日)
■会場:シアターグリーン BOX in BOX THEATER
■問い合わせ:050-5216-4753(T-works)
■公式サイト:https://t-works-works.com/archives/category/next